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9-2(視点変更 日比谷幸)

 会場の声を掻き分け響き渡った彼女に驚きの表情を浮かべた日比谷幸は横で腕を組んでいた上米良魔技の肩を譲った。

「先輩! あの人!」

「ああ、目が覚めてリングアナ席に一目散に向かって行ったぞ」

「知ってて、止めなかったんですか?」

「面白くなりそうな事を止めるなんてできないよ。それに、このままリング内を生徒会色に染まったまま終わらせたくない」


 上米良の意図が読めない幸は首を捻る。


 ーーでも、よかった雅さんの手が汚れなくて…。


 ホッとした幸の耳にマイク越しに入江の助けを求める修復士の声が聞こえる。

「雅姫香!! 入江様を殺さないでください!! 入江様を殺したら私はアナタを許さない!! 絶対に許さない!!」

「うるさい口ですね。閉じてください、殺しますよ」

 リング上から栗山が銃口を修復士に向けた。

 銃口を向けられた事でリングアナ席にいた2人が慌てて逃げるが、修復士はリングを睨んだままマイクを離さない。


 修復士の言葉に動きが止まっていた雅に対して、栗山は言った。「安心してください雅さん。試合が終わり、くだらないヤカラが報復しようとするなら、1匹残らずわたくしが責任を持って殺しますので」

「放せ! 入江様を!」

マイクで修復士が叫ぶと、それに賛同した入江のファンが口々に「放せ! 放せ!」と連呼する。


 再び温度を上げた入江ファンが動き出そうとするかに見えたが、リング内から銃声が4回響き、放たれた鉛玉を受けた修復士が倒れ、入江ファンの高まる熱を急激に冷やす。

 両手両足を撃たれ、うつ伏せで倒れ伏した修復士は痛みで顔を歪めるも、マイクに近付きーー。

「お願いします…私には、私には、入江様しかいないんです…なんでもしますから…」と涙ながらに彼女は訴えるのだった。


 雅は手を振るわせて、目を強く瞑ると、掴んでいた入江をあっさり離しーー仰向けに倒れ伏した入江を上から両手で抑えた。

「何の真似ですか、雅さん」

「両肩付いてますよ、早く3カウント数えてください」

「雅さん。何を勘違いしているんですか? ピンフォールマッチではありませんよ?」

「あら? そうだったけ? なら、今からでもルール変更してくれないかな?」


 雅の提案に腕を組み会場を見回していた栗山は肩をすくめて言った。

「いいですよ。ただ、この後のことは責任を私は負いません。全部ご自分で対処してくださいね」

栗山が片目を一瞬瞑り「ワン、ツー、スリー」と味気なくリング上のマットを3回叩くとお辞儀をして早々にリングを降りる。


 雅は起き上がり、入江から離れる。

 会場内は虫が飛ぶような羽音から次第に、街中を走り回る騒音車のように、リング内に野次が飛ぶ。

「ふざけるな!」「殺せ!」「話が違うぞ! 馬鹿野郎!」「観るために金払ってんだぞ!」「そんな奴、生かすな!」「久しぶりのデスマッチで楽しみにしてたんだぞ!」「イケメンは死ぬべき!」「「「雅様!! 素敵ぃいい!!」」」「入江に騙されたのよ私!」「入江様を救うなんて気があるのあの女!」……etc、etc。


 大小、さまざまな男女の声が入り混じり、リング内に立つ雅は困惑気味にリング内をさまよう。

 雅に向かい椅子や、空き缶を投げ付ける者まで現れ収集がつかなくなるかと思われたがーー。


 カーン! カーン! カーン! カーン!上米良により突然ゴングがなん度も打ち鳴らされ方々の声を遮る。

「えー、テス、テスーー会場にお集まりくださった血の気が盛んな生徒の皆様、本日はお越しいただき誠にありがとうございます。今からデスマッチ部、部長であり、デスマッチ実行委員を勤め、巷では愛を込めてブラッドリーパーと呼ばれる、私、上米良魔技が少しだけ喋る為、静かにして頂きたい」


「ふざーー」

 静まり返った会場内で果敢にも声を発した2階席の男が飛んで来たペットボトルにぶち当たり背後に倒れる。

 無論、飛ばしたのは上米良で彼女は男を一瞥するとマイクを数回叩いて口を開いた。


「本来のルールとはことなるが、入江咲也はあっけなく負けた。これについて、集まった皆様の中で期待感が砕け散った者はいなかったか?」


 上米良が会場を見渡すと何人かの生徒が無言に頷く。

「久しぶりのデスマッチ。正直言って私も楽しみだった。何せ、元ボクシング部ではあるものの、過去デスマッチで無敗の入江咲也だ。いくらデスマッチ部である雅姫香でも、苦戦はして最悪死ぬだろうと思ってもいた。しかしだーー蓋を開けたらどうだ? あの頃とは違い、弱い! あまりにも弱すぎる! 雅姫香の初戦がこんな噛ませ犬じゃあ、いくら何でも浮かばれないし、皆んなからの印象も悪い。下手したら八百長なんて声も聞こえてきそうだ。そんな雑魚は姫香ならいつでも殺せるし、何より、わざわざ姫香が殺さなくても、他の入江を憎む、やりたい奴にやらせておけばいい違うか?」


 上米良は一旦口を閉じて、周りを見渡す。

 会場内から頷きや肯定や否定的な声が囁きが聞こえる中、上米良は三度口を開くーー。

「皆様は今日、デスマッチを見に来た。であればあんな試合はデスマッチとは言えない。だからーー」口を閉じてニヤリと笑い続ける。「お詫びに今からホンモノのデスマッチをお見せしますーー日比谷幸!! リングに上がれ!!」


 隣で固唾を飲み見守っていた幸は突然名前を呼ばれ両肩がびっくりと上がる。

「ちょっと、どう言うことですか!? 先輩!!」

「いいから上がれ、今から雅姫香VS日比谷幸のスペシャルデスマッチをやる。安心しろ、3カウントありのピンフォーでやる」

「え、でも…」

「幸!! 来な、私が相手してあげる」

状況をいち早く飲み込んだ雅が手のヒラを突き出し数回曲げた。 


「雅さんまで…」

 ジャージ姿の幸は慌てながらもリングに潜り込む。

 静まる会場の中で「誰、アイツ!」と言う心無い野次を拾い幸はたまらなく身を小さくする。

「皆様方、デスマッチというものは、蛍光灯を筆頭にさまざまな武器を使用して闘います。ですから、この試合は会場の皆様方の力をお借りしたい。ーー闘う2人に椅子でもバットでもラケットでも包丁でもありとあらゆる、物や武器を自由にお渡しください、きっと沢山の真っ赤で過激なパフォーマンスを見せてくれるでしょう」


 今の一言で会場内の熱が徐々に肯定派に傾く。

 服を脱ぎいつの間にかコスチューム姿になった上米良がリング内に入りマイク越しにルール読み上げる。

「只今よりスペシャルデスマッチ、雅姫香VS日比谷幸。時間無制限、一本勝負を行う。修復士無しのピンフォールまたは戦闘不能により決着とする。両者準備はいいか?」


 上米良が2人を交互に見やるーー何や何だかわからぬままに不安気に頷いた幸。

 リング内に転がっていた入江はいつの間か修復士に助けられ静かにリングから身を消そうしていた。雅が上米良からマイクを奪い聞こえるかどうかわからぬその背中に「入江!! 次アンタの良からぬ噂を聞いたら容赦しないから!」と一方的に喋ると「先輩いつでもいいよ。よろしくね幸」と頷き微笑んだ。


 上米良が戻ってきていたリングアナ席の2人に向かって手を挙げるとゴングが打ち鳴らされた。

 ゴングが鳴らされたと同時に会場の生徒がわれ先に外に飛び出る。

リング内に声援が送られそのどれもが、雅を後押し声だ。


 幸はアイドルである雅に対する黄色い声援を聞くたびに、否定されたような気がして場違いにリングに立つ自分に不安と恐怖を覚える。

 会場に集まる沢山の瞳の中に自分に向けられる肯定的な瞳の色は伺えない。


 ーー雅さんや、先輩の為に頑張らないと…。


 拳を握り足を一歩動かすが、二歩目が出せずに歩みが止まる。

「ーー!!」


 ーー駄目だ、何で私ここに立っているんだろう…。


 幸は足を一歩下げ、また一歩下げーー前進はできずとも後退はできてしまう幸は、とうとう身をロープ側まで寄せてしまう。

「ーー!!!」


 ーー駄目です、私なんかが、こんな場所に立っていたら…。


 幸は自分の不甲斐なさから正面を見るのも怖くなり、顔を伏せ止まる。

 リング外から誰かが飛ばしたペットボトルに頭が当たり、幸はリング内に転がるペットボトルを見ながら、無意識に口から「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝罪を口にしながら座り込んでしまう。


 ーーやっぱり雅さんのように華のない私がリングに立つなんて似合わないんです…。上米良先輩が雅さんと試合をしてればこんな無様な姿を見せることはなかった…。


「ーーー!!!!」


 パカッツ!!


 僅かな衝撃と軽快な音に顔を上げた幸は、割れた蛍光灯を手に笑みを浮かべる雅を見た。

「1本じゃ物足りない? 欲張りさんだなぁ幸は」

割れた蛍光灯をほかり、新たに掴んだ1本を振り上げた雅ーー。


 パカッツ!!


 幸の頭上で今一度音が鳴り、その小気味良い破裂音は会場の隅々まで行き渡り、見ている者の意識をかっさらう。

 身を屈める幸に対して雅は遠慮なく蛍光灯を次々と振り下ろしーー。

 打ち下ろす毎に会場内に小さな響めきが聞こえ、その痛みを伴うかのような息を呑む声は幸の耳に遠慮なく入る。


 蛍光灯の破片が宙を舞い、勢いついたガラス片は幸の皮膚を傷付け彼女の体から真っ赤な血を引っ張り出した。


 破裂音を何度も聞き油のようにどろりと流れ出る血を目にした幸は、次第に周囲の喧騒が消え爽快な音と匂いだけをダイレクトに感じるーーーー汗が血が息づかいが、そして雅や上米良、リングサイドに付くミナホが部活での練習風景を想起させ、無意識に幸は広角を上げた。


 ビッン!!


 と何十本目かの振り下ろされた蛍光灯を幸は両手で掴み立ち上がる。

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