人の価値とは、その人が得たものではなく、その人が与えたもので測られる。-アルベルト・アインシュタイン‐ ν 挿絵付
少女から放たれたガルム達は、起点となっている陣を発見していた。
そして、その陣の在り処は逐一少女の元へと報告されていく。
「ねぇ、ルミネ、さっきから陣の位置をガルム達が知らせてくれているんだけど……」
「えぇ……」
少女は言い難そうに言の葉を紡いでいる。ルミネは何となくだが言いたい事を察していた。
「もう既に20個以上、見付けたみたいなんだけど?どう思う?」
「えっ?!そんな……に?」
少女から紡がれる言の葉に、ある程度の数を察していたルミネでもこれは流石に驚いていた。
ルミネとしては、これ程まで多数の魔獣化劣位魔族種を呼び寄せているのだから、一個や二個では足りないと思っており、多少の数では驚かないつもりはあった。
だから驚かない自負はあった。
だが、流石に20個はやり過ぎだとツッコミを入れたかったルミネだったと言える。
「こうなったら、虱潰しに潰して行くしか無いですわね。ここにいる劣位の総数も減って参りましたし、こうなったらアルレさまの使い魔を陣の破壊へと向かわせるしか他に考えが思いつきませんわね」
「まぁ、それが妥当よね?」
「それじゃあアルレさま、お願いしますわ」
「オルムガンドとトロール達はそのまま魔獣化劣位魔族種の殲滅に向かって!湧き出て来る悉くを殲滅してッ!」
「ヴァナルガンドはガルムと共に陣の破壊を主とし、戦闘は極力避け、陣の破壊を優先させる事!魔獣化劣位魔族種との戦闘行動はオルムガンドとトロールに全て任せる事としますッ!いいわね、みんなッ」
少女が紡いだ言の葉に使い魔達は従順に且つ迅速に行動していった。
そして使い魔達同様に、少女とルミネもまた手分けをして陣の破壊へと向かって行く事にした。
「これが、陣?」
「こんなモノが陣と呼べる……の?」
ガガガガガガァァァァァァ
少女がガルムに案内されて見た召喚陣はおよそ「陣」と呼べる代物では無かった。
それは簡素で得体の知れない装置が設置されているだけだったからだ。ただ……そこから魔獣化劣位魔族種が今にも湧き出て来ようとしている。
要するに湧き出て来ようとしている以上「陣」である事に変わりは無いのだが、初見で「陣」と見破る事はまず不可能だとも思えた。
取り敢えず状況からしてよくワケが分からな過ぎるのだが、少女はこの「陣」を破壊して回る事にした。
一方でルミネは驚愕していた。
「こっ……これはッ!?」
「な……なんで、これが、ここに……こんな所にありますの?」
ルミネは顔に普段見せないような表情を浮かべ、驚きを口から漏らしながらも心中では冷静を保っており、目の前で今まさに魔獣化劣位魔族種を湧き出させようとしている装置を停止させると、その装置を一つだけ抱えて持ち、後の物は破壊して回っていった。
ちなみに、停止させられた事で湧き出ようとしていた魔獣化劣位魔族種は塵となって消えた。
結果として合計数、32個にも及ぶ「陣」が破壊され尽くしたのは空が薄っすらと明るくなり始める前だった。
深緑の山間が薄っすらと赤紫色に染まり始め、川のせせらぎに負けじと虫達が騒ぎ始めた頃になって漸く、少女とルミネは旅館の部屋へと帰って来る事が出来た。
そしてこの現状になって、全ての使い魔達は役目を終えデバイスの中でカードになって眠っている。
それまでの怪獣大決戦さながらの光景は、ここに来てやっとの事で鳴りを潜める事に成功した様子だ。しかし怪獣大決戦とは言っても、個体性能の違いが大きい事を踏まえると少女の使い魔達に被害は無い。
そして、その餌食となった魔獣化劣位魔族種達は躯すら残さず、黒い霧とも塵とも言い難いモノになって霧散していったので跡は何も残ってなどいない。
「ふぅ……。汗を掻きましたわね。アルレさま、一緒に露天でも如何がです?」
「それ、凄っごくいいわね!一緒に入りましょ♪」
徐ろにルミネは少女を誘った。少女は眠気に負けそうだったが、その提案で既に眠気は吹き飛んでいた。だからそれに付き合う事にして、二人は数時間前に大暴れしていた露天風呂へと足を運んで行った。
脱衣所で浴衣を脱ぎ、一糸纏わぬ二人は露天風呂へと続く階段を降りて行く。
夏とは言え、山間の空気は朝が早いだけあって、ひんやりとしており、その冷たさが戦闘の後で火照った身体には気持ちが良かった。
更に付け加えるならば、女二人だけの貸し切りになっているとも言える露天風呂の為、恥ずかしさなど微塵も無く気持ち良く素っ裸になり、可憐な裸身を惜しむ事なく開放的に曝け出している。
そこには少女のコンプレックスも随分と落ち着いているように窺える。テンションが上がっているからかもしれないが、ルミネと自分を見比べて、かなり見劣りする自分のバストサイズに落ち込む事も無く平然としている様子だ。
ざばッ
「ぶるるるるるッ」
「アルレさま、犬じゃないんですから」
「えへへ」
少女は頭から盛大に湯を被り、先程吹き飛んだにも拘わらず戻り掛けて来ていた眠気を、再び頭を振って吹き飛ばそうとしていたが、ルミネにはその真意が分かるハズもなかった様子だ。
拠っていくら掛け湯をしても眠気は流れて行ってくれそうに無く、頭の隅で手招きをしていた。
一方のルミネはその少女の光景を見ながらも、肩から脚に、お腹から胸に、順を追って艶めかしい様子で湯を掛けて行く。
お転婆にも見える少女とは違い、大人の女性の魅力たっぷりに妖艶な雰囲気を醸し出しながらお湯を滴らせていた。
そして、一通り湯を掛け終わると青色を増してきた空を見上げ、「ふぅ」と儚げな溜め息を漏らすのだった。
ぴちゃんッ
ちゃぽんッ
「あッ!ルミネずるい!アタシも」
ざぱぁんッ
「ちょ、アルレさま。お行儀が悪いですわよ」
静かな音を立て湯に浸かったルミネの白い足が、温泉のじんわりとした温かさを感じていく。
ひんやりとした空気とは正反対の、多少熱めの湯に足先を浸け、徐々にその麗しい肢体を沈めて行ったのだが、その情緒溢れる風情は少女の行動で台無しと言えるだろう。
「あぁぁッ。あーッ、いつ入ってもいいモンねぇ」
「んーーーッ」
「もう、アルレさまったら……」
少女は湯に浸かりながら伸びをしており、ルミネは多少呆れたような表情を作りながらも、その先にある言葉を漏らす事はしなかった。もしもそんな事を言えば、逆襲されるから……なんて事を考えていたワケではない。
「で、ルミネ、何かあったの?」
「えぇ、ありましたわ」
「そっか。何かあったのかぁ」
「えっ?それだけですの?」
「何か言い難い事なのかなって思ったから、ちょっと、気を和ませようと思って。えへへ。で、何かあったその「何か」は、さっきの事?それとも、他の事?」
「他の事ってなんですの?」
少女はちょっとだけニヤニヤしながら、ルミネのオッドアイの瞳から整った顔全体へと視界を移し、そのまま首筋から肩へと這わせるような視線を向けていった。
そして最後には赤く上気した胸に、更にはお湯で揺蕩って見え辛い下半身の方へと視線をズラして行く。
「ちょっと、視線がヤらしいですわよ?アルレさまにそう言う趣味があるとは思いませんでしたわ」
「いやぁ、久し振りの完徹だから、テンションが可怪しいのよねぇ。あはは」
「もう……意味が分かりませんわ。所で「他の事」って、他にも何かありますの?」
「ん?ハロルドの事とか?」
少女は更にニヤニヤしながら、話題をガールズトークにすり替えようとしている様子だった。そこまで少女の口から出た事で、少女の先程の視線の意味を理解したルミネは、上気した胸以上の色付き方で顔を赤く染め上げていった。
「人間界に来て、アスモデウスさんの目は気にしなくていいんだから、誰に憚る事無く二人でラブラブ出来るでしょ?あっ!でも、安心して!アスモデウスさんには言わないから。アタシはルミネとハロルドの味方だからね!」
「ちょッ!アルレさま……」
「でもでも、子供は作ったら色々と問題だから、気を付けないとダメなんだから」
つつつーつんつんッ
少女はエロオヤジのような顔付きで、ルミネを値踏みするような視線でその肢体を舐め回しており、更には指先でその柔肌をなぞって突付いていく。
よって流石のルミネも過度なセクハラ発言と言動に対して笑っていられなくなったのも事実だった。
「ちょッ!何ですの、それ?もう、テンションがどうのこうのの話ではありませんわよ!?一回、頭を冷やす必要がありますわねッ!」
「えっ?!ちょ、ルミ……ネ」
「水球烈弾!」
ばっしゃーーーんッ
こうしてセクハラ少女に対してルミネの水の魔術が、その少女の頭上で炸裂し、結果的に少女は水浸しの刑になった。そして、熱めのお湯の温度は適温くらいまで下がっていた。
「ゴメンナサイ。ワルフザケガスギマシタ」
「分かれば宜しいのですわ。それに、人の胸を軽々しく触ってはいけませんわ!アルレさまだって、わたくしに触られたいとは思わないでしょう?」
少女は浴槽から出て風呂場の床の上に正座して謝っていた。そんな少女に対してルミネは胸を張って、少女の前に仁王立ちになっており、豊満な胸を強調してる様子にも見える。
「あれ?ルミネ、また大きくなってない?」
むにゅッ
もにゅッ
「えっ?ちょっと、アルレさま?わたくしの話しを聞いてまして?いやッ……あぁッ。だ……ダメです……わ」
ぴくッぴくッ
少女は仁王立ちで強調されたルミネの胸を鷲掴み、揉みしだきながら大きさを測っていた。
ルミネの豊満な胸は掌に吸い付くような柔肌でありながら、結構な弾力とかなりの重量感がある。そんなたわわな胸を少女は、これでもかと言う程に揉みしだいて行く。
まぁ飽くまでも少女としては、「完徹のテンションがそうさせている」と言う体で……ではある。
その一方で、ルミネは少女からのとんだ逆襲によって身体が気持ちよさから来る痙攣で、足がカクカクしてピクピクしている様子だった。
「ダメ……ダメ……そんな、あぁッ。あはぁ……ん」
「あれ?ルミネ?なんだ……アタシはてっきり……」
ルミネは艶めかしい声を上げて、へなへなと膝から崩れ落ち、「へたッ」とお尻を床に付けていた。更には下を向きながら力無く深呼吸をして、少女によって揉みしだかれた胸を上下させていた。そんな上気して火照った肢体は未だに少し痙攣している様子だ。
「はぁ……はぁ……はぁ……。酷いですわアルレさま……。これじゃもう、わたくしお嫁に行けませんわ」
「あはははは。それにしてもルミネって感度も凄いのね」
「もうッ!アルレさまなんて、知りませんわッ」
ルミネは顔を紅潮させ、決して嫌ではなさそうな表情で言の葉を紡ぐと、いそいそと湯船の中に入り口元まで浸かって行った。
ぶくぶくぶくぶく
「ねぇ、ルミネ?」
ぶくぶくぶくぶく
「ねぇ、ルミネ……?」
ぶくぶくぶくぶく
「ごめんって、さっきのは……そう!あまりにもルミネの身体が成長してるモンだから、イタズラしてみよっかなって思っただけなの!ただの好奇心と言うか、遊び心だっただけで、悪気は無かったんだってばッ!」
ぶくぶくぶくぶく
「怒ってる?」
ぶくぶくぶくぶく
「ぷいッ」
少女の紡いだ言の葉は、取って付けたような言い訳だった。言葉の表面ではルミネに謝っているが、ルミネはその裏面に気付いているからか顔を横に向け、可愛らしくむくれていた。
「だって……そうは言っても、イタズラしようって思ったってコトは、悪気があったと感じるのですわ?」
「うっ……」
それはまさに正論だった。問答無用で一刀両断の正論はルミネに勝利を齎したと言う事は言うまでもないだろう。
「それで、わたくしに聞きたかった本当の内容はなんですの?流石に先程のが本題って事でしたらもっと怒りますわよ?」
「うん……ねぇルミネ……。さっきの「陣」って、可怪しく無かった?」
「えっ?!」
少女から出て来た突然の言の葉にルミネは少しだけ「びくッ」と身体を震わせてしまっていた。
そして少女は、ルミネのその「震え」を見逃してはいなかった。要するに「何かを知っている」と直感が告げていた。
さっき「何かあったの?」とルミネに聞いた時には違和感を特段感じなかった事から、そのまま話し引き——即ち話しを敢えて逸らしたが今回はそのまま押す事にしたのである。
「何かを知っているのね?それって凄く言い難い事なのかしら?」
「恐らく、アレはわたくしが「魔界」にいる時に創った物を模倣して、誰かが造作していると考えられますわ」
ルミネの口振りは重く、声は非常に小さい。その事からルミネの中にどこか後ろめたい事があるのかもしれないが、少女の耳はその声をしっかりと聞き届けていた。
「えっ?それって、一体?」
「アレは、わたくしが「魔界」で発明した物に、凄く似ているのですわ。さっき、一つだけ回収致しましたの。だから、帰ったら解析しますけど、恐らく……」
少女は顔色があからさまに悪くなっているルミネの事を慮って、決して強くは言えなかったが、聞きたい事は山積みの様子だ。
だが山積みにしたモノを切り崩して、口から出さずに頭の中で整理した結果、1つ思い出した事があった。
あれは確か、今から二年半程前の事だろうか?ルミネが「家出をして来た」と少女に言った時……桜が咲いていたあの川原で出会った後……少女の屋敷で話しをした時……ルミネはさらっと言っていた……ような気がしてやまなかったのだ。
「それじゃあ、いや、でも……そんな事」
少女は自身の思考回路を総動員させ、自問自答をフル展開していた。その中にアテナの加護も加わっているが、ここでは余談である。
「どうしたんですの?」
ルミネは自問自答を繰り返し独り言をブツブツと言っている少女へと声を掛けるが、少女の耳にはルミネの声は入って行かない様子だ。
「ねぇ、ルミネ……ルミネが発明した装置って、誰でも簡単に作れる物なの?」
少女は一通り自問自答を繰り返した後でルミネの目を見て、ルミネの肩を掴んで前後に揺さぶりながら言の葉を紡いでいく。
そんな少女の動きに合わせてお湯がジワジワと波紋を広げていった。
「わたくしが構築した理論と同一のモノを一から組める人がいるかは分かりませんけど、組んである理論を模倣するだけなら、魔術の素養がある程度あれば誰にでも出来るとは思いますわ」
ルミネは伏し目がちにそう返していた。要するに、自分と同じ事を考えて、同じモノを創った可能性を否定していたとも言い換えられるだろう。
「実はね、ルミネ……人間界と魔界の関係性って密接になりつつあるの」
「えっ!?それって……それじゃあ、人間界から魔界へ、魔界から人間界に行き来する事が……?」
「前みたいに、そこまで膨大なオドやマナも現状では必要にならないわ」
少女が何故その事を知っているのか、ルミネには皆目見当がついていないが、少女が嘘を言っているとは思えず、その衝撃の事実を真正面から受け取ったのだった。
「あの装置が出回っていて、悪意ある者が魔獣化劣位魔族種の召喚に使っている可能性は否めないわ……ね。以前ならあの装置一つで、「魔界」から直接召喚する事は叶わなかったでしょうけど、密接になりつつある今なら、恐らく可能……ね」
「でも、何でですの?今更になって、人間界と魔界の関係性が変わったとでも言うんですの?」
ルミネの問いに少女は空笑いをしていた。その上で「そ、そろそろ長湯しちゃったから、上がろっか?」と応えていた。
その目は二人が浸かっている湯船を悠々自適に傍若無人に泳いでいたとも言えるだろう。
「怪しい……怪し過ぎますわッ!何か知ってるなら、仰って欲しいのですわッ!」
ざばッ
「さぁ、アルレさま!白状して下さいまし!」
ルミネは音を立て立ち上がると、あられも無い姿のまま、少女へと詰め寄って行く。
その行動にルミネの、たわわに実った赤く上気した果実は威勢を張るように揺れていた。
一方で少女は本当に逆上せそうだった。と言うか逆上せていた。
よってルミネに詰め寄られ、話しの流れ的に長くなりそうな事と、自分にとって分が悪い内容だった事から、湯船から逃げ出そうとした矢先に逆上せた少女の頭は、平衡感覚を失調させていた。
こうして少女はそのまま転倒し、お湯の中へと沈んで行ったのである。
「逃しませんわッ!お湯の中に隠れて逃げても、わたくしからは逃げられませんわよッ」
ルミネはお湯の中に沈んだ少女が逆上せた結果だとは考えていなかった。
そこで、お湯の中に逃げたと考えた少女を捕まえて、くすぐろうとしたのだが、沈んだ少女がそのまま「ぷかり」と浮かんで来た事でルミネの顔は真っ青になり、慌てて浴槽から少女を救助したのである。
「あー、危うく死ぬトコだったぁー」
「はぁ……ルミナンテ、一生の不覚ですわ……」
少女は今、下着姿のまま脱衣所で風を浴びている。
その横でルミネは情けない表情のまま掌を床に付き、脱力していた。
-・-・-・-・-・-・-
ルミネは少女を救出すると、露天の床に寝転がした。長湯したせいで少女の体温は高かったが、呼吸は安定していた事から、ルミネは急いで水の魔術を少女へと浴びせ体温を速やかに奪うと、少女は辛うじて意識を取り戻していった。
少女としては水の魔術を被った事で目を覚まし、頭がぼーッとしているものの、自分の目の前には今にも泣き崩れそうなルミネがいたので正直焦っていた。
「大丈夫よ、ルミネ……ありがと」
「アルレさま……良かった……」
「本当に……長湯は危険ね」
少女は傍らに座り込んでいるルミネの頬を撫でていた。その表情はとても柔らかく、ルミネをこれ以上心配させまいとする優しさに溢れている様子だった。
ルミネは少女に肩を貸し、少女は多少フラつくものの、そのまま階段を登り脱衣所まで歩いて行く。
脱衣所に付いた少女は下着を身に着け、浴衣を身に纏おうとした所で、眠気も重なった結果……力尽きた。
ルミネは力尽きている少女を発見して急いで抱きかかえるように起こすと、脱衣所にあった椅子に座らせ、風の魔術で身体を冷やす事にしたのだった。
「落ち着きまして?」
「えぇ……ルミネ、ありがと」
「アルレさま、飲みます?」
少女は未だ立ち上がる気力が無かったので、瓶牛乳を受け取ると椅子に座ったまま腰に手を当て、喉を鳴らして一気に「ごきゅごきゅッ」と飲んでいった。
ルミネはその光景に驚いた顔をしていたが、少女が口の周りに白ヒゲを作ったまま飲み終えると「ぷッ」と微笑い出していた。
「何ですの?それ?」
「えっ?何か可笑しかった?これが昔あった「日本」って言う国の文化として伝わっている作法よ?知らないの?」
「知りませんわ。わたくしは「魔界」産まれ「魔界」育ちですもの。それに、アルレさま……口の周りに……ぷっ」
少女は真面目な顔をして、ルミネに作法を説いたのだが、ルミネはその真面目な少女の顔を見て、微笑いが止まらなくなっていた。そして終いには、「クスクス」と微笑っていた可憐な声は、「あはははは」と口を大きく開けて笑うようになっていた。
そこには貴族令嬢らしさなんて微塵も無く、仲の良い友達とワイガヤで盛り上がり、楽しんでいる様子しかなかった。
「友達ってやっぱりいいモンだなぁ」
少女はそんな感想を心の中に秘め、口を開けて盛大に笑っているルミネと一緒に笑っていた。




