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無口な隣の男子は推しのイケボに似ている  作者: 来留美


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3/7

3、ありがとうがなくても、奇跡のイケボ君が笑ってくれたからそれで良いのです

楽しくお読みいただけましたら幸いです。

「う~ん」

「カレン、どうしたの?」


 朝、学校へ来てから私は、ずっと考えているの。

 そんな私に呆れた顔で訊いてくるリノちゃん。


「ツバサ君が学生だってことは分かったけど、いくつかな?」

「そんなことを朝からずっと考えてるの?」

「うん。だってツバサ君は大人の男性だって思ってたから、なんだか受け取り方が変わっちゃって」

「受け取り方?」

「うん。学生が学生の声をするのと、大人が学生の声をするのって違うのよ。なんて言えばいいのか分かんないけど、声のトーンや表現が違う気がして」


 やっぱり大人の人って自分が子どもの頃の気持ちなんて忘れちゃうし、色んな経験をしているから表現にも深みが出てしまって聴いてる私には少しだけ、ほんの少しだけ違和感が出てくる。


 気にしないこともできるけど、好きだからこそ推しには完璧でいてほしいの。

 私のワガママなのかもしれないけれど。


「そんなの、ただ声を聴いて格好いいなぁでいいんじゃないの?」


 リノちゃんはそう言うと私に個包装のチョコレートを二つくれた。


「てっきり、奇跡のイケボ君のことを考えているのかと思ったわ」

「えっ、本物のツバサ君の情報が手に入ったのに、奇跡のイケボ君のことなんて考えられないよ」


 嘘です。

 昨日は、奇跡のイケボ君のことを考えていました。

 ごめんなさい。

 リノちゃんに嘘ついちゃって。


「カレンは推しが一番みたいだね」

「うん!」

「でも、その推しの声に似ている彼の声も気になるわよね?」

「そっ、それは少しだけね」

「それなら、そのチョコレートを使いなさい」

「チョコレート?」


 リノちゃんは私が持っているチョコレートを指差すから、私はチョコレートを見る。

 昨日食べたオレンジピールが入った甘酸っぱいチョコレート。


「それを彼にあげれば、ありがとうが聴けるでしょう?」

「そうだね。でも、もしツバサ君なら甘い物は苦手だから迷惑かも、、、」

「それを確認しなくちゃいけないでしょう? 推しなのか、アンドウ君なのか、はっきりしなきゃね」

「そうだよね。いつまでも、どっちか分からないのは嫌だよね?」

「うん。白黒つけなきゃ気持ち悪いわ」


 リノちゃんは白黒はっきりしないと嫌な性格だから、早く解決してほしいみたい。

 リノちゃんが、こんな性格だから私は救われたんだ。


 あの日、私が入学して一週間後に教室に入った日。



◆◆◆


 教室に入ると皆が私を見た。

 知らない子達ばかりで私は固まってしまった。

 動けない。


 自分の席も分からない。

 どうしよう。


「何してんの? 入らないの?」


 私の後ろから声がした。

 振り返ると美人さんがいた。

 くるくるカールの長い髪の先を、人差し指にくるくると巻き付けている。


「あっ、それが席が分からなくて」

「もしかして、ずっと休んでた子?」

「うん」

「教卓に紙が貼ってあるから、それを見れば分かるよ。おいで」


 彼女は私の手を引いて教卓へ連れていく。


「名前は?」

「カレンだよ」

「カレンだね? 私はリノ。あの席よ」


 リノちゃんは私を呼び捨てで呼び自分の名前を言ってから、私の席を指差した。

 リノちゃんの無駄のない会話に私は驚いた。

 テキパキしているリノちゃんは私とは正反対だった。


「ありがとう」


 私は嬉しくて何度もリノちゃんにお礼を言った。

 すぐに先生が入ってきて授業が始まる。


 お昼休みになると、みんなが仲良しグループに別れてご飯を食べている。

 私はどうすれば、、、。


「ねぇ、一緒に食べようよ」


 私に声をかけてきたのは見るからに一軍の女子だった。

 取り巻きが二人いて私を三人目にでもするつもりなのかな?


「えっ、でも、、、」

「さっき、リノちゃんに声を掛けられていたけど、リノちゃんには近付かない方がいいよ」

「どうして?」

「あの子、男好きだからいつも男子と一緒にいるんだよ? 可愛いのを武器にして性格が悪いのよ」


 そんなの分かんなかったけどな?

 とっても良い子に見えたよ?


「カレン、ご飯食べるよ」


 リノちゃんがお弁当を手にし、いちごミルクの紙パックジュースを二本持って、教室の前方のドアの前で私を呼ぶ。

 リノちゃんは紙パックジュースを買ってきたところだったから、さっきの女子達の会話は聞いていないはず。


「ほらっ、私達と食べようよ」


 小さな声で一軍女子が言う。

 私は誰と食べたいの?

 でも、もしここで一軍女子の誘いを断ったら、、、。


「カレン、自分で決めなよ」


 リノちゃんは何かを察したようだった。

 リノちゃんは私が、どちらを選んでも恨んだりしないんだと思う。


 だから私に選ばせるのよ。

 私の意思を尊重してくれるのよ。

 今日、初めて会ったのに、ずっと昔から友達のように思える。 


 リノちゃんは、そんな風に接してくれる。

 そんなリノちゃんと一緒にいたい。


「私、リノちゃんと食べるよ」


 私はリノちゃんの元へ行く。

 リノちゃんはヨシヨシと私の頭を撫でてくれた。


 そして、いちごミルクの紙パックジュースにストローを差して、私の口の前に差し出す。

 私はストローに口を付けて飲む。


 この時からだ。

 リノちゃんの手から甘い物を貰うようになったのは。


◆◆◆


「よしっ! 頑張ってチョコレートをあげてくるよ」


 私は授業が始まる前に速やかに自分の席へ戻る。

 今日も奇跡のイケボ君は眠いみたい。

 本当に疲れているんだろうなぁ。


 寝ている奇跡のイケボ君を見ていたら私まで眠くなってきた。

 お腹いっぱいだし、窓側の席は太陽のおかげでぽかぽか温かい。


「起きろ」


 ん?

 ツバサ君?

 私に言ってるの?


 目を開けると奇跡のイケボ君が私を見て困った顔をしている。

 ツバサ君の声がしたのは夢?


 奇跡のイケボ君は私にノートの切れ(はし)を渡してきた。

 お手紙だとすぐに気付いた。

 そして、お手紙での会話が始まる。


『寝言を言ってたよ』

『寝言?』

『チョコレートって言ってたよ。そんなにチョコレートが好きなんだね』

『私が食いしん坊みたいな言い(かた)しないでよね』

『ごめん。また怒らせた?』

『アンドウ君は私を怒らせる天才なの?』

『カレンさん? が怒りっぽいんだよ』

『カレンでいいよ』


 最後の手紙を読んだ奇跡のイケボ君が私を見て、本当にいいのか訊いているように感じたから小さく頷いた。


 それから放課後になった。

 リノちゃんから貰ったチョコレートは奇跡のイケボ君には、まだ渡せていない。


 休み時間も寝ている奇跡のイケボ君を起こせなかった。

 放課後になるとクラスメイト達は次々と帰っていく。


 私はリノちゃんと部活へ行く。

 奇跡のイケボ君は、まだ眠っている。

 起こしてあげた(ほう)が良いのか迷ったけれど疲れているのなら、もう少しだけ寝かせてあげようと思った。


 三十分くらい経ったら見に来ようと思って私は教室を出た。

 三十分後に教室へ戻ると誰もいない。

 奇跡のイケボ君以外は。


 私は彼に近付く。

 夕焼けに照らされた黒い髪が綺麗で触りたくなった。


 長い前髪の下にある目が見たい。

 彼は、どんな顔をしているのだろう。

 風でも吹かないかな?


 そう思っていたら、彼が目を覚ました。

 寝ぼけているようで、状況を把握するのに時間がかかっている。


 彼は教室の時計を見て目を見開いた。

 そして急いで帰る支度をしている。


「バイトなの?」


 彼は頷きながら帰る支度をしている。


「疲れているのよね? それならこれをあげるよ」


 私はチョコレートを二つあげた。


「チョコレートは疲れた体を癒してくれるんだよ」


 私がそう言うと彼は、チョコレートを包装から出して私の口元に近付ける。

 私が口を開けると彼は、チョコレートを口に入れてくれた。


「美味しい、、、って、何で私が食べるのよ」


 リノちゃんから食べさせてもらうように、彼に対しても口を開けてしまった自分が恥ずかしい。


「ふっ」


 彼が笑った。

 そして彼は私の頭を撫でて出て行った。

 もう一つのチョコレートは彼が持って帰った。


 お礼は言われなかったけれど嬉しかった。

 彼が私の頭を撫でて笑ったの。

 前髪の隙間から見えた彼の目は、とても優しく微笑んでいた。


 それだけで良かった。

お読みいただき、誠にありがとうございます。

楽しくお読みいただけましたら執筆の励みになります。

~次話予告~

奇跡のイケボ君が体調不良で保健室へ。

そしてカレンは気付く。

奇跡のイケボ君の低音ボイスと整った顔を見て、ツバサ君ではないと確信する。

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