第46話「蛮族」
パッカァァァァァァアン!!
『失敗作隠滅!』ッッと、なにやら大技が発動し、数匹まとめて吹っ飛ばした所で、シャリナが絶叫。
だって───……。
「ま、まままま、まだまだ、いるぞぉぉぉおおお!!」
「鶏なのに、子だくさん過ぎでしょぉぉぉおおおお!!」
ピヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨ!!
ゆうに100匹はいるだろうか?
……おそらく、蛇の特性もあるがゆえに多産なのかもしれない。
少なくとも、通常の鶏のそれではないのは確か。
「だーーーーーもーーーーーーー! お前もなんかせいっちゅうえん!!」
すぱこんっ! と、空いた手で欠かさぬツッコミに、ゲイルが口を尖らせる。
「む、無茶言うなよ、俺は呪具師だし、一撃で倒せるモンスターにデバフもなにも───」
「死神殺しといて、なにが呪具師やアッホォ! なんかあるやろ!! なんかぁぁぁ!!……ぜぃぜぃ」
何かって言われても───……。
「殺してないよ、解呪だって、【解呪】! って、シャリナ大丈夫? 汗凄いよ?!」
「これが大丈夫に見えるか!! めっちゃキツイちゅうねん!!……おぇぇぇええ!!」
ムワァ……! と汗が香るほど大量の発汗。
さすがのシャリナも、息が上がっているのが目に見えてわかるほど。
「く! ゲイル! 私も───限界……!」
モーラはモーラで、常時魔力を注ぎ続けているので、さすがに枯渇寸前といった様子。
……っていうか、今めっちゃヤバい??
「「ヤバいちゅうねん!」」
「移ってるよ、モーラ」
「うっさいわ!! ええから、なんかしなさいよ───! なんかぁぁ!!」
なんか、なんかって……。
「ん~っと……。使い捨て呪具に、呪符。範囲型、単体型、地雷型色々あるけど───」
「あるならさっさと使いなさいよ!! あーもう!! アレよアレ! ほらぁ! あの時使った……! オークをビビらせてた奴とかアレとかぁ!!」
農業都市に向かう途中でみた、あの規格外の使い捨て呪具を思い出すモーラ。
あれなら広範囲を制圧できるし、この密閉空間ならまさにうってつけだ。
「アレアレって……。無理無理!! とっくに品切れだし、第一、オークとかならともかく、『コカトリスの雛』みたいな自我の弱い魔物には呪具のデバフって効きにくいんだよ!」
呪具だって万能じゃない。
たとえば、【狂気】の呪いをベビーコカトリスに掛けたとしても、効果が薄いだろうというのは素人目にもわかるだろう。
【恐怖】や【認識阻害】のような精神を攻撃するタイプの呪いはある程度知能があるモンスターにしか効き目がない。
だからこそ、ハズレジョブなんて馬鹿にされるし、一般には出回らないのだ。
「あとは、インテリアとして売る呪具がいくつか───」
ゴソゴソ。
『呪いの鉢巻き』『闇のマスク』『慟哭の角飾り』に───……。
露店中に連行されたので、いくつかが道具袋に入ったままだ。
どれもこれもイカしたデザインで、実用品というより、インテリア用……。
「効果は【防御力3倍】とか【敏捷2倍】とか、それに【疲労耐性】【毒無効化】とか、たいしたことないのばっか───」
「「……それぇぇぇええ!」」
それだよ、それぇぇぇえ!
そーゆーのぉぉぉっぉおおお!!
「あるならさっさと出しなさいよ!!」
「なん、なんあな、なぁーーー……アホかお前はぁぁぁああ! 疲労耐性とか、今、まさにそれ必要やろ!!」
え、ええー??
「だって、これインテリア用だし───それに、戦闘に使うものじゃー」
「エエから貸せ!! さっさと装備させい!!」
ゲイルのカバンから覗く、何かの皮膚片を繋ぎ合わせたちょっとアレな鉢巻きをグワシと掴むシャリナ。
布色は白地なんだけど、ど真ん中に赤い丸のデザイン付き、しかも、微妙に凸凹しているし、毛穴の跡まで見える……きもっ!!
「わかったよ! だけど、戦闘用じゃないんだから後から文句言うなよ!」
「防御力上昇とか言うてたやろ!! それは今ここで使わんでどこで使うねん!!」
「インテリア」
ごんっ!!
「いっだぁぁあ!」
「こんなん、家に飾るアホがどこにおるっちゅうねん!!」
「殴ることないだろ……。防御力3倍なんてよくあるじゃん──」
「ないわ、あほ!! お前、アホ!! アホかお前!!」
防御力3倍だから、アホさも3倍か!!
「わかったわかったよー。もー……。ほら、まずは『呪いの鉢巻き』───【防御力3倍】&【疲労耐性】だ」
ギュギュ!! とシャリナの頭に巻いていくゲイル。
「お、お、おぉぉお?! なんや、マジで疲労が消えたで?!」
「だろ? まぁ、それだけの効果だよ。でこれが、『闇のマスク』───【暗視】と【毒無効化】って感じでぇ」
カポッ! と、背後からシャリナの顔にマスクを被せると、
「ぬぉぉおお!! マジで暗闇が見通せるでぇえ! うわっ! 奥にまだまだ居る!!」
───闇のマスク。
処刑人が被ってそうな鳥頭のマスクだ。
そして、その効果により、シャリナの目にはいましがた逃げてきた方向からぎっしりとベビーコカトリスが向かってくるのが見えた。その数、50匹!!
「おおげさだなー。それよりデザインがイカスだろ?」
「いやいや、ないない」
モーラの目にもあれな人にしか見えないシャリナの格好……。
鉢巻きに鳥のマスクて……。
「うぉぉぉおお! めっちゃ来よるでぇぇぇ!! せやけど、なんかテンション上がってきたぁっぁあああああ!!」
「へへ」
「いや、褒められてないわよ」
「ふん! モーラにはこのセンスがわからないんだよ!……で、最後にこれ。『慟哭の角飾り』───効果は、【敏捷2倍】ア~ンド【腕力5倍】で~す♪」
ガポンッ! とシャリナの小さな頭に巨大な角飾り付きをのっけると───フルアーマーシャリナの完成でーす。
「───で、なんでちょっと楽しそうになってるのよ!!…………って、腕力5倍ぃぃぃぃいいいいい?!」
「ふふ! かっこいいだろ」
「そこじゃないから!」
なんなん!?
腕力5倍?!
え? 5倍?!
そんなん、ありえんの?!
「た、た、た、滾ってきたぁぁぁぁあああああああ!!」
ブォォオオオオン!!
シャリナの一閃ッッッ──────パゴォォォオオオオン!!
突っ込んできたベビーコカトリスを10匹ほどまとめてミンチに!!
そして、ビリビリビリ……と、鉱山が揺れる揺れる!!
「あー。……ありえるわ」
モーラのバフがかかっていない状態で、この威力……。
しかも疲れ切っていたはずのシャリナがテンションマックス状態で、振りぬき、さらに踏み込む!!
「うぉぉぉおおおお!! なんやこれぇっぇえええ! すごいでぇぇぇえ! ウチは無敵やぁぁああ!!」
バゴンッ! ボゴォォオン!!
くっそ重いハンマーを片手で振りぬき、遠心力を使って一回転!
さらに、回った先で持ち手を変えてさらに反転!!
「───新しいスキルが生まれたでぇぇぇええ!! 『無限折返し鍛錬』!!」
回転、半転、回転、反転!!
「あーっはははははははははははははっは! にゃははははははははは」
まさにホニャララに刃物状態のシャリナが、ベビーコカトリスを薙ぎ払っていく!!
しかも、言葉通り無限の攻撃だ!!
「……なんか、やばい成分でも入ってるの?!」
「いや? 多分、呪具の複合効果かな。カッコいいものにカッコイイものを被せると、超カッコいいみたいな───」
「……アンタ、病院いったほうがいいわよ? それか、眼鏡でも使った方がいいんじゃ」
「どーいう意味だよ」ぶっすー
すでに観戦状態のゲイルとモーラ。
ちなみに、複合効果とは、呪いの相乗効果ともいうべきもので、『慟哭の角飾り』と『闇のマスク』のような、相性の良い呪具を装備した場合に、より強い効果を生み出す現象である。
この場合は、その二つの呪具の効果で、呪いの鉢巻きの【疲労軽減】がアッチほうに作用しているらしい。
おかげでシャリナの疲労は軽減を通り越して、
「───……ヘブン状態になっているのかな。走りすぎて逆に気持ちいいーみたいな?」
「しらないわよ!! っていうか、それ大丈夫なの?!」
大丈夫大丈夫。
「戻ってこれるって───」
「戻…………こわ!! どこから戻ってくるのよ?! 呪具、こわっ!! こわっぁあ!」
「ふふん」
「だから、褒めてないって……!」
山猫のように暴れまわるシャリナによって、駆逐されていくベビーコカトリスの群れ!
そして、ついに最後の一匹が──────……。
「トドメじゃぁぁぁあああああああ!!」
『ピヨォォォォォォォオオ?!』
ボォォオォオオン!! と、クレーターを作らんばかりの一撃によって粉砕。
ブチュっと潰れて地面に染みになる。
「うぉぉぉおおおおおおおお!! 勝った! 勝ったでぇっぇええ!」
ロイハー!
ロイハー!!
ドワーフ流、勝利の雄たけびを上げるシャリナ。
皮の鉢巻に鳥マスク&歪な角飾り───……。
「カッコいいぞ! シャリナぁ!」「どこの蛮族よ!!」
「がはははははははははははははははははははははは!」
ああああああ、もーーーーーーーー!!
「何なのこの地獄絵図はぁっぁあああああ!」
べビーコカトリスの残骸と血しぶき……そして、蛮族スタイルのドワーフ少女!!
さすがのモーラもいっぱいいっぱいになってしまったとかなんとか───……。
「よーし、気に入ったでぇ、ゲイルぅ!! ウチはずっとこの装備を愛用する! これさえあれば三日三晩働いても平気な気がしてきたわぁ!」
小さな胸をそらして、ガハハハと笑うシャリナ。
装備を気に入ってくれたようでゲイルもニッコリ。
「へへ。シャリナがそういうなら、安く譲るよ。……シャリナは農業都市──初のお客様だな」
「ガハハ! 照れるやんけ、ゲイル! デザインはまぁ、あれとして───性能はピカ一やんけ、驚いたわ」
「そうだろ、そうだろ! ピカ一ッてほどでもないけど、3品セットで、お値段なんと銀貨8枚──効果のほどは、【敏捷2倍】【腕力5倍】【暗視】に【疲労耐性】、【毒無効化】に、あと全部呪わてま~す♪」
チャリ~ン! と指で輪っかを作ってお値段リーズナブルをアピールするゲイル。
「おおー安いやんけ!! 買った──────……って、」
とっても良心的な価格でみんなニコニコ。シャリナもにっこり……───。
ニッコリ??
「………………最後なんて?」
「ん? 【毒無効化】?」
「いや、そのあと──」
「……呪われてますけど?」
…………。
……。
「WHY?」
「呪具だし?」
ぐいー……と、角飾りを引っ張るシャリナ。
「……なぁ、ゲイル。これ取れへんのやけど」
「呪われてるしねー」
ムギギギギ……! 闇のマスクを外そうと力を籠めるシャリナ。
「……ゲイルぅ、顔痛いねん」
「装備したらとれないしね」
グググ……! 呪いの鉢巻きを外そうと力を籠めると逆にギュギュギュー! と締め付けてくる気がする。
「……・いたいいたい。いたいでぇゲイルぅ」
「そりゃ引っ張ったら痛いよ。絶対取れない仕様だし」
がんっ!!
「あっほぉ!! それ早よ言えや!! お前二回目やぞ!!」
「え? だって、言ったじゃん」
聞いてへん聞いてへん!!!
「全部呪われてるとか聞いてへーーーーーーーん!!」
あーーーーーーー、いだいいだいいだい!!
取れへん取れへん!!
「ちょ、ちょ、ちょ!! シャリナさん! 首!! 首!! 首もげるからぁぁあああ!!」
「あっほぉぉぉお!! こんな格好で町帰れるかい!! こんなん乙女の恥やでぇぇえ!!」
な!!
「どういう意味だよ!! 町中でこそ、この格好が───」
「「アッホぉぉおお!!」」
スパン、スパーーーーン!!
乙女二人に盛大に叩かれてずっこけるゲイル。
「いったぁぁああ! なんでぇ? なんで二人して殴るん?!」
「殴るわ、アホぉ!!」「むしろ、なんで殴られないと思ったのよ!」
「だって、さっき呪具褒めてくれたじゃん!」
「性能だけな!!」「緊急事態だからね!」
むぅー……。
膨れっ面のゲイル───スパーーーーーーン!!
「「ええから、はよ、取ったらんかい!!」」




