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不思議なカレラ @仮完結 只今最終校正中につき“ ν ”が付いてる話しのみをお読み下さい  作者: 酸化酸素
3章 Standard-edition G's world

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メニウツルモノノシカケ ν

 少女の話しは人間界で起こった事から始まった。少女が始めて「ロキ」を見たのはクリスの「見極め」の時の事であってそれは、ゴブリン殲滅の依頼(クエスト)を受けた時だ。

 次に見た時は「3.15の厄災」の時で、「ソレ」を倒し終えたあとの事。その時は半ば意識を失い掛けて、朦朧としながら地上へと墜ちて行った時だったし、記憶の中に朧気にあるだけだから、本当にそれが「ロキ」だったかどうかを胸を張って主張する事は出来ない。

 まぁ、無い胸を張る事は出来ないとかは考えてはいけない。


 その他にも「ロキ」は人間界で暗躍していたが、現在のところ少女が知っている限りでは人間界で「ロキ」と関わったか目撃したのはこの2回だけだ。



 オーディンは少女の夢の中で、自身の手を口元にあてがった上で、ただ黙って聞いているだけだった。

 そこには昼間見た聞き上手な姿はなかった。



 少女は次に魔界で起きた事を話す事にした。フェンリルの事、「スルト」と「ロキ」の最後に「フヴェズルング」と「ヨルムンガンド」の事。

 オーディンは時折、手で顔を覆い隠すような動作をしながらも、これまた少女の話しを聞いているだけだが、少女は()()()()()()()()()()()()()ただ紡いでいった。


 少女は更に、その全ての魔石を今もなお自分が持っている事を伝えて結んだ。




「どう?これが、人間界と魔界で「ロキ」と関わった事の全てよ。あッ、でも……この前あった事も、もしかしたら「ロキ」なのかしら?」


「この前?」


 少女はアテナが襲われた事や、その後に自身を襲った者の事を更に紡ぐことにした。



「うむ。話しを聞く限りでは、「ロキ」の可能性は高いな。だが、「ロキ」は既に魔石となっているのであれば、「ロキ」の中の「誰か」ではあろうがな」


「ねぇ、「ロキ」は何を企んでいるの?」


彼奴(きゃつ)の行動は読めないのだ、残念ながら」

「良からぬ事をしようとしてなければ良いが……まぁ、それしか言えんな」



 全ての話しを聞き終えたオーディンは、少女に1つのブレスレットを渡した。オーディンからすれば話しを聞かせてもらった事へのお礼のつもりだったのかもしれないが、少女としては受け取る謂れがなく、困っていた様子だった。



「なぁに、このブレスレットを持っていれば、アースガルズに来る事が出来る。いつか()()()はアースガルズへ来るような気がするからな、その時に使うといい」


 少女はオーディンからブレスレットを受け取ると、オーディンは夢の中から出ていった。

 このブレスレットの持つ力や素材などは分からないままだったが、これが前にタケミカヅチが言っていた、「入国時に於いて侵略とならない為の大義名分になるモノ」だと言う事だけは理解出来ていた。

 しかしながら、なんとなく不穏な感じがしなくもなかったのだが、鈍化している思考回路ではそんな事は気にならなかったのだった。



「夢の中で貰ったこの「ブレスレット」は目覚めた後でも、現実(リアル)に存在するモノなのかしら?」


 少女は素朴な疑問を呟いていたが、既にこれ(ブレスレット)をくれた主は夢の中からいなくなっていた。



 ちなみにこのオーディンとの一連のやり取りが夢の中でなく、現実世界で(起きている時に)起こったモノであれば少女は幾つか気付く事があったかもしれない。

 でもそれに気付けなかった事は、今後の少女の行動に大きな失点を残す事になるのだが、まだ知る由もなかったのは当然の事だった。




 少女はベッドの上で唐突に目を覚ました。小さな窓から射し込んで来ている陽の光はまだ高くない。時間は分からないが朝はまだ早そうだった。

 寝る時には装備を全て外して用意してくれた寝間着に着替えていたが、少女の視界の中には自分の左腕に1つのブレスレットが付いている事が入ってきていた。

 そしてそれは、眩いばかりの輝きを放っていたのである。



「あ、現実(リアル)に存在してる……」




 その日の昼間、少女はアテナに誘われたので行動を共にする事になった。アテナは特に何かあったワケではなかったのだが、少女と「ただ一緒にいたかったから」と言う理由だけで無理やりに少女を誘い、外に連れ出していったのだ。

 少女は少女で特に「神界」に於いて、やる事はもう終わったと思っていたこともあって、アテナの誘いに快く乗っかるコトにした。


 それは「行きあたりばったり」の外出だったが、アテナは少女に「オリュンポス」の街並みや景色といったものから、グルメや観光スポットといった様々なモノを案内して周り、2人は平穏でとても楽しい時間を過ごしていった。

 それはデートと呼べるモノとも言い換えられるし、気ままな日帰り女子旅とも言い表せられるかもしれない。




「ところでもう、人間界に戻るのか?」


 ここは「オリュンポス」の街並みが一望出来る小高い丘の上。周囲に人影のない、辺り一面の草原の上に2人は腰を下ろしていた。

 それは中天に太陽が昇ったあたりの頃あいだ。暫く2人はそこに座っていたが、2人の顔は先程まで笑って過ごした楽しい一時とは打って変わって、その表情に僅かな翳りを落としていた。

 そして、重たくなりつつある2人の空気を察したような、物寂しげな風が吹き抜けて行った後でアテナは重たい口を開いたのだった。



「そうね、特にアタシの「神界」での用事は、多分……終わったからね。えへっ」


 少女は寂しそうな作り笑いをアテナに向けたあと、眼下に広がる街並みに目を向けていた。アテナはそんな少女に対しての言葉が見付けられず、少女と同じ場所をただ見詰める事しか出来ないでいた。




「やり残した事はもう、無いのか?」


「うん、ありがとう、アテナ。また……また来るね」


「あぁ、待ってる。いつまででも、だからたまには元気な顔を見せに来てくれ」


 明くる日の朝、アテナは「神界」から人間界に戻る事を決めた少女を見送ろうとしていた。アテナ以外に少女を見送る為に集まった者はいないが、少女としてはそれならそれで構わなかった。

 幾つかアテナと言葉を躱した後で、少女は別れを惜しむようにアテナと抱き合い背中に手を回していった。




 アテナ同様に目を潤ませていた少女は暫くアテナと抱き合っていたが、名残惜しそうにアテナから離れると静かにサークル(魔術陣)を出現させていく。そして陣形の中に入り転移する直前に振り返ると、屈託のない笑顔をアテナに向けて手を大きく振っていた。

 こうして、少女は「神界」からその姿を消したのだった。


 その場に残されたアテナは寂しげに吹く風に身体を任せ、長いブロンドの髪を揺らしていた。




 少女は人間界に帰って来たつもり()()()。だがこの地に現れたサークル(魔術陣)から出ると、そこは見慣れた風景などではなく、人間界ではない事が一目瞭然な景色が広がっていたのだった。



「え、えっとぉ、ここは……どこかなぁ?」

「あ、あれれぇ?おかしいなぁ……ちゃんと人間界に帰れる予定だったんだけど……ってか、なんだろ……ここ?」

「アタシの転移魔術は行ったコトのある場所しか行けないハズなんだけど……アタシ、ここに来たコトあったかしら?」


 周囲に見える光景は先程までのオリュンポスとは程遠く、「神界」に来てから見た、どの「光景」とも違っている。強いて言うなら「魔界」に近い印象は残るが、「魔界」もここまで殺伐とした雰囲気ではなかった。そして、少女にはここが人間界とは到底、思えないでいた。

 それは何と言うか……今、目の前にある「世界」は「禍々しさ」を(たた)えているようにも見えるからだ。

 もしもここが人間界だとするならば、何かしらの「惨劇」が起こった後のような「寂しさ」や「(はかな)さ」といったネガティブな何かを湛えている感じにも映っている。だから、ここが人間界であるならば、少女が「神界」に行っていた()()()()()()()世界が崩壊するような戦争や、空虚な災厄(ディザスター)級の何かが現れた事になる。

 考えようによれば前者よりは後者であれば可能だろうが、それは信じたくない仮説だろう。



 場所がまったく分からない以上、無闇矢鱈に動き回るのはあまり良くないかもしれないが、この場に留まっているワケにもいかないと考えた少女は、辺りをキョロキョロと見回しながら歩き、誰かがいないか探していくのだった。

 だが、幾ら歩いても誰一人として見付けることは疎か、建物の1つも発見出来なかったのだ。



「これは……空から確認した方が早そうね」

「ブーツオン!」


 ブーツに火が(とも)り、重力に抗う力は少女の身体を空へと舞い上がらせていく。

 しかし駆け上がった空の上で少女は自分の目を疑う事しか出来なかった。



「ッ!?な……に……これ……」

「こ……れは?だ、大地が割れて燃えて……いる……」


 少女が目にしたモノは、驚くだけでは飽き足らない程の光景だった。何故ならこの世界は大地が裂けていて、その割れ目からは幾つも火柱が立っていたからだ。

 赤々とした褐色の荒野には草木は一切生えておらず、これはどう見ても「何かが起きた」のは世界ではなく、()()()()()()()という事は容易に想像が付く光景だった。

 いや、むしろそうでなくては困る。たった数日で人間界が滅亡してしまったと信じなくてはならないよりは、そっちの方がよっぽど救われるからだ。

 世界を元に戻すのは、少女の力だけでは到底不可能に近いが、自分が他の世界で()()()()()()()()()()()、少女の力だけでなんとかなる可能性がある。


 だが何を見ても何を考えても、本当にここが()()()()()は分かりようがない。


 だから少女は色々と考えた末にデバイスの位置情報を用いて場所の特定する事にした。

 だがデバイスは「Error(エラー)」とだけ表示していたのだった。



「デバイスが「Error(エラー)」を返しているから、「人間界」とは考え難いわね。まぁ、デバイスが故障してたら、そん時はもうお手上げだけど……。でもそうなると、アタシが転移を失敗したって事になっちゃうのよねぇ。はぁ」

「人間界の様子はちゃんとイメージ出来てたから、間違えるなんて考え辛いんだけどなぁ」


 1つの可能性について考えるならば「神界」から人間界に渡る際に、何かが起きたと考えるのが一番手っ取り早いだろう。

 それならば、サークル(魔術陣)の発動を失敗した可能性だけが残る。だが少女としては今まで一度も失敗した事がないので、そんな事は考えたくもないのが事実だ。だが一方でそれが一番高い可能性かもしれない事実のみが残っている。

 だからこそ、再度サークル(魔術陣)を展開する事は憚られたのだった。



 少女は何やら「ぶつぶつ」と言いながら空を駆け、何かしらの情報を探す事にした。再び転移を行うのであれば、それはもう本当に最後の手段でしかないだろう。

 ここがどこだか分からない以上、今度失敗したらそれこそ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったからだ。




「何だろ……あそこ。大きな屋敷が見えるわね。中に誰かいれば何かの情報が得られるかもしれないけど、ちょっと不気味な感じがするわね……」

「ええいままよ!女は度胸!据え膳食わねばなんとやら、飛んで火に()るアタシはやけっぱちの焼き栗よ!本当にヤバかったらとっとと逃げ出せばいいんでしょ!」


 少女は本当に()()()()()()()()()()()()()()()、見付けた一軒の大きな屋敷の方へと(かじ)を切り向かっていった。


 少女は気付いていない様子だが、アテナの加護(ブレス)は“行くな”と再三に渡り警告していた。しかしその警告は少女には届いておらず、アテナの加護(ブレス)はただただ溜め息を付いていたが、これはまぁ余談である。




 それは大きな屋敷だった。朽ち果てた荒野に佇む不相応な三階建ての屋敷だ。屋敷自体は意匠が細かく豪華な造りだが、庭には一輪の花もなく、殺風景な様相を(たも)っている屋敷とも言えるだろう。



しゅた


「当屋敷に何カ、ゴ用で御座いますカ?」


「あ、あの……み、道に迷ってしまって……。こ、ここに大きなお屋敷が見えたものですから、立ち寄らせて頂いたのです。な、何か道が分かる物があれば見せて頂けませんか?」


 流石に空から屋敷の中庭に降りるのは不法侵入になる。いや、それは法律があればの話しだが、例えなかったとしても家主に対して失礼な事に変わりはないだろう。だから少女は屋敷の門の手前で降り立ったのだが、降り立った少女は後ろから突然声を掛けられたのだ。

 少女は屋敷を見ながら降り立ったので、少女の後ろは屋敷の敷地内ではない。従って少女に話し掛けてきた者は、これから屋敷の中に入ろうとしていたのかもしれない。だからそんな少女は突如として声を掛けられ、動揺のあまりに声が上擦(うわず)ってしまっていた。

 あからさまに怪しかったかもしれないが、それはもうどうしようもない。



「道に迷われたのですカ?それはお気の毒に」


「よろシければ、屋敷に上がっていって下さいまシな。今帰ってきたばかりで、すこぉシばかりお時間を取らせてシまうかもシんシょうが、困っていらっシゃるのなら、どうぞこちらへ」


 少女に声を掛けて来た男の後には1人の女性がいた。話しの内容から察するにこの屋敷の主人なのかもしれない。男が(かしず)いている事から、召使いを連れた女主人といったところだろう。

 女主人は少女に対して紡ぐと、そのまま召使いと共に屋敷の中へと入っていく。そして開いた門扉を潜り敷地内に入ると、少女へと振り返り手招きしていた。



「な、なんだろう?凄っごく嫌な予感しかしないんだけど……こ、ここはやっぱり丁重に断っ……」


「さ、どうぞ、こちらへ。そのまま入って来ておくんなまシ」


 少女は振り返った女主人の目を見た途端に、何も言わずにフラフラと促されるまま屋敷の中へと入って行くのであった。




「―――――それで、どちらまで行かれるんでありんすぇ?」




 少女は突然我に返った。しかし、何があったのかは分かっていない。だからなんで座って女主人と話しをしているのかすらも覚えていない。しかし取り乱す事なく冷静に、ここがどこなのかを声に出さずに分析する事にした。

 だが、質問に対しては返答しないワケにはいかないだろう。もう相手の術中に嵌っている可能性すらある。

 だから下手に刺激すれば自分の身が危うくなるのは明白だった。



「えぇ、人間界に戻る予定でしたが、気付くとこの世界に来てしまっていて」


「それはお気の毒でありんすね?何かお力になれる事があれば致シてシんシょうねぇ」


 目の前に座っている女性は足首まで隠れる黒い、ベルラインのロングドレスを着ていて頭には黒いベールを被っている。どんな顔立ちなのかは分からないが、黒いベールの隙間から覗い知れる真っ赤な瞳と、同じように赤い唇だけが少女からは見る事が出来ていた。

 更に露出している部分の肌は病的なまでに青白く、ドレスの黒と対照的なその「白さ」は明らかに常軌を逸していたのだった。



「人間界に住まいがあるんでシたら、貴女はヒト種でありんすね?間違えてこの世界に来られたんでシたら、何か事故に遭ってシまいんシたんシょうかぇなぁ」


「事故?アタシは死んだとでも言うのかしら?」


「えぇ、ここは生者が住まう世界ではありんせんもの。ここは「冥界」と呼ばれる世界でこの国は「ヘルヘイム」と呼ばれる国なんどすぇ」


「「冥界」の「ヘルヘイム」……?アタシ……転移に失敗して、死んじゃった……の」


「お気の毒さまどすなぁ。まぁ、人間界のどちらに住まわれていたかで、貴女の住むお国が決まりんシょうから、決まるまではこちらに滞在シて頂いてもらっても構いんせんよ?」


 女主人の声は、少女の思考回路を徐々に麻痺させていった。だからもう、分析もへったくれもありゃしなかった。少女は為すがままそれらの言葉を信用する事しか、出来なくなっていたのだ。

 女主人の紡ぐ言の葉はそれは酸いも甘いも噛み分けて広がる、甘い誘惑の様相を持って(きら)めいており、「自分は死んだ」と告げられた事による負の感情も、背筋をおびただしく(はし)る悪寒も、掌の中から滲み出続けている脂汗(あぶらあせ)も、全てが麻痺し(はら)われていく感じがしていた。

 いや、実際には「祓われて」などいないのだろうが、その感情は自分が死んだという事実から目を背ける為に創り出された、幻想のようなモノが働いた結果なのかもしれないし、その感情に支配された挙句の逃げ道(防衛本能)とも言えるかもしれない。



-・-・-・-・-・-・-



 時は少しばかり遡る。そんなこんなで少女が「ヘルヘイム」に流れ着き、一連の流れをもって女主人の屋敷に上がり込んだ頃に、1人の男が「ヘルヘイム」の国境を越えて疾走していた。



「確かに此方(こっち)の方に反応があった気がしたんだがなぁ。まぁ、もう少し探してみっか」

「それにしても、厄介なコトを仰せつかっちまったモンだせ。やれやれ」


 その男は何かを探している様子でキョロキョロとしながら、辺りを散策しつつボヤいていたのだった。




「今日はもう、夜になりんシょう。ここら辺には厄介な魔獣も出ますシ、務めるお国がお決まりんなるまでは暫くこちらに滞在シておいきなまシ。なぁに、2、3日もすればお遣いが来て案内シて頂けるでありんすよ」


「そうね……それじゃお言葉に甘えようかしら……」


 少女はまるで夢現(ゆめうつつ)の中にいるような……とでも表現したら適切かもしれないが、感覚的に表現するなら実のところ「ふわふわとした感じ」に囚われており、思考回路は完全に停止していたと言っても過言ではなかったのである。

 よって、一切合切の前向きな感情は忘却の彼方に吹き飛ばされてしまっていた。



「うふふふふ、美味シそう」




 少女はふわふわとしたまま召使いに部屋へと案内され、そこで取り敢えず一晩を過ごす事にした。案内された部屋は広く、装飾があちらこちらに施されている。だが決して華美を追求しただけと言う事ではなく、その装飾の1つ1つに凝った意匠が施されており、それは女主人のセンスの良さを匂わせていた。




「アタシ、本当に死んじゃったんだ……でもなんで死んじゃったんだろ」

「アタシ……これからどうなるんだろ?一体、どこに行けばいいんだろ?お遣いが来るっていってたけど……」


 少女から紡がれる言の葉はいつになく弱々しく、思考もネガティブになっていた。そして少女は既に自分が死んだ事に対する疑問が非常に希薄になっており、それを肯定するような気配すらあった。

 考えれば考える程に先行きの見えない不安だけが、少女の心の中に急速に成長する暗雲となって、さらに視界を狭めて闇を深くしていく。

 それは負のスパイラルであり、少女はその底なし沼に全身くまなく浸かっていたのである。



こんこん


「失礼致します。お食事の準備ガ整いましたので、主人ガ呼んでおります。此方(コちら)へどうぞ」


「あぁ、うん、ありがとうございます」


 少女は召使いの後をついて行くと広間に通され、エスコートされるままに椅子に腰を掛けた。

 そのテーブルの上には色とりどりのフルーツが並べられ、少女の前に運ばれて来る料理は(かぐわ)しい香りで溢れていて、見目麗(みめうるわ)しく香ばしい匂いが少女の理性を更に鈍らせ、快楽の赴くままに(むさぼ)り尽くせと(そそのか)していた。



「さぁ、たんとお召シ上がって心ゆくまで堪能シてくんなまシ」


「凄く美味しそう。それじゃあ、頂きまぁす」


がしゃーんッ


「ん?なぁに?」 / 「忌々シい侵入者かッ!?」


 それは、少女が手に取った骨付き肉を口元に運び、かぶりつく間際のコトだった。

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