第35話「人の心とかないんかッ」
「──で、うちに来たんですかぁ?」
カランカラ~ン♪
涼やかなカウベルが鳴り、こじんまりとしたギルドに来客を告げる。
ギルドのカウンターには、小さく腰かけたこのギルドの主───ギムリーがいた。
「そうなのよ……。もう、この馬鹿はアタシ一人の手には負えないわー」
「あーらら、ゲイルさん、パートナーに諦められちゃってますよぉ?」
ぶっすーとふくれっ面のゲイル。……超機嫌悪い。
「パートナーじゃねぇし!……だいたい、モーラにはこれの良さがわからないんだよ」
露店からとりあえず持ってきた魔剣だけは確保。
だって、作るのに3日もかかった自信作だもん。……だもん。
「…………あー。ゲイルさんは、もうちょっと人の気持ちを考えた方がいいかもですねぇ」
「んなっ⁈ ギムリーさんまで?」
それはさすがにショックだぞ⁈
「あははー。じゃーゲイルさんに聞きますけど、それを農業都市ファームエッジのどんな人がどんな目的で買うんですかぁ?」
え? どんな人? どんな目的───……。
「………………皆かなー?──こう……インテリアとか」
ずるぅ! と、モーラ&ギムリーがずっこけるが──。
「……うん! 絶対欲しいでしょ。これ! うん‼───改めてみても、魔剣とかカッコいいから買うよねー?」
あ、でも……。ちょっと強気の値段設定にしたせいで売れなかったかー。なら、もう少しは値下げしても───。
「……あー。なるほどなるほどぉ。たしかに、これは重傷ですねぇ」
あはは、と乾いた笑いを浮かべるギムリー。
そして、さすがに天を仰いだまま戻ってこれそうにないモーラ。
「……そもそも、なんでそんなとこで露店をしてたんですかぁ? 畑に向かう道は農家の人がたくさん利用してますけど、ゲイルさんの主なターゲット層とはかけ離れてますよねぇ? ご飯屋台の傍で呪具の露店をするとか……下手したら営業妨害で衛兵に通報されてますよぉ?」
「……うん、それは私も思った」
なんでぇ⁈
「どうして俺が通報されるんですか‼」
「逆に、なんでわかんないの⁈」
「あーははは……モーラさんも、相棒がアレな人で大変ですねぇ」
「「相棒じゃない!」」
「……仲いいですねー」
適当に流しているのがありありなギムリーではあったが、ゲイルが露店を出したという場所を確認するため。地図に視線を落としていたのだが、
───ピクリ。
「あー……これはもしかしてぇ」
そうやら、ゲイルが露店をしたという場所に気付いたギムリー。ちょうど、彼女のいうところの、そんなとこはモーラも指摘していたことだ。
「これでも、ちゃんと商業ギルドにお金払って、いい場所を紹介してもらったんだけどなー」
「…………え~と、ちなみにいくら払ったんですかぁ?」
ひくっ、と口角を痙攣させたギムリーが恐る恐るといった感じで聞くと、
「金貨1枚」
ガンッ!
「たっか‼」
ギムリーの代わりにテーブルに頭を突っ込んだのはモーラだった。
「え? 高くないそれ⁈ え? ファームエッジの相場ってそんなもんなの⁈」
「なわけないですよー。……あーやっぱり、これはボラれてますねぇ」
やれやれと言った風に肩をすくめるギムリーに、ぎょっとしたゲイル。
「うそ!? だって、一番人通りが多いって親切に───」
「いやいや、ゲイルさん。人通りが多ければ売れるってものじゃないですよぉ? 王都ではどうだったか知りませんけど、ファームエッジで呪具が欲しい人なんて、まずいないんじゃないですかね?」
「な……!」
がーーーーーーん……!
「そんな……ばかな」
ヨロヨロ───。
「……いや、『そんな───ばかな』ってアンタ。畑と家を往復するだけの生活に、どこに呪具が必要な要素あるのよ!」
わかるでしょ⁈ というのはもちろんモーラだ。
「まぁまぁ、モーラさん。そんな事実を敢然と突き付ければゲイルさんが可哀そうですよー。ホントの話ですけどぉ」
「……一言多いのよ!」
がっくしと項垂れたゲイルではあったが、
「あははー。まぁ、そうですねー。一応、呪具自体も全く需要がないわけじゃないですよぉ? 少ないとはいえ、当ギルドに所属する冒険者の方もいますし──」
ギムリーの言葉にガバリと顔をあげる!
「そうか、冒険者のみんなに売れば……」
「……とはいえ。根本的な解決にはなりませんねぇ。………………うん。まず、露店の場所を変えましょうかぁ? ゲイルさんが露店をしていた場所は、本来食べ物屋さんが軒を連ねる場所ですからね」
上げて落とすギムリーの話術。
ゲイルの顔は、ガックリしょぼんで、あげたり下げたりと、とても忙しい。その様子をクスクス笑いながら見ているギムリーではあるが、ちゃんと対応はしてくれるらしい。
今度は、パラパラとファームエッジの顧客名簿や、地図をめくり始めるギムリー。
「こことかは相談させましたぁ?」
彼女なりに、呪具が売れそうな客層の通る場所をピックアップしてくれているようだ。そのどれもこれもが、いわゆる町の一等地──。
たしかに、ゲイルのほかにも、ギルドに来る途中で装飾品などを売っている露店もあった。
主に、農作物を買い付けに来た商人や、その護衛をターゲットにした露店だろう。
「え? で、でも───そこは、もう埋まってるって言われて……」
「……埋まってるように見えましたぁ?」
そんなことはない。
来る途中でチラ見した程度ではあるが、十分に露店スペースはあったと思う。
「いえ、全然……」
「ふふふー。───でしょうねぇ。なるほどー。段々事情が読めてきましたよぉ」
訳知り顔のギムリー。
「ちょ、ちょっと、どういうことよ? ゲイルだって商業ギルドには話を通しているのよ?」
「まぁまぁ、最後まで聞いてくださいよ。この町には小なりとはいえ、王都や商都を本部とした各種ギルドが支店を出しているわけですが───」
ギムリーの言う事情。
どうやら、多数のギルドがこの町にも支店を出しているが、「力関係」があるのだという。
冒険者ギルドや商業ギルドなどのどの町でもお馴染みのギルドのほか、農業都市には、それとは別に、もっとも力のあるギルドがあるという。
それが───……。
「───ここ。『鍛冶ギルド』ですねぇ」




