第十二話 特別感でいいじゃない
すくすくと育つ蒼太は、見た目こそ愛くるしい至高の赤子であったが――その生態は明らかに「普通」の赤ん坊の枠を飛び越えていた。
生後わずか数ヶ月。 ハイハイを始めた蒼太が、あやすために渡された木彫りのガラガラを『ギシッ……メリメリッ』と音を立てて木粉に変えた。
さらに別の日には、部屋の柱に軽くゴチンと頭をぶつけた際、蒼太はケロッとして笑っていたが、立派な大黒柱の方にメリッと綺麗なヒビが入った。
生まれついての「超・怪力」と、禍つの爪すら跳ね返しそうな「超・頑強」な肉体。 普通なら「この子は呪われているのか」「何の怪異の生まれ変わりだ」と両親が青ざめ、大騒ぎになるところである。
――しかし。
「がははは! 見たか緋乃! 蒼ちゃん、もう柱割り(はしらわり)の技を極めかけてるぞ!
さすが俺と緋乃の子供だ、天才だなぁ蒼ちゃんはー!」
「ふふ、本当ね。将来は天下無双の祓い屋かしら?
あー、ガラガラ潰しちゃったのねー、今度は鉄のおじちゃんに鍛鉄で頑丈な鉄のガラガラ作ってもらいましょうねー」
両親、まったく動じず。
どころか、揃ってデレデレの親バカ全開であった。
「おい……お前ら正気か!?」
たまらず叫んだのは、壊れた柱と粉砕された木屑を見つめて冷や汗を流す鉄だった。
「赤ん坊が素手で大黒柱にヒビ入れてんだぞ!? 常識で考えろバカ夫婦! どう見ても生まれつき異常な怪力と頑丈さだろ!!」
「何を言ってるんだ鉄」
玄蔵は腕組みをし、ドヤ顔で言い放った。
「俺たち夫婦は『大禍』すら二人で切り伏せる奇跡の夫婦だぞ? その二人の血を引いたガキなんだ、これくらい“特別感”ってやつがあって当然だろ! むしろ普通じゃなくて当たり前だ!」
「そうよ、鉄。蒼ちゃんはこんなに可愛いのよ? ちょっとお手が元気で、お頭が頑丈なだけじゃない」
「『ちょっと』の規模じゃねぇだろ!!」
鉄の至極まっとうなツッコミも、親バカの障壁の前には虚しく空を切るのみだった。
当の蒼太は、両親の温かい視線に包まれながら「あうー!」と愛くるしく笑い、試しに畳を指でつまんで『バリッ』と一畳ぶん引きちぎっていた。
尊い。尊すぎるが被害が大きい。
「……はぁ。まあ、お前らが不安がって奇妙な目で見ないのは良いことだがな……」
鉄は諦めたようにため息をつき、頭を掻いた。
「とは言え緋乃、この調子じゃ目が離せないだろ」
「ええ、本当にそうね」
緋乃は優しく蒼太を抱き上げ、その頬に自分の頬をすりすりと寄せた。
「目を離したら、目を離した隙に家が倒壊しかねないわ。……というわけで、私の祓い屋復帰はまだまだ先になりそうね。産休は継続よ」
「おう! 家と蒼ちゃんの護衛は緋乃に任せた! 俺と鉄で稼ぎまくって、蒼ちゃんがいくら家を壊しても建て直せるくらいデカい城の資金を稼いでくるからな!」
「誰が壊す前提で話してんだよ! ……まあ、任せとけ。鬼緋乃様の休業中の稼ぎは、この『兜割り』が相棒としてしっかり補助してやる」
鉄が大鉈を肩に担ぎ直し、ニヤリと笑う。
「ふふ、頼もしいわね。気をつけて行ってらっしゃい、二人とも」
かつて「鬼」と恐れられ、死に場所を探すように戦っていた美女は今、怪力無双の我が子を愛おしそうに抱きしめ、温かな家で夫を見送っている。
生まれついた怪力も頑強さも、この家族にとっては「ただの愛おしい個性のひとつ」。
今日も中天州・八雲の街に、世界一幸せで、世界一規格外な家族の笑い声が響き渡っていた。




