14.広告
ベッドから離れたくなかった。
トイレに行くことすら億劫だ。ひたすらスマートフォンで動画を見続ける。
会社から退職勧告がなされてから二日が経っていた。
私の私物や退職手続きの書面などはすぐに家に送られてきた。この手の事務手続きはいつも遅れるのが常だと思うが、今回に関しては仕事が早いものだ。もしかしたら、事務手続きを早めたいのなら、会社の陰謀論をわめきたてればいいのかもしれない。
会社を辞めることになった直後は、巻き込まれた事件の調査を進めようとした。だが、すぐに壁にぶち当たった。問題のデータベースを証拠として挙げなければならないが、情報学のスキルがあまりにも足りないのだ。
この調査の核心となった赤坂さんはすでにこの世におらず、真崎さんにもいまだに連絡はつかない。
査問会で言われた言葉が反芻された。「君は赤坂の自殺の件にかかわっている。今回のプロジェクトを任せるに足る人間ではない」。本当に私の責任なのかもしれない、そんな思考が脳に潜り込んでくる。
プロジェクトにかけた時間も無に帰した。これも私の所為なのか。
そして、本田洋介。彼は何か。
考えるのも嫌になってきて、一度ベッドに潜り込んだが最後、今の今まで出てこられない。気力を振り絞っても身体の向きを変えるので精一杯だ。
ああ、だめだ。もうずっと猫の動画を観て余生を過ごしたい。
今後の人生計画を決意しかけたタイミングで、見ていた動画に広告が入った。VPNのサービスの広告だ。コンピュータセキュリティを疎かにする脅威を煽り立てている。なんてことないCMだったが、動画の視聴のノイズになる。
舌打ちして、広告をスキップしようとしたが、頭をガツンとされたような感覚が巡った。
赤坂さんの話していたセキュリティエンジニア……
「一人外部の人間でサーバールームに入った人がいます」
「彼が今一番真相に近いところにいるのです。彼がこのいかれたプロジェクトのチョークポイントなんですよ」
余生を過ごすと決めたベッドから、簡単に跳ね起きることになった。
私は自分の仕事机のキャビネットを開けた。この辺りにあるはずだ……あった。私はシンプルな名刺を取り出した。
『ホワイトハットセキュリティ・エンジニア・冬本之人』
煮詰まっていた状況に光明が見えて私は高揚を感じた。
そうだ、彼にコンタクトを取るんだ。
よく見ると名刺には事業所の住所も記載されている。
すぐに私は着替えた。秋口でもバイクに乗れる格好ー革のライダースジャケットに同素材のパンツーに着替えて、勢いよく部屋から飛び出す。




