学芸員とデート
「高宮ー」
午後三時。
資料を整理していた高宮が顔を上げる。
展示室の入口に斎藤が立っていた。
「……何してんの?」
「遊びに来た」
「また?」
「暇だったから」
斎藤はそう言って、展示室を眺める。
「相変わらず人いないね」
「平日のこの時間だからな」
「暇そう」
「仕事中だよ」
「知ってる」
斎藤は少し笑った。
それから、
「ねえ、高宮」
「ん?」
「明日暇?」
「明日?」
「うん」
「休みだけど」
「じゃあ出かけない?」
高宮は少し考える。
「どこに?」
「それはまだ決めてない」
「なんだそれ」
「高宮が決めてよ」
「誘ったのそっちだろ」
「じゃあ私が決める」
「どうぞ」
斎藤は少し考え、
「博物館」
「……」
高宮の手が止まった。
「なんで?」
「何が?」
「なんで休日まで博物館なんだよ」
「好きじゃん」
「好きだけど」
「じゃあいいじゃん」
「普段どこで働いてると思ってるんだ」
「博物館」
「そうだよ」
「じゃあ、博物館好きじゃん」
「そういう問題じゃないだろ……」
斎藤は楽しそうに笑っている。
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「別のところにしようよ」
高宮が言う。
「例えば?」
「映画とか」
「映画、寝るでしょ」
「寝ない」
「寝る」
「……まあ、可能性はある」
「ほら」
「じゃあ水族館」
「魚見るの?」
「水族館なんだから魚見るだろ」
「それも博物館と大して変わらないじゃん」
「いや、全然違うだろ」
「高宮、結局そういうの好きなんだよ」
「悪いかよ」
「悪くないよ」
斎藤は少しだけ笑った。
「だから博物館でいいじゃん」
「……分かったよ」
「やった」
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「じゃあ明日ね」
「何時?」
「昼くらい」
「適当だな」
「じゃあ十二時」
「分かった」
「待ち合わせは?」
「駅でいいだろ」
「うん」
斎藤は満足そうに頷いた。
「じゃあ明日」
「はいはい」
「楽しみにしてるから」
「……そう」
斎藤はそのまま出口へ向かう。
数歩歩いたところで振り返った。
「高宮」
「何?」
「明日、ちゃんと休みだからね」
「分かってるよ」
「仕事の顔で来ないでね」
「どんな顔だよ」
「今みたいな顔」
「普通だろ」
「ちょっと難しい顔」
「仕事中だからだよ」
「じゃあ明日はもう少し楽しそうにして」
「努力する」
「よし」
斎藤は笑って、
博物館を出ていった。
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翌日。
待ち合わせ場所に着いた高宮は、
斎藤を見つける。
「おはよう」
「おはよう」
「じゃあ行こうか」
「うん」
歩き出す。
しばらくして、
高宮が聞く。
「で、どこの博物館?」
「自然系」
「……」
「何?」
「いや」
高宮はため息をつく。
「本当に博物館なんだな」
「だって好きでしょ」
「……好きだけどさ」
斎藤は隣で笑っている。
「ほら、行こう」
「はいはい」
休日なのに、
結局いつものような場所へ向かっている。
博物館に着く。
「思ったより大きいな」
高宮が入口を見上げる。
「でしょ?」
「斎藤、来たことあるの?」
「一回だけ。高校のとき」
「へえ」
「そのときはあんまり興味なかったけど」
「今は?」
「高宮が楽しそうだから」
「……」
高宮は一瞬黙る。
「何それ」
「そのままの意味」
「俺がいなくても楽しめるだろ」
「まあね」
斎藤は笑う。
「でも、一緒に来たほうが楽しいかなって」
「そう」
高宮はそれ以上何も言わず、入口へ向かった。
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館内に入る。
平日の自分の職場とは違って、
こちらにはそれなりに人がいる。
子供を連れた家族。
年配の夫婦。
大学生らしい二人組。
「結構いるな」
「高宮のところより?」
「比較するなよ」
「だって本当に少ないじゃん」
「うちはうちでいいんだよ」
「ふふ」
展示室を進んでいく。
斎藤は思ったより真面目に展示を見ていた。
「これ何?」
「それは――」
高宮が説明する。
斎藤が聞く。
また説明する。
しばらくして、
「高宮ってさ」
「ん?」
「仕事のときより楽しそう」
「そうか?」
「うん」
「気のせいだろ」
「そうかな」
斎藤は展示物を眺めながら、
「普段はもっと無愛想だよ」
「余計なお世話だ」
「でも今はちょっと嬉しそう」
「……博物館だからな」
「それだけ?」
「それだけ」
斎藤は少しだけ笑った。
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一通り見終わる。
二人は館内のベンチに座った。
「疲れた」
「まだ半分くらいしか見てないよ」
「嘘だろ」
「本当」
高宮は展示室を見渡す。
「……広いな」
「休憩しよう」
「そうしよう」
二人でしばらく黙って座る。
会話が途切れても、
妙な気まずさはなかった。
斎藤がぽつりと言う。
「こういうのもいいね」
「何が?」
「何も話さなくても平気なの」
「そうだな」
「高宮といると楽」
「そう?」
「うん」
斎藤は少し考える。
「無理に話さなくていいし」
「俺、そんなに喋らないからな」
「知ってる」
「悪かったな」
「悪くないよ」
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しばらくして、
斎藤が立ち上がる。
「次、行こう」
「まだ見るの?」
「せっかく来たんだから」
「一人だったら絶対途中で帰ってるだろ」
「今日は高宮といるから」
「…」
高宮も立ち上がる。
二人で次の展示室へ向かう。
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夕方。
博物館を出る。
「結構長居したな」
「楽しかった?」
「まあ」
「まあ、なんだ」
「楽しかったよ」
「よかった」
斎藤が嬉しそうに笑う。
「じゃあ、次はどこ行く?」
「次もあるの?」
「あるよ」
「……」
「嫌?」
「いや」
高宮は少し考えてから、
「次は博物館じゃないところにしよう」
「分かった」
斎藤は頷く。
そして、
「じゃあ次は喫茶店」
「それならいいな」
「高宮、煙草吸えるところ探すでしょ」
「当然」
「やっぱり」
二人は駅へ向かって歩き出す。
夕暮れの街を、
並んで歩く。
高宮はふと思った。
休日に博物館へ来るのも、
案外悪くない。
いつもは一人で見る展示を、
今日は隣に誰かがいる。
それだけの違いだった。




