第38話「ギブアンドテイク」
「くっそー。ひどい目におうたでぇ」
ちょっと皮の剥けた手を包帯の上から撫でながら、ふーふーと息を吹きかけるシャリナ。
「ご、ごめんなさい。注意はしたんだけど───」
「ふんっ! 今さら遅いわい」
モーラが渡した手土産の火酒を口に含むと、プー! と霧状に吹いて傷口を消毒。
それでも、かなり痛そうだ。
「ててて……。ったく、呪われてるなら呪われてるって、初めから言えや! それ、一番大事な情報やからな⁈」
「そ、そうか? 俺は別に解呪できるし」
スパーーーーーン‼
「お前はよーても、他人にはよくないわぁぁぁああ‼」
はーはーはー……と肩で息をするシャリナ。……どうやら完全に機嫌を損ねたらしい。
「いったぁ! 叩くことないだろ───」
ぶーたれるゲイル。
「こっちがぶーたれたいわ! まったく──」
……ちッ
「おい、ギムリーの。何やコイツ等? こんなんウチは、よー世話見いひんで」
「まぁまぁ、そんなカッカしないでぇ。ゲイルさんも悪気はあってしたわけじゃないみたいですし、……このダッサイ剣も純粋な善意なんです───きっと」
「ダサないわ!」
「ダサいっちゅうねん‼ なんでそこだけ喰いつくねん‼……そーいうとこやぞ、おまえぇぇ! あと、なんやねん⁈ 善意で『呪いの装備あーげーるー』ってか? そんなもん、悪意以外の何ものでもないやろがい! あーもう、手ぇ痛いわぁぁ!───ほんでなんや?……露店んんん、誰が許可するかい!」
なッ⁈
「そんな、横暴な──お土産だって飲んでるじゃん!」
「『飲んでるじゃん』って、ゲイル。……それアタシが買ったんだけどね。あと、アンタが勝手に全部台無しにしたんだからね」
ギムリーのアドバイスで買った火酒のお土産の指さすゲイルだが、もちろん、
「アホンダラ! そんなもん、プラマイゼロ───いや、マイナスやっちゅうねん! ウチが温厚やなかったら、衛兵に突き出しとるでぇ⁈」
……そりゃそうだ。
誰が呪いの装備を持ってきて喜ぶというのか──…あ、ゲイルは喜ぶな。
「ぶー……! せっかく、丹精込めて作ったのに……」
「アッホぉ! お前は顧客ニーズとか考えたことあらへんのか⁈ あかん……絶対あかん! こんな奴に絶対露店はやらせられん。この調子で呪具売りさばきよったら町は滅ぶでぇ」
※ 注:すでに王都で売りさばいちゃいました ※
「むぅぅ‼」
「……ゲイル、さすがにアタシもフォローできないわー」
だって、全部ゲイルが悪い……。
シャリナが迂闊だったのもあるが、そもそも呪われた装備が「お土産」という発想がまずおかしいからね。
「…………とはいえ、ウチもそこまで薄情やあらへん」
「「へ?」」
どうしようどうしようと頭を悩ませているゲイル達に向かってシャリナは不機嫌そうに一言。
ついで、ガガガーと、鍛冶場の隅の椅子を引き寄せると、その上に足をのせてふんぞり返って言った。。
「おまはん、ゲイル言うたな?───そんなに露店したいんか?」
「……ま、まぁな」
ぶっすーとふくれっ面のゲイル。
そこに、どっす‼ と、モーラに横腹を突かれて、渋々頭を下げる。
「ごふぅッ──────ろ、露店の許可をください、シャリナさん」
「ふんっ」
「……ご、ごめんなさい、シャリナさん、コイツ、こんなんですけど、『解呪』の腕も見ての通りですし、呪具も……その、まぁセンス以外の腕前はなかなかなの」「センスあるわい!」
ゴッス‼ 「いっだ⁈」
……なぜ自分がゲイルの売り込みをしてるんだろーとモーラは頭に疑問符を浮かべているが、それでも乗り掛かった舟だ。
「ふん……。まぁええわ。元々、ウチが許可云々いうのがそもそもおかしい話やしな──せやかて、ウチも商業ギルドとかに一筆書く以上、責任がある。……それはわかるな?」
「……まぁ、はい」
「ん。ええやろ。…………水に流すには色々アレ過ぎるから、まずはアンタの人柄を見せてもらおうか」
素直に頷くゲイルを見て、シャリナは真剣な表情で目を覗き込む。
……これでも、一組織の長だ。なぁなぁで済ますわけにはいかないのだろう。
「……ど、どうすればいいの? お金は、その───」
二人とも持ち合わせがそれほどあるわけではない。
ちょっと口ごもるモーラを見て、シャリナは言う。
「あっほ! 見くびるな! 誰が新米に銭をせびるか‼…………ちょっと、頼みを聞いてほしいだけや。それの態度次第でチャラにしたる。───もちろん、紹介状も書いたるわ」
「「……た、頼み?」」
思わずハモる二人に、ニィと口角を吊り上げるシャリナ。
「せや。アンタら冒険者に頼みっちゅうたら一つしかないやろ」
にぃぃ……。
どう猛な笑みを見せるシャリナ。その言葉を聞いて、顔を見合わせるゲイルとモーラであった──────。




