学芸員と恋愛相談
「……高宮さん」
閉館一時間前。
受付の近くで作業をしていた高宮に、
聞き慣れた声がした。
顔を上げる。
以前から時々来館する女子高校生だった。
「久しぶり」
「お久しぶりです」
制服姿で、少し落ち着かない様子をしている。
「今日は一人?」
「はい……ちょっと相談があって」
「相談?」
「はい」
高宮は手を止める。
「俺でいいの?」
「高宮さんがいいです」
「そうか」
少し間があった。
「座る?」
「はい」
二人は展示室の端にあるベンチに座った。
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「……告白されました」
「おお」
「クラスの男子に」
「そうか」
「昨日」
「返事は?」
「まだです」
高宮は頷く。
「それで相談に来たと」
「はい」
「俺に?」
「はい」
「学校の先生とか友達じゃなくて?」
「……高宮さんのほうが、ちゃんと考えてくれそうなので」
「買いかぶりだな」
少女は少し笑った。
「でも、本当にそう思ってます」
「そうか」
高宮は少し考える。
「で、どうしたいの?」
「それが分からないんです」
「好きかどうか?」
「……たぶん、それも」
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少女は膝の上で手を組む。
「嫌いじゃないんです」
「うん」
「話してて楽しいし、優しいし」
「うん」
「でも、付き合いたいかって聞かれると……」
言葉が止まる。
高宮は急かさなかった。
「分からない?」
「はい」
「なら、今すぐ答えを出さなくてもいいんじゃない?」
「いいんですか?」
「告白されたら、その場で人生を決めなきゃいけないわけじゃないからな」
少女は少し考える。
「……高宮さんなら、どうします?」
「俺?」
「はい」
「俺だったら?」
「はい」
高宮は少し困った顔をした。
「難しい質問だな」
「大人の意見が聞きたいです」
「大人ってほど大したものじゃないけど」
「でも、私より長く生きてます」
「それはそう」
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「相手のことが好きかどうかは、自分で決めるしかないよ」
「はい」
「ただ、付き合ってみてから分かることもある」
「……」
「逆に、付き合わないと分からないこともある」
少女は黙って聞いている。
「だから、相手が嫌じゃないなら、もう少し話してみてもいいんじゃないかな」
「それって、付き合うってことですか?」
「そこまでは言ってない」
「難しいですね」
「恋愛相談って、だいたいそういうものだろ」
少女は小さく笑った。
「高宮さんでも分からないことあるんですね」
「俺を何だと思ってるんだ」
「何でも知ってる人」
「それは買いかぶりすぎ」
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少し沈黙があった。
少女がふと、
「高宮さんって」
「ん?」
「好きな人いるんですか?」
「……」
高宮は展示室を見る。
「話が変わったな」
「気になったので」
「いないよ」
「本当に?」
「本当に」
「そうですか」
少女は少しだけ安心したような顔をした。
「じゃあ、高宮さんは誰かに告白されたことあります?」
「昔ならあるよ」
「どんな人ですか?」
「そこまで話す必要ある?」
「聞きたいです」
「恋愛相談じゃなくなってるぞ」
「参考資料です」
「博物館じゃないんだから」
少女は笑った。
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やがて閉館時間が近づく。
「……ありがとうございました」
「どういたしまして」
「少し考えてみます」
「うん」
少女は立ち上がる。
出口へ向かい、
数歩歩いたところで振り返った。
「高宮さん」
「ん?」
「もし私が付き合うことになったら」
「うん」
「また報告してもいいですか?」
高宮は少し笑った。
「別にいいよ」
「ありがとうございます」
少女も笑う。
「……なんか、応援してもらえる気がします」
「それなら良かった」
「はい」
そう言って、
少女は博物館を出ていった。
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静かになった展示室。
高宮は彼女が座っていたベンチを見る。
自分を慕ってくれていることには、
なんとなく気づいている。
ただ、
それが憧れなのか、
少し違う感情なのか。
そこまでは、
あえて考えないことにしていた。
高校生にとって、
自分は少し年上の、
物知りな博物館の職員。
それくらいでいい。
高宮はそう思いながら、
閉館の準備を始めた。




