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9-3

 たったそれだけの行動だが、幸の真っ赤に染まる顔面と笑顔溢れる佇まいに会場から、幸に対して拍手や歓声が送られる。

「雅さん。流石に痛いです。でも、目が覚めました」

「そう、なら私にも蛍光灯貰える?」

「はい!」


 雅から手渡された蛍光灯を受け取り、横にして自分の額に付けた幸は助走を付けて飛び上がるとーー蛍光灯を挟み雅に頭突きを喰らわす!!

 弾けた蛍光灯と骨のぶつかる衝撃とは別に、額からエネルギーを貰った幸の顔面に痛みと喜びの表情が混在する。


 幸の頭突きが予想以上にクリーンヒットしたのか、後方に倒れた雅が頭を抑え、蹲る。

 雅のリアクションに次の一手を考えていた幸の脚が止まる。

「幸。余計なことは考えるなよ。リングに上がった時点で上も下もない」

 会場の野次や罵倒の渦の中、上米良のクリアな声を拾い、幸は頷くと掴んでいた割れた蛍光灯を握りしめる。

 上米良に背中を押されたからか残酷な一手を思い付いた幸は躊躇なくそれを実行した。


「雅さん!!」

 頭を抑える雅の身を起こすと、ギザギザに割れた蛍光灯で彼女の額を引っ掻きーー。

 ひっかかれ鋭い痛みに口を開けたそこに縦から蛍光灯を突っ込み入れーー。

 膝をついた雅の両腕を正面から握った幸は右膝を蛍光灯めが突き上げた!!


 鈍い破裂音が鳴り、雅が後方に大の字に倒れるーー幸はその場で飛びーー手脚を真っ直ぐに伸ばしボディプレスを浴びせた!!

「ワンーー!!」

 雅の両肩がマットに付いたタイミングで上米良がマットを勢いよく叩くーー彼女が振り上げた手は1カウントで止まる。


 雅が幸を跳ね飛ばしたからだ。

「そんなもんじゃないでしょ? 幸?」

 口に入った蛍光灯を吐き、血に顔面が彩られた雅が白い歯を見せるとーー幸の頭部に両脚から飛び付きバク転するように身を翻すとフランケンシュタイナーを決めた!!


 頭からマットに打ち付けられた幸は、両脚を雅に持たれ抑え込まれる。

 2カウント目に身を大きく跳ねた幸は、頭を振り体を起こすーー。

「幸!!」


リング上に転がっていたパイプイスを振りかぶった雅を視認した幸は咄嗟に目を瞑り腕をクロスするーー衝撃は訪れず目を開いた幸はポイと折り畳まれたパイプイスが軽く飛んできたのが目に入りーー反射的に両手で掴む。


 ーー瞬間パイプイス目掛けドロップキックを放った雅に吹き飛ばされた幸は、ロープを超え高低差のあるリング下に体を叩きつけられた。

 痛みで顔を顰めた幸は頭上高くテニスラケットを振りかぶった雅を捉えーー。


 ガッ!!


 転がっていたパイプイスで振り下ろされた一撃を何とか防ぐ。

 上下で鍔迫り合いを続け上から力負けで押され出した幸は雅のガラ空きの足元を見つけ、両脚を揃えてーー強く突き出した!!

 雅の体が斜めに半回転して硬いマットに打ち付けられる。


「あの! これ! よかったら使ってください!」

 興奮気味に近寄って来た女子生徒から重量感のあるエレキギターを幸は受け取る。

 幸が弦を引っ掻くと何とも鈍くて間抜けな音が出た。

「こんな魅せ方じゃないよねデスマッチ部は」

 ギターのネック部分を両手で掴み逆さにするとボディをハンマーのようにして幸は構える。

 幸と相対する雅もいつの間にか吹奏楽部生徒から貰っていた自身の身長を超えるコントラバスを盾の様に突き立てていた。


 雅が弓で弦を引くとデスボイスのように耳障りで重低音が響く。

「お互い音楽の才能はないかもね」

弓をほかり雅がコントラバスを重そうに持ち上げる。

 両者視線が重なりどちらとも臆することなく楽器を掲げ全力で突っ込みーー。


 激しい二重奏が響き渡り両者の楽器が砕ける!!


 倒れ伏す2人に向け声援や手拍子、地面に足を打ち鳴らす地響きが聞こえた。

 荒い息を吐きながら渡されたバスケットボールを手に取り立ち上がった幸は、ノコギリとノミを手に持つ雅を見据える。

 狂気さを孕んだ雅が幸に向け足をゆっくりと動かす度に、会場の空気が血生臭さを匂わせ始め空気が静まる中、幸はそれに飲まれことなく、雅の出す小さなシグナルに気付き「右、左、斜め、斜め…」と小さく呟く。


「幸ぃいい!!」

  動きを加速させた雅は派手なアクション映画のようにノコギリを横に払うーー!!


 ヒュン!! ヒュン!! ヒュン!!


 軽く触れただけで肉を切り裂くかのように鋭い刃が空を切る。

 幸がそれを寸前で交わす度に会場から悲鳴にも似た驚きが上がる。

 ノコギリだけでなく突き出されたノミも身を引いて交わした幸が人知れずホッとした矢先ーー。

 予想だにしない方向から再びノミが胸に飛び込んで来た!!

「ーーッッ!!」


 幸は必死に胸を守るようにバスケットボールを抱きーー。

 ノミが刺さり爆破音が鳴りボールが破裂した!!

 眩暈がするほどの甲高く喧しい耳鳴りが鳴る中、幸は雅に頭突きを喰らわす!!

 気を落ち着かせる為に幸はリング内に素早く潜り込む。


 幸の後を追い頭を軽く振ってロープ下からリング内に入った雅の頭目掛け低空のドロップキックを見舞った幸は素早く動きそのまま、雅の頭をクラッチした。

「雅さん! さっき、刃物が突き刺さって死ぬかと思いましたよ!」

 観客から悟られぬように耳元で幸が叫ぶ。

「サプライズよ、びっくりしたでしょ」

 新たな鮮血で顔を汚しながら余裕そうに舌をチラリと雅が出す。


 幸は仕返しとばかりに雅の手を掴み首に巻き付くように固めると隙間に片方のネジ入れ、自身の腕を掴みーーコブラクラッチを決める。

 うつ伏せになる雅の体を反らせながら、頸動脈を締め上げる。


 うめきもがく雅を見ながら、幸は不意に上米良の言葉を思い出す。

『エンタメの中にリアルを含ませたのがデスマッチなんだよ。見せるのではなく、魅せることを意識する。魅せて、魅せて、時より見せることで観客も、そして選手自身も欠伸など忘れカオスな空間に溶け込まれる。こんな楽しいスポーツ他には存在しないだよ』

 腕の力を抜き雅に逃げる隙を与えた幸だったが、一転、再び腕を締め上げた。


「雅さん、このまま決めます!」

 フィニッシュに入る為、力を入れた幸はタイミングよくリング内に転がって来た蛍光灯を掴んだ雅に顔面を叩かれる。

 目元を抑えリング内に転がった幸は肩で息をつく雅に抑え込まれーー。

 2カウント目に首襟を掴まれ身を起こされた幸は、雅に首を差し出され挑発された。

 不適な笑みを浮かべながら立ち上がった幸は雅の首元にエルボーを放つ。


 肉より深くに眠る骨が軋む重い音を響かせ雅の顔が僅かに沈む。

「雅さん!」

 幸は自身の首元を叩き、腰を落とすと雅を呼ぶ。

「幸!!」

 上から身長差のあるエルボーを貰い幸は吹っ飛ぶが直ぐに立ち上がりーー。

 雅に向けてエルボーを放つ。


 しばし重い音を響かせ両者撃ち合う中、幸は雅の目に汚れた血を流すような一筋の涙を目にする。

「雅さん!」

重いエルボーを放ち雅の顔を沈ませる。

「どうしたんですか! 雅さん! アナタのパワーはそんなもんですか!? もっと私に見せてくださいよ!!」

幸は挑発し雅に顎を突き出す。

「幸ィイイ!!」

雅からエルボーを貰うが幸は脚を踏ん張り歯を食いしばると首を振る。


 ーー雅さん! 遠慮なく全部感情を私にぶつけてください! その代わり、その代わり、私の思いも受け取ってください!


 雅の涙に当てられた幸は、異世界へ消えていった友達を思い雅にエルボーを放つ。


 そのエルボーは乾いた音が鳴り雅に首を振られる。

 流れ出た涙を血で誤魔化すように顔を拭った幸は頷くと拳を握りしめて腰の入ったエルボーを放つ。

 腕が痺れ重い一撃に顔を歪ませた雅だったが、直ぐに笑みを浮かべと幸の首元に向けエルボーを放った。

 重く厳しい衝撃とは別に愛のある一撃に身を沈めながら、幸は首を振りながら身を起こした。


 ◾️


「「「「ワン! ツー! スリー!」」」」

 カンカンカンカン! と目覚まし時計かのように打ち鳴らされたゴング、会場からは地鳴りが聞こえ、興奮したさまざな人々の声を聞く、高い天井の照明に目を細めた幸の意識はその時、はっきりと目覚めた。

「楽しかったよ、ありがとうね幸」

 幸の耳元で、呟き上に被さっていた雅が幸の頭をぐちゃぐちゃに撫でて離れる。


 身を起こそうとするが、体を少し動かしただけで激痛が走り顔を歪め動きを止める。

 上米良から腕を掲げられ勝利者として讃えられた雅を見て、幸は自分が負けたことを悟る。


 ーー試合途中から記憶がないけど、雅さんに負けたんだ私…。

 上米良先輩からいきなり試合を組まれた瞬間は恥ずかしさや恐怖、不安で一杯だった。でも、雅さんや上米良先輩のおかげで、吹っ切れ試合をしたら……。

 楽しかったよね…うん。楽しかった…。

 私にエレキギターを渡してくれたり、必死に声援を送ってくれたりーー。


「日比谷幸。沢山の骨が折れてる直ぐに治すからじっとしてろ」

 ドーナツを持ちリング内に駆けつけたミナホ楓が幸に手をかざす。

「楓ちゃん。私、雅さんにどんな風に負けたの?」

「覚えてないのか? リングコーナー上、トップロープから雅にズドーンて落とされて負けた。あの瞬間は日比谷幸が死んだかと思って焦った」

「…そうなんだ、ごめんね、心配掛けて」


「別に問題ない。ーーなんだ? 泣いてるのか?」

 ミナホに顔を覗き込まれた幸は手で顔を拭うーー確かに手に湿り気のあるモノが付着した。

「雅さんに負けて悔しいのかな私…」

「…常識人枠だった日比谷幸も狂ってしまった」

「え? 狂った?」

 幸の体を叩いて立ち上がったミナホは首を振ると「また、雅姫香と戦えばいい。その時は、不本意だが、体を治す」ミナホは幸に向け手を伸ばした。

 ミナホの手を取り頷いた幸は立ち上がり、「そうですね! その時はお願いしますーー」と口にするが後の言葉が続かない。


「どうした? 日比谷幸?」

「いえ、雅さんはおそらくこの試合を最後にデスマッチ部は辞めてしまうかもしれません…」


 ーー雅さんは入部当初とある目的でデスマッチ部に入ったと言っていた。それは、入江咲也を倒す為で、それを成し遂げた今、彼女がデスマッチ部に居続ける理由はないのでは…。


 リング上で観客の声援に応じてコーナーに登っていた雅を幸は不安に見続けるのだった。


 ▲


「辞める? デスマッチ部は辞めないわよ私」

 試合を終え、デスマッチ部の4名は街の焼肉屋に繰り出していた。

 網の上で焼かれるホルモンの香ばしい匂いと煙を浴びながら幸の質問にすぐさま、否定した雅は、ごま油と塩が掛かったキュウリをしゃくりと口にした。

「本当ですか!? 雅さん!」

 前方に座る雅に身を乗り出した幸は網の上で焼かれていたホルモンの油に襲われ、おしぼりで顔を抑えながら座る。


「何? 幸は私にデスマッチ部をやめて欲しかったの?」

「違いますよ、そんな!」

「日比谷幸は雅姫香に負けたのが悔しかったみたいだ」

「ちょっと、楓ちゃんーーイッタ」

「ほら、はしゃぐなら肉を食ってからはしゃげ幸」

 上米良が幸の取り皿に生のように真っ赤な肉をポンと置く。

「…まだ、焼けてないです、先輩」

 幸が箸で赤い肉を掴み網の上に置き直す


「なんだ? 好き嫌いか? 強くなれんぞ」

「ちゃんと処理してなくて生肉食べれるのなんて、野生動物か上米良先輩だけですよ」

 雅がトングで肉の色を確認しながら言った。

「分かってないな、キミ達は。魚と同じで生の方がーー楓さん? この店は某太郎店とは違ってフリースタイルな店じゃないからドーナツ焼くのは…」

「焼きドーナツは美味い、これ常識」

「ーーうん。確かにいい匂いね美味しそう!」

「幸、バカな2人を止めてくれ」


 自分の事は棚に上げ焼けてない赤い肉を喰らいながら呆れたように告げる上米良に突っ込みを入れる前に、幸は立ち上がり口を開こうとしたがホルモンの油に阻止される。熱さでおしぼりを顔に当てる幸に3人は笑って視線を送るのだった。



了?

最後まで読んで頂きありがとうございます。

このシリーズは一旦ここで完結します。

モチベーションとやる気が湧けば当初考えていた場面までまた続きを書こうと思います。

また、作者の作品をどこかで見かけたら読んでいただければ幸いです。

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