第二十六話 最高の一番弟子で
「師匠、緋乃さん……俺、考えたんですが…聞いてもらえますか…」
ある日の稽古終わり、大吾だいごは真新しい道場の板間に正座し、玄蔵と緋乃に向かって深く頭を下げた。
「俺、一刻も早く、この開拓地にある全ての集落を救いたいんです。
なので……これからは弟子たちをいくつかの部隊に編制し、
俺たちだけで…複数地区の救出と開拓事業にあたりたいと思っています」
抱っこ紐の蒼太をあやしていた緋乃が、ふと手を止めて大吾を見つめる。
玄蔵夫婦が『蒼武館』における絶対的な最高戦力であることは何も変わらない。
二人が出張れば、どんな大禍も一瞬で粉砕できるし、『ワタリ』だって怖くない。
そして頼めば間違いなく二つ返事でついてきてくれるだろう。
――だが、だからこそ。
「頼り切っちゃ……駄目なんです…」
大吾は拳を力強く握りしめ、顔を上げた。
その瞳には、かつて禍つの影に怯えていた面影など微塵もなかった。
「俺たちがいつまでも師匠たちに頼り続けていたら、本当の意味で『自分たちの居場所を自分たちで守る』ことにはならないと思うんです。
それに……師匠たちには、蒼ちゃんと過ごす時間を、この道場での穏やかな暮らしを大切にしてほしいんです」
自分たちの足で立ち、自分たちの力で仲間を助けに行く。
それが、自分を『一番弟子』と呼んでくれた玄蔵への、大吾なりの答えだった。
静まり返る道場。 玄蔵は腕組みをしたまま、しばらくの間、じっと大吾の顔を見つめていた。
――やがて。
「……ふっ」
玄蔵の口元が、誇らしげにニヤリと上がった。
「言ったな、大吾。……いい顔になったじゃねぇか」
玄蔵は大吾の前にあぐらをかいて座り直すと、その大きな手で大吾の肩をガシッと掴んだ。
「お前たちの思い、しっかりと受け取った。……だがな、一つだけ『約束』しろ」
玄蔵の目つきが、いつになく真剣なものになる。
「ヤバそうだと思ったら、余計な考え起こさずにすぐに引け。
無理だけは絶対にするんじゃねぇぞ」
「……師匠」
「約束だ。絶対に守れよ?」
玄蔵は大吾の肩をぽんぽんと強く叩き、心からの温かい笑みを向けた。
「てめぇは……俺の『最高の一番弟子』で大事なダチなんだからよ…」
その言葉に、大吾の胸の奥が熱く熱く震えた。
視界がじわリと熱く滲むのを誤魔化すように、大吾は大きく息を吸い込み、畳に額がつくほど深く頭を下げた。
「……はいっ! 絶対に守ります、師匠!!」
「ええ、気をつけて行ってらっしゃい」
緋乃も優しく微笑み、蒼太の小さな手を握って「がんばれー」と振ってみせた。
「あぅー!(がんばれー!)」
最高の師と出会い、覚悟を決めた男。
大吾率いる『蒼武館・開拓隊』が、自らの足で新たな未来を切り拓くため、堂々と陣風を切って旅立っていく。
その背中を見送る玄蔵の顔は、どこまでも頼もしく、そして誇らしげだった。




