キリムスンダハテ ν
「そうか、ウチはその「パルティア」の神族に助けられたのか……」
「そうだ、アテナ、ここで何があったのか覚えてる?」
「いや、残念ながら霞がかかったように、よく思い出せない」
「そっかぁ……。少しでも手掛かりが得られたらと思ったんだけど……」
「すまない」
「ううん、気にしないで。ところでさ、アテナ?アタシさ、明日からちょっと頼まれ事してくるね。だから、ちょっと留守にするけど、心配しないでね」
「頼まれ事?」
「うん。野暮用ってヤツ?だからアタシは明日から暫く出掛けるけど、アテナはゆっくり休んでいてね」
「今日はそれの準備でちょっとこれから、レア祖母様のところに行ってくるね」
「あぁ、気を付けてな」
少女はアテナの神殿を出ると、そのままサークルを開いて転移していった。
その表情はどこか険しかった。
「おや?誰かと思えば、一体どうしたのさ?今日はアンタの曾祖母様はいないよ?」
「今日はレアお祖母様に用があって参りました」
少女の不躾な訪問にレアは快く迎えてくれたが、口が悪いのはやはりデフォルトなのだろう。そんなレアに対して少女は改まって、立礼していた。
その口調はいつもの少女のものとは異なり、多少の緊張が混じっているようにも感じられる。
「改まって、あたいに用なんてね。何か、ワケありなのかい?」
こくんっ
レアは少女の緊張を察したのか、声色を一段落とし少女に言の葉を紡いでいた。そして少女は緊張したまま、重い口を開いていくのだった。
「ふぅん、そんな事がねぇ。アンタも悉く災難を呼び込む体質なのかねぇ?」
「で、あたいに何を聞きたいのさ?」
「先ず、お聞きしたいのは「エル・シーナ」についてです。ご存知の事があれば……で良いので情報を頂ければ……と」
ぽりぽり
「アイツらと闘り合おうってのかい?」
「恐らく、そうなるかもしれません」
「はぁ……。まぁ、いいや。それじゃ、教えられる事だけ教えてやるよ」
「今、アンタが言った「エル・シーナ」ってのは、勢力としての「名」だ。自分達の神域を持っていない神族の集団」
「で、最近は新たに産まれた神族も取り込んで、この「オリュンポス」や「高天原」、「デーヴァローカ」なんかと比肩する程の一大勢力に成りつつある」
「だから、「パルティア」とはだいぶ戦力差があるから、「パルティア」にとっちゃ災難としか言いようがないね」
少女はレアが紡いだ言の葉の中に分からない単語があったが、そこは取り敢えず置いておいた。話しを脱線させるのは心許なかったし、縁があればいずれその地域の神族と関わるだろうと考えたからだった。
「それでアンタはそんな一大勢力に対して、一人で挑もうってのかい?」
こくんっ
「そうかいそうかい。それなら、あたいが知ってる神族の知識を特別に、アンタに話してやろうかね」
「えっ!?でも、それって?!」
「なぁに、名前は教えてあげられんけど、注意するべき相手の特徴なんかは話してやれるさね」
レアの言の葉に少女は礼を言い、レアの口からは様々な「神」に関する情報が流れていった。レアの口から紡がれていく情報は少女にとって有用なモノであったが、最後にレアは「新しく産まれた連中のは知らないから諦めておくれよ」と付け加えていた。
「で、あとは何が聞きたいんだい?まだ他にもあるんだろう?」
「失礼かとも思いましたが……、レアお祖母様から頂いた「加護」について教えて頂きたく思います」
「あははは。なんだいなんだい。そんな事を改まってまで聞きたかったのかい?まぁ、そうかヒト種であるアンタは加護についてはよく理解していなかったか」
レアは咲い声を上げ、微笑みをその顔に湛えていった。少女はその微笑みの美しさにちょっとだけ「どきッ」としたが、「お願いします」と応えるに留めていた。
「あたいがアンタに授けた「加護」は「死と再生」だ。これは回数制限展開で回数制限は「3回」だよ。「加護」の内容はアンタが「死ぬ」ようなダメージを負っても、無条件で3回まで耐えられるって内容だ」
「分かったかい?」
「はいっ!ありがとうございます、レアお祖母様」
「あはははは。いいっていいって、そんなに改まらなくても。アンタはそーゆーガラじゃないだろ?」
「えへへ、まぁ、うん……」
少女はそれから少しの間、レアと話しをしていた。そこには既に改まった感じはなく、気さくな友人のような会話があった。
こうしてレアとの話しを終えた少女は、レアに改めてお礼を言って祠を後にする事にした。
そして再びサークルを出現させ、転移していった。
「いらっしゃい、父様の所にはもう行ってくれたのかしら?」
「急にごめんなさい、母様。今日は一つ、お詫びを言いに来たの」
「あら?どうしたの?」
「本当ならもう、人間界に戻って、その足で「魔界」の父様の元に母様の手紙を届けるつもりでいたんだけど……。アタシはまだこの「神界」でやる事が出来ちゃって」
「だからまだ、「神界」を離れられないみたいで、当分……母様の手紙を届けられそうにないの。でも母様が待ち侘びてたら申し訳無いと思ったから、先に謝っておこうかなって……」
きゅっ
「あ、母様……?」
少女は本当に申し訳なさそうにウェスタに紡いでいた。ウェスタは少女に近付き、少女の事を優しく抱き締め「大丈夫よ。貴女が無事なら私は大丈夫だから。父様の所に行くのは焦らなくていいのよ」と囁くように優しく、少女に言の葉を紡ぎ頭を撫でていた。
その後、少しの間、少女はウェスタの膝まくらの上で母親に甘えるのだった。
アテナは少女の様子が可怪しかった事が気になっていた。少女は「明日から行く」と話しており、今日、少女が神殿に戻って来たら問い詰めてでも、その内容を聞く気でいたが、その日、少女がアテナの神殿に帰って来る事はなかった。
アテナは少女の事を考え、想い、心配で胸が張り裂けそうな程の気持ちになっていたが、未だに本調子とは程遠いアテナの身体は、少女を探す事を「是」としていなかった。
故にアテナは神殿から出る事が出来ないでいたのだった。
結局のところ、少女はウェスタの元にお泊りしていた。アテナには申し訳ない気もしていたが、母親の温もりをもっと感じたくなったのだから仕方ないと言えば仕方がないだろう。
母親がいなくても強く生きていく事を心情にしていた時期もあったが、変わり身の早さはツッコまないであげて欲しい。
そして早朝のまだ暗い時分に少女は、心配そうな表情を浮かべるウェスタの元から去る事にした。アフラとの約束があるので、本来ならもうちょっと母親に甘えていたかったのだが、約束は約束なので破る事は出来なかったのだ。
「どうか、無事に帰ってきてね」
少女を見送ったウェスタはまだ暗い空を見上げ、娘が無事に帰って来る事に対して静かに祈りを捧げていた。
「流石に早過ぎたかしら?まだ来ていないのかしら……ね?」
「そんな事はない」
「ひゃうッ」
少女が待ち合わせ場所に来るとそこには誰もいなかった。まだ暗い為に周囲に人影がいても気付き辛いのは認めるが、それでも誰もいないのはバイザーが示してくれていた。だから余裕綽々としていたのだが、少女は背後から突如として声を掛けられ、可愛らしい悲鳴を上げるハメになった。
その心臓はバクバクと高鳴り、早いテンポのビートを刻んでいたがそれを言ってはいけない。
「い、いたなら気配消しているのやめてよッ!もうッ、心臓が止まるかと思ったじゃない!」
「流石に今死なれては困るな。以後気を付けよう」
「いや、そういう意味じゃないんだけど……ま、いっか!」
「ふむ。まぁ良いなら良い」
「ところで、なんで隠れてたワケ?アタシを驚かせたかったワケじゃないんでしょ?」
「うむ。拙者の国は既に無いのでな、オリュンポスの者に見つからないように、ここに隠れていただけだ」
「そう言えばそうだったわね……。気付けなくて申し訳なかったわ」
「気に病む必要はない」
「それじゃあ、急いで行きましょう!行く為の手段はアフラが用意してくれるのよね?」
「アフラ……。うむ。拙者が「パルティア」の大地に連れて参る」
ここはまだ「オリュンポス」の領内だが都市圏からはだいぶ離れている。だから「オリュンポス」の神族達が騒ぐ事はないだろう。その事は少女が不安に駆られる要素を消してくれていた。
流石に関係が少なからずある「オリュンポス」に対して、少女としても敵対行動は取りたくないからだ。
「そうだった、アフラから貰った薬のお陰でアテナは無事に目を覚したわ。ありがとう」
「アフラ……。うむ。そうか、それは良かった」
少女は渾身の屈託の無い笑顔をアフラに向けたが、やはりアフラのポーカーフェイスを崩す事は出来なかった。
だからちょっと自信をなくしたと言うのは余談である。
「では、参るぞ、準備は良いか?」
こくんっ
「ウィスプ・ラト」
アフラの光輪はその背から離れ2人の直上に上昇していく。「輪」から光が放たれると2人は光に包まれ、暗い視界が急に明るくなっていった。
その光は眩しい閃光ではなく、暖かい春の陽射しを想起させるようなモノであり、まるでウェスタやガイアのように慈愛に満ち満ちていたと表現する方がいいかもしれない。
光の壁に遮られたコトによる明暗の差で周囲の様子は伺う事が出来なかったが、光が薄れてから周りを見渡すとそこは、既にオリュンポスの大地では無くなっている事に気付いたのだった。
「ここが「パルティア」である」
「アフラの光の輪っかって便利なのね?転移も出来ちゃうなんて!」
「アフラ……。光の輪っか……。うむ。先程のは汝が使う転移魔術と同等のモノのハズだ」
「でもそれだけじゃないじゃない!昨日の犯人特定したのも、光の輪っかだったし、そもそも空も飛んでたでしょ?」
「光の輪っか……。うむ」
少女はなんとなくだが、アフラのポーカーフェイスの裏にある表情が、分かって来たような気がしていた。まぁ、飽くまでもなんとなくなのだが……。
当のアフラは無表情のまま、紡いでいたのでそこら辺は深堀りする事なく少女は周囲を見渡していった。
すると遠くの方にある街が視界に入ってきたのだった。
それは土色をした単色の街。色鮮やかだった「オリュンポス」とはまるで違う様相だ。
高い建物は奥に一つ。手前に二つ。奥の建物は「頭の尖っていないピラミッド」のような形をしていて、手前の2つは四角い建物の天辺に球体がくっ付いているような形に見えた。
言うなれば、手前の建物は戦争を繰り返した今の地球に残存しているかは分からないが、「モスク」と呼ばれる建造物に似ているかもしれない。
空に陽の光はまだ無いが「オリュンポス」よりも東にある「パルティア」は、少女から見て右手側に見える地平線から、その姿を見せ始めた頃合いだった。
拠って日の出の光が土色の街を照らしていく途上だった。
「ところでアフラが言ってた「蛇悪竜種」の気配は大丈夫そうかしら?」
「アフラ……うむ、慣れた。蛇悪竜種はまだ眠っている様子だ」
「そう……。なら、中にいる「エル・シーナ」との戦闘が先になるわね」
「デバイスオン、索敵モード」
「デバイス……うむ。これがヒト種の知恵か」
「ひい、ふう、みい……うーん…ざっと数えて戦闘に関わる神族は50くらいかしら?レア祖母様から聞いた神族の特徴は13柱分だから、残りは新たに加わった神族って事ね。いいじゃん、やったろうじゃんか!」
ぱんぱんッ
少女は顔を叩き一人気合いを入れていった。そして、頭の中の回路では既に幾つかの戦術を描いており、それに従い戦略が構築されていく。
更にはアテナの加護もそこに加わって入念に戦略が立てられていった。
「それじゃあ、行ってくるわ。もし、アタシが闘っている途中でも「蛇悪竜種」の気配が現れたら光の輪っかででもいいから教えてね。そっちの方が優先でしょ?」
「光の輪っか……うむ。そうしよう」
「最後に1つだけ。街は余り壊さないようにするけど、壊れても文句は言わないでよね?」
少女はアフラに紡ぐと返答を待たずに空を駆けていった。その目に不安は無く、決意や好奇心といった感情に支配されている様子だった。
「慈悲深いのだな。拙者の国では既になくなったと言ったのだがな」
少女は静寂の中、土色の街に降り立っていた。日の出から時間が余り経っていないからだろう。
バイザーの反応もそうだが、肉眼で見ても街の中に出歩いている者はいなかった。それ故に少女は土色の街の中心に奔る、道の最奥にある「ピラミッド」風の建物に向かって歩いていく。
「ざっざっ」と言う土を踏み締める音が静寂の街に響く。だが、その音を聞き付け出てくる者はやはりいないようだ。
故に少女の事を見咎める者は誰もおらず、何事も起きないまま少女は「ピラミッド」風の建物まで到着していた。
「何者だ?」
「貴方達の主神に用があるんだけど?」
「エ・ラーダ様はお休みになられている。早々に立ち去れ!!」
「ふぅん、エ・ラーダって言うのね?アタシはそのエ・ラーダに話しがあるのよ。とっても重要な話しなの。だから寝ていても関係ないから、起こしてでも連れて来てもらえるかしら?」
「ピラミッド」風の建物の門番と思しき者が、初めて少女に声を掛けた者になった。しかし門番は完全に敵意と殺気を向けている様子だ。
これでは交渉の余地などないが、そもそも挑発行動を取っている時点で交渉する気もない事が窺えるだろう。
「我等が主神を呼び捨てるとは、キサマ、何者だッ!」
「そう、それなら仕方ないわね。通してくれる気が無いなら倒して先に進むわ。恨まないでね」
かちゃっ
「ま、最初からそのつもりだったしねッ」
「単身で乗り込んでくるとは、痴れ者め!」
少女は愛剣を握り戦闘態勢に入っていく。門番は手にしている槍を低く構えると大地を蹴り、少女に対して速攻を仕掛けていった。
しゅっしゅしゅしゅっ
「なんだ、コイツは!?まるで当たらない……だと?!」
鋭い「突き」が門番より放たれていく。その突きとて紛う事のない、神族が放っている突きに変わりはない。
だからこそ、その一突き一突きに明確な殺気が込められている。当たれば殺気の意味を知る事になるだろう。だが、少女はその悉くを体術で躱し、門番との距離を詰めていった。
少女は魔術でバフを掛ける必要性を感じなくなっていたから、強化系の魔術は使っていない。偏に神族の魔石の効果と、アテナの加護に拠るモノが大きかった。
流石に戦闘に対する「知恵」であるアテナの加護は、優秀過ぎると言えるだろう。
こうして門番の攻撃は当たらないばかりか、2人の距離は徐々に詰められ、槍の優位性は失われたのだ。門番の顔が焦りによって歪み、苦悶の表情を浮かべた頃、少女から強烈な蹴りが見舞われていった。
直撃を受けた門番は門を突き破り「ピラミッド」風の建物の中に飛ばされていったのだった。
門をその全身をくまなく使って開けてくれた門番は気絶しており、少女はチラ見すらせずにその横を通り過ぎていく。バイザーに映る光点は少女の近くには無く、近寄ってくる者もいない様子だった。
早朝だからだろうか?それとも襲撃される事を想定していないのだろうか?セキュリティは脆弱としか言えないかもしれない。
拠って少女はそのまま悠々と奥まで歩を進める事が出来たのだった。
「ピラミッド」風の建物の中には更に小さな「ピラミッド」風の建物があった。最初に見えていたピラミッドは中心部分にあるピラミッドを隠す為に造られた「壁」と言った感じだ。少女は中心の小さな「ピラミッド」に近寄っていくが、そんな少女に向けて近寄ってくる影があった事を、少女はバイザーを通して確認していた。
どうやらセキュリティは脆弱ではなかったのかもしれない。
「こんな朝っぱらに侵略して来るとは、どこの勢力かとも思ったが……、やれやれヒト種の小娘が1匹だけだと?」
「いち……この姿は祖母様に聞いていたわね」
少女の後ろから声を放ったのは虎の姿をした獣神族だ。それはレアから聞いていた通りの容姿であり、中でも注意すべきは戦闘能力だったか……。
「ですが、どうやらただのヒト種では無いように思えますね?慢心は禁物ですよ?ライガ!」
「に……次のも聞いた通りの姿だわ。長髪の細剣使い」
獣神族のライガに話し掛けているのは少女の左からやって来た長髪の男だ。翠緑のハーフメイルを装着し手には細剣を携えている。そしてこの男もレアから聞いていた通りだった。
「我等の拠点に単身で乗り込んで来た事をその身を持って後悔してもらいましょ?」
「さん…レア祖母様から貰った情報にはなかったわね。片翼の龍神族……かしら?」
少女の右側からやって来たのは、龍種の翼を背中の左側にのみ生やしている女性だ。その女性は露出度の高い装備で豊満な胸元を揺らしながら、手に持つモーニングスターを床にめり込ましていた。
この相手はレアに貰った情報には無かったことから、警戒はするべきだろう。然しながら、少女としては物理防御力を捨てたような露出度の高い装備が許せなかった。
いや、本心はそこじゃないがツッコんではいけない。
少女の取り囲むように三方向から現れたエル・シーナの神族は、その身に殺気を纏っていく。少女は大剣を構え、身体をゆっくりと回転させると先ずは後ろのライガの方を見て、あとの2人も同時に視界に収めていった。
流石に1対3で死角を作るのは不利でしかないからだ。
「はぁ。念の為、言っておくけど、アタシはエ・ラーダに会わせて貰いたいだけなのよ?大事な話しがあってここまで来たんだから……。だから、出来れば闘いたくはないから、お互いに矛を納める気は……無いかしら?」
「他人様の領地に土足で上がり込んでおきながら、何を言っていやがる!」
「やっぱりそうなるわよね……じゃあ、アタシの実力を見せてあげるッ!」
少女は自分を囲んでいる三柱に言の葉を紡ぐが、それぞれの神族から放たれている殺気に変わりが無い事を感じ取っていた。そればかりか元々矛を納める気がない少女の安い挑発に因って、殺気は膨れ上がっていった。
まぁ、無理もないだろう。敢えてそういった行動をしているのだから。
「ハッ!きえぇぇいッ」
しゃしゃしゃしゃッ
先制を取ったのは長髪の男だ。細剣から繰り出される鋭い突きは少女のいた場所を正確に穿いていた。
だが、少女は華麗な足捌きでステップを踏み、向かってくる「突き」を自身の身体を回転させ、まるで舞踏をしているかの如くに躱していく。
やはりそれは前もって相手の行動予測をしてくれているアテナの加護あっての事だ。
従前までの少女の闘い方なら野生の勘と、経験からくる直感と閃きの元にそれを行っていたが、今ではアテナの加護に拠って洗練されたステップへと昇華されていた。
少女は「たんッたたったたッ」と回避行動の回転エネルギーを自身の愛剣に乗せ、強烈なカウンターの横薙ぎを長髪の男へと繰り出すのだった。
「もらったわ!」
がきんッ
「ッ!?」
「させないよッ!」
少女のカウンターは鈍い音を立てて止められていた。それは片翼の女性が自身のモーニングスターを投げて、少女の大剣に絡めたからだ。
少女の愛剣にはモーニングスターの鎖が巻き付き、勢いを殺された大剣は長髪の男の手前数cmの所で動きを封じられていた。
「重ッ!一体、どんなバカ力よッ!その胸の脂肪の塊は筋肉だとでも言うのッ?」
「これは自慢の脂肪塊さね。アンタのようなお子ちゃまには羨望の的だろう?」
ぶちぶちッ
「い、いい度胸ね!誰も殺すつもりはなかったけど、アンタとは気が合いそうにないわね!そのだらしない脂肪塊を根こそぎ斬り落としてあげるわッ!」
「何を闘いの最中にごちゃこちゃ喚いてやがるッ!があぁぁぁッ」
かちゃかちゃ
「くっ、この鎖を刃から滑らすのは無理……か」
少女は自身の愛剣に巻き付いた超重量物に耐え兼ね声を上げていた。少女はその「重さ」が加わった事で行動が制限されており、そこにライガが強襲したのだ。
少女は刃を降ろし鎖を滑らせようとするが巻き付いた鎖は滑り落ちず、強襲してくるライガに対して愛剣を使う事を諦めた少女は、両手剣である大剣を右手のみに持ち替えていく。
当然の事ながらそれを片手1本で支えるのは難しいから、床に手伝ってもらう。
「デバイスオン、ソードモード」
がきんッ
「まだ武器を持っていやがったか!」
デバイスに生み出された刃は既のところで強襲してきたライガの爪撃を受け止めていた。しかしこれで、少女の動きは完全に止められてしまったと言えるだろう。
「それなら次は躱せないでしょう!喰らいなさい、刺突流舞!きぃええぇぇぇぇい」
「躱せなくても方法はあるわよッ。全方向展開・豪傑剛槍!!」
しゅしゅしゅしゅ
少女は自分の全方位に向けて、「金」属性に該当する水晶の槍を展開し放った。
ライガは目の前に現れた槍に対して爪撃に拠る追撃を止め、少女と距離を取って自分に向かってきた槍を撃ち落としていく。
長髪の男は突きの相手を切り替え、少女の魔術を撃ち砕いていった。
片翼の女性は向かってくる魔術に対してモーニングスターの拘束を解かず、その片翼を高々と広げると「旋風扇刃」と高らかに吼え、旋風の刃は槍を迎撃していく。
風属性と相性が悪くない金属性は対消滅し、突風を巻き起こしていった。
「へぇ、ヒト種にしちゃ、なかなかやるじゃねぇか」
「上位属性の力を持っていたなんてね。あれが魔術なら三属性使えるってコトよね?厄介過ぎるわ……まぁ、獣神族に魔術特性があればの話しだけど」
「おいッ、てめぇ!無視してんじゃねぇ!」
少女はライガの声は一切気にせず、状況を分析した上で拘束されている自身の愛剣からモーニングスターを引き剥がすには、どうすればいいかを必死に模索していた。
“素直に力を解放したらどうだ?”
「やっぱりそうなるのね……。まったく、仕方無いわね。じゃあ、少しだけ力を見せてあげようかしら?遊びはこれくらいにしてねッ」
「「「!?」」」
「今までのが」
「遊び……だと?」 / 「遊びですって?」 / 「遊びだと?ナメてんのかぁ!」
少女は呟いていた。まぁ、実際には加護と話していたのだが、それが聞こえないのであれば独り言に違いはないだろう。そして、その独り言は三柱の神族の自尊心を大いに傷付けていた。
だが傷付けられた自尊心はそのまま驚愕の様相に姿を変えていく。少女の周囲に2つの力が収束していくのを目撃したからだ。
「な、何なんだ、その力は?!」
「ヒト種でありながら、「魔」と「神」の力を有するだと?!」
ライガは驚愕を声音に纏い、長髪の男は恐怖を重ねていた。まぁ、それは当然の反応と言えば当然の反応であり、そんな反応を示さなかったのは片翼の女性だけだった。
「まったくだらしが無い男共だねぇ?そんな力程度で何を恐れているんだい?」
「じゃ、先ずはアンタから……ね。全力で手加減してあげるけど、痛い思いくらいは覚悟して……ねッ」
だっ
片翼の女性は少女の力に恐れを抱いてはいない様子だった。しかし少女からしたらそんな事はどうでもいい事だ。
要は、拘束が煩わしいのと、あと様々な私情から先に仕留める事にしたというだけだった。
少女は半神半魔の形態になっている為に、大幅に身体強化のバフが掛かっている。拠って2人の距離は一瞬で詰められ、片翼の女性は何もする事が出来無いまま、気付いた時には少女の蹴りがまともに腹に入っていた。
更に追い打ちを掛けた少女は前のめりになった片翼の女性に、前宙からの踵落としをその後頭部に入れていった。
こうして片翼の女性は床に頭をめり込ませ轟沈した。
「ウィスパ!」
「くそっ!きいぇぇぇぇぇい」
「待て!早まるなッ!」
長髪の男が片翼の女性の名を呼んだが、轟沈させられたウィスパと呼ばれた女性が声を発する事は無い。長髪の男はその瞳に覚悟を決め決意を宿して、細剣を自身の体幹に添わせて構えると少女に速攻を仕掛けていった。
「シャッ」と言う声と共に鋭い突きが放たれるが少女に当たる事は、やはり「無い」を通り越してあり得なかった。拠って、すれ違い様に少女の膝が長髪の男の腹にめり込み、長髪の男は「がはッ」と嗚咽を漏らし、床に対して頭から着地した。
「ハイム!」
「呑まれて先走りやがって!だが、こうなっては仕方ない。参る!!」
ライガは頭で着地した長髪の男の名を叫んでいた。そして、ライガは自身の身体を作り変えていく。
そこにいるのは既に獣神族ではなく、大きな白い虎でありその姿に変化したライガは、獣の神速を持って少女の元へと駆けた。
その鋭い牙で少女がいた空間を噛み砕く……が、ライガが噛み砕いたのは虚空だけだった。
「ッ?!」
「どこだ?どこに行った?!」
「ここよ。う・し・ろ」
「なっ!?」
少女はライガの後ろから声を掛け、振り返ったライガの下顎目掛けて渾身の蹴りを浴びせ、その一撃を以ってライガはK.O.となった。
「中々やるな、娘。外が騒がしいから見に来て見れば中々に面白い侵略者だな」
「して、侵略者の娘よ、何用かな?此の我の首でも奪りに来たか?」
小さなピラミッドの上に1人の男。その男が階段下の様子を見下ろし、小さな侵略者に対して話し掛けてきていた。




