学芸員と冬
朝。
博物館へ向かう道を歩いていると、高宮は足を止めた。
息が白い。
「……寒いな」
昨日までは、それほどでもなかった。
だが今日は明らかに違う。
街路樹の葉もすっかり減っている。
公園を歩く人も少ない。
高宮はポケットに手を入れたまま、博物館へ向かった。
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開館前の館内。
暖房が入っている。
それでも、まだ少し寒い。
高宮は受付の椅子に座り、缶コーヒーを飲む。
「冬か……」
特に感慨があるわけではない。
ただ、
季節が一つ進んだ。
そんな感じだった。
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開館。
しかし、来館者は少ない。
昼になっても、
数人。
午後になっても、
数人。
高宮は展示室を歩く。
冬になると、博物館はさらに静かになる。
夏休みの子供たちもいない。
団体客も少ない。
足音だけが妙に響く。
「……静かだな」
高宮は嫌いではなかった。
むしろ、
こういう日も悪くない。
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午後三時。
窓の外を見る。
曇っている。
雪が降るほどではない。
ただ、
空気が冷たい。
高宮は上着を着て外へ出た。
喫煙所。
煙草に火をつける。
白い息と煙が、
一緒になって空へ消えていく。
「冬の煙草はうまいな」
誰に言うでもなく呟く。
夏の暑さの中で吸う煙草とは違う。
冷たい空気の中で、
煙だけが少し暖かく感じられる。
高宮はゆっくり煙を吐いた。
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しばらくすると、
入口のほうから人影が見えた。
来館者らしい。
小さな子供を連れた親子だった。
子供が寒そうにしながら、
「博物館って暖かい?」
と聞いている。
母親が笑う。
「たぶんね」
高宮は少し笑った。
博物館は、
冬になると来館者が減る。
それでも、
完全に誰も来なくなるわけではない。
寒い日にわざわざ来る人は、
それなりに博物館を楽しみにしているのかもしれない。
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夕方。
閉館時間。
高宮は照明を落としていく。
展示ケースの中の古い資料が、
暗闇の中に浮かんでいる。
外はもう真っ暗だった。
冬は日が短い。
秋まではまだ明るかった時間なのに、
今は夜になっている。
高宮は最後の照明を消した。
「冬だな」
誰もいない展示室で呟く。
外へ出る。
冷たい空気。
高宮は煙草を一本取り出した。
火をつける。
白い息が、
ゆっくり夜へ溶けていく。
「……帰って鍋でも食うか」
そんなことを考えながら、
高宮は博物館の扉を閉めた。




