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6-6

「あの、楓ちゃんに治して頂かなくても平気なんですか?」

「大丈夫、大丈夫。こんなもん、日頃の練習中に受ける仕打ちに比べたら、蚊に刺された程度よ。ほら、もう、血だって塞がってきてるし。ーーそれより、幸はどの道具で私と上米良先輩を攻めるの?」

 雅に問われた幸が、もう一度道具を見るーー。

 包丁、フードプロセッサーは論外として、比較的まともそうな丸い筒に入った竹串を選び取る。

「えーと、この竹串でーー」


 雅と上米良に見つめられ、幸はどちらを選択すべきか迷ってしまう。


 ーーうー、雅さん。残された二つが危なすぎるよ。


 竹串を胸に抱えて顔を両者に向け忙しなく動かす。

「じゃ、ジャンケンで負けた方が技を受けるのはどうでしょうか?」

「「ジャンケンポン」」

ジャンケン時、雅が上米良に向かい、「先輩、不正するような気がするので、口でしましょう」といい口でジャンケンをしたが、結果は雅のパーで負けとなる。


「くっそ、グーだったかー」と悔しがる雅を見ながら、そこは喜ぶのもおかしいですが、悔しがるのはもっと間違ってますよと、心の突っ込みを入れる幸。

「じゃあ、幸、私にはどちらを使って攻める?」

 幸は再び窮地に立たされる。


 ーーいくら、上米良先輩と言っても、包丁とフードプロセッサーは流石にタダじゃ済まないですよねー。

 幸は雅の件もあいまり頭の中で凄惨な光景が浮かび上がる。包丁に伸ばした手を引っ込め、フードプロセッサーに伸ばした手を引っ込めてしまう。


 しばし、その迷っていた幸の頭の中で、ドゥンカーのロウソク問題のように閃きが突然おこる。

「先輩はフードプロセッサーでお願いします」

 幸はフードプロセッサーに手を伸ばす。


 ーーフードプロセッサーで、刃を回転させて肉を削らず、フードプロセッサー自体で頭を叩けばいい! それなら、包丁よりいくら当たりどころが悪くても怪我をする恐れがない。見たところ、外観はプラスチックだしうん。大丈夫。


「そうか、それなら姫香には悪いが先輩として私が先に受けよう」

 雅も異論はないみたいで、「どうぞどうぞ、でも、ワザを受けたら魂のリアクションくださいよ先輩」と言った。

「面白いじゃん。では、どちらがよりいいリアクションをしたか幸に判定してもらう。勿論、演技なんて生ぬるいことをするつもりはないから、全力で体を壊しに来てくれよ幸」

「…は、はい。がんばります」


 正直、この状況下から逃げ出したい、もしくは自分がまだ、受ける方をヤリたいと思ってしまった幸だが、フードプロセッサーという名の足枷を抱えしかたなく頷く。

「あの、上米良先輩。それで、攻め方は自由でいいですよね?」

「ああ、雅が引いたお題が『相手の体の好きな部位を痛め付ける』だったからな、好きに動くといい」

「今更ですけど、相手を痛め付けるって、なんか、ネタ切れ感すごくないですか先輩?」

 雅がミナホからもらっていたドーナツを食べながら聞く。


「いや、デスマッチにおいて、相手の部位を痛め付ける行為はかなり重要だ。痛め付けることにより、相手の動きを封じるだけでなく、相手の得意とする技も殺したり半減させたりすることができるんだからな。修復士が試合途中、体を治してくれるわけでないデスマッチルールにおいて、相手の得意なワザを見抜き、その体の箇所を重点的に叩けば、自ずとその後の試合運びがやりやすくなる」

「なるほど、ちなみに上米良先輩の一番の得意ワザはなんなんですか ?」

「言ってもいいが、聞いてしまったら、その技を受けてもらうぞ姫香」

「…聞くのはまたの機会にします」


「そうか、残念だ。まぁ、いつか姫香や幸にもを喰らわしてやるよ。それまでしっかりと頭を鍛えておきな。ーーさて、無駄話は辞めて幸、いつでも来な」

「はい。よろしくお願いします」

幸は一礼をしてフードプロセッサーを掴むと、上米良に向けて助走付けるーー幸よりも30cm以上の身長差があるその頭に向けて、直前で飛び上がりフードプロセッサーを思いっきりぶつけた。


 ガッん!


 とぶつけ、フードプロセッサーのカバーが粉々に割れたのを見て満足して立ち上がった幸だったが、上米良の目は猛禽類のように鋭く幸を見つめた。

「幸、お前が、今ぶつけた物は椅子か?」

「違います。調理器具です」

「聞くが、その調理器具の使い方はぶつけて使用するのか?」

「…違います。ちなみに椅子もぶつけて使う物じゃありません」

「御託はいい。その調理器具の使い方を聞いている」

「はい。その、フードプロセッサーは野菜や果物を細かくするのに使います。殴る為に使うことはありません」

「だったら、何故? 私の足や手を細かくするのに使用しない?」


まともではないことを平然と言ってのける上米良から目を逸らしながら、幸は答えを何とか絞り出し、口を開く。

「その…細かくするの時間かかるかなって…」

「ほう、時間ね」

「はい。上米良先輩は強靭な肉体じゃないですか。フードプロセッサー、しかも手動式のフードプロセッサーでは、刃が直ぐに欠けて細かくできないんじゃないかなぁーと。だったら、フードプロセッサーを直接ぶつけた方が、ダメージは小さいかもしれませんが、直ぐに次の技や動きに繋げられると思ったのでーー」

「よろしい、では幸のその言葉が嘘か真が確かめようじゃないか。ーー楓さん。お願い」


 上米良に呼ばれたミナホが上米良の指示で壊れていたフードプロセッサーを直す。

「さぁ、幸。思いっきり、ハンドルを引いてくれ」

 上米良がフードプロセッサーの中に手を迷わずに入れた。その光景を少しだけ身を引いて見ていた幸はあることに気付く。

「先輩。そのままだと、ハンドルを引けないです」

 幸の言ったように、そのフードプロセッサーは外側が丸いカバーで覆われ、その中に、軸の付いた4本のカッターが入っているのだが、そのカッターを回すには、上から蓋をキチンと被せなければならなかった。ちなみに、蓋にハンドルが付いており、ハンドルを回すことで、中のカッターが回る仕組みになっていた。


 中の鋭いカッターばかりに気を取られていたが、そもそもに手を中に入れた状態で回せないことに気付き、幸は安心する。しかしーー。

「そんなものは中のカバーを外せばいいだけだろ」

何故、そんなことを思い付くのかと言いたいぐらいに、上米良が中のカバーを外し、中から軸の付いた刃を取り外し、ハンドルが付いた蓋を逆さにして置くと、その上から刃をドッキングする。


 ジュン、ジュン!


 上米良が逆さになったハンドルを引くと、モロだし刃が勢いよく回り、音で周囲を威嚇し出す。

 上米良は刃の近くに右手指を置いて、幸にハンドルを引くようにと狂ったことを言った。

「はい。分かりました」

 意外にも幸がすんなりと返事をしたのには理由がある。

 そのフードプロセッサーが電動ではなく、手動式で、更に、上米良の指と刃までの距離が近く、どんなに強く引っ張っても、直ぐに刃が短い距離で当たる可能性を示しており、そして、何よりも彼女が上米良魔技であると考慮すると、驚く程に安心して引けることに気付いたからであった。

「えい!」

と幸がハンドルを引くと、やはり幸の想像通り刃が上米良の指に当たり、それに合わせて、ハンドルもガツ! と音を立てて引けなくなる。


「やっぱり、無理そうですね」

 幸が上米良に向けて安心しましたの笑顔を向けると、上米良は首を振り拳を作るとそれを刃ごと叩き割った。

 破片が飛び、驚いた幸に目もくれず上米良がミナホを呼び、フードプロセッサーの修復を頼んだ。

「楓さん、その調理器具。強化もお願いね」

「上米良魔技が受けるならむしろ喜んでどんどん強化する」

「なんか、楓さん。私に対して最近特に意地悪じゃない?」

「気のせい。上米良魔技に対しては元々こんなモン」

「いや、こんなモンて…」


 空気が一瞬ピリつくがその空気感を即座に変えたのは学園のアイドルだった。

「ハイハイ、2人とも楽しい部活の最中に変な空気を作らない。部員同士で仲良くする。今のは楓ちゃんの一言が悪い。ほら、誤って」

「う、ごめんなさい」

 雅に諭されたミナホが素直に頭を下げる。

「よしよし。ほら上米良先輩も、楓ちゃんに謝りなさい」

「な、」無駄な言い訳をさせまいと、雅と幸が上米良をジーと見つめる。


「悪かった、すまん。私自体無神経で気が付かず、楓さんを傷付けてしまっていたかもしれない。ごめん」

上米良が頭を下げると、ミナホが「もう、絶対に日比谷幸と雅姫香を異世界に送るような危険な真似はしないで。次、そんな真似をしたら私はお前を今度こそ許さない」と強く言葉を飛ばした。

「…分かった。約束する」

上米良が手を差し出し、ミナホも手を出してどちらかともなく中指を突き立て笑い合った。


「雅さん。異世界って何の話なんですかね?」

「さぁ。でも、あの2人のぎくしゃく加減が少しはマシになったなら、そんなことは些細なことじゃない?」

「そうですよね。でも、私達って何か忘れているというか、何となく記憶が抜けているような気がするんですが…」

「……確かに言われてみれば数時間前まで、自分が何をしていたのか、ハッキリと思い出せない気がするわ…まぁ、でも、記憶に留まらないってことは大したことはしてないわよ、きっと」

「そうですよね」


 仲直りの印にかミナホが上米良にドーナツを渡す。上米良がそれを受け取り、ドーナツを一口食べた。

 幸は上米良を見て、先輩でも女の子のように可愛く笑う時があるんだと、明るく穏やかに笑う少女を見つめた。

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