マニオチタモノノサダメ ν
「それならば、お言葉に甘えてアタシの話しを先に言わせてもらうわね」
「アタシはつい最近、知り合いになった神族から、頼まれ事をされて、「オリュンポス」にそれを伝える役目を仰せつかったの。だけど、「アースガルズ」の主神であるオーディンさまにも伝える事が出来るいい機会だから、この場で言わせて貰うわね」
「「うむ」」
「「パルティア」は中立国としての立場をこれからも採用するのと同時に、「エル・シーナ」と共存し、更には「神界」で新たに産まれた神の寄る辺となるそうよ」
「なるほどな……。そう言う事なら「アースガルズ」は「パルティア」を容認しよう」
オーディンは少女の言の葉に対して返答し、ゼウスもオーディン同様に「「オリュンポス」も「パルティア」を容認する」と返していった。しかしながら、オーディンは複雑そうな顔を見せている。何か思うところがあるのかもしれない。ゼウスは何かを言いたそうな真剣な顔付きだが、髪型がその真剣さを妨害していた。
「それにしても一体、何が起きたのか?それは教えておいて欲しいものだな」
オーディンは少女の発した「結論」を認めた様子だが、オーディンを「オーディン足らしめる概念」は、「結論」だけで無く、「経緯」も欲したのだった。その概念こそが知識欲とも言えるもので、それが満たされなければ何時間でも話しに付き合わされる事になる。
それを知っているゼウスは、だから何かを言いたかったのかもしれない。
少女はそんな事を知る由もない。だから純然たる気持ちで、オーディンの欲した「経緯」を紡いでいった。
オーディンは話しの途中で「それは面白い」とか、「なかなかやるな」とか色々と「合いの手」を入れていた。それに加えて相槌も打ち、少女はその対応に乗せられてしまい、色々と余分な話しまでした事は否めないかもしれない。
どうやらオーディンは非常に聞き上手のようだ。
自分の想いを一方的に押し付けるゼウスとは違っており、ゼウスがもしオーディン同様に聞き上手なら女性から更にモテるだろう……とかは口が避けても言わないし、その前に「髪型をなんとかしろよ」とかは余談である。
こうして少女は総ての「経緯」を話し終え、オーディンは納得した顔で「なる程な」と結んだのだった。
「蛇悪竜種の抑止力となる事を、あの「エ・ラーダ」に認めさせるとはな……」
「えっ?エ・ラーダを知っているの?」
「この「神界」は今でこそ平穏だが、一時は戦乱があちこちで起きていたのだ。「エル・シーナ」もそれに乗じていてな、何度も戦場で見えた。だから当然、エ・ラーダの事も知っているさ。彼奴は合理的な男だ。それ故に自分達の置かれている「境遇」と「共存」を天秤に掛けたのであろうな」
オーディンはどこか遠い目をしながら独り言のように紡いでいた。それは認めた男の居場所が出来た事への感慨だったのかもしれない。
それから3人は言葉を交わし、幾つかの情報を交換した上で2人はゼウスの神殿を後にする事にした。しかしその会話の中で、オーディンがこの地に来た主たる目的だった話題は出なかった。
「ところで、後で話しを聞かせて貰うって言ってた事はもういいのかしら?結局、中ではその事に触れなかったけど?」
「まぁ、アイツの反応を見る限りでは、然したる重要性もなかったようだしな。別の機会にしておくさ」
「それならいいけど……」
「だが、お嬢さん。お嬢さんとは近い内にまた、会う事になるかもしれないな」
意味深な言葉を残してオーディンはその場から消えていった。オーディンの身体は光に包まれ少しばかりの余韻を残して唐突に消えた。その光景に少女は驚いていた。
「転移魔術?!今の魔術よね?神族でありながら、魔術を使う者……か。なかなか侮れない存在ね。それにしても、神族もやっぱり魔術特性を持っていたのね。これは発見だわッ!」
少女はそんな独り言をいいながらも、サークルを出現させると次なる目的地へと転移していった。
少女は「パルティア」の小さな「ピラミッド」の前に唐突に現れた。周囲にはどうやら人の気配はない。見送りの時はあれだけいたのに、出迎えはないらしい。まぁ、唐突に帰って来たのだから当たり前と言えば当たり前のコトだ。
そして小さな「ピラミッド」の中に転移したのだから尚更の事だろう。ここの入り口には門番がいる事から、中に入るのは誰でもOKではないのかもしれない。
そこら辺の仕様は神域に拠って異なるというか、平和かどうかの問題や主神の統治力的なモノにも由来するのだろう。
少女はそんなどうでもいい事を考えながら、小さな「ピラミッド」の階段を登っていく。そして入ろうとした時に1人の女性が入り口にいる事に気付いたのであった。
「ようこそ、おいで下さいました。手前の名はアナーヒター・ハラフワティと申します。主神であられますアフラ・マズダ様に従う者です」
「貴女が残った「パルティア」の1人なのね」
アナーヒターは綺麗な女性だ。いや、「神界」にいる女性は皆して美形ばかりなので、その形容だともう収まりがつかないかもしれない。
アナーヒターの声は高く、その美しい歌声はハリのある「ぷるん」とした唇から発せられていた。肌の色は透き通る程に白く、金色の髪を頭の天辺で結い上げている。瞳は淡い翠色で、耳には赤い石を使った耳飾りが付いていた。身長はアフラと同じくらいかもしれない。
細身の身体にしては立派な胸が謙虚な姿で自己主張を控えており、その点は露出が低く肌色成分が少ないので少女としては共感が得られたが、やはり高身長&大きな胸には反感を覚えないとは言えない。今は有事ではないからだろう、装備は身に着けておらず、プリンセスラインのふわっとした水色のドレスを着ている。
キリっとした意思の強そうな顔立ちをしていながらも、お姫様のような出で立ちには多少の違和感を覚えるが、それはそれで土色の街に咲く一輪の花のようでもあるからアリなのかもしれない。
「お2人が奥でお待ちです。どうぞ、こちらへ」
「苦労をかけたな、痛み入る。して、首尾は?」
「「高天原」と「オリュンポス」、後は「アースガルズ」からも容認すると解答を貰ってきたわよ」
「「おぉッ!」」
少女の解答は2人から驚きの声を上げさせていた。だが、そんな声を上げながらもアフラの顔はいつも通りの無表情のままだ。もう、アフラの表情を覆すのは、世界がひっくり返っても無理なのかもしれない。
少女は「パルティア」で報告を終えると、どこに行こうか迷った挙句にアテナの神殿に帰る事にした。あれから一度もアテナの元には戻っていなかったし、アテナの容態が気になったからだ。
少女は部屋の中ではなく、アテナの神殿内に転移を完了させた。まだアテナが部屋の中で寝ているとは思っていなかったが、万が一寝ていたら驚かせてしまうかもしれないから配慮したのだ。しかし、そんな少女に向かって疾走ってくる影があった。
その影は転移したばかりの少女に飛び付き、そのまま2人は抱き合ったまま神殿の中をゴロゴロと転がっていった。
「アテナ!?ちょ、どうしたの?」
「やっと帰って来たな、アルレ!心配していたんだぞ。一体、どこに行ってたんだ?」
誰かに勢い良く抱き付かれた少女は気が動転していたが、この行為をしたのがアテナだと気付くと特に抗いもしなかった。なので、ゴロゴロとその勢いが失くなるまで2人で転がっていった。
勢いが収まるとアテナは少女の上に馬乗りになる形で少女を見据えて、顔を膨らませていた。少女的にはちょっとだけ恥ずかしい気持ちがないとは言えないが、悪い気はしなかった。そして、そんなアテナのその表情や仕草、更には行動の全てが可愛らしく思えてしまい、少しばかり顔をニヤけさせているのだった。
少女はアテナに「何が起こったのか?」を話した。まぁ、アテナは馬乗りの状態で少女から降りてくれようとしなかったので、そのままの体勢だが仕方ない。
アテナはその状態で話しを聞き終えると「ウチの為にそんな事までしてくれていたとは、何と言えば良いか」と目を潤ませながら呟いていた。
一雫だけ上から落ちてきた泪は、少女の頬に落ちた後で床に向けて伝っていったが、それはとてもキラキラとして輝いていたのだった。
その日、少女はアテナの神殿の一室でゆっくりと眠りに堕ちて行く事になる……。
「ここは……?夢の中かしら?」
「以前に来た事のある、どの世界とも違う……わね」
今まで幾度となく似たような世界を漂った気がするが、今いる世界はそのどれとも違う。今の感性では何が違うかを明確には出来ないものの、断定的に夢の中で実際に起きていると何故か信じられていた。そして、「そんな細かい事はどうでもいいから、深くツッコむな」と言われている感じが絶えない。
感性同様に思考がいつもと違うようだが、何故だか気にしてはならなかったのだ。
「吾は思ったように出歩ける立場ではないのでな、その理由で「この場」を選ばせて貰った。すまんな、娘さん」
「女性の夢の中に入って来るのは、失礼ではないのかしら?」
少女は微笑みを浮かべながら、夢の中に現れた客であるオーディンに向かって紡いでいく。
「ははは、すまんすまん。流石にこんな夜更けに部屋に押し入るよりは安全だろう?どこかの主神みたいに女性を誑し込むのが生き甲斐であれば「然もありなん」だがな」
「ふふふ、その通りね。それにまぁ、オーディンさまの立場なら仕方無いのかもね」
「それで、オーディンさまが、ここに来た理由は昼間の話しって事で合ってるのよね?」
「その通りだ」
少女の夢の中にいるオーディンは、昼間に会った時となんら変わりがない。優しい笑みを浮かべて少女に向かって紡いでいた。
「えっと……それは、「ロキ」の事でいいのかしら?それとも、また別の「誰か」……のコトなの?」
「やはりか」
「ねぇ、オーディンさま?「ロキ」は死んだの?」
「それは、分からぬ」
「あやつは神族である事に変わりはないが、同時に神族ではなきもの。神としての行動をしながらも、魔としても行動する者。神族の味方をしながらも、魔族の味方をもする者」
「それだと、ただの偏屈者って言うか奇人変人と言うか……要は良く分からないヤツっていう風にしか聞こえないけど……本当のところは何を考えてるのかしら?」
「あやつの魂は幾つあるのか、何を根底に持って考えているのか、それは吾にも分からぬのだ。そして、大分前から「ロキ」はアースガルズには戻って来てはおらんようだがな」
オーディンの隻眼はその時だけ怪しく輝いていたようだったが、少女はその事に気付かなかった様子だった。それ以外にはあと、特に変わった様子もなくオーディンは更に紡いでいく。
「つい先日の事だ。「ロキ」の反応がこの地であり、先程はそれの真偽を確かめる為に来たのだ」
「そう。それじゃあ、アタシから言える事は全部話すわ。今日、ここに至るまでのアタシが歩んだ道の中で、「ロキ」と関わりがあった事を全部ね」
少女はオーディンを見据えたまま静かに深呼吸をすると、昔の記憶を呼び覚ましながら言の葉を紡いでいく事にしたのだった。




