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学芸員と休日

「今日は休みだ」


朝。


目が覚めて、最初にそう思った。


仕事はない。


予定もない。


目覚ましもかけていない。


高宮は布団の中でしばらく天井を眺めていた。


「……何しようかな」


休日というものは、


始まる前は楽しみなのに、


いざ始まると何をしていいのか分からなくなる。


時計を見る。


午前九時。


まだ早い。


もう一度寝るには、少し目が覚めすぎている。


高宮は起きた。


---


午前十時。


着替えて家を出る。


特に目的地はない。


駅まで歩きながら、


「ゲーセンでも行くか」


と思った。


休日にやることとしては、


まあ、悪くない。


---


ゲームセンター。


休日なので、それなりに人がいる。


音楽。


電子音。


メダルゲームの音。


クレーンゲームの歓声。


その中に混ざって、


格闘ゲームの筐体が二台並んでいる。


高宮は迷わずそちらへ向かった。


「……空いてる」


席に座る。


コインを入れる。


キャラクターを選択。


対戦開始。


「……」


真剣な顔になる。


普段の高宮からは想像できないくらい、


集中している。


相手の動きを見る。


間合いを取る。


牽制。


差し返し。


コンボ。


「……よし」


勝った。


次の相手が入ってくる。


今度は負けた。


「うわ」


もう一度。


負ける。


「……」


さらにもう一度。


勝つ。


そのまましばらく続けた。


気がつけば一時間以上経っている。


「……腹減った」


高宮は席を立った。


---


午後一時。


駅前のカフェ。


窓際の席に座る。


アイスコーヒーとサンドイッチ。


店内には静かな音楽が流れている。


高宮はスマートフォンを眺めながら、


ゆっくりコーヒーを飲む。


ゲーセンとは正反対の静けさ。


こういう場所も好きだった。


「……休みって感じするな」


誰に言うでもなく呟く。


仕事の日なら、


この時間は博物館にいる。


資料を整理して、


来館者が来れば対応して、


暇なら窓の外を眺める。


今はその必要がない。


だから、


何もしなくていい。


それが休日だった。


---


午後二時。


カフェを出る。


家に帰るにはまだ早い。


高宮はそのまま歩くことにした。


目的地はない。


公園を抜ける。


商店街を通る。


知らない道へ曲がる。


暑い。


蝉が鳴いている。


自動販売機で水を買う。


木陰で立ち止まる。


「……暑いな」


それでも歩く。


散歩は嫌いではない。


何かをしなくてもいい。


歩いているだけで時間が過ぎていく。


途中、小さな古い家を見つける。


「この辺、まだ残ってるんだな」


仕事柄、古い建物を見ると少し気になる。


屋根。


壁。


窓。


建物の造り。


無意識に観察している。


「……職業病か」


苦笑する。


休日くらい、


学芸員のことを忘れればいいのに。


---


午後四時。


気がつけば、博物館の近くまで来ていた。


「あ」


見慣れた建物が見える。


古い。


少し薄暗い。


休日なので当然、閉館している。


高宮は足を止めた。


「……」


別に入れるわけではない。


今日は休みだ。


それでも、


しばらく建物を眺めていた。


公園では子供が遊んでいる。


ベンチには老人が座っている。


木々が風に揺れている。


博物館だけが、


いつものように静かだった。


高宮はそのまま入口まで歩いていく。


もちろん鍵は閉まっている。


ガラス越しに、


薄暗い館内が見える。


展示室。


受付。


いつもの景色。


「……来ちゃったな」


自分でも少し呆れる。


休日なのに、


結局ここまで来てしまった。


---


帰ろうとしたところで、


公園のベンチに座る。


自動販売機で缶コーヒーを買う。


プシュッ。


一口飲む。


蝉の声を聞く。


風が吹く。


休日の午後。


仕事場の前。


なんだか変な感じだった。


「別に、好きで来たわけじゃないんだけどな」


そう言いながら、


高宮は博物館を見る。


けれど、


少し嬉しそうだった。


---


午後五時。


そろそろ帰ろうと立ち上がる。


今日一日を振り返る。


ゲーセンに行った。


格ゲーをやった。


カフェに行った。


散歩した。


そして、


最後に博物館を見に来た。


特別な休日ではない。


むしろ、


何もしていない。


でも、


悪くなかった。


高宮は歩き出す。


数歩進んで、


もう一度だけ振り返る。


「……また明日」


誰もいない博物館に向かって、


小さく呟く。


もちろん返事はない。


それでも、


明日になればまたここへ来る。


そう思うと、


休日が終わることも、


それほど嫌ではなかった。


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