カミサマノヨウソ ν 挿絵付
「なッ、何故だッ!何故だッ!何故だあぁぁぁぁぁッ!」
「何故だッ、何故だッ、何故だッ!何故、紛い物を断ち切れん!何故、本物が負けるッ!何故ッ?何故ッ?何故ッ!?」
当然の事ながら喚いているのはその手にあったレーヴァテインを失ったセックだ。本物であり「勝利」を齎すハズのレーヴァテインが自身の手から弾かれた事、そして紛い物に撃ち勝てない本物に対して、ありとあらゆる疑問がセックの感情を支配していた。
更には「何故?アタイが死の恐怖に苛まれているのか?」と言う事もまた、セックの心を輪を掛けて乱していった。
「応え合わせが必要かしら?」
かちゃッ
少女は創り上げたレーヴァテインの切っ先を、セックの首元に突き付けながら言の葉を紡いでいく。
少女が魔術に拠って創り上げたこのレーヴァテインは紛い物では無い。至って正真正銘の本物なのである。しかしそれでは語弊が生じるかもしれないので更に付け加えるならば、概念魔術のみでレーヴァテインを創造していたならば「贋作」に当て嵌まると言う事だ。
拠って、少女が概念魔術にそれ以外の要素を付加して創り上げたので、正真正銘の本物と言う事が出来る。
それは即ち、「少女が自身の腕でレーヴァテインを造ればそれは贋作であり、造られた贋作が本物と撃ち合えば勝てる道理は無い」と言う事になる。
セックはこれについて言及しているのだ。だから、打ち負ける道理が分からないでいた。
少女が行った「概念魔術」は、その剣を造った「本人=ロキ」に剣を「打たせる」事から始まった。そして打たせたその剣を、剣に認められてはいないが扱う事が出来る「仮の使い手=スルト」に剣を「使わせる行為」と言う概念を創り上げる事で帰結した。
拠ってこれは、本物と同等以上の贋作の作成であったと言い換えられる。
対するセックが持つレーヴァテインは、概念を少女に因って書き換えられており、それを本来の製作者以外の者が手を加えて直し、あまつさえ勝手に強化している。それによって、正当な「敗北の因果を断ち切る」という勝利の剣の由来にもなった概念強度を貶めていた。
これに更に付け加えると、使用者が本来の剣から認められた使用者ではないので、使用者が「紛い者」とも言えよう。
レーヴァテインに認められた者は、使用者と管理者の2人だけしかいない。それが現しているのは、「フレイ」と「シンモラ」である。
スルトは、シンモラから「譲渡」される事によって、使う事を許される仮の使用者であり、それらの事が全て加味された結果、贋作が本物を超えたのである。
言うなればセックの持つレーヴァテインを本物とするならば、少女が造ったレーヴァテインはレーヴァテイン・真打、またはシン・レーヴァテインとでも名付けられるだろう。
要するに真打が、負ける道理など無いのである。
「そんな事……認めない……認めない、認めないッ」
ぎりッ
「来い!レーヴァテイン、アタイの元に!」
「させるワケがないでしょう?」
しゅぱんッ
セックは最後の最後で、無駄な足掻きをしようとした。首元に切っ先を突き付けられたままで。
少女は冷たく突き刺さるような言葉を冷酷な表情で紡ぐと、セックの頭は胴体とは泣き別れて床に転がっていった。その表情は口を開け目を見開いており、驚愕とも恐怖ともつかない様相だった。
持ち主を失ったレーヴァテインはセックの元に向かう途中で床に転がり、「かららんッ」と音を立て沈黙していた。
「サリエル、大丈夫?」
「死守すると言っておきながら、酷い体たらくだったな」
「大丈夫よ、サリエルが身体を張ってくれたあの一瞬がなければ、間に合わなかったかもしれないもの。ありがとう」
「あはは、そう言ってもらえるだけで、不詳は救われる」
セックの圧と斬撃に因って弾き飛ばされていたサリエルは、その身体を壁に強く打ち付けられており、見た感じ重傷の体だった。少女はイズンから貰った「林檎」をサリエルに渡すと、スサノオの元に向かう前にサリエルに紡いでいく。
「ちゃんと食べられる?」
「口移しで食べさせてくれれば、「愛」の力で最大限の効果が発揮出来る……だったか?」
「サリエル風に言うと、子供出来ちゃうけどね。にひッ」
「流石に、そなたの子供なら孕んでもいい気はするな。試してみるか?にやッ」
少女はちょっと揶揄ってみたくなったのだが、サリエルは思ったよりも手強かった。だから屈託の無い笑顔を返すとそのままスサノオの元へと向かっていった。
「えっと、アンタは大丈夫そう……よね?」
スサノオは肩口から出血をしており、身体中にレーヴァテインで斬られた傷が生々しく痛々しかった。だが、どの傷もそれ自体は深く無さそうだったので少女は念の為「林檎」を渡す事にした。
「ほらッ。ちゃんと食べなさいよッ!」
「なんだ?功労者のオレサマには食べさせてくれてもいいんだぜ?」
「@#$%&*☆¥※〒ッ!?///」
「ん?誰もオレサマは口移しなんて、ひとッ言も言ってねぇけど、おめぇなんで顔を赤くしてんだ?」
「くぁwせdrftgyふじこlpッ?!ちょ、ちょ、ちょ……なんでアンタが……ま、ま、まさかッ!」
「あ、ヤベッ」
ぼしゅうッ
ばたッ
「あーあ、やっちまったな、こりゃ」
少女はスサノオの一言で全て悟った。スサノオがちゃんと覚えていた事を知ってしまったのだ。そして「恥ずか死」の結果轟沈した。
まぁ、ここはまだ敵の本拠地に変わりはないのだが、恥かしいものは恥かしいし、キャパオーバーしてオーバーヒートすれば、極度の緊張感から解放された今、少女だからこそ例外ではない様子だった。
「本当に罪な男で、悪い神族だ」
「ここは……?」
「おぉ、主よ!やっと目覚められましたか?」
連合軍の天幕の中でオーディンは目覚めた。そのオーディンの傍らにはテュールを始め、ニョルズ、ヴァーリなど連合軍として「アースガルズ」を取り戻すべく闘い抜き、生き残った神族達が控えていた。
そして、その誰しもがオーディンの目覚めを待ち望んでいたのだった。
オーディンはその身に重傷を負い、一命こそ取り留めたものの、負った怪我は想像以上に深く、昏睡状態の為に意識は一向に戻る気配がなかった。
いつ命数が尽きるとも分からない状態であり、戦線に出ない配下の神族達は一進一退の戦況にやきもきしていた。
そんな時、セックを倒したと話す少女が1人で天幕を訪れたのだ。そして少女は事情を話した上でオーディンへの面会を求めたが、当然のようにオーディンへの面会が認められる事はなかった。
だからと言って諦めるワケがない少女は、イズンから貰った「林檎」を強引に受け取らせると連合軍の陣幕から外に出て姿を消していった。
「林檎」を渡された者はそれが「林檎」だと分かるや否や天幕の中へと駆け込んで行き、その後「林檎」を持って来た少女を探したが見付ける事は出来なかった。
斯くして少女達はオーディンの目覚めを見届ける事なく、ヘラの待つ「ヘスペリデス」へと帰る事にしたのである。
ちなみに、ミョルニルはヘルモーズから教えてもらった方法で、サイズを小さくして終始スサノオに持たせていた。だが陣幕の中に入る際にスサノオが渋った為に返しそびれてしまったのである。
まぁ、天幕に赴いた時に少女が持っていたとしても、無碍に扱われた事から返さなかった事は明白だったがこれは余談である。
拠って「ミョルニルを返す」と言う目的は今回、完結に至らなかったので、これが依頼だったならば達成出来ずに失敗に終わったコトになる。
返せなかったミョルニルはそのままヘルモーズに託され、後日「アースガルズ」に返還される事になるが、これもまた余談である。
「吾の生命、尽きる事は無かったか」
「ところで戦況は、どうなっている?「神々の黄昏」はどうなったのだ?」
オーディンは横たわっているベッドの上から、周りに侍る者達に現況の確認を行っていくのだった。
少女達が「ヘスペリデス」に着いた時にはもう、明け方近くになっており、東の空が薄ぼんやりと明るくなり始めた頃だった。
昼から夜、夜から昼へと虚ろうように変わっていくマジックアワー、そして明け方のブルーアワーからゴールデンアワーに変わっていく様相は文字通りこれから「アースガルズ」を明るく照らしていく事だろう。
「おかえりなさい」
ヘラは「ヘスペリデス」へと近付いてくる少女達の気配を感じ取り、「ヘスペリデス」の門の所まで出迎えに出ていた。
「ただいま戻りました、ヘラ叔母様」
「良かった、本当に無事で良かった。ありがとう、本当にありがとう。無事に帰ってきてくれて」
少女は出迎えてくれたヘラに対して、ピースサインを作りながら屈託の無い笑顔を向けていた。
ヘラは目を潤ませながら少女の元へと歩みを進め、自分に対して笑いかけている少女を優しく抱き締めると少女の髪を濡らしていった。
ヘラに抱き締められた少女は、ヘラの背中に手を回してヘラの胸元に顔を埋め、その温もりを感じていた。
少女達はこれ以上、「アースガルズ」の闘いに身を投じようとは思っていなかった。
少女が気にしている事や気になっている事は幾つもあったのだが、これ以上、積極的に関わってはいけない気がしていたのだ。それ故に、「ヘスペリデス」にて休息を取り終えた後、少女とスサノオは共に闘ったサリエルに、そして世話になった管理者イズンとヘラに別れを告げ、「ヘスペリデス」を後にする事を決めた。
ヘルモーズはバルドルの事で頭がいっぱいいっぱいな様子だった事から放置しておいた。少女としてはヘルモーズの性格からして湿っぽくなる気がしたから……という事もまた事実だった。
サリエルは凄く残念そうな顔をしていたが、最後には笑顔で2人を見送っていた。少女は別れ際、使わなかった「林檎」をイズンに返そうとしたが、イズンから「それはもう、あげた物なんだから持って帰って必要な時に使っていいよー」と言われたので、ありがたく貰っておく事にした。
どうやらこの果実は腐りもしないし劣化もしないらしい。いつか必要になったら使わせて貰おうと考え、デバイスの中で眠らせる事にした少女だった。
ヘラは凄く心配そうな表情をして少女を見詰めていた。「いつでも遊びにいらっしゃい」と言ってくれたヘラの優しさに少女は心を打たれたが、長々と紡ぐと別れが一層辛くなると思い「ありがとうございます、ヘラ叔母様」とだけ返すと空を見詰めていた。
こうして別れを済ませた少女はスサノオと共に「ヘスペリデス」から一路「神界」へと戻っていったのである。
「ねぇ?スサノオは、「高天原」に帰るの?それとも、自分の「根の国」に帰るの?」
「神界」に戻り暫くぷらぷらと歩いていた2人だが、見渡すばかりの草原を見付けたので休憩する事にしたのだった。休憩している2人の間を、気持ちのいい風が吹き抜けていく。陽の光は暖かく少女は余りの気持ちの良さに、思わず草原の上に寝転がっていった。
それはまるで無邪気な子供のようとしか言えなかった。
スサノオはそんな少女の無邪気さに付き合う事にして、雄大な草原の上に寝転がっていく。
フィオは寝転がっている少女の元から離れ、周囲を飛び回って鳥や蝶を追い掛けて遊んでいた。
「オレサマは根っからの根無し草だからな。「高天原」に帰ってもあの暴虐姉にコキ使われるだけだし、「根の国」の、あのジメジメ感が性に合わねぇ」
「ぷっ、実にスサノオらしいわ」
「もういっその事、オレサマも、おめぇと一緒に人間界に行くってのもアリかもな?にかッ」
スサノオは揶揄うように紡ぐと、寝転がっている少女の顔まであと数cmの所まで自分の顔を近付けて、哂った。それは裏表のない健やかな笑顔だった。
「ちょ、ちょっと、近いってばッ///それに変なコト思い出しちゃうじゃないッ!や、やめてよ……もう」
「でもま、オレサマが人間界に行ったら行ったで、スグに飽きちまうかもしれねぇな。おめぇみたいな強者がゴロゴロいればそれはそれで楽しそうだが、そんなヤツにはそうそう出会えねぇだろ?よっこいせっと」
スサノオは少女の抗議を受けたからか、少女の顔に何1つ触れる事無く自身の顔を離し、そのまま立ち上がっていった。
少女としてはドキドキさせられた事が癪だった様子で、耳まで真っ赤にしながら「ばか」とだけ小さく小さく返していた。
「そっかぁ……。でもま、闘う事しか考えていないスサノオらしいわね」
「まったく、オレサマをなんだと思っていやがるんだか」
スサノオは少女が意図せず口から漏らしていた、残念そうな声のところだけを聞こえないフリをして少女に手を差し出していった。
少女はその手を取り立ち上がると、今度はちゃんと声に出し笑顔を魅せていた。
「ありがと、スサノオ」
「じゃあ、ここでお別れねッ!」
あの草原での出来事から数日が経っていた。2人は特別何かを急いでいたワケではなかったので別れを惜しんでいるかのように、色々な事を語らいながらゆっくりと旅をして目的地へと向かっていたのだった。
たかだか数日の旅の途中で、様々な事が起き2人の絆は深まっていったのだが、そこから関係が発展する事もなかったのでこれは余談でしかない。
こうして2人は旅の目的地である、「高天原」に繋がるポータルの前に来る事が出来たのだった。
「やっぱりオレサマは「高天原」には帰らねぇ。暫くの間、「神界」のあっちこっちの国を回って武者修行でもするさ。「神界」にゃまだまだ強えぇヤツがゴロゴロいそうだしな。それに飽きたら、人間界に行って、おめぇと手合わせすっから、それまでちゃあんと腕を磨いておけよ」
「うん、スサノオの性格ならそんなコト言う気がしてた。でも、アタシが1番最後なの?アタシはヒト種だから、そんなに長い事放置されると歳取って弱くなっちゃうかもよ?」
「なぁに、そしたら人間界でおめぇよりも強えぇヤツを探すだけだ」
「ホントに闘うコトばっかり……バカね」
少女は正直な所、寂しかった。だがそれを悟られないように笑顔を作り皮肉まで付け加えて紡いでいく事しか出来なかった。
「えっ?///」
それは突然の出来事であり、スサノオの想定外の行動に少女は驚きを隠せなかった。そして少女は動揺のあまり耳まで真っ赤にしながら、モジモジする事しか出来ないでいた。
そんな想定外の行動……それはスサノオが優しく少女の事を抱き締めたのだった。
「ちょ、ちょッと、どうしたのよ一体?///」
「いやなぁに、おめぇがそんな寂しそうな顔をするモンだからよッ」
「さ、寂しい事なんて、あるワケがないじゃないッ!あ、アンタの方が、アタシと離れるのが寂しいんでしょ?」
「ははは、かもしんねぇな」
スサノオは少女に対して紡ぎ咲っていた。その顔はとてもいい笑顔だった。
戦場での苛烈な闘神の姿からは想像も出来ない程の笑顔に、少女は内心「どきッ」とさせられていた。更にはいつもなら皮肉を言えば突っ掛かって来るにも拘わらず、それに対して素直に返されたコトがなんか癪に障っていた。
素直になり切れないのは少女の方であり、それがより一層癪に障らせたのだろう。
「なんで……よ。そんなのズルいじゃない」
2人の間に沈黙の時間が流れ、少しばかり強くなった風が少女の髪を揺らしていく。
目の前にあるポータルを利用する者は誰もいない為に、周囲には誰かの気配もなく2人はなんか気まずいまま、その場に立ち竦んでいたのだった。
「そ、それじゃあ、ここでお別れねッ!」
少女は何かを吹っ切った様子で、とびっきりの笑顔をスサノオに贈った。別れを受け入れたスサノオは歩き出し、その背中を見送る少女は精一杯の皮肉を込めて「今までありがとう」と結んでいった。
歩き始めたスサノオは背中が聞いた「ありがとう」に対して、少女に振り返る事はせず、ただ右手を挙げて応えていた。
少女が見送ったその背中は、どこか哀愁を漂わせていたのだった。
少女が「高天原」へと無事に到着した頃、「アースガルズ」に再び進軍を開始させていた連合軍は、オーディン主導の元に無事に「ヴァーラスキャールヴ」を陥落させる事が出来ていた。
「神々の黄昏」を巻き起こした敵の軍勢は最後の一兵になるまで必死の抵抗を見せたが、最後には力を取り戻したオーディンのグングニルに因って、その生命の全てを狩り取られていき「神々の黄昏」は終結したのである。
「ヴァーラスキャールヴ」を無事に陥落させ、自身の高座である「フリズスキャールヴ」に落ち着いたオーディンは、「神々の黄昏」終結の余韻に浸る事無く、世界の隅々まで観測を始めていくのだった。
オーディンが観測していたのは未だ「アースガルズ」に戻っていない「消えた神族達の行方」である。
こうしてセック達首謀者らに因って捕らえられていた者達は順次観測され、「アースガルズ」からの軍勢はそれらの者達を救出しに向かう事になる。
然しながらフレイを始めとするバルドルの軍に参陣させた者達の行方は、「フリズスキャールヴ」の観測に引っ掛かる事なく終ぞ分からなかった。
オーディンは「何故?」と顔をしかめていたが、神族は肉体が死んで魔石になったとしてもいずれは復活するので、帰って来るのを気長に待つ事にして今は、自分がすべき事を次々にこなしていくのだった。
そんな中、オーディンが観測していく途中で、「高天原」にいる少女も観測する事が出来ていた。流石に「フリズスキャールヴ」では観測しか出来ず、話し掛ける事は不可能なのだが、それでもオーディンは感謝を少女に言いたかった。
だから直接は伝えられない感謝をただただ漏らす事しか出来なかったのだった。
「今回は大変世話になった。お嬢さんの未来に大いなる祝福があらん事を」
-・-・-・-・-・-・-
「あぁ、「高天原」にやっと帰ってこれたわね」
「ママ、これからどこへ行くの?」
「アマテラスさまっていう、凄く偉い人に挨拶してから、人間界のアタシの屋敷に戻るつもりよ。アマテラスさまは凄く偉い神族だから、ちゃんと良い子にしててね。粗相をしたら絶対にダメよ!」
「はーいッ!良い子にしてるね、ママ」
フィオは少女に素直に返事をしており、少女はそんなフィオの頭を撫でていた。
「今回は真にありがとうございました」
アマテラスの社に到着した少女は前と同じように「所作」を繰り返し、無事にアマテラスと対面する事が叶っていた。
そして、社の中にアマテラスの放つ可憐な「詩」が響き渡っていく。
「あら?その子は……」
「あっ、この子は!」
「えぇ分かっています。大丈夫よ」
「大人しい良い子ね。似なくて良かったわ」
「あはははは」
「さて、この度は大層な働きぶり、真、感謝の意に堪えません。「神界」に住まう者として、あれを野放しにしておけばこの「高天原」の平穏も脅かされていた事でしょう」
「いえいえいえ、アタシの方こそ、スサノオに助けられてばっかりだったし、アタシ1人の働きじゃなくて、スサノオにサリエル、ヘルモーズといった仲間がいたからこそ為せた結果です。それに、アタシの力で迷惑を掛けてしまった人達もいるし……」
アマテラスは純粋に感謝を少女に紡ぎ、少女は謙遜から一気に消沈していく。
「大丈夫。きっと何とかなります」
「アマテラスさま……」
「貴女が為さった事を悔いてはなりません。悔いればその行いは翳ってしまいます。胸を張って、貴女が為さった事を誇りに思いなさい」
「――はいッ。分かりました、ありがとうございます」
アマテラスの「詩」はそう結ばれた。全ての行いが「是」である神族とは違い、行い全てに「是非」が問われるヒト種である少女は未だ割り切れていない思いがあった。
しかしその可憐な「詩」に少女は救われた気持ちで胸がいっぱいになり、一筋の雫が溢れ落ちていったのである。
少女がアマテラスの元を辞すと、そこには懐かしいタケミカヅチの顔があった。それはこの世界へと最初に案内してくれた懐かしい顔であり、タケミカヅチもまた少女の事を心配していたうちの1人だった。
少女は自分の力で「神界」と「人間界」を行き来出来るが、「わざわざ力を使わなくてもポータルを使えばいい」と言われた事もあり、それに甘んじてタケミカヅチにポータルまで案内してもらう事にしたのである。
まぁ、タケミカヅチとしては「少女の武勇伝を聞きたい!」という思いと、「スサノオが他国で何かを仕出かしてしまったのではないか?」という確認がしたかった事もある為に、詭弁を弄したに過ぎない。
「タケミカヅチさん、ここまで案内して頂いて、ありがとうございました」
「短い時間では御座ったが、なかなか大層なご活躍を為されたようで楽しい武勇伝で御座った」
「それならば良かったです。それじゃあ、アマテラスさまにも宜しくお伝え下さい。タケミカヅチさんも、お元気で」
少女は言の葉を結び、タケミカヅチは手を挙げて応えていた。少女はこうして晴れやかな気持ちでフィオと2人、今度こそ人間界へと帰って行ったのだった。
「また、どこかでお会い出来るのを楽しみにしておりますぞ」




