学芸員と夜のお店
「だから言っただろ。普通に飲むだけだって」
「前と言ってること違うだろ」
金曜日の夜。
高宮は杉田に半ば強引に「夜のお店に行くぞ!」と連れ出されていた。
駅前の繁華街。
普段なら、仕事が終われば家に帰って酒を飲む。
それで十分だった。
しかし…
「まあ、今日は付き合ってやるよ」
「お、珍しい」
「一回くらいならな」
杉田が満足そうに笑う。
「じゃ、行こうぜ」
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店に入る。
派手な照明。
カウンター席。
女性店員が何人かいて、
客と酒を飲みながら話している。
「……ガールズバーじゃん」
「そうだよ」
「夜の店って言うからもっと大げさなのかと思った」
「いきなりそういう店に連れていくわけないだろ」
「それなら最初からそう言え」
「お前、絶対来ないだろ」
「まあな」
二人でカウンターに座る。
女性店員がやってくる。
「こんばんはー」
「こんばんは」
杉田は慣れた様子で注文する。
高宮はビールを頼んだ。
「高宮、こういう店初めて?」
「何回かある」
「え?」
杉田が意外そうな顔をする。
「意外だな」
「俺を何だと思ってるんだ」
「博物館で毎日古い資料と睨めっこしてる人」
「偏見だろ」
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女性店員が話しかけてくる。
「お仕事何されてるんですか?」
「博物館」
「え、学芸員さん?」
「そう」
「すごーい」
「そうでもないよ」
「どんなことするんですか?」
「展示物の管理とか、資料整理とか」
「へえ……なんか頭良さそう」
「そんなことない」
杉田が横から口を挟む。
「こいつ、実際頭いいんだよ」
「余計なこと言うな」
「大学の頃、こいつだけ妙に成績良かったからな」
「お前も同じ大学だっただろ」
「俺は遊んでたから」
「知ってる」
女性店員が笑う。
「二人って仲いいんですね」
「悪友」
杉田が答える。
「こいつ、昔からこんな感じ」
「どんな感じ?」
「淡々としてる」
「そう?」
「そう」
高宮はビールを飲む。
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しばらくすると、
高宮も少しずつ会話に慣れてくる。
「博物館って、やっぱり暇なんですか?」
「暇な日もある」
「いいなあ」
「忙しい日もあるよ」
「どんなとき?」
「子供の団体が来たときとか」
「大変そう」
「まあ、慣れれば」
「でも楽しそうですね」
「……まあ、好きだからね」
その答えに、
女性店員が少し笑った。
「なんか、いいですね」
「何が?」
「仕事のこと好きって言える人」
「そうかな」
「はい」
杉田が隣でニヤニヤしている。
「お前、意外とこういう店向いてるな」
「何が?」
「普通に会話できてるじゃん」
「普通だろ」
「もっと無口で置物みたいになると思ってた」
「失礼だな」
「いや、褒めてる」
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別の女性店員も会話に加わる。
「学芸員って、資格いるんですか?」
「必要だよ」
「へえ。じゃあ大学で勉強したんですね」
「うん」
「何を?」
「専門によるけど、俺は――」
高宮が説明する。
気づけば、
二人の女性店員が興味深そうに話を聞いていた。
「なんか面白い」
「そう?」
「もっと聞きたいです」
「じゃあ今度、博物館来れば?」
「行ってみたい」
杉田が笑いながら、
「お前、営業してるじゃん」
「してない」
「完全に学芸員の顔になってるぞ」
「仕事の話だからな」
「ここ仕事じゃないけど」
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店を出る。
夜も遅くなっていた。
「どうだった?」
杉田が聞く。
「思ったより普通だった」
「だろ?」
「まあ、楽しかったよ」
「だろ?」
杉田は満足そうに笑う。
「お前、意外とこういうところ向いてるな」
「そうか?」
「女の子相手でも変に緊張しないし、話題もあるし」
「普段から人と話してるからな」
「博物館で?」
「子供とか、お客さんとか」
「なるほどな」
高宮は煙草を取り出す。
火をつける。
「でも、しばらくはいいかな」
「なんで?」
「金がかかる」
「そこかよ」
「そこだよ」
杉田は呆れたように笑う。
「まあいい。また連れてくわ」
「……ほどほどにな」
「おう」
二人は夜の街を歩いていく。
高宮は煙草を吸いながら、
「……たまには、こういうのも悪くないか」
と小さく呟いた。




