表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/31

7(視点変更 入江咲也)

 リングL字、青コーナー付近、今にも飛び出さん勢いで忙しなく動き回っていた大柄の男が突然歯を剥き出しにして何かを喚き散らしたーー。

 だが、男の怒り声は遥か上空を飛行機が通過したことにより、周囲の音と共に揉み消される。


 群衆に歓声を浴びながら赤コーナー付近から、ロープをくぐり、リング内に入場したキックボクシング部、部長、入江咲也(いりえ さくや)は男などに目もくれず、空を仰ぎ見る。


 上空には一面澄み切った青空が広がっていた。「心地いいな。このまま寝れそうだ」入江が1人呟き欠伸を一つ。ロープに背中からもたれ、右手でマッシュの髪を掻き上げると、リング周囲や学園、窓際付近より黄色い歓声が上がる。


 入江が目線を下げ、学園に目を向けると、女子生徒複数名が体全体を使いーー。

「「「「「咲也さま〜!!!!」」」」」


 と、見事なまでのファンぶりをアピールした。

 入江がその集団に向けて、営業スマイルを向けて、手を振るとより一層、声の厚さや高さがまし、中には服を脱ぎ、脱いだ服で自分をアピールする観客までいた。


「おい! お前! 試合前に舐めてんだろ!」

 大柄の男がサバイバルナイフを手に入江に詰め寄ろうとするが、その間に入り男を止めるデスマッチ部、部長、上米良魔技だった。

「魔技さん。久しぶりですね、リング上でお会いするのは」


 入江が上米良に得意の目線を送るが、上米良には響かず彼女は顔を固く、軽く手を上げるだけであった。


 ーーまぁその内、その綺麗な面と体をぐちゃぐちゃに汚してあげますよ。


 入江は品のいい笑みを上米良に浮かべる。

「リング内、リング外問わず、武器使用なんでもありのデスマッチだ。試合時修復士による修復ルールはなく、両者ノックダウン、又はどちらか死ぬまでの時間無制限で行ってもらう。両者異論はないな」

上米良の言葉に入江は頷くが、大柄の男は目をキメると「ノックダウンなんて生ぬるいルールはなしだ」と入江に顔を詰めた。


「どうする? 入江? 判断はお前に任せる」

「別にそれで構わない。でも、試合中、醜い醜態を晒しても、僕は殴る手を止めないけどいいかな?」

「お前、ふざけてるのか? それとも、負けるのが怖くて保身に走って戯言ぬかしているのか!?」

「さっきから騒がしいな。一応心配して言ってあげてるんだよ。ルール変更なんてしたら、キミは必ず死んで異世界に飛んでしまうわけだからさ」


「おもしれぇ、やってみろよ!!」

大柄の男がサバイバルナイフをリングに捨てて拳を構えた。

「魔技さん、始めてよ。死ぬ間際、あのサンドバッグに、音を出す以外の価値は生まれてきてから一度もなかったと異世界に行く前に、早く教えてあげたい」

上米良が両者に手で合図を送り、試合が始まった。


開始早々に男が右ストレートパンチを見舞うが、入江は軽いダッキングでそれをかわし、男の懐に飛び込むと、そのまま左フックで男のあごをーー。

 殴らず、瞬間固めた拳を開くと、男のアゴを軽く触った。


「頑張れ、一撃で終わってしまったら観ている観客から欠伸が出てしまう」

「ーーッアア!!」

 男が距離を取り、右足で横蹴りを放つが、入江に脚を引いただけで避けられーー。

 その突き出した脚を引っ張られながら、男は顔面に拳を喰らい無様に倒れる。


「キミはここに遊びに来たのか?」

入江が落ちていたサバイバルナイフを拾い、男の元に投げる。

「拾えよ。キミのような脳無しに、拳は似合わない」

「このやろ!!」

 男が入江の挑発を受けて、サバイバルナイフをめちゃくちゃな指揮者のように振り回す。


 ーーヒュン! ーーヒュン!


 男の予備動作を目で追いながら、全てかわしナイフをいなした入江は、男に近づくと、その足を容赦なく踏みつけた。

「ーーッツ!!」

 男が痛さに一瞬身を屈ませた瞬間、入江は飛び上がりーー。

 右膝で男のアゴを砕く!!


 大の字に倒れた男に向けて、ナイフを拾った入江は柄を掴むと男の真上に高く放り投げるーー。

 風を切り裂き、ぐるぐると弧を描きながらサバイバルナイフは男の腹にーー。


 ゾッ!!


「ガアアアアアアアアアア!!!」

 斜めにナイフが突き刺さり暴れのたうち回る男の首元を踏み付けた入江は身を屈め男の腹からナイフを引き抜く。

 男の中から血がドクドクと溢れ出た。

「キミが変な使い方するからナイフに嫌われたんじゃないのか? 次はしっかりと握り締め、怒りを込めて僕を突き刺してみろ、ほら」

 入江が震える男の手に柄を置くが、男は握らない。

「どうした? キミは僕に恨みがあるんだろ? さぁ、見せてくれよキミの本気を」


男の目から戦意が喪失し、気持ちよくなりかけていた入江を失望させる。

「すみません、すみません、許してください…」

 男が啜り泣き命乞いをする。


 ーーいつもそうだ。コイツらは肝心な時に自分を見失う。


「辞めてくれよ、被害者ぶるな。僕が悪いみたいじゃないか…キミはプライドを捨て豚になりたいのか? 立てよ、おい!」

 大柄の男は入江の言葉が聞こえないのか、体を丸め声を引くつかせ泣き言を吐く。

「入江、決着はついた。あとは私が処理しよう」

「いや、魔技さん。血が沸るのは分かるけど、勝手に僕の楽しみを取らないでほしい」

 入江は赤子のように丸々男の近くに座ると背中を撫でながら優しく問う。


「勇敢にも僕に挑んだキミに生きるチャンスをあげよう」

「は、はひ…」

「周りを見ろ」入江は男を起こすと、リング内を囲っている観客や、学園にいる人々を次々と指差しいく。

「この沢山の観客に向けて自分が異世界ではなく、日本で生きなければいけない意味を、理由を、思いを、全力でアピールしろ。キミに賛同した人間が1人でもいた場合、僕はキミを助ける。そして、今回のことも全て水に流そう。どうだい? やるかい?」

「…は、はい。やらせてください…」


 入江はセコンドに控えていたキックボクシング部のマネージャーを呼ぶと、その女からマイクをもらい男に手渡した。

 男は顔を歪ませながら身を起こすと試合経緯や自分の身の上話などを、マイク越しに時折、言葉を詰まらせながら喋る。5分経ち、10分経ち、15分経った頃、男は最後にリング上で土下座し「お願いします!! よろしくお願いします!! どうか! どうか! 俺を助けてください!」と自分の生を必死にアピールした。だがーー。


 静まり返った群衆は拍手一つせずに黙秘を貫く。


「そ、そんな! まだ、まだ! 俺は死ぬ訳にはいかないんです! 入江咲也に騙されたカノジョを! 彼女を!」

泣き叫ぶ男を踏みつけマイクを取り上げた入江はマイクを手で数回叩き口を開く。

「残念ながら、これが皆んなの総意であり、お前に対する答えだ。この先この学園や世界に留まっていても、未来は暗い。なら、明るい希望溢れる異世界に男らしく飛び立て」


マイクを投げた入江は血で汚れるサバイバルナイフを男に持たせた。

「そ、な…….う、あああああああああ!!」

 錯乱状態に陥った男はサバイバルナイフで自分の首元を刺そうとする。


 だがーー。


「待ちなさい!!!!」

男の自死を止めて群衆を掻き分け、顔を出したピンク髪の少女は「私の一票で助かるのよね? その人」と入江の目を見据えた。


 ▲


「嫌な夢を見た…」

 数年前の古い記憶から目が覚めた入江は体中の汗を流す為、ベッドから起き上がると、部室内にあるシャワー室に向かう。

 脱衣所で服を脱ぎ中に入ろうとすると、シャワー室から水の流れる音とスラリとした女のシルエットが見えた。

 入江は構わず扉を開けて中に入る。ーー「キャァ! 入江さま」水を止めた髪の長い女が体を手や足で隠し顔を赤らめ俯く。


「何故隠す? お前は僕に見られるのが嫌なのか?」

「そう言う訳ではありません。突然だったものでびっくりしただけです。ーーあのお背中流しましょうか? 入江様」

「頼む」

 入江が中に入り椅子に座ると、女が自分の肉体を使い入江を丹念に洗っていく。


(かなで)、雅姫香について、何か進展はあったか?」

「い、いえ、入江様。あの一件以来動きはありません」

 奏は謝罪を示すように入江の体に二つの山を当てて、泡をつけて擦る。

 入江はしゃがみ込む修復士の胸を掴み力を込めた。

「ーーッツ! もう少し優しくお触りください入江様…」


「雅姫香が生きているのに、お前は何故? こんな所で呑気に僕の体を洗っている」

入江は奏の右乳房を握り潰す勢いで強く握りしめる。

「ーーっ、も、申し訳ございません。入江様! ですが、雅姫香は現在デスマッチ部に所属しており、あの娘の背後には、上米良魔技がいます。雅を殺すなら作戦をしっかり立てないと、この前みたく、使えぬ3人のように未遂に終わってしまいます。そんなことになれば、私達だけでなく、入江様にまでご迷惑をおかけしてしまいます。ですから、焦らず、どうかーー」

 入江は奏の胸を離すと彼女の頬を優しく撫でた。


「悪い、寝起きで気が立っていた。痛かっただろう、奏」

「いえ、入江様に触っていただけるなら、私は喜んでこの身を差し上げます!」

「そうか、お前は本当に可愛い奴だな」


 入江は奏の頬を撫でながらだんだんと拳を握りーー

 容赦なく、その顔を殴った。

 入江に殴られ口から血を流しながら奏は笑顔で感謝の言葉を述べた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ