エイリナルヤイバト ν
「あら貴女、ヒト種ね?こんなところでどうしたの?」
微笑んでいる綺麗な女性がそこにいた。否、この世界で少女が出会う女神達は一様に綺麗なワケで、喩えるならば「綺麗の綺麗による綺麗の為のインフレ」が起きている。
そろそろスーパーを通り越してハイパーインフレーションが起きるんじゃないかってくらいに、綺麗で美人な人が多い。そしてそんな中でも、この女性は慈愛に満ちていた。
更には真ん中に一本芯の入った美しさを醸し出している。
しかしそんな美しい顔から齎される笑顔は実に可愛らしかった。
長くツヤがあり輝く黒髪を束ね、その髪を肩から垂らしている。瞳の色は芽吹いた若葉の色に似ていた。
上から纏っているシースルーのショールから透けて見える肌は、そんな髪の色とは対象的で透き通るほどに白かった。着ている服はドレスだろう。
胸元は開かれておらず、若葉色をした至ってシンプルなエンパイアラインのデザインだ。
座っているせいもあって身長は分からないが、凄く姿勢がよく目を見て話してくるので、綺麗な女性に見詰められた少女は自分が恥ずかしくなる思いだった。
ちなみに、さっきの2人の会話な於いては、宥めていた方だ。
「アタシは、アタシのお祖母様に会いにここに来ました」
「えっと、その……」
少女の紡ぐ言の葉は、二人の女神の美しさに負けてしまい、いつもの調子が出ていない様子だ。
「お祖母様?貴女は一体、誰の子なの?」
「ヒト種の娘を持つ子供なんていたかしら?」
少女はその言葉に、言葉を詰まらせていた。何故ならば母親の正確な名をまだ知らないからだ。
「アタシの母様は今、幽閉されていて……。そこから助け出す為に、ヘラ叔母様から、「大地の塔」に行き承認を貰えと言われたのです。それでアタシの「いとこ」のアテナから、ここにアタシのお祖母様がいるから、会ってから行けと……」
母親の名前を知らない少女は、苦し紛れに他の女神の名を含む言の葉を発し、その言の葉に拠って察して貰いたかったのだった。
「そう、なら、貴女の「お祖母様」は、わっちでは無くて、こっちよ」
「えっ?あたい?まぁ、ヘラがアンタの叔母で、アテナがいとこなら、あたいで確かにその通りだわさ。でもヒト種の孫かぁ。あの子がヒト種と交わってたなんてねぇ。まったくもって予想外だわさ」
「交わるって、卑猥な表現をするものではないわ。まったくデリカシーがないんだから。はぁ」
慈愛に満ちた女性は少女の前に、その場にいたもう1人の女性を差し出していった。
もう1人の女神。その女神はヘラ同様に凛とした意思をその目に宿しており、髪は短く小麦色に輝き魅惑的な色気がある。瞳の色は若葉色よりも色味の強い萌黄色だ。
顔立ちはやはり整っているから、これまた美人な事に違いはない。
肌の色が褐色な事もあるので、エスニック美人と表現出来るかもしれない。頭には白いシースルーのベールを被っており、そのベールの白さが対照的な肌の色を映えさせていた。
着ている服はシースドレスのようだが、左脚に腰まで延びる大胆なスリットが入っている。
少女は下着が見えそうなくらいのスリットに、見ている自分が恥ずかしくなる思いだった。
しかし、こちらの女神は慈愛に満ちた女神とは違って姿勢は宜しくなかった。椅子を跨いで座り、椅子の背もたれに頬杖を付いている。椅子の背もたれに浅く腰掛けている、慈愛に満ちた女神とは真逆と言えるだろう。
更には大胆なスリットから伸びる脚が独特な色気を出しているものの、当の本人は気にしていない様子だ。
「で?アンタが、あたいの孫?」
「えっと、お名前を伺ってもいいですか?」
「あたいの名前はレアだわさ。レア・レイアー・パイン。で、アンタはヒト種であってる…よな?」
少女の耳に聞こえたその「名」は、大地の塔に幽閉されているであろう一柱の「神族」の妻の「名」で間違いないだろう。しかしそうすると、もう1人の女神の事が気になる少女だった。
「そうしたら、そちらの女神様の名前は?」
「貴女はもう、知ってるハズよ?」
「するともしかして、ガイアさんですか?」
「うふふふ」
少女の問いに対して慈愛の女神は微笑みだけで返答していた。
少女はガイアとレアの二人に、事情と自身の身の上を話す事にした。あまり長い時間を掛ける事も出来ないので多少巻きで話したのだが、2人の女神は少女が紡ぐ言の葉を聞き、その内容を理解してくれた様子だった。
それに拠って2人の女神は少女の事を認め、少女の力になる事を確約してくれた。
その証として、ガイアは少女の左頬にレアは少女の右頬にキスをし、「加護」を与えたのだった。少女は綺麗な2人の女神からのキスを受けて、心臓が破裂する思いであった。
しかし、顔に出さないように、ただただ平静を装っている風を醸し出していた。
そんな初々しい様子の少女に対して2人の女神は微笑みを崩す事は無かった。
少女は2人から「加護」を貰うと礼を述べて、祠を後にした。2人の女神は去っていく少女に対して、微笑みながら手を振って見送っていた。
「ここ数日、この地のマナが賑わっていたのは、あの娘が来たからなのかもね」
「少しはあの娘の力で「バカ共」が反省してくれればいいのだわさ」
「相変わらず口が悪いわね、レア。もっとお淑やかにしていた方が貴女は魅力的なのに……」
ガイアはレアに対して、なんとも言えない表情で生温かい目を向けながら返していた。そして、少女が出ていった祠の入り口の方を見詰め直して呟いていた。
「ガイア・ゲー・テルセウスの名に於いて、あの娘に祝福を……」
「ここが「大地の塔」ね」
「でもまぁ、なんて言うか、先に「天空の塔」を見てしまってからだと、うーん、なんて言うか…………しょぼい?ふふふ」
少女は塔の前に立ち、塔を見上げていた。だが、天まで貫く「天空の塔」程の高さはそこにはない。
せいぜいが10階建てのビル程度の高さだ。
「アテナの「加護」から貰った情報だと、ここは、地道に下から上がって行くしか方法は無さそうだけど、中には…やっぱりたくさんいそうよね」
“そうだな。1フロアに100匹以上はいるだろう”
「えっと、蛇足種だっけ?人間界にいない魔獣だから、使い魔にするのもアリかな?討伐難易度は聞いた限りだとAランクくらいだから魔犬種達より強そうだし、きっと半身蛇種みたいな感じよね?半身蛇種は魔術も使えるからたくさん蛇足種を使い魔にして魔術支援させるってのもアリかなぁ?」
“盛り上がっているところ悪いが、オススメはしないぞ”
「えっ?そうなの?魔術支援を受けられれば魔獣討伐が凄くラクになるんだけどな」
“まぁ、それでも手元においておきたいと願うのであれば止めはしない”
「じゃ、乗り込むとしますか!」
ぎいぃぃぃぃぃ
ギィヤアァァァァァ
ばたんっ
「@#$%&*☆¥※〒$&@☆#※$*〒!??!!!ッ///」
「なななななななな、ナニアレ?/// ナニアレ?なんでなんでなんで?///」
“だから言っただろう?オススメはしないと”
少女は武器を構えると扉を開け、塔の中へと入っていったのだが、少女の元に大挙として「蛇足種」達が向かって来たのだ。
蛇足種は上半身が人間、両脚の膝から下がそれぞれ蛇になっている。要するに2匹の蛇を脚としているだけだ。
そして魔獣であり、恥も外聞もない、あられな格好をしている。
そして、オスの魔獣だ。お分かりだろうか?メスではなくオスなのだ。だからこそ倫理的にどうかと思うので説明はしない。
まぁ、メスならともかくオスなので説明したくない。
だからこそ「半身蛇種」をイメージしていた少女は、その出来損ないのような、あられもないモノを見させられて大変にトチ狂ったのだ。
それはもう、半狂乱といってもいいだろう。
しかしこの魔獣、「「神」や「神の力」では決して殺す事が出来ない」と言う「因果」を持っていたりするので意外と侮れない。
よって少女は一回締めた扉を再び開ける前に、深く深呼吸をして落ち着きを取り戻し、自身の大剣に「魔」の力を宿して準備を整えていった。
そこから先は狂気の殺戮だった。塔の中に再び乱入して来た闖入者に因って、蛇足種達の悲鳴が、断末魔の叫びが次々と塔を包み込んでいくのだった。
「あはははははははッ!そんないきり立った粗末なモノを見せ付けられる身にもなりなさいッ!もう、死んじゃえ死んじゃえ死にたくなりなさいッ!あはははははははッ!」
蛇足種達の断末魔の叫び以上に、少女の絶叫が塔の内部に響いていた。まぁ、まともな精神のままでは流石に辛かったと思うので、そこは許してあげて下さい。
それはともかく、従魔契約は見送られる事になったのは言うまでもないだろう。
後にこの殺戮衝動に対して少女は、「服を着ないで、おっ立てながら見せびらかしているのが悪い」とふくれっ面で言っていたとかいなかったとか……。
「強行突破」をすると決めた少女の行動は迅速だった。少女はルート上にいる蛇足種だけを愛剣で斬り結び、最上階の1つ下の階まで一気に駆け上がっていったのだ。
然しながら、「狩り残しから挟み撃ちにされるとマズい」と考えた少女は、駆け上がって来た階段を闇属性魔術「闇の鎖」を張り巡らせて封鎖した。その上でその階のみは、隅々まで殲滅する事にしたのだった。
何故ならば、そこで少し休もうと思ったのだ。見たくもないモノを見させられて精神的にもかなりキていたし、落ち着きを取り戻した上で最上階に上がりたかったのだ。
だからその階の隅々まで殲滅した後で少し休んでいた。
そして、最上階へと足を踏み入れるべく歩を進めていった。
「ひい祖父様の場所と同じね」
「ここは建物の中のハズなのに、ここの天井も「宇宙」繋がっているのかしら?でも、それにしては、まだこの姿なのにアタシはよく生きていられるわね」
“ここは「天空の塔」とは違う。だから宇宙とも繋がっていない。空間が歪んでいるのはこの塔の主の力のせいであり、ただ歪んでいるだけで繋がっていないからヒト種であろうと死ぬことはない”
そんな解答がアテナの加護から得られた。まぁ、なんとなくしか分からないが、アストラル体にならずに済むのであればそれに越した事はないだろう。
ちなみに床の色こそ「天空の塔」とは違うが、そこの空間は「天空の塔」の最上階を思い出させる空間だった。
次元の歪みが幾重にも重なり合って、空間すらも歪んで見える。
天井には広大な宇宙が広がっており、その宇宙すらも歪んでいるかのような光景だ。
ただ、この空間には壁がある。その点だけが「天空の塔」と一線を画す「仕様」な気がしていた少女だった。
少女はその空間を歩いていった。そして、一人の男を見付けたのだ。
「へんッ!よく来たな、乃公の住処へ。乃公がここの主、クロノス。クロノス・ハルパー・サートゥリアだ」
「貴方が祖父様なの?」
クロノスは少女に対して重圧を放っていた。喩えるならその重圧は、荒々しく猛々しい暴風直下の海にいるような「圧」だ。
簡単に言えば生命知らずと言えるだろう。しかし少女はそんな重圧に対して必死に耐え、言の葉を紡いでいった。
「アタシの母様が幽閉されている塔に入って助ける為に、貴方の承認が欲しくてアタシはここに来たの。アタシに承認を頂けないかしら?」
「へんッ!「承認」だと?乃公はバカ息子にここに幽閉され、詰まらねぇんだ。嫁もここには近寄んねぇ。ここに閉じ込められて幾星霜。ただただ暇を持て余すだけの日々だ。そんな乃公を愉しませろ!そうしたら、その「承認」とやらをくれてやんぜ!」
「バカ息子が塔の中に放ったザコ共に屈せずここまで来れたんだ、それなりに力はあんだろ?」
「それは思い出させないで……お願いだから」
クロノスはその長い髪を振り乱し、まるで駄々っ子が喚いているようにしか少女の瞳には映ってはいなかった。然しながらその「駄々っ子」から発せられている「重圧」は、少女の口の端を非常に重くさせていた。
「何をしろと言うの?アタシに貴方を愉しませられるのかしら?言っとくけどヤらしいコトは全力でお断りよ?」
「へんッ!乃公はバカ息子と違ってオンナなら誰でもいいってワケじゃあねぇ。まっ、そうだな、それじゃあ先ずは乃公と遊べッ!」
だっ
だんッ
「で、デカいッ!」
クロノスは左右の手それぞれに大鎌を持ち、大きく跳び上がると少女の前に着地した。
クロノスは長い銀色の髪を振り乱し、その瞳の色もまた銀色に輝いている。そして極めつけはその体躯だ。
クロノスの体躯は大きく、2m近くあるかもしれない。だから目の前に立っている少女は、完全に子供を見るみたいに見下ろされている。
防具はその身に一切纏っておらず、アンダースカートタイプのトゥニカを身に着けているがトーガは纏っていない。要するに上半身裸であり、筋骨隆々なその身体付きからも「威圧」が放たれている。
筋肉の鎧だけしか纏っていないクロノスはゼウスよりも体躯に自信があるのだろう。
そしてクロノスの銀の瞳が少女の事を見据え、少女はその瞳を見返していた。
「へんッ!なかなか根性が座ってるヒト種じゃねぇか。なら、こうすっか?乃公に一太刀でいいから浴びせられたらお前の勝ちにしてやんぜ」
「なんなの?このプレッシャーは。ここってこんな人ばっかりなワケ?まったく、上には上がいすぎよッ!」
クロノスは少女と再び距離を取り、両手にそれぞれ持っている大鎌を振り回しながら腰を落とし、まるで獣のように低く構えていった。
少女は自身の愛剣を正面に構えていたが、「今の姿では勝てない」と悟り、クロノスに対して言の葉を紡いでいく。
「アタシの全力で貴方に向かって行っていいのかしら?」
「全力ぅ?へん!愉しませてくれるなら、どんな姿でも構わねぇ」
「言ったわね?じゃあ、やっぱりナシは認めないからねッ!」
少女は「魔」と「神」の力を解放し、その身に2種類の光を宿して「半神半魔」の形態に変化していった。
「へんッ!ヒト種にしちゃ、なかなか面白い姿だな」
「じゃあ、行くぜッ!簡単に終わってくれんなよ?」
だッ
クロノスは少女の準備が整った事を直感で理解し、速攻を仕掛けていった。黒宙石で出来た二振りの大鎌を軽々と振るい、少女に斬撃を入れていく。
少女は形態を変更したばかりの自分に対して、フライング気味に速攻を仕掛けて来たクロノスに対して、猛烈に抗議をしたかった。だが、先ずは自身に迫る斬撃の処理を優先していった。
クロノスの斬撃を愛剣で受ける事無く体術のみで躱す事を選択した少女は、先ずクロノスの攻撃の「クセ」を理解しようとした。
「ほう、乃公の鎌をいつまで避け続けられるかな?」
「やっぱり主神クラスは違うわね!もう躱すのもいっぱいいっぱいだなんて……」
クロノスの斬撃は勢いを増しながら立て続けに向かって来る。その速さは斬撃の回数を増やす毎に増していき、既に先程までの比では無くなっている。
故に人智の及ぶ範囲はとうの昔にどっかに旅立ってしまっていた。
しかしそんな斬撃を少女は全て紙一重で躱し続けて行く。が、流石に躱すのが辛くなってきたと感じ始めた折、クロノスの鎌が少女に強襲したのだ。
その鎌の速度は既に少女の処理力を上回っていた。
「黒宙石・真絶神盾!」
「ッ?!へんッ!しゃらくせぇ!」
ぎいぃぃぃぃぃぃん
少女はウラノスから貰ったガントレットに力を宿し、ガントレットの概念を解放した。そしてガントレットは、幾重にも円環を発生させて鉄壁の盾を形成していく。
それはゼウスが先の闘いで使おうとしていた、真絶神盾そのものだった。
クロノスの鎌はその盾に因って弾かれていく。
弾かれた衝撃でクロノスは体勢を崩し、その一瞬を少女は見逃さなかった。
「でえぇぇぇぇぇぇやあぁぁぁぁぁあ!!」
「へんッ!受けてやらぁ!」
ぎんッ
「ぐぅッ、重い!がはっ」
どぉん
少女の気合いを込めた一閃が放たれた。それはただの、気合いを込めた少女の薙ぎ払いとも言い換えられる。
従って技でもなんでもない。
だが、「半神半魔」の形態になっている少女の一撃は、体勢を崩したクロノスには充分過ぎる程の一撃だった。
クロノスは鎌を廻し咄嗟にガードしたが、そのガードごとクロノスの巨体を吹き飛ばしたのだ。
「へんッ!おもしれぇ!久々におもしれぇ!もっとだ、もっと乃公を愉しませろ!」
「滾るぜ!血湧きにく踊るってヤツだ!アドレナリンが止まらねぇ!いいぜいいぜいいぜ!ヒト種の小娘、もっとだもっと乃公を熱くさせろッ!」
「魔族も呆れるくらいの戦闘狂ね?でもいいわ、アタシがもっと相手してあげる!心ゆくまで付き合ってあげるわッ!」
吹き飛ばされたクロノスは身体を壁にめり込ませていた。だが、自身の筋力で強引に壁から引き剥がすと吼えていった。
少女は多少呆れながらも悪い気はしなかったし、むしろ好感が持てた。まぁ、それは少女の性分だから「類は友を呼ぶ」ってヤツかもしれない。
それからの少女とクロノスの間には幾重にも及ぶ攻防が展開されていく事になる。
クロノスは哂いながら鎌を振り、少女の剣撃を受けてはいなし、更に鎌を振り回して少女を刻むべく斬撃を放つ。
少女は幾重にも及ぶ鎌を躱し、避け、盾で弾き、隙をついて剣撃を放つ。
お互いがお互いに決定打に欠ける伯仲した闘いを少女は楽しみ、クロノスは愉しんでいたのだった。
がらんがらんッ
どさっばたんっ
「へんッ!乃公は、疲れた。久し振りだぜ、こんなに疲れたのは。だが、愉しかった。あんがとよッ」
「なかなかやるな。見直したぜ、ヒト種も悪かぁねぇな」
クロノスは鎌を放り投げると床に寝転がり、少女に向けて言の葉を投げていく。
少女は愛剣を片手で持ったまま、クロノス同様に床に寝転がってクロノスの言の葉を聞いていた。
「ところで、おめぇは何モンなんだ?」
「言ってなかったっけ?アタシは貴方の孫よ」
「あぁ、そういや最初になんか言ってたな?だがまぁ良い」
「それで、アタシは一太刀入れられなかったけど、合格?それともまだ闘り足りないワケ?」
「があっはははは。そりゃあ良い!おめぇはまだ闘り足りねぇってのか?おめぇもたいそうスキモンだな?」
「そ、そんなワケないでしょ?アタシだってヘトヘトなんだから!それにそんな卑猥な言い方しないで!レア祖母様に言い付けるわよ?」
「へんッ!ホントに、乃公の孫みてぇだな。まっ、おめぇみたいな「孫」なら大歓迎だ!があっはははは」
クロノスは少女の言の葉に対して豪快に哂った。
「ほらよ、おめぇにくれてやる」
「これは?」
暫くの間、2人は床に仰向けに転がっていたが、何かを思い出したクロノスは急に上体を起こした。そして少女に言の葉を掛け、小さな石っころを渡した。
「おめぇが欲しがっていた、「承認」ってヤツだ。結局、おめぇから一撃も貰わなかったが、愉しめた礼だ。受け取っておけ」
「でもま、こっちは暇を持て余してっからな、おめぇが暇ならまた、遊びに来いや。いつでも歓迎してやんぜ」
「うんッ!」
少女は石を貰い、屈託の無い笑顔を投げ返していた。クロノスの顔はとても満足そうで、また盛大に哂っていた。
「じゃあ、祖父様、またね!」
「おぅ、必ずまた来いよっ!愉しみにしてっからよ!」
クロノスの声が少女に届いた頃、少女は足元に開いたサークルで転移し「大地の塔」から姿を消していった。
少女は昨日と同じようにアテナの神殿にある部屋の中に転移していた。だが、今回はアテナが血相を変えて乗り込んで来る事は無かった。
「おかえり。無事に「大地の塔」から帰って来れたようだな?」
「アテナさん!ただいまッ」
「今日はウチの父に纏わり付かれたそうじゃないか?叔母上が貴女の事を自慢していたぞ!「あの唐変木に一泡吹かせた」とな。一体何をして一泡吹かせてやったのだ?」
アテナはヘラから一部聞いている様子だが、全てを把握しているワケでは無かったらしい。
だから何をしてゼウスを撃退したのか興味津々だったのだ。
「ちょっとした魔術を使っただけよ?」
「あの父を退けられる魔術だと?それは是非とも見せて欲しい!」
「いやいやいや、流石にそれをやると神殿が失くなっちゃうから、機会があったらね」
「ところで、明日は遂にウチの父の元に乗り込むのか?」
「うん、そのつもりではいるんだけど……」
「何を悩んでいるのだ?恋煩いではあるまい?」
「ちょ、急に変な事言わないでよッ!!」
少女は「漠然とした何か」に対して悩んでいた。だから結論が見出せていなかったし、それの解決策も見出せていなかったのが事実だ。
そしてそれらはアテナに揶揄われて有耶無耶になった。
「ねぇアテナさん聞いてもいい?」
「ウチに解答出来る内容ならいくらでも聞いてくれ」
「じゃあ遠慮なく……。ねぇ、アテナさんの父親って強いのよね?あのクロノスを打ち倒した程の猛者なのよね?」
「あはは、なんだ。その事か!まぁ、確かに分かる、凄く分かるぞ。うんうん」
アテナは咲った。咲っていた。
その笑顔はやはり美しかったが、少女にはその言葉の意味がよく分からなかった。
「父はな、二面性を持っているのだ。強者や絶対的な支配者としての顔と、女性に対して必死になる、だらしのない顔とな」
「えっ?」
「神殿や塔の中、有事の際には前者の顔で出迎えるが、外に出ると見境無く女性に迫る後者の顔になる。あの伸びきった鼻の下でな。あはははは。面白いだろう?」
「えっえっ?」
「だから、貴女が神殿に行き、父に会えばその恐ろしさが分かるさ。ウチとて、本気になった父には叶うべくも無い。そして、その恐ろしさは今でもこの身に刻まれているのだからな」
アテナは先程までの呆れ顔から一変して、自身を抱きしめて身震いをしていた。
それはもう、本当に恐ろしいモノを思い出した様子だった。
少女はその姿を見て、ゼウスの恐ろしさを垣間見た気がした。
「そう言えば、祖母上からは「加護」は頂けたのか?」
「えぇ、その場にいた、ひい祖母様と、祖母様の二人から「加護」を頂いたわ」
「なんだって!!ひい祖母様?ガイア様の事か?」
「えぇ、そうよ?何か問題でもあるの?」
「あのお方がオリュンポスに来ていたのか?」
「え、えぇ。祖母様の祠にたまたま、いらっしゃってたみたいでお会い出来たの!」
アテナは高揚しているような口振りであり、少女はアテナの態度が何故変わったのかは分からなかった。
アテナに尻尾が生えていたら、「ぶんぶんッ」と音を立てて振り回すくらいの高揚加減だったと付け加えておく。
「あの方は、原初の一柱だ。普段はオリュンポスには顔を出さず、別の所に住まわれている。その為、会いたくても中々会えないお方なのだ」
「ウチでもお会いした事は数度しかないのだッ!そして、あのガイア様から加護まで頂けるなんて、貴女はとんだ幸福者だ!」
「えっ?そんなになの?」
「その通りだ!「そんなに」だ!だから、その加護は大事にした方がいい」
「ところで、アテナさん。そうしたら質問があるんだけど、いいかしら?」
「またまた改まって、今度はどんな質問だ?」
「アタシは色んな神様から「加護」を頂いてるけど、それってどうやって使えばいいの?そこからして先ず分からないんだけど?」
少女は素直な気持ちで恥ずかしがらず、それをオブラートに包まず疑問をアテナに紡いでいく。少女は「神界」の住人なら加護の使い方を知っているのが当然で、それは加護を与えてくれた神族に本来は聞いたらいけないのかもしれないと考えたからだ。
そんなルールがあればそれはそれで授けてくれた神族に対して失礼だろう。
それに対して、その疑問を聞き届けたアテナは微笑んで「加護」の解説をしてくれた。
「人間界にはほとんど神族はいないからな、加護のコトを知らなくて当然だ。まぁ、神官であれば加護を与えられた者もいるだろうが、そういった信仰はある時を境にしてほぼ失われたからな」
「それって……」
「まぁ、信仰がなくなれば神族の力は弱まるから、どうにかしたいのはやまやまなんだがな。おっと話しが逸れてしまった。いいか?説明するぞ?」
「う、うん、お願い」
「簡単に言ってしまえば、加護は能力と似ていると言った方が分かりやすいかもしれない。加護には受動展開、能動展開、あとは能力には無いが、回数制限展開の3つがある。ウチが貴女に授けた「加護」は受動展開だ。それは気付いていただろう?」
「えぇ、最初はワケも分からなくて焦ったけど……」
「あはははは。それはそうだろうな。あと、叔母上が贈った「加護」は相互通行の能動展開だ」
「相互通行?」
「加護を授けた神族の意思でも発現出来るってコトさ。だけど、使用者の意思でも発現出来る。だから相互通行ってコトだ。逆に授けた神族が発動出来ない一方通行の加護もある。これは完全に能力寄りの考えだな」
「そうそう、曾祖母上の「加護」は恐らく強力なモノだろうから回数制限展開だと思う。そして、祖母上のはよく分からない」
「ウチはそこまで他人の加護に興味がないから、誰が何の加護を授けるかまでは知らないんだ」
アテナは簡単に加護の説明をしてくれた。確かにアテナが言っていた通りならば、ヘラの目が突然開眼したのも納得がいく。
そこで少女はもう1つ質問してみる事にした。
「アテナさんの「知恵」でも分からない事ってあるの?」
「ウチの「知恵」は世界の常識やら、戦闘や守護に対するモノだ。万物の「知恵」ではないんだ。力になれず申し訳ない」
「いやいやいや、謝らないでアテナさん。変なコト聞いちゃったアタシが悪いんだからっ」
「だがな、祖母上の「加護」である以上、強力なモノと考えられるから、回数制限展開である可能性は高いハズだ」
アテナは少女が恐縮している事を感じ取り、申し訳なさげ程度の情報を少女に伝えた。まぁ、言い換えるならその程度の情報だったが、そこがアテナの誠実さであり、少女はアテナが無理をしてしまう前に話題を切り替える事にしたのだった。
それに少女が本来の意味で聞きたかった内容を、アテナは勘違いしているフシが見えた。聞きたかった解答は同じだが、その勘違いはアテナを追い詰めるかもしれないと思うと、強制的に話題を替える必要があったのだ。
「そう言えばアテナさん?」
「今度はどうした?」
「えっと、その、あの……」
「何か言い辛い事なのか?体調が悪いのか?」
アテナは要領を得ない少女の様子に困ってしまい、オロオロしていた。そして話題を替える為に選んだ話題が少女には、とても恥ずかしかった。
ただそれだけの話しだ。だが、それを言葉にするのがなかなか出来なかった。
だけどこれ以上、モジモジしてアテナの心配を更に増やす事は出来ないと考えたので、少女は顔を真っ赤にしながら小さく小さく呟いたのである。
「えっと……、その……あのね、アタシ…お風呂入りたいなって思ってるんだけど、ある?///」




