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閑話 焼き芋パーティー


「……焼き芋をやろう」


そう言い出したのは神田だった。


秋も深まり、


博物館の公園には落ち葉が増えていた。


閉館後。


四人は建物の裏手に集まっている。


高宮。


松下。


斎藤。


そして神田。


「急だな」


高宮が言う。


「秋といえば焼き芋だろう?」


神田は当然のように答えた。


「そういうもの?」


斎藤が笑う。


「そういうものさ」


「神田さん、焼き芋好きなんですね」


松下が言う。


「好きだよ。秋という季節を最も効率よく感じられる食べ物だと思うのだよ」


「また始まった」


高宮が呆れる。


「焼き芋一つでそこまで言う?」


「何を言う。焼き芋は素晴らしいよ」


神田は真面目な顔をしている。


「夏には夏の食べ物がある。冬には冬の食べ物がある。しかし焼き芋には、秋そのものが詰まっている」


「……」


松下が黙って頷く。


「松下、納得するなよ」


「いや……分かります」


「お前までか」


---


落ち葉を集め、


簡単な焚き火を作る。


芋をアルミホイルで包む。


「これでいいの?」


斎藤が聞く。


「たぶん」


「高宮、学芸員なのに焼き芋には詳しくないんだ」


「学芸員を何だと思ってるんだ」


神田が横から口を挟む。


「しかし、火を扱うというのは人類史において非常に重要な――」


「焼き芋だぞ」


「分かっているとも」


「ならいいけど」


四人で芋を火の中へ入れる。


あとは待つだけだ。


---


「暇だね」


斎藤が言った。


「焼き芋は待つ時間も含めて焼き芋なんだよ」


神田が答える。


「それ、何でも言えるじゃん」


「待つことに意味があるものは多いのだよ」


「例えば?」


「酒」


高宮が即答した。


神田が高宮を見る。


「君は本当に嗜好品が好きだね」


「いいだろ別に」


「いいと思うよ」


松下が言った。


「酒も焼き芋も」


「松下、今日は珍しくよく喋るな」


「そうですか?」


「うん」


「……秋だからですかね」


「どういう理屈だよ」


---


しばらくすると、


甘い匂いが漂い始めた。


斎藤が立ち上がる。


「焼けたんじゃない?」


「まだだろ」


高宮が芋を確認する。


「熱っ」


「大丈夫?」


「大丈夫」


火から取り出し、


少し冷ます。


アルミホイルを開く。


湯気が立ち上る。


黄色く、


ほくほくした芋。


「おお……」


斎藤が声を上げる。


神田も覗き込む。


「これは見事だね」


「うまそう」


松下が呟く。


高宮が包丁で四等分する。


それぞれに渡す。


---


「いただきます」


斎藤が一口食べる。


「……甘い」


「うまいな」


高宮も食べる。


松下も黙々と食べている。


神田は芋を眺めながら、


「焼き芋というのは不思議だね」


「何が?」


「さつまいもを焼いただけなのに、これほど満足感がある」


「腹減ってたんじゃない?」


「そういう身も蓋もない話ではなくてだね」


高宮は笑った。


「まあ、分かるけど」


---


夕方。


空が少しずつ暗くなっていく。


公園には誰もいない。


落ち葉が風で転がる。


四人は焚き火を囲んで、


残った芋を食べている。


「こういうの、いいね」


斎藤が言った。


「うん」


高宮も頷く。


博物館の中とは違う。


展示室のような静けさではない。


火が燃える音がする。


落ち葉が擦れる。


時々誰かが笑う。


それでも、


どこか穏やかだった。


神田が空を見上げる。


「秋というのは、少し寂しい季節だと思わないかい?」


「また始まった」


高宮が笑う。


「夏が終わって、冬が来るまでの途中だ」


「うん」


「だからこそ、人はこうして火を囲むのかもしれないね」


松下が焼き芋を食べながら言う。


「……それ、焼き芋が冷めますよ」


「そうだね」


神田は笑った。


「哲学より、今は芋だ」


「珍しく分かってるじゃん」


高宮が言う。


---


やがて、


最後の焼き芋がなくなった。


火も小さくなる。


斎藤が立ち上がる。


「片付けよっか」


「そうだな」


四人で片付ける。


灰を処理し、


道具をまとめる。


何十分もかけて準備したのに、


食べ終わればあっという間だった。


「またやろうよ」


斎藤が言う。


「いいね」


高宮が答える。


「次は何を焼く?」


「栗」


神田が即答する。


「秋だから」


「また秋を理由にするのか」


「当然だろう?」


松下が少し笑う。


「じゃあ、次は栗で」


「松下まで……」


高宮は呆れながら笑った。


四人で歩いて帰る。


誰もいなくなった公園に、


小さな焚き火の跡だけが残っている。


秋の夜は、


少し冷たかった。


でも、


今日はそれほど寂しくなかった。


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