独立の気力なき者は必ず人に依頼す、人に依頼する者は必ず人を恐る、人を恐るる者は必ず人にへつらうものなり ‐福澤諭吉‐ ν 挿絵付
「そうだねぇ、アリアの見極めは、ハロルドッ!アンタにやって貰うコトとするッ」
「「「「えっ?えッ?!えぇぇーッ!!?」」」」
「ななな、何で、ハロルドなワケ?マムちょっと、何でそうなったの?」
マムの突然の発表に、少女が一番動揺していたようにも見えた。当事者のハロルド本人ではなく、アリア本人でもなく、何故か少女が……である。これだけを見ると、少女がアリアの見極めをしたかったようにも感じられるが、「ハロルドに見極めが出来るのか?」という一抹の不安の方が大きいだろう。
一方でルミネは驚きはしたが、ハロルドであれば特に「可も無く不可も無く」だと感じていた。
「いやなに、あたしゃ純粋な戦闘スタイルから判別しただけさ。ルミネは魔術士タイプだ。アリアと同系統の後衛職じゃ、実践での見極めがし辛いだろう?」
「それにアンタはオールラウンダーだから、どんな相手とも組めるが、アンタには別にやってもらいたい依頼がある。だったら残りは……用も無くここに出しゃばって来たハロルドしかいないだろう?」
「でもちょっと待って!やってもらいたい依頼って何?そこをすっ飛ばして、納得は出来ないわ」
「マムがそれらしい事を言って、アタシを厄介な依頼に駆り出そうとしてる」と少女の直感が告げていた。少女は自身に降り掛かる火の粉は払う主義だ。だからそこにハロルドとアリアの都合は一切無かった。
従って、アリアは少女とマムの攻防に目を白黒とさせており、ハロルドはオロオロとするばかりだった。
ルミネは特段会話に参加する事も無く、マムの後ろに広がる広大な青空を眺めていた。
この中で言えば、ルミネとアリアの上にいるアンディのみが達観していたと言えるかもしれない。
「それにしても、マムも良い所あるわね~。「依頼がある」とか何とか言ってたクセに実は温泉旅館のチケットだったなんてね」
「まぁ、あのマムの事ですわ。そんな単純なモノとは思えませんから、用心に越したことはありませんわよ」
少女は公安を出る際に依頼を渡された為に、今日は屋敷に戻らない旨を通話で爺に知らせ、寄り道して着替えを途中で2人分購入した。そしてそのままセブンティーンを走らせているのである。
ミトラから引き取ったフィオは、後ろの席で欠伸をしている。どうやら遊ばれ疲れたのかもしれない。
「ここみたいね?」
「なかなか趣きがある佇まいですわね」
セブンティーンが到着した場所は、少し古びた感じの佇まいの温泉旅館だ。時刻は夕方になっているが、季節的なものの影響でまだ暗くなる気配は見えていない。付近に停まっている車は無いので、客はいないのかもしれない……と言うより、旅をする事が一般人向けでないこのご時世、温泉宿を生業にして生活が出来るのか不思議なコトではあるが、そんな事は余談でしかない。
斯くして少女達一行はセブンティーンを降りると、旅館の中へと入って行った。
「いらっしゃいませ~。よくおいで下さいました。さっ、どうぞこちらへ。お部屋に案内致します〜」
「古びた建物の割には、中は綺麗ですわね」
旅館の中は清掃が行き届いているのだろう。外観は古めかしい古民家の様相だが、中は小奇麗な一般家屋となんら変わらなかった。
こうして2人とフィオは泊まる部屋へと案内されたのだった。
「さてと、ルミネ、何か感じる?」
「特に怪しい気配はありませんわね」
「じゃあ、問題無いわね。せっかくだから、楽しみましょうッ!」
ぴしゃッ
少女は依頼の調査よりも先ず、楽しむコトを優先させた様子だった。友達と旅をする機会なんて今までに一度もなかったコトから、はしゃいでいたとも言えるだろう。
そんなはしゃいでいる気持ちのまま、勢い良く気持ちの良い音を立てて開いた障子の向こうには、深緑で染まる山々が見えた。
眼下には清流の流れがあり、心地良い水の音を響かせている。キラキラと太陽を反射させている川面の中に時折光るモノが見えていた。もしかしたら川魚が泳いでいるのかもしれない。
「うん、良い景色ね~。ルミネも見てみなよッ!心が洗われるわよッ!」
「アルレさま、随分とはしゃいで……楽しそうですわね」
「そりゃモチロンよ!ルミネと人間界でこうして旅が出来るなんて思ってもみなかったもの」
少女は楽しそうに言の葉を紡いで、屈託の無い笑顔を友に向けていた。そんな屈託の無い笑顔を向けられたルミネは、楽しそうな少女の横顔を見て、顔を綻ばせてただ微笑んでいた。
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「先日通報があってね。正体不明の魔獣に襲われてるらしいのさッ。だから、それの討伐の依頼が来てる。被害はその旅館の畑で育てている野菜やら、倉庫が荒らされているそうだ。まだ、人的被害は出て無いそうだが、今後どうなるかは分からない。アンタなら楽に討伐出来るだろう?そしたらゆっくり温泉でも浸かっておいで」
「正体不明の魔獣?いやいや、野菜に被害が出てるなら、イノシシとか獣の可能性もあるわよね?何を根拠に魔獣って言ってるワケ?」
さっ
「受けるのか受けないのかどっちなんだい?」
マムは少女を見据えて言の葉を紡いでいる。そして、その手にはその旅館のものと思われるチケットがあった。
少女は疑問を投げながらもそのチケットに手を伸ばすが、その手は空を掴むばかりだ。
「で……ッ、その依頼をアタシに?」
ぴらぴら
「くそっ、取れない!」
「アンタが依頼を受けるならチケットは2枚あるから、ルミネと2人で行って来るといい」
さっ
「取れたッ!」
「じゃあ、アンタ達、任せたよ」
そんなチケットを巡る攻防戦があった後に2人は、この地に足を踏み入れたのだった。
とは言うものの少女達はマムの計らいで、普通に旅館の客として入って来たのだ。従って旅館としても依頼を受けたハンターが来たとは思っておらず、少女達もそれらしい素振りは見せないように心掛けていたのである。
「確か……マムが言ってたのは、正体不明の魔獣でしたわよね?念の為、トラップでも仕掛けておきますの?」
「うん……そうねぇ……ぱくッ。ッ?!うわッ!これ美味しい!ルミネも食べてみてよ、本当に美味しいよ」
「ふぅ……。まったく仕方ない人ですわね。でも、言われてみればこうして旅をするのも良いものですわね。だけれども……」
少女はルミネの提案に生返事を返しており、ルミネとしては多少呆れていた。しかし呆れながらも、自分と一緒にいて本当に楽しそうに笑う少女を見て、顔が綻ばずにいられなかったのもまた、事実だ。
当の少女は温泉ではっちゃけて騒いだ後の豪華なディナーに舌鼓を打っており、相当にだらけていると言える。
そして、楽しさのあまりに依頼の事なんかどうでも良くなっていたのだが……、これは誰が見てもそう思うのは当然だろう。
「アルレさま、わたくしは少し席を外しますわね」
「ルミネ、もうお腹いっぱいなの?全然食べてないじゃん」
「ちょっと所用を先にやっておきますわ」
ルミネはそう呟くと部屋を出て行ってしまった。少女はルミネの「所用」について心当たりが全く無かった事から気にも止めず、目の前に出されたディナーに賛辞を贈りまくっていたのである。
「ルミネ遅いなぁ……所用って言ってたけど、トイレにしては長いわね」
暫く経ってもルミネは戻って来なかった。少女の食欲は満たされつつあるが、まだ目の前には手を付けられていない食事が残されている。
だが、1人で食べていても今度は、急に寂しさを覚えたとも言えた。美味しい料理は1人で食べずに家族や、気の合う仲間や友と食べてこそ最高の調味料と言えるからかもしれない。まぁ、フィオもこの場にいるが、フィオはフィオで一心不乱に食べている事から、会話が成立しないので尚更のコトだ。
拠って少女は、中々帰って来ないルミネを心配に思いつつ、部屋の外へと出てルミネを探しに行く事を決めたのだった。
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「夜になってから、やはり雰囲気が変わりましたわね……。昼間には感じなかった気配……でも、しくじりましたわ……」
ざッざッ
ルミネは玄関から外の草むらを歩きながら、少しだけ後悔していた。何故ならデバイスを部屋に置いてきてしまったからだ。
それは「ハンターとしての素振りを見せないようにしよう」と少女が言っていた事の裏返しだった。その為、ルミネを始め少女もまた、装備は持って来ているものの身に着けておらず、旅館の浴衣一枚を身に纏っているだけの姿なのである。
更に付け加えるならばルミネは、その足に旅館に置いてあった備え付けの草履を履き、外の散策と洒落込んでいる……ワケでは無いのは言わなくても分かるだろう。
ちなみにルミネはデバイスが無くても戦闘は出来るが、少女との連絡手段が無い事への後悔だと言い換えられる。
「確かに今までに感じた事の無い感じがしますわね……。これは一体?」
ルミネが今現在いる場所は、外とは言えど旅館の敷地内であり魔術防壁の内側だ。
それなのに、その内にある違和感をルミネは感じ取っているのだった。
「念の為、遅延術式を周りに仕掛けておいた方が良さそうですわね」
「わたくしが遅れを取るとは思いませんけど、用心に越したことはありませんものね……」
ルミネはそう呟くと、術式を自身の周りに展開させていく事にした。
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「確かに昼間とは雰囲気が違うわね……。マズったかしら?」
少女は念の為デバイスのみを装備してルミネを探していた。流石にハンターである以上、言葉の壁には気を付けたとも言える。
まぁ浴衣にデバイスと言う、なんとも風変わりな格好であるがそれは仕方無いとしか言えないだろう。だが、それ以前に浴衣のサイズが子供用と言う事が腹立たしかったが、それも至って仕方の無い事と言えるので、余談にしておこう。
「何かいるみたいね?例の魔獣かしら?」
少女はルミネが旅館の外で探索している事を、バイザーからの情報で知り得ていた。だからルミネを探しに部屋を出たものの、直ぐに合流する事をせず、念の為に旅館の中を一通り探索してから外のルミネと合流しようと考えたのだった。
そして、探索を始めた矢先に旅館の廊下の一角に気配を感じたのである。
「クケケッ」
「ッ?!」
そいつは少女を見ていた。少女がそいつを見ていたように、そいつもまた少女のコトを見ていたのだった。
「見られてる!?デバイスオン・ソードモード」
少女は相手の視線を悟りいち早くデバイスに命じて、汎用魔力刃を展開していった。
何にせよここは屋内だ。愛剣は持って来ていないので、闘うのであれば魔術を使うか、デバイスを使うかの二択しかない。だが魔術であれば旅館に被害が出るのは明白であり、選択肢はデバイス一択しか選べないだろう。然しながら一方で刃の長さを調節出来る汎用魔力刃はこういう時に使い勝手が良い。
ちなみに、愛剣は「今」持って来ていないだけで、部屋でフィオとお留守番しているだけだ。
「魔獣……と言うよりは、魔獣化劣位魔族種ってところかしら?」
「でもここって防壁の中よね?元魔族であったとしても、魔獣化劣位程度に破れる防壁だとは思えないけど……」
少女は視線を逸らさず、距離を詰めていく。左手にはデバイスから伸びる汎用魔力刃がある。装備に拠るバフは無いし、魔術に拠るバフも掛けていない。身体能力だけで考えれば少女の方が劣勢なのは目に見えて分かる……が、そんな理由で背中を向けるワケにはいかない。
対する魔獣化劣位魔族種は少女を見据えているだけで、動く気配は無いように思えていた。
「どんなトリックを使って、魔術防壁の中にいるのかは分からないけど、アンタが悪さをしてるなら、ここで討伐させて貰うわ!」
しゃッ
「クケッ」
少女は一気に間合いを詰めると、廊下の角にいる魔獣化劣位魔族種へと汎用魔力刃を繰り出して突いた。
だが繰り出された刃が魔獣化劣位魔族種に突き刺さる前に、変な鳴き声と共に魔獣化劣位魔族種はどこかへと消えていったのだった。
「逃がしたか……。でもこれで旅館の中から変な気配は消えたわね」
どぉん
「ルミネ?!外で何か?ええぃ、このままじゃ旅館に被害が出ちゃうッ」
「簡易結界」
少女は旅館全体に結界を施していった。少女の結界発動と共に旅館全体をスクエア型の結界が包み込んでいく。これである程度は戦闘の余波を防いでくれると判断した少女は、踵を返して外にいるルミネの元へと大急ぎで駆けていくのだった。
魔獣化劣位魔族種はここ最近になって、人間界に勢力を伸ばして来ており、この魔獣は下位若しくは劣位の魔族が魔獣化した存在であるとされる。だが一方で、「魔界」に存在している大多数の魔族とは一線を画す存在と考えられている。
まぁ調べたくても「魔界」に行く事が出来ず、詳しい調査が出来ないので憶測でしかないが、それは仕方の無いコトだと言える。
昔は頻繁に起こっていた魔族に因る被害は、近年の人間界では数える程も存在していない。拠って、これらの魔獣化劣位魔族種は過去に於いて人間界侵略を目論んだ魔族の先兵として連れて来られたモノ達が、密かに繁殖し増殖したのだと考えられるようになっていた。
何故、最近になって魔獣化劣位魔族種が全国的に蔓延るようになったのかは解明されていないが、被害件数は着実にその数を増やしているのは確かで、魔獣化劣位魔族種が関与する依頼の件数も増えていたのは事実だ。
そしてこれもまた、「3.15の禍殃」の影響だと結論付けられていた。
魔獣化劣位魔族種自体、人語を話す事は出来ない事から、魔獣として生態系に組み込まれているが、れっきとした魔族に変わりはない。本来、種族として確立されている魔族が魔獣として貶められているのは学術的には問題なのだろうが、魔獣として裏付けされた内の1つに「容姿」がある。
魔獣化劣位魔族種の「容姿」は統一性が無く、獣のような姿をしている者から、ヒトガタをしている者まで千差万別なのだ。これは魔族がマテリアル体を持たない種族の為に仕方の無いコトと言えるのだが、その事は広く知られていない。
だから、魔獣としての分類に入れられたのかもしれない。
然しながら種族的には魔族である事に違いはないので、魔術を行使する事が出来る一方で、その身体に生える爪や牙と言った得物を使った物理属性の攻撃も行う事が報告されている。要するに物理攻撃も虚理攻撃も可能な厄介な魔獣とも言える。
「ッ?!なんてことッ」
「クケケ」
「ククケ」
「ケケケ」
「これだけの量に囲まれていたなんて……でもどうやら魔獣化劣位魔族種みたいですわね?全く……魔族の面汚しめ」
ルミネは珍しく嫌悪感を顕にしながらも、自身の周囲を囲んでいる敵の多さに苦慮している様子だった。
ルミネを取り囲んでいる魔獣化劣位魔族種の総数は30体を下らない。そしてそれらの魔獣化劣位魔族種達は、ルミネを見据えて奇声を発していた。
その光景がルミネにとっては、より一層腹立たしくしていたと言える。
ルミネを囲んでいる大小様々な大きさの魔獣化劣位魔族種の群れは、誰かに指揮されているかのように魔術を一斉にルミネに対して放っていった。
火、水、土、氷、風といった、基本属性だけでなく上位属性の魔術も含めてルミネの全方位から放たれていく。
どどどどどどどぉん
「魔獣化劣位如きが、上位属性を使うなんて……どういうカラクリですの?でも、その程度で、わたくしは倒せませんわよ」
一斉に放たれた魔術はルミネに襲来したが、当たる直前にルミネの魔術防壁に拠って爆散した。
しかし、辺りには土煙が充満して行った事から視界は限り無くゼロになったのである。
「さぁ、逝きなさいッ!」
バリバリバリバリッ
ルミネは自身の周囲に展開していた遅延術式を解凍し、全方位に向けて雷撃の鎖を放っていく。
ルミネから放たれた「雷鎖剛縛」は計12本。それらは土煙に紛れて波打ち、鞭のように撓りながら、魔獣化劣位魔族種に雷撃を入れていった。
拠って、例え視界がゼロでも不利に働くワケではなかったと言える。
鎖に捕らわれ雷撃を受けるモノ。鎖に打ち付けられ粉々に散っていくモノ。鎖に穿かれ絶命するモノ。
縦横無尽に奔る「雷鎖剛縛」に拠り、阿鼻叫喚の地獄絵図のような魔獣化劣位魔族種達の悲鳴が周囲に木霊していったのである。
「だいぶ減ってくれたようですわね」
「閃光礫弾!」
シャシャシャッ
「ルミネ、無事?」
「えぇ、ナイスタイミングですわ。ところで、コイツらは魔獣化劣位魔族種……ですわよね?」
「えぇ、恐らくね。何で、こんなに湧いてるのかは分からないけど」
「アルレさまから見てもコイツらが魔獣化劣位なら、間違いは無いのでしょうけど……」
ざっざっざッ
「ククケ」
「ククク」
「ケクク」
ルミネは窮地ではなかったが、旅館から出て来た少女は援護射撃で光の魔術を放っていた。そして、最初に囲んでいた魔獣は粗方一掃出来たワケだが、周囲には更なる援軍が近寄って来ていたのだった。
「ざっと50体くらいに増えましたわね……はぁ」
「どうしよっか?」
「でもここって、防壁の中ですわよね?」
ルミネが放ったこの言葉は特にルミネに何かしらの意図があったワケでは無い。
だが少女はその言葉から、当初覚えた違和感を思い出さずにはいられなかった。
「そうね、それよッ!」
ざしゅッ
「どれですの?」
ぼふんッ
「ここは、防壁の中なんだから、コイツらは外から湧いて侵入って来てるって考えるより、この防壁の中で湧いてるって考えた方が理に適ってると思わない?」
しゅばんッ
少女とルミネは迫り来る魔獣化劣位魔族種を打ち倒しながら、その数が中々減らない魔獣化劣位魔族種に焦る事は無く、冷静に思考を巡らせて言の葉を紡いでいた。
2人の実力があれば、この程度の魔獣に遅れを取るような事も考えられないし、数の暴力が暴力にならない事も当たり前なのだ。
だが、その数は減るよりむしろ、時間を追うごとに増えていると言っても過言ではない。
「まぁ、そう考えるのが妥当ですわね。でも、倒しても倒してもキリがありませんわ。所詮は魔獣化劣位と言っても多勢に無勢では、何かしらの起点を探しに行くのは容易ではないですわよッ!」
ばばばばばッ
ルミネは範囲魔術を展開し、魔獣化劣位魔族種を一網打尽にしようとしているが、倒しても倒しても湧いて出て来るばかりか数を増やし続けている為に、苛立ちを覚えつつあった。
まぁ、ルミネ自体が魔族と言う事も起因しているのかもしれない。
「じゃあ、こっちも仲間を増やしましょッ!」
「はい?」
「デバイスオン、使い魔・ガルム、続けて使い魔・ヴァナルガンド、使い魔・オルムガンド、使い魔・トロール」
「えっ?魔犬種以外の魔獣を、そんなにたくさんいつの間に?!」
少女は自分の使い魔達をデバイスから呼び出し、少女達と魔獣化劣位魔族種の間に少女達を取り囲む総勢25体の援軍が現れたのだった。
流石にルミネもこれには驚きを隠せなかったと言える。
「アナタ達、魔獣化劣位魔族種達を撃破して、時間を稼いで!ただし、周辺の建物に被害を出しては駄目よ!ガルム達はアタシの元へ」
グルルルォ
ウガァァァァッ
ワオォォォォォォッ
少女の援軍は魔獣化劣位魔族種達へと各個喰らいついて行った。
ヴァナルガンドはその牙と爪で刻んでいく。オルムガンドは長い身体を使って獲物に巻き付き縊り、そして鋭い牙で噛み砕いていく。トロールはその強大な膂力で叩き潰し、踏み潰し、捻り潰して粉砕して行く。
少女が呼び出した使い魔達は魔獣化劣位魔族種に劣るような存在では無い。寧ろ、魔獣化劣位魔族種が複数体で掛かっても、遅れを取る事が無い程の存在である。
ただしガルムだけはその場合不利になるので、それを見越して少女はガルムを戦闘に参加させずにいた。
しかしながらそれほどの魔獣を、使い魔として計20体。流石のルミネもこの光景には口をあんぐりとさせていた。
「さて、アナタ達は魔獣化劣位魔族種の発生起点を探して!」
がうがうッ
がるるッ
こうしてガルム達は方々へと散っていった。ガルムの嗅覚を持ってすれば立ちどころに起点は見付けられるだろう。戦闘班と探索班に分かれた使い魔達は、それぞれがそれぞれの役目を果たす為に必死に動いていく。
斯くして少女が呼び出した「援軍」に拠って旅館の庭は、さながら怪獣大決戦の舞台と成り代わっていったのだった。
旅館の女将を始めとする従業員達が見ていなかった事が幸い……とでも言うべき事態であった事は言うまでもなく間違いが無いだろう。




