↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】あくおに はべり うつくしき  作者: 零 珊瑚屋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/31

第二十五話 日日是好日


 『ワタリ』という最大級の災害を、誰一人欠けることなく押し切った。


その事実は、大吾と開拓民たちの胸に大きな、そして確固たる自信を芽生えさせていた。


「師匠! この開拓地に点在する全ての集落を繋いで、一つの巨大な安全地帯にしましょう!」


大吾の提案に、誰も反対する者はいなかった。


日々の厳しい稽古と実戦を経て、住民たちの戦闘力は格段に跳ね上がっていた。


かつては野禍の影一つに震えて引きこもっていた者たちが、今や湾刀を手に堂々と見回りを行い、禍つに対して過剰な恐怖心を抱く者は一人もいなくなっていたのだ。



* * *



「おい緋乃! そろそろ代われ! 今日の抱っこ担当時間は俺だぞ!」


「嫌よ! さっき大禍を斬るときに蒼ちゃんが『きゃっきゃ』って喜んでたんだから、まだ私の番よ!」


巨大な大禍(だいか)が地響きを立てて倒れ込む傍らで、相変わらず蒼太(そうた)の奪い合いを繰り広げる玄蔵と緋乃。


そこへ――ふと、いつものように透き通るような佇まいの美女・澪(みお)が、ぬっと姿を現す。


「あ、澪さん、チィーッス!」

「うむ、今日も皆元気じゃな」

「この後、道場で昼飯食べます?」

「うむ、頂こう。…デカ盛りで」

「今日、デカ盛りなんだ…」


死闘の直後であっても、巨獣の屍の前であっても変わらない、あまりにも「いつも通り」のやり取り。


だが、この何があっても揺るがない玄蔵夫婦の悠々さと、ふらりと現れては肉を食う澪の存在こそが、過酷な土地で生きる住民たちにとって一種の「精神安定剤」となっていた。


(玄蔵さんたちが笑っていれば、どんな禍つが来ても大丈夫だ)


誰もがそう確信できるからこそ、集落にはいつもあたたかな活気が満ちあふれていた。


* * *


やがて、弟子たちの中には一人で禍つを狩って帰ってこれるほどの猛者も増え始めた。


「師匠! 今日の狩りの収穫です! でかい肉が取れましたよー!」


「おお、上出来だ! 今日も道場で盛大に喰らうぞ!」


狩った肉や素材は道場へ持ち込まれるのがすっかりお決まりとなっていた。


今や父親と息子、あるいは夫婦揃って弟子という『家族ぐるみで蒼武館』な家も多く、稽古が終わればそのまま道場が巨大な宴会場へと早変わりする。


緋乃を中心に、弟子の女性たちが手際よく大鍋を振り、香ばしい禍つ肉の炒め物や特製スープが次々と出来上がっていく。


「ふふ、お料理上手ね、鈴(すず)ちゃん」


「うん! すず、おてつだいするの! あかちゃんのお肉もつくる!」


二歳になった大吾の娘・鈴も、小さな手で一生懸命にお野菜を洗ったり、お皿を並べたりとお手伝いを始めていた。


「あぅー!(わくわく)」


抱っこ紐の中からその様子を身を乗り出して見つめる蒼太。


力加減はまだ調整中だが、鈴が「はい、蒼ちゃんのお皿だよ!」と木のお皿を渡すと、蒼太は上手に『あうー!』と可愛らしく笑って受け取っていた。


過酷な最果ての開拓地。 けれど、ここ『蒼武館』に広がるのは、溢れるほどの笑顔と、香ばしい飯の匂いと、かけがえのない温もり。


――日日是好日(にちにちこれこうじつ)。


どんなに禍つが暴れようと、美味しい飯を食べ、家族や仲間と笑い合える今日という日は、いつだって最高の吉日なのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。