2.遺伝子検査
口に綿棒を突っ込んだ。
小さいチューブにはわずかに粘度を持つ透明な液体が入っている。そこに唾液と口腔内から採取した細胞がたっぷりついた綿棒をねじ込んだ。
「通常、DNAの塩基配列を調べる為には複数の手順が必要です。まずは細胞や血液などの体液、それに準ずる生体サンプルを採取し、DNAの抽出、精製を行ったのち、template DNAにする。それをPCRで増やし、増えたDNA断片から塩基配列決定のための標識をつけた様々な長さの断片にしたのち、キャピラリーシーケンサに通す。これが基本的なDNA塩基配列決定の方法です。またゲノムやメタゲノムを読むにはもっとパワフルな手法が使われます。次世代シーケンサでは……」
「はぁ、なるほど」
白衣の男の妙に生き生きした説明に、俺は生返事をした。男は説明を続けた。
「しかし、お客様に行ってもらう操作自体は至極単純です。今やってもらったように口の中に綿棒を入れて、唾液と頬の内側の細胞を採取してもらって、チューブに入れるだけです」
俺は真っ白な検査室にいた。壁も床も机も、俺にはどう使うか分からないような実験機器のようなものまで、この部屋にあるほとんどすべてのものが白い。あまりに不自然な白色に思えた。だが、遺伝子を調べる実験室なんて、おおよそそんなものなのかもしれない、と思い直す。
テーブルの上には自分の唾液と細胞が含まれているチューブが立てられていた。白衣の男はチューブ立てごと手に取る。
「こちらは検査に回します。結果は後日、ここに反映されます」
男はパソコンのディスプレイを指して言った。身体、行動特性、疾病リスク、祖先のルーツ。様々な項目がずらりと並んでいる。この検査で明らかになる予定の俺の遺伝的特徴だ。四角い枠で囲われたアイテム。
まるでカードのようなユーザーインターフェースは、俺を責め立てるようだった。過去に埋めたものを執拗に掘り返そうとしてくるのだ。遺伝的性質は生まれる前に配られ終わっているカードだ。
どうにもならないことを考えてどうなるというのだ。掘り返された何かを、俺は再び諦念で埋める。
チューブを別の場所に移し終わった白衣の男は俺の方を向いた。何かを期待しているような目だ。
「さて今回は弊社のDNA鑑定を体験していただきましたが、いかがでしたでしょうか?」
声だけを励まして俺は言った。
「結果が楽しみです」




