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第36話「鍛冶ギルド」


「───ここ。『鍛冶ギルド』ですねぇ」

「「は、はぁぁ?」」


 思わず顔を見合わせるゲイルとモーラ。

 場面は変わって、一瞬にして鍛冶ギルド前────……って、なんでぇ?


「まぁまぁ、いいからいいから」

「いいからって言われてもなー」


 ぼーっと見上げる鍛冶ギルドは巨大な建物だ。

 常時を火を焚いているのか、黒い煙が絶え間なく噴き出している。

 そして、


   カーン、カーン、カーン!


「鉄と炭のにおいがするな」

「そりゃ鍛冶ギルドですからね」

 そう言って、

 冒険者ギルドを一時閉店にしてまでギムリーが案内を買ってくれた先、ここ鍛冶ギルドの前には、威勢の良い槌の音が響いていた。

 看板には、なるほど。大きく槌と金床のマークが刻まれており、ギルドの勝手口では多くの職人とその弟子が出入りしているではないか。

 まごうことなき鍛冶ギルドだ。


「……え? え~っと。商業ギルドにいくんじゃないの?」

「だからぁ~、力関係があるんですよぉ」


 えー……??


「「……どゆこと??」」


 ゲイルもモーラもよくわかっていない。


 なぜ、露店場所を融通してもらうのに鍛冶ギルドに顔を出す必要があるのか───。

 それを感じ取ったのか、ギムリーが腰に手を当ててなぜかどや顔。

「ふふ~ん。簡単に言うと、商業ギルドはこの町ではほとんど力がありません。そのため、資金と人が集中する鍛冶ギルドに発言力では負けているんですよ───なので、一度鍛冶ギルドに仁義を切る必要があるってことです」


「え、え~っと……つまり、商業ギルドは町で一番大きなギルドに忖度していると……?」


 モーラは頭が痛そうに空を仰ぐ。


「イエス! さすが支援術士さん、頭の回転は速いですねー。……てっきり、頭の栄養が違うところに言ってると思ってましたぁ」

「どーも。……って、事あるごとに一言多いのよッ!」


 どうやら、街の一等地は鍛冶ギルドとその傘下にいる露天商が抑えているらしい。

 農業都市では鉄製品が貴重らしく、修理や新造ができる鍛冶ギルドの需要がかなり高い様だ。


 なるほど……。土地に合わない農具を他所から新規購入するよりも、


 ファームエッジ特有の農地や気候に合わせて作る農具を卸す土着の鍛冶ギルドが強い権力を持っているのも頷ける話だ。なにより、修理の技術が特に買われているのだろう。

 使い捨て文化のある王都とはまた別な文化圏なのだ、この農業都市というものは───。


「じゃ、じゃあ、ここの偉い人に挨拶すれば一等地で露店ができるってこと?」

「まぁ、ありていに言えば、そうですねー。お土産ぐらいは持ってきてますぅ?」


 あー、どーりで……。

 な~んか案内の途中で、なにやら色々買わされたわねーとモーラは思案していると、


「もちろんです! この『呪いのネックレス』と───」

 じゃん♪

「ザ・ディバイドぉぉお──♪♪ これがあれば鍛冶ギルドの偉い人も大満足ぅ──あべし‼」


 いったぁぁぁあ⁈


「な、なんんあななな、なに? なんなのモーラさん!」

「だ・か・らぁ! そー言うところやで、ゲイルぅ!」

「え、えぇー??」


 ……あかん。

 こいつには任せておけないとばかりに、モーラは頭を抱える。


 何のためにギムリーがあれこれ手を焼いてお土産を選んでくれたかよくわかった。

「もういいから! お土産は私が渡すから、ゲイルは頭だけ下げてなさい!」

「なんでぇー??……鍛冶屋の人なら絶対このセンスが話あると思うんだけどなー」

 ぶつぶつと、不満顔のゲイルをさて置き、モーラは大股でズンズン歩いていく。


「あーもう! ぐちぐち、うっさい‼──かもん、ゲイル‼ さぁ、いくわよ、ギムリーさん!……っていうか、な~んでアタシこんなことしてるんだろ?」

 なんやかんやで、ぶつぶつと零すモーラも、今さらながら自分の行動に疑問をもったモーラであったが、引き返すつもりはないようだ。


 うん。……なんだかんだで面倒見がよいのがモーラなのである───。


 そして、

 ───カーン、カーン、カーン!


 暖簾をくぐると、鍛冶ギルドというよりも、どこかの工房を思わせるような大きな平屋の建造物。内部は熱がこもっており、ムワッとした熱気が押し寄せる。

「あっつ……!」


 モーラは思わず胸元を緩める。

 ほんの少し中に入っただけでこの熱気だ。奥の方はどうなっていることやら───。


「えっと……。カウンターとかはないのね?」

「えぇ、まぁ。ギルドっていうだけで、実際は、職人さんの工房なんですよぉ、鍛冶ギルド(脳筋どもの寝倉)はぁ」


 なるほど。たしかに、見た目は完全に工房だ。


「…………ん? 今なんて?」

「ん~? 何も言ってないですよぉ」


 パタパタと手で顔を仰ぐギムリーは涼しげな顔だ。


「いや、でも、なんか聞こえたような……? あれ??」


 一応、客を相手にするためのテーブルなども玄関口にはあるが、うっすら埃がたまっているところを見るに、ほとんど応接用として機能していないようだ。

 どうやら、ギルドと名がつくわりに、商売っ気がない様子の鍛冶ギルド。


「んー。どうしよ? 勝手に奥まで行っていいの?」

「いえいえ、ちゃんと呼べば来てくれますよぉ───たぶん」


 ホントぉ……??

 モーラとゲイルは顔を見合わせるも、ゲイルには任せておけないとばかりにモーラが声を張り上げる。


「ごめんくださーい!」


 カーン、カーン、カーン‼

 ……あれ??


「小さすぎて聞こえてませんよ、きっとぉ」


 え、えぇ~……。


「モーラ大丈夫? 顔赤いよ??」

「うるさいわね。アタシに任せて後ろにいないさい、ゲイル」


 だから、すかさず、その今にも取り出しそうな呪具をしまえ……。

 ……コホン。


「ごめんくださーーーーーーーい!」


 …………カーン。

 カーン、カーン、カーン‼


「いま、一瞬槌の音止んだよね?」

「モーラさ~ん、ここはもっと大声で行かないとー」


 ───こんな風にねぇ!


 モーラの背後からにょきりと顔を出したギムリーがすぅぅ、と息を吸い込むと、

「シャーーーーーーーーーーリナーーーーーーーーーーーー‼」


 キーーーーーーン!


「「うっさ……!」」

 思わず耳を抑えるゲイルとモーラ。

 しかし、ギムリーはまったく気にしてもいないらしく──。


 …………カーン!


 どたどたどたどたどたっ‼

「───うるっさいわー! どこのクソボケじゃー! この朝っぱらからぁぁぁ‼」

 ドタドタと奥からようやくの足音。

すると、その足音にあわせて工房奥の薄明りの中から、


「一回呼べば聞こえるわ! 馬鹿垂れッッ‼」


 ドーーーーーーーーン‼ と、工房を隔てる扉を蹴破るようにして現れたのは───……。



「お、女の子?」

「ド、ドワーフ??」



 鉱山や大きな町で見かけることのある小柄な種族───ドワーフ族の少女であった。

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