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6(視点変更 日比谷幸)

「正直言ってあまり使いたくはなかったが、いつまで経っても、頭の一つも壊せぬ後輩達に愛と勇気与えよう」

 上米良魔技が怪しげに口角を上げた。


 時は田中マオが部活動巡りをしていた最中のデスマッチ部での話に遡る。


 金属バットで雅姫香、日比谷幸がお互いの頭をスイングすんのかい! せいへんのかい! と不毛なやり取りをする最中、それを見ていたミナホ楓が、私も私も人の頭を殴りたい! とよくない不健全な発言を言い参戦。しかし、参戦したはいいが、お可哀想なことにミナホには筋肉というものが圧倒的に不足していた。バットの重さに彼女はふらつきながらヨイショ!!と鏡開きのように、雅の頭に振り下ろす。


 バットが雅の丸い頭にガッ!! と当たり、衝撃で中から酒のように透明な脳髄液が溢れ出た……訳でなく雅が頭を抱えうずるまるぐらいの痣とたん瘤ができあがった。涙目の雅がもう一度追加でバットを振ろうとしていたミナホを止める。しかし、ミナホは今度こそお任せください、とまたフラフラとバットを構えてしまった。これには、雅も慌て代わりに幸と受ける役を交代。それを受けどんとこいと胸を張った幸の頭に金属バットが振り下ろされたのだが、その軌道はスライダーボールのように、大きくズレ幸の頭ではなく、顔面に当たりーー、幸の白い前歯が砕けた。謝るミナホに涙目で大丈夫です…と痛々しく口元を抑える幸をミナホは早急に修復し申し訳なさも込めて、おまけに強化する。一旦休憩しましょうかと雅が、タイムストップを掛けて、そこからズルズルと時間ばかり過ぎた頃、出掛けていた上米良が戻り冒頭の言葉が飛び出した。


 続けて上米良は言った。

「楓さん。勇気のない後輩達にキツケお願いできるかな? もちろん、必要であればお金は払うからさ」

「あの、何ですかキツケって?」

 幸が首を傾げる。

「キツケって確か異世界に旅立つ自殺者に向けての恐怖心を無くして勇気を持たせる魔法じゃなかった?」キツケの存在を知っているのか、雅が口を開く。


「そう。雅姫香の言う通り、異世界に行きたくても、死ぬ勇気がなく行けない者に勇気を与える魔法、この魔法を多幸感のドラッグと呼ぶ者もいる」

「それを私達に使用するって…」

「正気とは言えないわね」

雅が呆れたように首を振るが、上米良が取り合わず「別に使わなくてもいいよ。その代わり今から3分間の間に君達どちらかの頭が割れなければ、2人には問答無用で死んで異世界に行ってもらう」

 上米良は言い終わると、部室の出入り口の鍵をガチャリと閉めた。


「何よそれ! ふざけんじゃないわよ! 勝手すぎるわ!」

「勝手で結構。3分の間に覚悟を決めて相方の頭を壊すもよし。それともキツケを浴びるのもよし。はたまた、私を殺して2人で生還するもよし。逃げるなんてつまらない選択以外私は大歓迎だ」

 上米良は後方の椅子に座ると机に脚を乗せて笑った。


 瞬間、部室の雰囲気がガラリと変わり、幸は自分の呼吸音をうるさいぐらいに耳に拾う。練習中、時折、見せていた上米良の死の瞳に体を吸い込まれそうになるが、雅に肩を触られ我に戻る。


「幸、私達って今まで散々あのムカつく先輩に理不尽にしごかれたわよね」

「は、はい。そうですね。たっぷりと」

「私の信条としてやられっぱなしは癪なのよねー」

 雅が心拍数の高い呼吸を吐き出しながら、言葉を紡ぐ。ーー彼女の手から小さな振動を感じた幸は彼女の手に自分の手を重ね口を開いた。


「実は、私も少しだけ上米良先輩にはお返しをしたいと思っていました」

「なんだ、幸。私達気が合うじゃない」

「ええ、気が合いますね」

 幸と雅の瞳が重なる。

 雅が右手で金属バットを掴み左拳を幸に出しーー。

 幸が左手で椅子を掴むと右拳を雅に出しーー。

 拳が重なり、2人は前方の上米良を見据える。


「面白い展開になったな…」

 上米良が立ち上がり、自身の前に広がる机や椅子を後方に放り投げていく。

 椅子や机が次々と宙を舞、着地時、不恰好な騒音を鳴らす。


「上米良魔技、不要な喧嘩ダメ、仲良くしろ!」

 ミナホが耳を塞ぎながら上米良に抗議した。

「違うよ、楓さん。喧嘩じゃなくて試合だよ」

 ミナホがビックリして上米良の体をバシバシし叩くと言った。「尚更、ダメ! 絶対にダメ!」

「悪いけどこんな面白そうな試合、今更辞めますなんて私から口が裂けても言えない」

「雅姫香! 日比谷幸! ストップ! 止まれ! ブーブー!!」


 ミナホが腕をクロスしてアピールするが、動き始めた2人の進行は止まらない。

 上米良がぴょんぴょん跳ねていたミナホの頭を帽子の上から押さえ、「楓さん。悪いけど若輩2人の修復を死ぬ気で頼む」と言い転がっていた椅子を蹴っ飛ばし体を跳躍ーー。


 飛び上がった上米良は、2人の間に着地し口を開いた。

「ルール無用だ全力で殺しに来な」

 上米良の一言で試合のゴングが急に鳴らされた!!

「ァァアアアアアアアアアアアア!!!!」

 雅がバットを振るーー。


 スイングは弧を描きながら上米良の頭にぶち当たり、命中ーー。

 上米良から重低音が響き、頭部を揺らすーー。

 打撲創程度ではすまない一撃にも関わらず、上米良の顔は少し腫れた程度だった。

「先輩ッッッッッッ!!!!」


ついで幸が椅子を両手で掴み、コマのように体を回すと追加で上米良の顔にーー。

 ガッッッッッ!!!!


 椅子が上米良に当たりーー背もたれ部が砕けーー、木片が散る!!

 上米良の体が一瞬傾くが、顔色一つ変えず、上米良が、幸の腕を捉えーー。

 アームホイップ(腕投げ)で背中から床に叩きつけた。

「ッッッッッッッッ!!!」


 叩きつけられた衝撃で幸は息が詰まるーー。

 見開いた瞳に空を舞う上米良が映りーー。

 巨大な鉄球が落ちたかのような衝撃に目を見開いた幸は、先程まで、横たわっていた箇所に大きなヒビが蜘蛛の巣状に広がっているのを目にして肝が冷える。


「大丈夫、幸?」

どうやら雅に寸前で助けられようで、礼を言いながら彼女の手を取りーー。

 雅、幸は上米良から大きく距離を取る。

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