第十九話 一番弟子 大吾
「こんなとこで道場だと……? おいあんた、冷やかしなら帰ってくれ!」
「霞条家がよこした補給部隊か何かなのか!?」
「とにかく、あんたらがこれからの禍つを全部やってくれるのか!?」
圧倒的な強さを見せつけられたものの、長年の絶望で心が荒みきった住民たちが、縋るような、
あるいは疑うような声を口々に浴びせかけてくる。
しかし、玄蔵は面倒そうに頭を掻くと、あっけらかんと言い放った。
「はぁ? 禍つを全部俺たちでやる? んなもん無理に決まってんだろ。俺、祓い屋辞めたし。これからは皆でやっていかねぇと意味がねぇんだよ」
「な……!? そんな無茶な!」
「俺たちはただの開拓民だぞ!? 戦いなんてできるわけねぇだろ!」
戸惑い、怯える住民たち。その情けない声を聞いた瞬間、玄蔵の目つきがガラリと変わった。
「――甘ったれてんじゃねぇぞ!!」
落雷のような一喝。 八雲で修羅場を潜り抜けてきた男の放つ圧に、ざわついていた住民が一瞬で水を打ったように静まり返る。
「てめぇの家族はてめぇで守る! てめぇの居場所も同じだ! 人任せにして生き残れるほど、この開拓地は甘くねぇだろ! それに、守るための力に男も女も関係ねぇぞ!」
誰もが息を呑み、言葉を失っていた。冷たい開拓地の風だけが吹き抜ける中、玄蔵はふっと口元を緩め、歯を見せてニカッと笑った。
「……でも、安心しろ! 俺たちが来た!!」
胸をドンと叩き、堂々と叫ぶ玄蔵。
「力もいくらでも貸してやる! 禍つのぶっ殺し方も、生き残り方も、俺たちが全部イチから叩き込んでやるよ!!大丈夫だ!!!」
その言葉が、魂の底に響いた男がいた。
(……てめぇの家族は、てめぇで守る……!)
後ろで怯える妻の恵と、小さな娘の鈴の顔が脳裏をよぎる。 度重なる襲撃に怯え、精神をすり減らしていた大吾の全身に、熱い衝撃が駆け抜けた。身体の奥底から、ブルルッと魂が激しく震えるのを感じた。
「……教えてくれっ!!」
大吾は震える脚を前に踏み出し、泥を蹴って玄蔵の目の前へと躍り出た。
「俺に……俺に戦い方を教えてくれ!! 家族を守りたいんだ!!」
必死の眼光で訴えかける大吾を見つめ、玄蔵は口の端をニヤリと持ち上げた。
「……ほう。いい目だ。てめぇ、名前は?」
「大吾……大吾です!」
「おう、大吾。てめぇは剣と体術、どっちがいい?」
問われた大吾は一瞬立ち止め、決意を込めて自分の拳を強く握りしめた。
「……剣……がいいです! 剣で、家族を襲う奴らを切って捨てたい!」
「よぉぉぉし!! 大吾!! てめぇが俺様の一番弟子だ!!」
玄蔵は大吾の肩をバシバシと力任せに叩き、豪快に笑い飛ばした。
「頑張れよ一番弟子! ビシバシ鍛え上げて、この開拓地で一番強い男にしてやるからな!」
「は、はいっ! よろしくお願いします、師匠!!」
抱っこ紐の中で蒼太が「あぅー!」と楽しそうに声をあげ、緋乃もまた、覚悟を決めた大吾の姿を温かい眼差しで見守っていた。
絶望に伏していた開拓地に、初めて「戦う意思」という小さな火種が灯った瞬間だった。




