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第37話「炎の少女」

「あははー。一回で来なかったのはシャリナでしょーがー」

「あぁん? どこの馬鹿垂れかと思ったら、」

 ぬんっ! と腕組みをして小さな背丈で上から目線の少女がニヤリと笑う。

「ケケケ───湿った森でシコシコ生活してる褐色エルフやないか。森の恵みに反して、胸のサイズと同じく平坦な土地で暮らす変人女がどないしてん? ウチの工房に何の用やねん??」


 ピキッ……。


「あーはーはー。……小汚い、山のひきこもり部族のくせにぃ。お里の山とは正反対に凹凸のない胸のサイズと同じ、平た~いところで生活する変人女にある要件なんて、ほッとんどないと思いますけどぉ」


 ビキッピキッ……。


「あああん⁈ ど腐れ口を利きよってからに‼……なら、何しに来てんねん!」

 ──お、おおう……空気に罅が入る音がするよ。


 ケラケラケラと、涼し気に笑うダークエルフ(ギムリー)と、

 ぐぎぎぎ! と、顔を真っ赤にして歯ぎしりするドワーフ(シャリナ)


「え、え~っと。も、もしかして仲悪いの??」

「……何なの、この空気」


 思わず顔を見合わせるゲイルとモーラ……。これってもしかして、


「やばいな。人選ミスったかも??」

「同感ね……」


 思わず天を仰ぐも、そういえば、エルフとドワーフって顔を合わせたら喧嘩ばかりする程、部族間の仲が悪いんだっけ──。


「いえいえ~。べっつに、仲悪くないですよー?」

 嘘つけ‼

「……それはさておきぃ、この胸が金床なドワーフの名は、シャリナ──鍛冶ギルドの脳筋ですぅ」


「「うぇぁ⁈ この女の子が⁈」」


「おう、シャリナや。よろしゅー……って、誰が金床で脳みそ筋肉じゃ‼ つーか、アンタに胸のサイズをどうこう言われたくないわッ」


 ムッキー‼ と、怒り狂うシャリナと呼ばれた少女は、凶器のごとく巨大な金槌をグワシと構えるが、「ど、どうどう……」ととりなすモーラとゲイルによってなんとか会心の一撃を振り下ろすのを留まる……。


 ……いや、なんだこれ?


「ふふ~ん、女の子(・・・)ねぇ? ゲイルさんたちも案外見る目がないですねぇ。……じつは、こう見えて、シャリナってば結構な歳なんですよぉ」


 あははー。


「じゃッかましいわ‼……何をケラケラ笑っとんねん! レディの歳をばらすな、この性悪エルフがッ。……だいたいなぁ! 歳のことは、お前にいわれたないわ、年増がぁ‼───つーか、なんやねん⁈ いきなり来て、嫌味かぁ⁈」


 な、なるほど。エルフほどではないが、ドワーフもかなりの長命種なのだ。ギムリーの言葉どおりなら、どうやら見た目は子供のようだが、シャリナは鍛冶ギルドの長らしいが──……。


   ……キランッ!


「む! むむ……あの手は──」

 同じ(?)職人の魂が疼くゲイル。


 体のわりに大きな手には柄ダコがたくさんに、研磨の際にでできたであろう細かな傷……。

 ……たしかに、ゲイルから見ても、彼女がかなりの腕前だと分かる。

 さらに、太い腕に炉焼けした肌。

 無数の細かい火傷は、今も槌を振るい続ける職人ゆえだろう。


 燃えるような赤い髪と、溶工炉ごとき赤い目は、幼く見える外見とは裏腹に、鋭く深い──。 


 間違っても、ギルドの奥で踏ん反り帰っているだけの者ではない。現役の職人のそれ(・・)だ。


 そんなゲイルの目線に気付いたのだろう。

「むぅ……。この子───」「ほう、アンタぁ……」


 で、できる……!


 呪具師とは言え、ゲイルも職人の端くれだ。シャリナの職人としての技量は纏う空気だけでわかる。そして、シャリナも何かに気付いたかのように目を細めて、ゲイルの指先を見た。


 二人の勘がいうのだ───……上級の職人に違いないと。


「な~に見つめあってんですかー」

 クヒヒと、厭味ったらしく笑うギムリーに、

「み、見つめあってない‼」「だ、誰が見つめ合っとんねん! 気色悪い」


 慌てて否定するゲイルと、プイっと視線をそらしたシャリナ。

 そんな二人を半目で見ているモーラであったが……。


「ごほんっ! 本・題・ッ」

「あははー。わかってますよー。えっへん……今日は、鍛冶ギルドの偉い人にぃ、ウチの新人さんが、露店を開きたいそうなので、挨拶まわりに来たまでですぅ」


「カッ!──なぁにが、『えっへん、挨拶まわりにきましたー』じゃ! 露店なんて好きなとこでせぇや! こっちは折からの資材不足で、朝から仕事仕事で大忙しなんやわぃ! いちいち手間取らすな」


 アホらし!


 そういって手をひらひらさっさと工房の奥に引っ込んでいこうとするも、

「あーせやかて、勝手に露店開かれたら商業ギルドが困るちゅうことか──……ん、ええやろ」


 一瞬思案顔をしたあとで、くる~り。


「うん。まぁ、仁義を切りに来たことは褒めたる。……せやかてな、ウチは別にこの町を牛耳っとるつもりはないねん。ただ仕事をしてたら色々しがらみができてしもうてな。……いつのまにかこの町のギルドの顔役みたいになってしもうただけや」


 くいっと、顎でギムリーを指すシャリナ。


「……ったく、ゲイルいうたか? そいつのいうこと真に受けんなよ。平たいエルフの小娘のいうことは、話半分に聞いとき──ま、ええわ。一筆書いたる」

「え? 本当ですか⁈ ありがとうございます!」

「やったじゃないゲイル!」


 おう、やったぜ‼

 パチンと互いに手を合わせて、喜色を浮かべるゲイル達。


「……と、言いたいとこやが───ことは、そう簡単にはいかへんでぇ?」


 しかし、薄い胸の間から筆を一本取りだしたシャリナが、ピタリと動きを止め、ピシっと筆を突き付けて言うではないか。


「「ちょぁあ⁈」」


 ───がくんっ‼


 上げてから落とすその所作に、思わずゲイルたちが崩れ落ちる。

「え。えぇ~? 今さらぁ?」「そ、そりゃないんじゃない⁈」

 ゲイル達の抗議にも動じないシャリナ。フフンと笑いとニヒルに唇をゆがめた。

「ちっちっち。世の中そんな甘ないで、ギブ&テイクや。許可出してほしいんやったわ、それ相応の誠意ってもんがやなー」


 さすがは鍛冶ギルドの長。ちゃ~んと、交渉事の基本は抑えているようだ。


「誠意?」

 …………あ、そ~いうこと。なるほどなるほど、

「御土産ならここに───」「そーそー。俺も持ってきた」

 慌ててカバンを漁るモーラをみて、ゲイルもゴソゴソ。

「───って、アンタは出さないていいから‼」

「えぇー⁈ だって、これ絶対気に入るよ⁈ ザ・」


 ニョキリとカバンから引っ張り出した呪われし魔剣───。

 ごんっ‼


「いっだ!」

「だ・か・ら、出すなッつってんでしょ、ごらぁッ‼───そして、あわよくば新作自慢しようとしてんじゃないわよ!」


「だ、だからって殴ることないだろ?」


 ひりひりと痛む頭を抑えるゲイル。

 ……モーラってば、支援術士とは思えないぐらいにアグレッシブ。


「うっさいわね! 殴んなきゃわかんないでしょ、アンタは───って、ちょっと……?」

「ん? シャリナ───さん?」


 グィっと、ゲイルを引き寄せる力強い手───。


「な、な、な、なん───」

 ゲイルを掴み寄せたシャリナはすさまじく近い距離でゲイルに詰め寄る。

「あ、ほらぁ! アンタが変なもん出すから───ごめんなさ」

「な、なんっっじゃ、そりゃーーーーーーーーー‼」


 きーーーーーーーーん!


「「み、耳ぃぃいい‼」」

 至近距離で大騒ぎのシャリナにゲイル達の目が回る。だって、すごい声───。

「あーあー。まぁた始まりましたよ、技術馬鹿の悪いとこがー」


 ……ちゃっかりと、耳を覆っていたギムリーがニヤリと笑う。


「なんあんんああなななあなん? なんじゃそりゃ⁈ なんなんそれぇぇえ!」

「(だけど、思った通りか……。やっぱしシャリナ的にも凄いんだ?)」


 小さな声で独り言ちるギムリー。

 ないやら一人訳知り顔で「ふむ……」と考え込む仕草───かわいい。


「す、凄いなんてもんやないで……! ちょ、ちょちょ、そ、それぇぇえ! ちょぉぉお、どなんなっとんねんそれぇ!」


 グワシッ‼


「いだだ!」

 ゲイルのカバンを掴むと、中身をひっくり返してそれを振り下ろす──ガランガラ~ン!

「おわぁ! な、なにすんだよ!」

「何すんだよ──とちゃうわ‼ なんなんそれ? そのデタラメな剣は──‼」


 床に転がった剣───……ゲイルの新作、ザ・ディバイドを掲げると、鍛冶場の火に透かしてシゲシゲと眺めるシャリナ。


「す、凄い……。凄いで、これは───!」

 目が……目がマジだ。

 キラキラという目を通り越してギラギラだ。


「ウチにはわかる。わかるでぇ……。ただの剣やないでぇこれは───」


 ッッ⁈


「………………わ、わかるのか⁈」

 ゲイル。


 ゲイル───!

 ゲイルは感動した!


「おうおう、わかる。わかる……。わかるでぇぇ──────!」

「ホントぉ⁈ ありがとうシャリナさん‼ これ、凄いでしょー!」


 ほぼ、ゼロ距離でがっしりと腕を組むゲイルとシャリナ──。


「ごほん!」

「ええ、ええ、堅苦しく呼ばんで、ええでぇー。ウチのことはシャリナて呼べ」

「うん、うん! シャリナは流石本職のプロ! これの良さがわかる人に出会えて──おれ…」


 うるうる……!


 ゲイルの魔剣を矯めつ眇めつ検分するシャリナ。

 そのシャリナの炉の火に焼けた横顔が可愛らしくも凛々しい……!


「ごほん、ごほーん‼」

「…………モーラ、アレルギー?」


 さっきからゴホゴホうるさい───。


「ちゃうわッ!」

「移ってますよぉ、モーラさん」

「うっさい‼」


 キー! と、一人プリプリと怒ってるモーラを見て、ギムリーだけがニヨニヨしている。


「なんや? 風邪かそれとも埃っぽかったか? べつにアンタは外で待っててええで───」

 あっけらかんと言い放つシャリナに、ついに口を尖らせたモーラ。

「違いますぅ。……ちょっと近い気がしたので?」

「近い? ほうか?」

「ん? そうかな?……いやそれよりも、さすが鍛冶ギルドの長! わかる人にはわかるんだよ、やっぱり!」


 うんうん。そう、特に──……。


「おうおう。ウチかて、鍛冶屋の職人や───見たらこんなエエもん分かるわ! まず土台となった剣は、これドロップ品やな? それだけでも素晴らしいわー」


 おぉ……。さすがだ。


「付与効果も優秀やなぁ──ふふん、ウチの目利きによれば、【吸血】がついとるなこれ! しかも、『斬撃強化』に『闇属性』──あッ!」

「ふふ、さすがお目が高い……じつはまだ、」

「言うな!……言わんでもわかる。わかるでぇ───……これはアレや! 『軽量化』もついとるな! それでこんな軽いんか‼」


 ブンブンと振り回すシャリナ。その目はまさに職人のそれ(・・)


 あ。


 ……それ(・・)なんだけど、

「え⁈ あ、ちょ……──装備しちゃっていいの?」


 モーラだけはふと気づく。

 ゲイルの装備は確かにデタラメな性能を誇っているが──たしか、全部……。


「問題ないよ。呪われてるだけだし」

「せやせや。こんな凄いもん装備せんでどないするねん! まだまだあるな! さらになんや、この付与効果は! ん? のろ??」

「へへ、さすが鍛冶ギルドの長、コイツのよさがわかるとは───そう、さらにその剣には『魔力耐性』と、俺が心を込めて『防塵処理』まで付けましたー…………あと、呪われてまーす。なにより、カッコいいよねー」


 そうかー‼


「『防塵処理』かー! くぅ~わかっとるやん自分! そうやで、そうやでぇ! 剣は手入れこそが大事なん───…………ちょまッ。……………………さ、最後なんて?」


 ん??


「カッコいい?」

「いや、かっこよくはない───センスはもうちょい磨いた方がいいで、自分?…………って、シィッッッッット! なん、なんやこれぇ‼」


 ヌォォォオオン……!

  ヌォォォオオオン……!


「あーあー……やっぱり出たよ、髑髏のエフェクト」

 あちゃーと額を抑えるモーラ。うん、わかってた。こうなるってわかってた。

「手、テテテテ───手が離れんんんんんん‼」

「はー⁈ 鍛冶ギルドの長なのに、このセンスわかんないのかなー⁈ どー見ても、カッコいいやろがい‼」

「あ、あほぉ! それどころちゃうやろ‼ い、いだだだだだだ、取れん取れん! な、なんなななんん⁈ と、とってぇぇぇえ‼」


「あ゛ぁ゛ん‼ それどころってどういう意味だよ‼ どの辺がカッコよくないねん‼」


 あかん。

 ゲイル、なーんもわかってない───。


「ちょ、ちょっとゲイル。そんなんいいから、早く解呪を───」

「そんなん⁈ そんなんって言った⁈ もー‼ ちょっとモーラは黙っててよ‼ これは聞き捨てならないなー! これのどこがカッコよくないって⁈」

「んなもん、全部や! 全部ぅぅぅぅうう! あーもう、これ呪われとるんかい!? くっそー前言撤回やーーーー‼ こんなもんなんもよくないわぁぁ‼ お前ぇぇぇええ───覚えとけぇっぇええ! いだだだだだだ」


 無理やりはがそうとするものだからシャリナの手からベリベリ───うぉぉグロイ。


「うわわ! ちょ、ちょ、ちょ! シャリナさん落ち着いて‼ ゲイル、アンタ早く、解呪ぅ!」

「前言撤回ぃぃい⁈ なんでぇ⁈ カッコいいやん! それが全てやん‼ 付与効果は後付けやーーーーん!」

「だー! もー! ヒトの口真似すなぁぁぁあ! いってぇぇぇええ‼」


「あははは……カオスですねぇ」


 ニヨニヨと笑うギムリーだけが一人余裕そう。しかし、ふと表情を帰ると独り言ちる。

「(しかし、付与効果がこれほどとは……。呪いを別にすれば、シャリナも絶賛する腕前───。やはり、コイツただの呪具師というには少々規格外ね)」

 ひょっとすると……。ひょっとすると、この男なら───。


「いっだぁぁぁあああああ!」

「あーもー……ゲイルぅぅぅううううう‼」

 引きはがそうとするシャリナと留めるモーラ。

 なんか知らんがプリプリ怒っているゲイル───……。


「──な、わけないか」


 一瞬、なにか(・・・)を期待したギムリーであったが、ふっ……と自嘲的な笑みを浮かべて表情を消した。


 そして、

 あーーーーーーーもーーーーーーーーーー‼


「呪われた装備なんか持ってくるなやぁぁぁあああああああああああああ‼」


   持ってくんなやぁぁぁあああ!

     やぁぁっぁああああああああ‼



 ……その日一番の大声が鍛冶ギルドに響き渡ったとか渡らなかったとか───。

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