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7-2

 シャワー後、簡単な自主トレをこなし、部室でくつろいでいた入江の元に、暑苦しいコートを羽織ったピンク髪の女子生徒が顔を出す。

「入江様。私もう、この子のこと隠せる気がしません…」

 コートを脱いだ女子生徒のお腹周りがぽっこりと僅かに小さく膨らんでいた。


「産まれるまでは必死で隠そうと思っていましたが、私不安で…みんなに公表してもいいですよね! 入江様と私との子供だって!」

 女子生徒が腹を見せつけるように入江に詰め寄るが、詰め寄られた入江はその女子を冷ややかに見つめた。

「いやだなぁ一体全体、さっきから何の話を言っているんだキミは? 僕との子供? よしてくれ、僕はキミを孕ませたつもりはない。それにキミが妊娠しているのかも怪しい」


「そんな! 私と入江様は沢山愛し合いましたよね! 何度も何度も体を重ねたじゃないですか! 妊娠はしてます! 信じてください!」

 女は入江に拒否られたショックからかその場に崩れ落ち啜り泣く。


 ーーコイツも、体だけの頭が弱くしょうもない女か…。


「奏。修復士のお前から見てその女は本当の事を言っていると思うか?」

 入江の隣で背筋を伸ばしていた奏は返事をして、女の元に近付き、その腹に手を置きしばらく目をつぶっていたかと思うと、いきなり首を左右に振った。

「妊娠は確かにしています。ですが、入江様との子供ではありません」


「そんな! アンタに何が分かるのよ!」

 奏の手を払った女が彼女に怒りをぶつける。

「修復士である奏は僕達とは違い、見えない物が見えたり、治せない物が治せたりする」入江が立ち上がり女に近付くと女のアゴを持ち上げて言った。「キミは一体誰の子供を孕んだんだ?」

「そ、そんな! 入江様との子です! 間違いありません! 信じてください!」


「でも、キミは僕以外にも何人かと性行為を何度も何度もしているはずだ」

「そ、それは…入江様の指示で…」

「僕の? そんなおかしな指示はした覚えがない。キミが勝手に解釈して勝手に行ったことだろ。罪を僕に向けるのはよしてくれ」

「そんな、入江様あんまりです…愛していたのにそんな…」

 女は腹をさすりながら涙を流し続けるが、入江の心は冷え切っていた。


「だいたいだ。僕のことを思っているのならたとえ、他の男と性行為した所で孕むのはおかしい。キミは無意識に他人の生命を受け入れてしまっている。僕以外の見知らぬ他人を」

「そんな、ありえません。無意識でも、入江様以外の生命を受け入れるなんて、そんな、かってに、勝手に!」

「勝手に?」

「無理矢理…無理やり私の中に入ってきたんです! 決して、私の意思じゃありません。信じてください!」

「…そうか、無理やりか」


「そうです。ひどく無理やり私の体を…」

 女は頭を下げ嗚咽混じりに身の潔白を訴える。

「それは、ものすごく大変なことだ」入江は女の髪と腹を撫でると立ち上がり部室のロッカーを漁りーー。

「あ、あの入江様何を…」

ロッカーから取り出した折りたたみナイフを女の前に置きニッコリ笑う。


「今、キミのお腹の中にはキミの意志に反して、勝手に知らない餓鬼が住みつきスクスクとキミの栄養源を貪り食っている。これは大変な自体だ」

「…え、?」

「いくら何でもお辞めください入江様!」

「奏。次僕に意見を言ったらお前を側に置けなくなる」

入江が背中越しに告げると奏が水を浴びたように動きが止まる。


「正直言ってキミが僕にお腹を見せてくれた時、嬉しかった。でも、気恥ずかしさもあり、奏にお腹を見てもらった…結果はどうだ。僕の子供でなく他人の餓鬼を孕んでいた。僕はとてもとても悲しかったよ…」

「入江様…」

入江の悲痛な表情に心動かされたのか女は入江を見て、声を振るわす。


「今、キミのお腹の中にいる餓鬼についてキミはどう思う? 僕との子供ではない知らぬ餓鬼についてどう思う?」

 入江に目を見つめられ問われた女が自身のお腹を見つめ優しくさすり目線をあげるーー。

 女は救いを求めるように入江の瞳を探したが、入江の目線は女から外れ奏を見つめていた。


「こいつさえ、こいつさえ…」

 優しく撫でていた腹に女は突然鋭くクッと爪を立てた。

「に、にくーー」

「え?」

「憎いです! 殺してやりたいぐらいに憎いです!」

「そうかそうか…でも、僕との子ではないが、キミとの子では間違いなくある。それでも、キミはその子のことが憎いかい? キミはその子の母親だぞ? お母さんだ」


 入江は女の腹をスーと何回か上下に軽く引っ掻きーー

 腹を引っ掻きながら目線は常に女ではなく奏を熱く見つめていた。

「憎いです! とても! とても! とても!」

 女が殺意のこもった目で腹と奏を見つめたのを確認した入江は嬉しそうに女の頭を撫でた。

「入江様…」


「よし、それじゃあキミの腹の中でスクスクと憎々しく育つその餓鬼を僕達の手で一緒に退治しようじゃないか」

 入江は置いていたナイフを開き、女に握らせる。ーー状況を理解した女の呼吸が荒くなり、瞳は不安そうに揺れていた。

「怖いか?」

「は、はい…」

「大丈夫だ。無事に退治できたら、今度は僕の子をお願いする」


「…はい。私楽しみにしています、入江様」

 入江は女を抱きしめながら奏を近くに呼ぶ。

「この子に軽いキツケをしてやれ」

 何か言いたげな奏だったが、取り出した安全ピンで自分の手を刺し、滲み出る血を女にかざした。

「入江様、私、ヤレます」

 目の焦点が定まっていない女はナイフを逆手に取ると、躊躇いなく自分の腹目掛け突き立てた。


 ◼️


 屠殺場のように凄惨な現場は奏の修復により一掃され、部室からはピンク色の女も、女の腹から出したモノも綺麗さっぱり消えて無くなくなっていた。

 入江が体から吹き出る汗をタオルで拭き奏からもらったお茶を一口含み、深い椅子に座る。

 目を瞑り頭の中で先程の腹を割いた女と雅姫香を粘土のように何度も重ね合わせるーー。


 こねて混ぜて、形造り、こねて混ぜて、形造り…。

 段々と頭の中で笑顔で腹を割く女の顔が、雅姫香に入れ変わった。

「もっとだ、もっと…」

 血塗られ泣き叫ぶ雅姫香を想像した入江が右手をゆっくり下半身へと下げーー。

「入江様。僭越ながら私が…」

 入江の右手を両手で優しく包んだ奏が膝をつき入江の腰に手を掛けるーー。

「悪い、お楽しみ中だったかな?」


 入江が慌てず目線だけを部室の出入り口に向けると、ジャージ姿の上米良魔技と目が合った。

「鍵は閉めていたはずですが? 何故部外者のアナタが入れるんですか?」

 上米良の登場に慌てて立ち上がろうとした奏の頭を入江は上から強く押さえつけた。

「ごめんね、全部ぶっ壊しちゃった。こうでもしないと、キミになかなか会えないしさ」


「嬉しいこと言ってくれますね。ですが、同じ手口を何度もやられては困るので、いくら魔技さんでも、今回壊した鍵や扉に付いては修復ではなく、ちゃんとお金で弁償して頂きますよ」

「オッケー、オッケー、上乗せして後で必ず払うよーー」上米良は入江に近付き続ける。「所で勝手に邪魔しといてなんだけど、そろそろ、目障りだから、その貧相なモノしまってくれる」

 上米良が入江と奏を見下しながら言った。


「いやだな、魔技さん。何をムキになっているんですか? ただの学生同士で行うスキンシップですよ。よかったら魔技さんもーー」

上米良が入江の視界から一瞬消えたかと思うと、次の瞬間には入江の視界直前に上米良の拳が停止していた。

「3度目はねぇぞ、入江」

 上米良の目に射抜かれた入江の思考は一瞬破壊される。


「貴様、汚い手を入江様から退けろ!」

「…大丈夫だ。僕が悪い。奏、魔技さんから離れろ」

 肝が冷えた入江はズボンをゆっくりと履き、気持ちを整えると、自然な笑顔を作り入江は上米良に向き直る。

「それで、要件は何でしょうか? わざわざ魔技さんが、来るぐらいだ。まさか、告白なんてしょうもない案件でもないんでしょ?」


 上米良がジャージのポケットから紙飛行機を取り出すと、入江に投げ付けた。

 訝しみながらも入江は紙飛行機を受け取り、折れ目を開くーー。

『学園のアイドルが激白!! デスマッチ部入部へのキッカケは元、キックボクシング部、部長との因縁が深く関係!?』


 タイトルを読みしばらく中身に目を通した入江は笑い声を上げると、紙をぐちゃぐちゃにして捨てた。

「くだらないことを書くしょうもない奴がいる。僕が学園の女性生徒に金を貢がせ、邪魔になったら異世界送りにして消し去っている。バカだなぁこの記事を書いた奴は勘違いをしている。僕は異世界見届け委員だ。悩める生徒を異世界に送って何が悪い」


「では、その新聞記事の正式版を学園内に晒しても問題ないよな?」

「魔技さん。アナタに冗談は似合わない」

入江が和かな笑顔で上米良を見つめた。

「その新聞記事は正式に完成後、学園内に号外としてばら撒く。ーーだが、入江。それを私が止めてやってもいい。ただし条件を飲め」

「へー、一応聞いておこうかその条件を」

「デスマッチ部、部員、雅姫香とデスマッチをしてもらう」

 入江の目と口が広がり体温が上がる。


「いいのかい? 魔技さん。大事なあなたの部員だろ。僕は女子といえど加減ができない」

「大いに構わない。本人もキミとの試合を望んでいる。悪いが肩を貸してやってくれ」

「いいねぇ、いいよ。デスマッチをやってあげる。ただしこちらも条件を提示する」

「なんだ?」

「ノックダウン、修復士無しのどちらか、死ぬまでの完全決着ルールでやらせてもらう」

 入江は興奮気味に上米良に身を乗り出した。

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