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学芸員と華金


「……終わった」


金曜日、午後五時。


最後の来館者を見送る。


時計を見る。


一週間が終わった。


特別忙しかったわけではない。


大きな問題もなかった。


それでも、金曜日の五時というだけで少し気分が違う。


「今日は飲むか」


高宮は小さく呟いた。


---


帰宅。


着替えて、冷蔵庫を開ける。


ビール。


冷凍庫にはウインナー。


「……完璧」


高宮はベランダへ出た。


小さなテーブルに簡単なコンロを置く。


ウインナーを並べる。


ジュウゥゥ……


皮が弾ける。


香ばしい匂いがする。


高宮はビールを開けた。


プシュッ。


一口。


「……うまい」


夕方の風が気持ちいい。


まだ空は明るい。


遠くから車の音が聞こえる。


ウインナーを転がす。


少しずつ表面が焼けていく。


「いいな」


焼き上がった一本を口に入れる。


パリッ。


肉汁が出る。


すぐにビールを飲む。


「……優勝」


誰に言うでもなく呟く。


---


二本目。


三本目。


ビールも二本目。


外で焼いて食べるだけなのに、妙にうまい。


高宮は椅子に座って、ぼんやり夜になる空を眺める。


仕事が終わった。


明日は休み。


それだけで十分だった。


「こういうのでいいんだよな」


高い料理もいらない。


高い酒もいらない。


仕事が終わって、


外でウインナーを焼いて、


ビールを飲む。


それだけで一週間の疲れが少し抜けていく。


---


午後八時。


片付けを終える。


「……もうちょっと飲みたいな」


家の酒を眺める。


少し考えて、


財布を取った。


「BAR行くか」


---


午後九時。


駅から少し離れたところにある、小さなBAR。


扉を開ける。


「いらっしゃい」


「こんばんは」


高宮はいつものようにカウンターへ座った。


薄暗い店内。


棚に並ぶ酒。


静かな音楽。


カウンターの向こうでは、マスターがグラスを磨いている。


「今日は何にする?」


「ウイスキー」


「いつもの?」


「はい」


グラスが置かれる。


氷がカランと鳴った。


高宮は一口飲む。


「……うまい」


家で飲んだビールとは違う。


こういう酒も好きだった。


---


しばらくして、


高宮はポケットから煙草を取り出す。


一本咥える。


「どうぞ」


マスターが灰皿を近くに置く。


「ありがとうございます」


火をつける。


ジジッ、と先端が赤くなる。


煙を吸う。


ゆっくり吐く。


ウイスキーを一口。


煙草をもう一口。


「……」


静かな店内。


隣の客がグラスを傾ける音。


遠くで小さく流れる音楽。


氷が溶ける音。


こういう時間が好きだった。


酒も好き。


煙草も好き。


そして、


こういう場所も好きだった。


---


「今日は機嫌いいね」


マスターが言った。


「金曜ですから」


「それ、今日何回目?」


「大事なんですよ」


「何が?」


「金曜っていう響きが」


マスターが笑う。


「明日休みだから?」


「それもあります」


高宮は煙を吐く。


「一週間終わったって感じがするんで」


「なるほど」


「それに」


高宮はグラスを見る。


「今日はウインナーがうまかった」


「……そこ?」


「重要ですよ」


マスターが笑う。


「じゃあ、ウインナーに乾杯」


「もう食べ終わってますけど」


「じゃあ、一週間に」


「それなら」


グラスを軽く合わせる。


カラン、と小さな音がした。


---


午後十一時。


煙草を消す。


最後のウイスキーを飲み干す。


「ありがとうございました」


「また来週」


「はい」


店を出る。


夜風が気持ちいい。


高宮は歩きながら、今日一日を思い返す。


仕事。


ビール。


外で焼いたウインナー。


BAR。


ウイスキー。


煙草。


特別なことなんて何もない。


でも、


こういう何でもない楽しみがあるから、


また月曜日から働ける。


高宮は少しだけ笑った。


「……いい金曜だった」


そして、


明日は何をしようかと考えながら、


夜の街を歩いて帰った。


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