第41話「犬鳴鉱山」
ォォォォオオオオオ……‼
「ひぇ⁈ 何この声⁈」
「……な、なんでアンタまでビビってんのよ」
鉱山内に響き渡る不気味な声にゲイルとモーラが互いに服の裾を掴んでブルブル震えた。
──意気揚々と乗り込んだはいいが、異様な空気にさっそく首をすくめて、「やばい……勢いでやっちゃった」と少し後悔しているが、後の祭り。
モーラに至っては、おっかなびっくり、既にゲイルの背中にぴったりくっついて進んでいく。
「モ、モーラ……。ここは墓所じゃないんだから、俺に期待しないでくれよ───そんなピッタリくっつかれても守れないから」
な⁈
「ぴ、ぴぴぴ、ぴったりなんてくっついてないわよ!」
「いや、くっついとるがな、イチャコラと暑苦しいやっちゃらやで。ま──そんなビクビクすんなや。ここはダンジョンやないんやから、モンスターいうても、居ったところで一匹や二匹や思うでぇ」
ハンマーを肩に担いで、空いた手にカンテラを掲げると、ズンズン進んでいくシャリナ。
声など気にもしていないどころか、自信満々に進んでいく様子からも、鉱山のことは頭に入っているらしい。迷う素振りすら見せない。
「う。うるさいわね! 長いこと無人の鉱山なんだから、警戒するにこしたことはないのよッ」
「なら、離れてくれよー。これじゃ、シャリナを支援できないだろ」
う……。ゲイルの正論に、無理やり引っ張ってきた自分が足を引っ張るわけにはいかないと思い直したモーラは呼吸を落ち着ける。
「ケケケっ。冒険者言うても、大したことないんやな───まぁ、安心しぃ、ここはモンスターさえ居らんなら、ウチらにとって庭みたいなもんや」
「そ、そうなの?」
オォォォォォォオオオオオオオ…………‼
「「ひ‼」」
「せやから、ビビんなや───ただの風や、風。……ここはなぁ、複数の空気穴が開いとって、その風が吹き抜けるときに犬の遠吠え見たいな音がすんねん。せやから『犬鳴』言われてるんやで? それより、ほれッ。エエ石がそろっとるやろ?」
ぽーい! と観光案内がてら、勝手知ったる庭とばかりに、足元の石をモーラに投げ渡すシャリナ。
「わわ! ちょっ!」
「鉄や。他にも鉛鉱石が少々に、たまにミスリルがでる───ええ鉱山やろ?」
言われてみれば、壁がキラキラと小さく輝いている。
「この山があるから、ウチはここに根ぇ張ることにしたんや。……まぁウチにとっては大事な場所やねん───せやから、そんなビクビクせんでくれや」
「そ、そうなの───なんかごめんなさい」
素直に謝るモーラ。どうも、ゲイルと一緒に行動しているせいで、先日の墓所と同じように考えてしまっていたらしい。
だけど、ここにはアンデッドはいないようだし───そんなに怖がることは……。
ごんっ。
「いだ! ちょ───なに?」
決意した早々に、薄闇の中でゴツンっと鼻をぶつけてしまったモーラは涙目ながら側方を確認───……なにか、人影のようなものがぬぅー……と立っていて。
………………って、これ人??
え?
ひ、人影って──────……。え?
これ──────……。
目、鼻、口───……黒い、人影……。
「にゃぁぁぁぁああああああああああああああああ‼‼ でたぁぁぁああああ‼」
「うわ⁈ な、なに? なになになに⁈ いだだだだだあだ‼」
ゲイルにしがみ付くモーラ。
髪の毛がブッチぶちー。
「いだいいだいいだい‼ 髪、髪ぃぃい!」
抜ける、禿る、犯されるぅぅう!
「ちょ⁈ なんや、どないしてん⁈」
「でたでたでたでたでたぁぁぁああああああああ! 黒いぃぃぃぃいいいいいいいい‼」
人!
人‼ 人じゃない、ゴーストかなにかぁぁぁあ‼
「いだだ。ちょ、ちょっと、モーラ落ち着いて、モンスターじゃないって! なんもいないって! あと。騒ぎすぎ & く、苦しいから」
ぎぶ……ぎぶぅ。オパイにおぼれ死ぬ。
「お、おい。大丈夫かゲイル? 顔、赤いというか黒‼ 土気色になっとるで‼」
ぱんぱんぱん‼
「(空気! 空気‼ モーラに、言ってぇぇえ‼)」
タップしてもモーラは聞いちゃいない。
「あーもう、足ばっか引っ張り寄ってからにぃ!」
ベリリリ───……! と、シャリナの怪力によりモーラから解放されたゲイル。
「ぶはぁぁっぁああ! し、し、死ぬかと思った……!」
モーラはモーラでシャリナにネコに様にぶら下げられながらも、涙ながらに訴える。
「ひぃ……! だって、だって──そこに何かいる‼ アンデッドよぉぉ!」
「なんもおらんわ! モンスターの気配もないもあらへんわ!」
「え? アンデッド⁈ ど、どこどこ!?」
「──……で、なんでお前は嬉しそうやねん‼」
いや、だって、こんな時にいるアンデッドって絶対特殊でしょー?
「……って、な~んだ。ただの石像じゃん」
「あらま。ほんまや、精巧な石像やで──────まるで、生きてるみたいやな」
こんこん。
確かに目の前にはまるで、生きている人のような石像。
そいつは、驚いたような絶望のような、そんな表情をした冒険者を模した石像だった。
しかも、恐ろしいくらいに精巧で、壁にぶつかったまま石になりましたー、といった風情でそこにあるんだけど──……。
「な⁈ せ、石像?……い、いや。そんなの、知ってるしぃ‼ ちょ、ちょっと、驚かそうと思っただけよ!」
「「いやそういうのいいからー」」
……く!
息の合ったツッコミに、モーラが顔を赤くする。
くやしー!
「まぁ、この姉さんのことはおいといて、ゲイル、これ凄ない?」
「ん、どれどれ?」
カンテラに浮かび上がった石像を検分───。
「はー」「ほー。これはなかかなの職人の腕やなぁ」
技術馬鹿ふたり。しげしげと石像をみてはしきりに頷いている。
「むぅ……。まるで生きているみたいだね」
「おう、これほどの石像を作れる職人がいるとは──。……ウチも知らんやっちゃで」
……なるほど、精巧だ。モーラがアンデッドと見間違えてもおかしくはない。
おかしくはないけど──────。
……あれ??
「ちょ、ちょっと変よ? ね、ねぇ……」
な、なんで、石像がこんなとこに?
「みてよ、シャリナ。これ、睫毛まであるぜ」
「ほんまや! あ、これ、服とかどないなっとんの?中がペラペラなとこまで再現しとるで⁈」
す、すげぇ! 「「ほわぁー!」」と目を輝かせる二人だが、
「ちょ、ちょ……! ちょっと二人とも‼」
「ん~? なんやねん、いまええとこやねん」
「そうそう。こんな石像、なかなか見る機会ないよ」
すごいすごい、とモーラをガン無視してあーでもないこーでもないと技術品評を始めた二人の頭をスパパ-ン‼ と、思いっきり叩く!
「ばかーーーーー! オタク談義してる場合⁈ これぇえ!」
「んー?」
「いったいなぁ、もー」
…………ッて、な、な、な、
「「「なんじゃこりゃーーーーーーーーーーーーー‼??」」」
振り返った三人の目の前に広がる光景。そこにあったのは、鉱山のちょっと開けた広場にズラーーーリと並ぶ石像の群れであったッ‼
「「「き、き、き、キモーーーーーーーーーイ!」」」




