第二十九話 正論ならズルくてもいいのか
「よしっ! 鈴ちゃん、今の踏み込み完璧だぞ! 大吾より筋がいいかもしれねぇな!」
「えへへ、ほんと!? せんせー、ありがとー!」
道場の庭で、四歳になった鈴が小さな手で子供用の素振り木刀を元気に振り抜く。
父親である大吾譲りの真面目さと筋の良さを存分に発揮する鈴を相手に、玄蔵はデレデレの笑顔で稽古をつけていた。
稽古が終わり、すっかり上機嫌になった玄蔵は、縁側で蒼太と戯れていた緋乃の隣へドカッと腰を下ろした。
「いやぁ、鈴ちゃんの成長を見てたらさ、いよいよ蒼ちゃんにも剣を教える時期が近づいてきたなぁってワクワクしてくるぜ! 俺の湾刀術を叩き込んで、最高に格好いい剣士にしてやるんだ!」
目を輝かせて語る玄蔵。我が子に己の技を継承する未来を想像し、鼻の下を伸ばす父親に対し――緋乃は「あら」と小さく首を傾げ、至極あっさりとスパッと言い放った。
「ダメよ、玄蔵。蒼ちゃんの怪力じゃ、剣の方が持たないわ」
「……え?」
「蒼ちゃんが本気で剣なんて振ったら、一振りで刀身がひしゃげるか粉々になるわよ?
それどころか、木刀なんて持たせた瞬間に握り潰しちゃうわ。
だから、蒼ちゃんには体術の方が合っていると思うの。武器はいらないわ」
緋乃は腕の中の蒼太のプニプニした頬を愛おしそうになでながら、極上の可憐な笑みを浮かべた。
「というわけで、蒼ちゃんは私の弟子で決定ね。ふふふっ」
「あぅー!(おー!)」
緋乃の言葉に合わせるように、蒼太が「お母さんの弟子!」と言わんばかりに小さな拳を力強く突き上げた。
「~~~~ッッ!?」
完璧すぎる理屈。
ぐうの音も出ない事実。 確かに、二歳にして大人の二の腕ほどもある木刀を素手で粉砕する蒼太に剣を持たせたら、武器の調達がいくらあっても追いつかない。
「ぐ、ぐぬぬぬぬ……っ……!!」
反論の余地を完全に封殺された玄蔵は、顔を真っ赤にして絞り出すような声をあげることしかできなかった。
(緋乃って……緋乃ってズルいよな!! 正論だし! 蒼ちゃんもお母さん大好きだからノリノリだし!! 俺の『蒼太に剣を教える夢』が秒で砕け散ったんだが!?)
悔しさに打ちひしがれ、縁側で頭を抱えて悶絶する玄蔵。
そんな情けない父親の姿を見て、緋乃は「ふふっ」と楽しそうに微笑み、蒼太もまた「あははー!」と無邪気な声をあげて手足をバタつかせるのだった。
――翌日
「安綱さぁん!頑丈な澄波刀打ってくださぁぁい!!!」
「…玄蔵さん、澄波刀ってのは頑丈だったら良いわけでは…あなたが一番分かってるでしょうに…」
「はぁい!分かってます!!分かってるんですけどぉ!!すいませんした!!!(泣)」
…諦めきれなかった玄蔵さんであった…




