6-3
試合中初めて上米良の感情が起伏が発露しーー。
反応が遅れた雅が顔に両腕をシールドのように当て腰を落とし衝撃に備えるーー。
上米良の直角に伸びたラリアット(腕打撃)が雅の厚いシールドにぶつかりーー。
ガッツツツツツ!!!!
岩同士が砕け散る音が響き、雅が吹っ飛ぶ!
吹っ飛んだ先、幸がおりーー。
雅、幸もろとも部室後方壁にぶち当たる!!
地響きが鳴り外壁から白い噴煙が舞った。
「悪い、楓さん2人の修復頼む」
上米良が右腕を振り鬱陶しそうに顔から流れる血を払った。
「分かってる!!」
ミナホが上米良に向かい唾を吐き2人の元へ掛けるが、その脚を止める。
「上米良魔技ーーしょうがないから、お前も治すよ。でも、沢山金は払えよ」
上米良の元に駆け寄りドーナツを並べ始めたミナホを上米良は止める。
「私はいいよ、まだ擦り傷程度だからさ」
「格好つけるは勝手だが、そんなことやってると、お前いつか死ぬぞ」
躊躇いもなくドーナツを素早く紙袋に詰めたミナホは、上米良に背を向けた。
「悪い、楓さん。動いて小腹空いたらドーナツ一つ恵んでよ」
「ふん」
ミナホは紙袋を漁りドーナツではなく、マシュマロを掴むと上米良に背中越しにポイと投げた。
「お前にはそれで十分」
ミナホの背中を見ながら、礼を口にした上米良は下に落ちたマシュマロを口に入れた。
復活した幸と雅は三度、上米良に挑むが、雅の一撃以来ダメージを大幅に与えることなく、その後、何十回も床に沈むーー。
その都度、ミナホが上米良に文句を言って2人を治していのだがーー。
「上米良魔技! やばい! 緊急事態! ドーナツがもう、ない! これ以上は危険! 直ぐに治せない。一旦中止だ! 中止!!」
紙袋ひっくり返して、慌てていたミナホが被っていた魔法帽子を脱ぎ、上米良に全力でアピールするが上米良の耳と目と視界に入っていないのか、倒れ伏す2人へ指と首を鳴らし近づく。
「上米良魔技! 聴こえないのか! 止まれって言ったんだよ!!」
上米良の前に立ち塞がったミナホは、殺気だった目で上米良を見るが、上米良の歩みは止まらない。
「お前! また、入った部員を殺すのか!!」
ミナホが腹の底から声を出す、しかしーー。
「悪い、楓さん。楽しくなっちまって、体がもっともっと刺激を欲してるんだ」
上米良はミナホを軽く押し退ける。
押されたミナホが床に倒れた。
「オマエエエェェ!!!!」
ミナホが椅子を両手で掴み、重みで体を取られながら上米良の体に当てる。
「雅姫香と日比谷幸を殺してみろ!! お前、二度と修復も強化もしてやらないからな!!」
「別にそれで構わない。今ある楽しみを捨てるぐらいなら、そんなモノはいらないなーー」
上米良の足にミナホは飛び付くが上米良は止まらずーー血の海に倒れ伏す2人の前まで来て立ち止まり、それを見据える。
「立て」
重なり合うように倒れていた幸の指が僅かに動く。
「立て」
雅の口から血が吐き出され鈍い呻き声が上がる。
「立てェエエエエエエエエエエエ!!!!」
「やめろ! やめろ! 上米良魔技!」
血に汚れた2人に覆い被さるように、ミナホは首を左右に振る。彼女の顔は涙に濡れていた。
「もう、やめーーーー!!」
上米良がミナホの頬を張りーー2人から体を退かす。
上米良は腰を下ろすと幸の髪を掴み顔を持ち上げる。
「おい、どうした? このまま、死にたいのかお前?」
薄めに開いた隙間から上米良をとらえた幸は、血に染まる顔で痛々しくも、ふっと笑った。
「か、ん、めら…私はまだくたばってないわよ……」
うつ伏せで血を吐き出し、上米良の足に爪を立てた雅はその言葉を残して、動かなくなる。
「2人とも派手に飛ばしてやるよ異世界に」
幸の掴んでいた髪を離すと、机を割れた窓から外に放り投げた。
次に上米良が2人の体に手を掛けようとしたが、ミナホが手を広げてゆく手を阻む。
ミナホなど見えていないかのように横を通り過ぎようとした、上米良はミナホが自分の口に手を突っ込み入れた光景を目にして、眉を寄せ止まる。
ミナホは勢いよく自分の口に手を突っ込み入れ苦しそうに顔を歪ませた。
それから手をピストンさせながら倒れ伏す2人の近くに素早く掛けるとーー。
「オロロロロロロロロロロ!!!!」
と2人に生温かそうなドロドロしたゲロを吐きかけーー。
袖で口元をグッと拭き2人に手をかざすーー。
瞬間、ゲロを浴びた2人の体が輝きーー。
幸、雅共に体の傷が嘘のように治る。
「許せ、雅姫香、日比谷幸! 緊急事態だったから、口からゲロゲロした」
グミ、マシュマロなどの、固形物や青や黄緑色の謎の液体が混ざったゲロで立ち上がった2人の頬は何故か少し赤いピンクに色に染まっていた。
「あ、間違えて、余計なことした」
ミナホが慌て向かってくる上米良に無茶に手を振り回すがーー上米良に簡単に掴まれる。
「上米良魔技、離せ! せめて抜けるまで休憩させろ!」
「ごめん、楓さん。このまま行く」
「絶対ダメ、こんな状態で試合したら直ぐに死ぬ!」
「うん。だから、もう試合は辞めだ」
「……いいのか?」
「拍子抜けだ。それに、正常じゃない状態で、試合してもつまらない」
上米良の体から殺気が不意に消えたように見えた。
⬜︎
「あれ、あれ? さっきまで何をしていたんでしたっけ? け?、?、ケ? けー?」
幸は前方を見ると、視界がグンニャリして平衡感覚がバグり尻餅を付く。
「れー、れー、」
前方に真剣を持った上米良に幸は叩き斬りつけられた。
「あー、れー、ですね、きれてないですね、きれさしたら、大変ですもんねー」
幸が刀と勘違いしていたのは竹刀で、幸は上米良から竹刀で叩かれたのだが、アハハハハハはと楽しそうに笑っているだけであった。
「そレェー、チー」(おい、聞こえるか?幸)
上米良が頭を掻いてもう一度、竹刀で幸をぶっ叩く。
幸は吹っ飛びながらぶあはははははははと大笑いした。
「やっぱり、面倒くさいなこれ…楓さん。これ、もうちょい待たないと駄目か?」
「雅姫香、日比谷幸の知能は今、人に飼い慣らされて野生を忘れたワンコロ以下だ。今日の部活はできん。諦めろ」
「まぁ、もう少し抜けるまで気長に待つよ」
上米良が椅子に座り竹刀を机に置き腕を組む。
「しあわせわー! あるいて! あるいて!歩いて! しあわせわー! あるいて! あるいて! あるいて! こない、こない、こない、だーから!だーからー! だーから! だーから!!!!!!!!!」
学園のアイドルである雅姫香が、軍隊ばりに腕と足を大きく振りながら、酔っ払いがカラオケに来たかのように、力を込め大声で三百六十五歩のマーチを歌う。
「腕をふって、ワンチュー! ワンチュー!ツッツ!! 足をあげて、ワンツー!!ワンチュー!!」
「うるさーい!!!! かんわーきゅうだい! ぎゃーく! いみで、しょいが! ごようでしょうが!! かーべい、ドン! メメかべ、たたく、いみ、で! しょーが!! ちがー、いらんでーしょーが!! ゴーよーだ! ゴーよーだ!」
幸が部室の窓ガラスに向かい文句を言っていたかと思うと、いきなり頭を軽くぶつけ出す。
ガラスに頭を何度もぶつけて行きーーバリッ!! とガラスがひび割れた。
「上米良魔技。ドーナツ買ってくるから、お前、2人が死なないようにちゃんと見張っておけよ!」
「了解、安心しなよ。死なせないし、今の状態で部室外に出さないからさ」
不安な顔をするミナホに手を振り上米良は見送る。
そこから、数十分経過…。
大量のドーナツ袋を抱えたミナホがデスマッチ部に合流。
幸、雅、共にまともに意思疎通できるまでに回復ーー。
だが、まだ完全に2人が完治したわけではなかった…。




