第二十三話 拡大 蒼武館
大吾の予想は、悲しいほどに的中していた。
山を一つ越えた先にある第二の集落は、まさに「疲弊の極み」であった。 荒れ果てた田畑、痩せこけた住民たち、そして絶え間ない禍つの襲撃によっていつ崩壊してもおかしくない極限状態。
「な、なんだお前たちは……!? 禍つの群れを率いて襲ってきたのか!?」
山盛りの肉を食い、ツヤツヤした顔で現れた玄蔵一行に、隣の集落の男たちは古びた農具を構えて怯えきっていた。
だが、ここで真価を発揮したのが大吾の圧倒的な「交渉力」だった。
「待ってくれ! 俺たちは敵じゃない! 元は同じように禍つに怯えていた開拓民だ!」
大吾は前に出ると、己の背負う上質な湾刀と、持参した熟成禍つ肉の塊を差し出し、情熱を込めて語りかけた。
自分たちがいかにして立ち上がり、玄蔵師匠のもとで力をつけ、家族と食卓を守り抜いてきたか。
「この過酷な開拓地で、個々に怯えて暮らす時代は終わりだ! 俺たちと手を組み、一つの大きな集落になろう!」
大吾の誠実な言葉と、目の前で見せつけられた『圧倒的な余裕』。混乱は最小限に抑えられ、二つの集落は速やかに統合される方向へとまとまっていった。
* * *
統合が決まれば、次は「行き来」だ。 二つの集落を最短距離で繋ぐため、鬱蒼とした密林を切り拓く大規模な街道工事が始まった。
当然、森の奥からは血の匂いを嗅ぎつけた異禍や野禍の群れが次々と襲いかかってくる。
「師匠! 東の伐採地点に野禍の群れが出ました!」
「よし! 二番隊、湾刀を構えろ! 玄蔵師匠から教わった円の太刀筋で迎え撃つぞ!」
「「「おうっ!!」」」
かつては逃げ惑うだけだった大吾たち初期弟子が、危なげない連携で怪異を押し返していく。
それでも手に負えない大型の異禍が躍り出たときは――
「蒼ちゃん、お父さんの格好いい背中を見ててねー!」
「あぅー!(ワクワク)」
蒼太を背負った玄蔵が疾風のごとく踏み込み、湾刀の一閃で一刀両断。
「あら、道幅を広げるのに邪魔な巨木も倒してくれたのね。助かるわ」
抱っこ紐をしっかり固定した緋乃が、しなやかな軸から繰り出す絶技の蹴りで、逃げ惑う禍つを粉砕ついでに障害物を薙ぎ倒していく。
元祓い屋である夫婦と、急成長を遂げる弟子たちの圧倒的な戦力により、街道工事は恐怖の作業から「大活劇の開墾作業」へと様変わりした。
* * *
無事に安全な街道が開通し、二つの集落の生活圏が見事に統合された頃。
「大吾さん! 俺も……俺たちも『蒼武館』に入門させてください!」 「自分の家族を、自分の手で守れるようになりたいんです!」
隣の集落から、弟子志願者が次々と押し寄せてきた。
湾刀を自在に操り、禍つ肉を喰らい、恐怖を跳ね返す彼らの姿は、絶望に暮れていた者たちにとって輝かしい希望そのものだったのだ。
「師匠! 弟子が一気に増えて、今の道場じゃ到底入りきりません!」
「がははは! 増えたなら、デカくすればいいだろ!」
生活圏の拡大に伴い、道場の巨大化計画が即座に決定された。
新たに切り拓かれた広大な敷地に、大勢の弟子たちが総出で柱を立て、屋根を葺いていく。
そこにはもはや、見捨てられた開拓地の面影はどこにもなかった。
我が子・蒼太の健やかな未来と、そこに集う人々の居場所を守るため――『蒼武館』の威名は、開拓地の広がりとともに、どこまでも大きく、力強く膨らんでいくのだった。




