ロクデモナイノハボクカキミカ ν 挿絵付
少女はふと部屋の中を見回していた。何か気になった事があったワケでは無く、ただなんとなく見回しただけだった。
やはり暗殺に近い方法を取った事が、センチメンタルにさせていたのかもしれない。
そしてふと見回した結果、見てはいけないモノが視界の隅にあった気がしたのである。
言い換えるならば、見てはいけないモノを見てしまったのだ。
「アレは、まさかレーヴァテイン?何で……ここに?」
「そうだあの時、シンモラが死んだ後でアタシはあのままあそこに、レーヴァテインが刺さったままにしてたんだったわ」
シンモラを貫いた剣、勝利の剣と謳われる北欧神話に於ける最強の一角にあたる剣・レーヴァテイン。それが、部屋の片隅にあった。
その剣を見た途端、少女の背中に一筋の嫌な汗が流れて行く。見ただけなのに足は竦み力が抜けていくようだった。
ここにいてはいけない。
ここに居てはいけない。
此処に居てはいけない。少女の心が、けたたましくアラームを鳴らしていた。
早く逃げろ。
早くにげろ。
早くニゲロ。少女の心がまるで呪詛のように植え付けられた恐怖を語っている。
「スサノオ待って、まだ終わってないかもしれない」
「おいおい、どうした?何が終わってないって?」
突如として震え出した少女の変化に、スサノオは心配になりながら駆け寄っていった。
「あ、あの剣が、ここにあるのッ!あの剣がッ?!」
「えっ、ウソ……でしょ?」
少女の目に映ったのは、スサノオが心臓を貫き確かに死んだハズのセックが、ゆらりと立ち上がっていく姿だった。
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セックは目を開けた。自分の胸の上には既に事切れたスカジが横たわっている。白目を剥き口から泡を吹いたままスカジはセックの上で躯となっており、スカジの胸から今も流れ続けている血でセックは血塗れだった。
セックはスカジの顔を掌で優しくなぞってスカジの瞳を閉じると、ゆっくりとスカジの亡き骸を自分の上からずらし、そして、その場に立ち上がったのである。その視界には侵入者が3人映っていた。
そして、自分達を殺した男に向かってセックは得物も持たずに速攻を仕掛けたのである。
「スサノオ殿、後ろだッ!まだ生きているぞッ」
「なにッ!?」
その声は少女の後ろから響いて来ていた。サリエルがスサノオに対して声を掛けたからだ。サリエルの言葉にスサノオが急ぎ振り返ると、自分まであと一歩の所まで迫っているセックの姿がそこにあった。
「ちぃッ、気付かれたかッ。気付かれなければ素っ首をねじ切ってやったものを……。仕方ないレーヴァテイン来いッ!」
すちゃ
「その首、斬り落としてくれるッ」
ざんッ
レーヴァテインをその手に収めたセックは、スサノオに対して先ずは斬撃を放っていった。
しかしスサノオは未来予見の効力で、セックの剣撃を紙一重で躱すと少女を抱きかかえて距離を取っていく。
「心臓を刺して絶対に死んだと思っていたが、生きてるとはどういった了見だ?」
「レーヴァテインの「概念」はあの時書き換えたハズなのに、どうしてッ!」
スサノオは少女に問いを投げていたが、少女はセックに対して問いを投げており、スサノオの解答は消失していった。
しかし、スサノオはセックから視線を切らずに、まるで悍ましいモノでも見ているかのような目をセックに向けたままだった。死んだと思っていた者が蘇ったのだから当然と言えば当然の事だろう。
「この剣は元々、アタイの分身が造ったモンだ。確かに「概念」は書き換えられていたが、修正するだけならアタイにも出来るし、それを強化すればこの通りだ。だからなスカジの仇、取らせて貰うッ!」
「なるほどな、そういう了見だったか。オレサマの十束剣が殺し切れないなんて、どうりで可怪しいワケだぜ。要するにその剣が手品のトリックってワケだろッ」
スサノオは先程とは違い、少しばかり嬉しそうな表情でセックに斬り掛かりレーヴァテインと刃を交錯させていく。
こうして2人の剣が激しく火花を散らしていくのだった。
「アイツの分身?まさか、あのセックと言う女も?」
「アナタも「ロキ」なのね?」
「ッ?!」
少女は疑問に思った事を纏めると、それをセックに対して投げていった。セックはその言葉を受け取ると驚いた表情になって、撃ち合っていたスサノオと一度距離を取ったのである。
「へぇ?じゃあ、アンタがアタイ達の……アイツらの魔石を持ってるってコトでいいのか?」
「そうだ……と言ったら」
「じゃあ血祭りに上げるのは、先にアンタからだよッ!」
セックは一足飛びで距離を詰めると少女に向けて強烈な「突き」を繰り出していった。
ちなみにセックがその身に纏っているものはベビードールだけであり、下着すら身に着けていない血塗れの格好なので、同性の少女であっても目のやり場に困ると言えば困る。
それが一足飛びで距離を詰めて来たのだから、少女からしたらそれはもう狂気の沙汰としか言えなかった。
そしてこの時、少女は何も用意していない。剣も握らず、形態もマテリアル体のままだった。だから今から剣をその手に取ろうにも、その間に身体を刺し穿かれるのは火を見るより明らかだった。
要するに現状、この中で一番弱い少女が無防備でいる事が間違いとしか言えないだろう。
「右へ翔べッ!」
「えっ?」
バッ
スサノオの声が突如として響き、少女はその声に従って左足に力を込めると右側へ大きく跳躍していった。
少女はスサノオの未来予見がセックの攻撃を予見したのだと思っていたが、実際のところは違っていた。
「サリエル今だ、やれッ!」
「承知している」
セックとサリエルの間に少女がいたので、スサノオは少女をどかしたかっただけだった。よって障害物がいなくなった事でサリエルは額の瞳を開き、セックを額の瞳で「視る」事で見初めようとしていった。
ちなみに、少女はサリエルの額の瞳について詳細な情報を持っていないので、それはスサノオとサリエルの息のあった作戦と言えるだろう。
「くッ、随分と厄介なモノをもってるじゃないか?」
「あの神族と同程度の力で枷にしかならないのかッ。だがこれ以上は2人を見初めてしまう事になるッ。――くっ、やむを得まい」
「そんな厄介なモノ、天使族には過分な力だ。その目、抉り取ってやる!」
サリエルに殺し掛けられたセックは、レーヴァテインをサリエルに向けて放っていった。サリエルは自分との間にある力量の差に戦意を失い掛けていて、斬撃を躱す猶予は無かったと言える。
幾重にも及ぶ斬撃が迫って来ていたが、その斬撃は「がぎんッぎぎんッ」と言う凶悪な音を立て、セックの前に立ちはだかったスサノオに因って止められていった。
「忙しいヤツだな。しかも浮気性とわなッ!オレサマが相手じゃなかったのかよ?」
「火事場にいて身に降り掛かる火の粉が、たった1つだけと言うことはあるまいッ」
「へっ、そりゃ癪だが同感だ」
スサノオは「十束剣」と「未来予見」を駆使してセックと斬撃を結んでいく。が、どうやら分が悪いのはスサノオの方だった。
「おいおい、マジかよ。オレサマの「未来予見」がちゃんと働いてねぇ。こりゃあ、ちいっとばっかしヤベぇな」
「あははははは、どうしたどうした?奇襲じゃなきゃ、アタイ1人ロクに殺せやしないのかい?」
スサノオの「未来予見」は指定した対象の未来を予見する事が出来る能力だ。これは人類史に於いて所持している者が今まで誰一人として記録に残されていない為に、「権能」と呼ばれる特殊な能力とされる。
ちなみに、下位互換の未来予測は身近なところで言えばクリスが固有個体&小鬼種殲滅戦の時に習得している。
また、この手の能力のうち、最上位はフリッグの持つ完全予測である。
この能力があればこそ、スサノオを最強の闘神足らしめているのだが、セックの動きは肝心なところで予見が止まってしまい「視る」事が叶わなくなっていた。
因ってそのバグの影響でスサノオは苦戦を強いられる事になる。
そして肉眼だけでは捌き切れない程の、セックから放たれてくる斬撃は苛烈さを増してスサノオを強襲していく。
幸いな事にセックに対しては未来予見がバグるが、自分に対しては有効である為に、自分が死ぬ未来を予見する事でそれに対応し、ギリギリラインでの防衛戦闘は繰り広げる事が出来る様子だった。
これならば、完全目視で闘うよりは時間稼ぎになる算段でいた。しかし手傷は増える一方なのでそれがかさみ過ぎない内になんとかしなければ元の木阿弥になるのは目に見えていた。
「おい、おめぇら!コイツはオレサマがなんとかする。だから、おめぇらはコイツをなんとかする策を練ってくれ!」
「アタイを1人で抑え込めるなんて勘違い、傲慢だねッ。おらおら、どうしたどうしたッ」
滅茶苦茶な事をスサノオは言っていた。「自分がなんとかするのに、なんとかする策を作れ」なのだから矛盾の極みか究極のエゴとしか言いようが無いが、現状に於ける最適解と言わざるを得ないだろう。
セックの攻撃を致命傷を避けて捌けるのは「未来予見」を駆使したスサノオだけであり、サリエルも少女もその点では力不足だ。
それは半神半魔の形態であっても変わりは無い。いくらバフが掛かっていても、野生の勘があっても神速の斬撃に全て対応するのは不可能としか言いようが無い。
「そなたはあの剣を知っていたな?」
「前にあの剣を使う事が出来る「保管者」と闘った時に、あの剣の恐ろしさを叩き込まれたわ。あの剣の名前は「勝利の剣」よ。あれを持つ者は最上級の因果律に因って負ける事が出来なくなるのよ」
「負けさせてくれない剣の管理者と闘っておきながら、何故勝つ事が出来たのだ?その口振りでは、必ず勝てる剣に勝ったのだろう?」
「あの剣の持つ因果を逆転させたから、前はなんとか勝てたんだけど……前回と同じ方法は今回はもう使えないの」
「因果の逆転?必ず負ける剣……か。ぷっははは、それは嫌過ぎるな。いや、すまん、笑い事じゃなかったな」
少女は口惜しそうに顔を歪めていた。サリエルが笑っていた事がちょっと気になったが、同調出来る余裕はなかった。
今回の闘いを無事に切り抜けられたら、いつの日か笑い話で思い出し笑いをしそうな予感はあったが、それは余談でしかない。
「最上級の因果律か。勝利を齎す因果とは厄介だな。最上級の因果律であれば、それを創造した者と同格かそれ以上の力で無ければ返せないからな。だが、そもそも最上級ならばその上にいる者は数少ない事になる……」
「えっ?今……なんて?」
「最上級ならばその上に……」
「いやいや、そこじゃなくて、創造した者とかうんちゃらかんちゃら言ってなかった?」
「あ、あぁ、創造した者と同格かそれ以上の力であれば返せると言ったコトか?」
「因果を造りあげた者と同じか……それ以上の存在……そうね、それしかないわねッ!」
「ん?」
少女はサリエルの言葉から何かを閃いた様子だった。その閃きは今までに体験した様々な要件が重なっていたから発生した閃きであって、それら1つ1つの体験がなければ閃く事はあり得なかったと言わざるを得ない。
しかしながら、その閃いた内容が実現出来ればこの絶体絶命の突破口になるのだけは間違いがなかった。
「サリエル、これからアタシは暫く動けないと思うから、その間にアイツがこっちに来ちゃったら任せても大丈夫?」
「何かの策が頭に浮かんだんだな?」
「えぇ。これが成立すればなんとかなるハズよ」
「それならば任された。生命を賭して、そなたを死守してみせよう」
サリエルは2本の細剣を腰から抜くと、無形の構えで少女の前に立ち、少女の為に壁となる事を選んだのだった。
少女は背中の愛剣を手に取ると、ここで漸く「半神半魔」の形態を展開していった。
「デバイスオープン、ロキの魔石、スルトの魔石、剣に宿れ!」
「ハッ、ニンゲン風情に扱いきれるか見せてもらうぜ」
「えぇ、遠慮なく扱わせてもらうわよ、スルト」
初めて使うスルトの魔石を宿した事で、スルトの意識が少女の中に入り込み、スルトは一方的に紡ぐと消えていった。だからスルトに紡いだのは独り言に他ならない。
「目覚めよ目覚め。覚ませよ覚ませ。目覚めて覚ませよ、アタシの力。此処に来たれり神代の力。此処に御座せり神世の知恵よ。在りし記憶を呼び覚ませ」
詠唱を始めた少女の手に大気に漂うマナが収束していく。
詠唱を始めた少女の手に体内を巡るオドが収束していく。
「なんか、おっ始めてくれたみてぇだな。アルフヘイムみてぇな事にならなきゃ、オレサマとしては大歓迎だぜ」
「アルフヘイム……だと?!キサマらが、グルヴェイグを殺ったんだなッ」
ぎりりッ
スサノオは魔力が高まっていく気配を背中で感じ取っており、時間をより一層稼ぐべく激しくセックと斬り結んでいた。
セックは幾ら斬撃を放っても斬る事が叶わない相手にイライラを募らせており、更にはその相手の背後から伝わってくる異様な気配に焦燥感を抱き始めていた。
だが一方で、スサノオが紡いだ内容が気にならなかったワケでは決してなかった様子で噛み付いていった。
「そのグルなんとかは、「アルフヘイム」ごと消滅したぜッ!アイツが完成させた「魔法」の力でな」
「なん……だと?「魔法」なぞ、あのミーミルでさえ……賢者でも為せなかった偉業なのだッ!だからこそヒト種が到達出来る根源ではないッ」
「まっ、信じられねぇってんなら、もしも生き残れた暁には「アルフヘイム」のあった「妖精界」に行ってみるこったな」
「ぐぬぬ、世迷い言をッ!ならばアタイに斬られたくないなら、そこを退けッ!先ずはアイツから斬り捨てる。スカジの仇のキサマより先にグルヴェイグの仇のアイツを殺すッ」
「ハイ、そーですかってワケにはいかねぇだろうがよッ。どーしてもって言うならオレサマを先に何とかするんだなッ!オレサマはしぶといがな」
斯くして更に激化した剣撃の乱舞は、部屋中に衝撃波を奔らせ部屋そのものをズタズタに斬り裂いていく。それはサリエルも少女も対象になり得るのだが、サリエルは壁としてそこにいる以上、身体に傷が奔ろうとも逃げる事も避ける事もせず小傷と言う名のナマ傷を増やしていった。
少女はそもそも傷付いても瞬時に回復するし、その程度の痛みにイチイチ狼狽える事がないくらいには、“M”に目覚め始めていた。
「紡ぐ紡げよ、紡ぐよ紡げ。紡いで紡いで此処に御座せり。神代の槌よ、神世の鎚よ。此処に来たれりこの手の中に」
しゃんしゃんしゃん
少女の詠唱に拠ってその手に顕れ、少女の愛剣が形造ったのは1つのちっぽけな「鎚」だった。そしてその鎚の柄には鈴が付いており心地よい音色を奏でていた。少女はその鎚を叩き、鈴を鳴らす。舞いを舞うかのような動作で叩き叩いて鳴らして鳴らす。
少女は神楽を踊りながら、その所作の中で叩く叩く叩く。そして叩く毎に鈴の音が響き渡っていった。
何も無い虚空を打ち、太虚を叩き、虚無をはたく。更には空気を打ち据えていく。舞いを踊り、神楽を舞い、少女の手にある不思議で、それでいてちっぽけな「鎚」は鈴の音と共に無から有を創り出していく。
こうして、無中生有に拠って創り出されたのは一振りの剣だった。
少女はその剣を手に掴むと、今度は剣と鎚の神楽を再び踊り出していく。その繊細な神楽は、少女の肢体を艶やかに淑やかに舞わせ、随所で鎚を剣に向けて振り下ろして鈴の音を響かせていく。
「我が手に来たりし、神代の剣。我が手に在りしは、神世の力。神世の力よ、形を為さん。為した形よ剣と成らん」
少女の詠唱は全て終わり、編み上げられた剣と引き換える形で、少女の右手にあった「鎚」は役目を終え光の余韻を残して消えていった。
「鎚」の依り代になった愛剣は編み上げられた剣の依り代へと変化し、その剣を纏っていく。
更に少女が完成した剣を両手で持って構えると、その両手には焔が宿っていくのだった。
「何だとッ?!アレは、アレは、まさか……そんなッ!」
「オレサマの相手をしながら余所見たぁ、随分と余裕だなッ」
セックはスサノオと打ち合いながらも少女が何をしているのか視界を切らさずに見ており、少女が創り上げた剣とその業火が宿る手に驚愕を隠す事が出来ないでいた。
そしてその驚愕の光景に拠って、いつの間にかレーヴァテインを振るう手を止めてしまっていたのである。
一方のスサノオは斬撃が来ないならばと、セックに対して「十束剣」を振るうが、セックはその斬撃を見もせずに全て躱していた。
「やめろ、止めろ、ヤメロ、やめろおぉぉぉぉおおぉぉッ!」
「な、何てぇ「圧力」だッ!これじゃまるであの暴虐ね……いやいや主神クラスの力と同じじゃねぇか!?こんな力を持ってるなんざ、大したバケモノだな」
スサノオはセックの前に立ちはだかっているので、セックの「圧力」を一身に受けながらも、剣を構えて耐えていた。セックをその先に、スサノオの後ろに行かせるつもりは毛の先ほど無かったのだ。
何故ならば背中が感じる少女の気配が、まだ完成していないと伝えていたからである。
「退けッ!」
ざんッ
「な……にッ!?ぐおぉ、がぁッ」
セックから不意に放たれた斬撃にスサノオは反応が出来なかった。それは「未来予見」の範疇を軽く超えており、完全目視で対応せざるを得ない程の斬撃だった。
辛うじてその身を掠めるだけで済ませたが、その圧力に因って体勢を崩され、そのせいで初動が遅れたスサノオの脇をセックが神速で抜けていった。
「ここは通さん!」
「ザコはどいてなッ」
スサノオを抜けたセックの前にサリエルが立ちはだかるが、セックの放つ圧と斬撃の前にサリエルは為す術なく無残にも弾き飛ばされていった。
「さぁせぇるぅかぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁああぁ!!!」
セックの叫びが部屋の中に木霊していく。それは時間が遅くなったかのような感覚であり、時の流れが一瞬にして緩やかになったかのような、まるで走馬灯を見ているような錯覚だった。
しかしセックが少女の元に到達する直前に少女の準備は全て整ったのである。
「来たれ、神剣展開・勝利之剣!我が力となれッ!」
ガギンッ
「そんな馬鹿なッ!偽物が、紛い物が本物に勝るワケがないッ!何故、対等に撃ち合えるッ!何故、アタイの剣で砕け散らないッ!何故、キサマがその剣を使えるッ」
セックは叫んでいた。到底理解出来ない現実が目の前にあったからだ。
セックが持っているレーヴァテインこそが本物であり、「勝利の剣」なのだ。そして、その「勝利の剣」と紛い物が対等に撃ち合う事が出来るハズなど無いし、そんな道理がまかり通る理屈もあり得ない。
だからこそセックは次々と斬撃を放っていくが、その悉くを少女はその手に持つレーヴァテインで返していった。それはセックの神速に、少女の剣が対応してくれているからこそ出来る芸当だった。
セックに焦りの表情が現れ、それは徐々にセックを埋め尽くしていく。疑問が疑念が疑惑が疑点がそして猜疑心がセックを支配していった。
「何故だ?」「何故だ?」「何故だ?」「何故だ?」と、語彙力を失いそれだけがセックの頭の中を執拗に駆けずり回っていく。
そして、焦りと疑問が最高潮に達し、幾重にも及ぶ剣撃に斬撃を放ち続けた結果、「きイぃぃぃぃぃいいいん」と一際甲高い音を立て一振りのレーヴァテインが宙を舞っていったのだった。




