緊急と災難と母親と精霊 ν
それは突然だった。
2人が屋敷に到着し、広間で談笑しながら芳しい紅茶の香りを堪能していた時だった。
今日の振り返りで盛り上がっているところに、一件の着信が少女の元へと舞い込んで来たのだ。
当然のコトだが少女は嫌な予感に苛まれていた。しかし無碍には出来ないのでその着信を取ったのだった。
「緊急要請だ」
「こんな時間から緊急要請?また、厄介な魔獣でも出たの?」
「一体どんな魔獣かしら?古龍種?それとも何かの固有個体?」
少女の声は軽い口調だが緊張を帯びていた。そしてその漏れてくる単語に、ルミネは「ピクっ」と眉を動かして様子見しているが会話の全文は想像の範囲でしか分からない。
「魔獣じゃあない、立て籠もり事件だ。アラワド市の集合住宅で母娘が人質にされている。犯人は狼人族らしき獣人が3名」
「立て籠もり?アラワド市……」
少女はそこまで聞くと額に脂汗が滲み、背中には冷や汗が流れていくのが分かった。
それはどうしようもない程のイヤな予感というヤツだった。だから、その先はどうしても聞きたく無かった。
しかしそんな空気をマムが読む事は当然ながらあるワケが無い。そして非情にも人質にされている者の名前が少女に向けて紡がれていった。
「マム、分かった。今すぐ現地に向かうわ。ルミネも一緒でいいわよね?」
「あぁ、構わない。あたしゃそっちの方がいいと思うしな」
「サポーターは予めこっちから用意しておく。現地で合流して情報を聞きな。じゃあ、頼んだよ」
少女の顔は血の気を失い明らかに青褪めていた。既にマムからの通話は切られている。
少女の耳に「つーつー」と言う音だけが響いていた。
「爺、セブンティーンにアタシの銃器の用意をお願いッ!ブラックライフルの他にスナイパーライフルも入れておいて」
「当方のAWMで宜しいのですか?」
「それだと威力が強過ぎるから、モデル90の狙撃銃でお願い」
「かしこまりました。直ぐにご用意致します」
かちゃっ
「マスター、お持ちします」
「ありがと、サラ。重いわよ?持てるかしら?」
「レミも手伝うー」
かちゃかちゃ
「それではマスターの大剣はお部屋に運んでおきます」
「ありがと、サラ。レミも宜しくね。無理そうなら爺にお願いしてね」
「それじゃあ、ルミネ、行くわよッ!」
「えぇ分かりましたわ、アルレさま」
少女は爺に装備の準備を依頼した。ハーフメイルは身に着けたままだが、愛剣は置いていく事にした。
立て籠もり事件の解決であれば室内戦闘になる可能性が非常に高い事から、大振りな大剣では邪魔にしかならない。
少女は自分の装備をテキパキ整えると既に重低音を響かせている玄関へと向かっていった。
「マムから緊急要請があって、アラワド市内で起きてる事件の制圧に行くわ」
ルミネと共にセブンティーンに乗り込んだ少女は思いっ切りアクセルを踏み込んだ。
急加速に因って空転したタイヤが放つ甲高い摩擦音と、盛大なエグゾーストノートを響かせ、ケツを多少振りながらセブンティーンは敷地内を出ていくのだった。
そして少女は、爆走するセブンティーンの中で緊急要請の「あらまし」を少女はルミネに話していく。
「アラワド市って言うと、アリアの住んでる街でしたわね?」
「ま、まさかッ!」
それは少女の慌てっぷりと「緊急要請」でわざわざ入って来た連絡からの推測でしかなかったが、ルミネの憶測は見事に的中していたのだった。
ぎりッ
「アタシも信じたくは無いんだけど、立て籠もられている家がアリアの家らしいのよね」
少女の顔からはいつもの余裕が無くなっていた。そして、険しい表情の裏では、アリアが無事である事を一心不乱に祈っていたのだった。
-・-・-・-・-・-・-
「よく聞きな、最近アンタ達が入れ込んでいる女の子、アリア・レヴィが母親と共に人質に取られている」
先程の通話の際、少女がマムから言われた言葉だ。少女はその言葉を聞いた時、自身の下唇を噛み切ってしまうくらい噛み締めていた。
当たって欲しくない悪い予感ほど、当たってしまう事に嫌気が差す。
なんて空気が読めないタイミングなんだろう。アリアが初めて魔術を成功させた日に…そんな喜ばしい日に災難に遭ってしまうなんて。
ぎりりッ
「運命はなんで!なんでそれ程までに、あの母娘を虐めるのよッ!」
アリアは久し振りに母親の起きている顔を見た気がしていた。
何故なら母親とはいつも生活時間帯が違っていたからだ。
アリアの家はアリアの父親が残した借金に追われ、とても苦しかった。その為、母親は夜間の仕事と昼間の仕事を掛け持ちしていた。
朝早くに帰って来て、僅かな睡眠時間を取るとそのまま仕事に行き、夕方前に帰って来ても直ぐにどこか別の仕事に行ってしまう。
夕方以降は魔獣に襲われる心配もあるから、どこで仕事をしているのか知らないアリアにとっては心配でしかなかった。
そういった完全に「すれ違い」生活でアリアは凄く寂しかった。だが、その寂しさを我慢しなければならないにも拘わらず、それでも生活は苦しかった。
そこまでしなければ減らない借金のせいで、飢えてしまう程の生活困窮者だったからだ。
アリアの母親は、アリアの事をとても大切にしていた。だから、娘の為に寝る時間も自分が食べる食事すらも惜しんで働いていた。
だけど今日は、たまたま早く帰ってこられたし、夜の仕事がない事は本当に久し振りだったから、娘と一緒に過ごせる幸福な時間を満喫しようと思っていた。
そんな貴重な時間を大切にしようと考えていた。
アリアの家はアラワド市内にある公営の集合住宅の一階部分にある。間取りは2Kだが1つ1つの部屋は狭い。
そんな家なので家賃は非常に安く、魔獣対策の防御結界すら気休め程度にしか機能していない。そんな公営住宅だった。
でも母娘にとってはそこが都であり、そこが城だった。
生活は苦しかったが幸せを噛み締めていた。
そんな母娘は家に入る直前に襲われた。襲った者達は誰でも良かった。
だからアリア母娘をたまたま見付けたから襲ったのだ。しかし、襲った事には意味がある。
彼らには彼らなりの大義名分があるから、仕方がないと言えば仕方がない。
-・-・-・-・-・-・-
「今日は美味しい料理を腕によりをかけて作ってあげるからねッ!」
「アリ…ア!?えっ?ひィッ」
「んんーんん」
「大人しぃくしてぇれば、痛ぇ目を見ぃずにすんむ」
「アリアッ!アリアを離してッ!」
「ちィ、めんどぉくせぇ」
がすっ
「ア…リ………ア」
どさっ
「ッ!!んんーんーーーん」
「オメぇ達を人質にぃして、たぁて籠らせぇてもらぅ」
玄関の扉を開け振り返った母親は言葉を失う事になった。そこにいたのは3人の獣人だった。
アリアは1人の獣人に因って口を塞がれ、鋭い爪を首元に当てられていた。
その身体は恐怖で震えている。
母親はアリアを助けようと必死に立ち向かっていく。だが普通のヒト種の人間が武器も持たずに獣人に挑んでも勝てるハズがなく、母親は首に手刀をあてられ昏倒していった。
「現況はどうなっているの?」
「はいっ。犯行声明は先程出ましたが、犯人は依然として部屋に立て籠っています。人質母娘は熱源感知に拠れば生きていますが、身動きが取れないように拘束されている状況だと思われます」
「そう。分かったわ。貴方達は何人で来たの?」
「我々のグループは4人編成です。残りの3人は不測の事態に備えて周囲で監視を続けています」
「ところで相手は狼人族って聞いてるけど、あってるかしら?」
少女はアリアの家の裏手に潜んでいたサポーターを見付けると声を掛けた。そして状況報告を聞いた限りでは進展はない…が、状況は芳しくない様子だった。
周囲にはあと3人サポーターがいるらしいが、デバイスにその反応は全く無かった。
恐らく建造物の魔術防壁の外側にいるサポーター達は魔獣対策で認識阻害を掛けているのだろう。
家の裏手に潜んでいたサポーターだけが、少女や犯人との連絡の為に認識阻害を掛けずに待機していたのだと考えられる。
先に言っておくが、サポーターはハンターではない。
公安やギルドに雇われている「何でも屋」と呼ばれる者達だ。
彼らの仕事はハンターが狩った魔獣の回収や輸送・解体に留まらない。
要請があればハンターの支援や、ハンター到着までの現場保存といった事までやってくれる。そして、今回は犯人達との交渉役を引き受けてくれているらしい。
まぁ、どこまで交渉するのかは分からないし、ハンターが駆け付けるまでの時間稼ぎかもしれないが、少女にとってはアリアが無事なコトを確認出来ればそれだけで良かった。
ちなみに、サポーター達もある程度の戦闘能力は持っているし、武器を必ず携帯している。だから夜間等の作業に於いて、多少の魔獣であれば襲われても対処出来るのだった。
長年サポーターをしてる者であれば、並のハンター以上の戦闘力を保有してたりもするが、そういった者は大抵、ハンターになりたがらない変わり者だったりもする。
まぁ、ハンターになりたがらない大きな要因は、古龍種襲来や大暴走といった強制的な緊急要請によって生命を落とす危険性があるからかもしれない。
生物である以上「生命あっての物種」だし、人間の価値観は多様性に富んでいるので、とやかく言うつもりはない。
「犯人達は3人で全員狼人族で間違いないと思われます。尚、犯行声明で「公安送り」になった仲間の解放を訴えている様子です」
「公安送りの仲間の解放ねぇ。そんなコトするなら悪さしなければいいのに。まったく。とんだいい迷惑だわ」
「ま、そんなコト、アナタに言っても意味がないわね」
「はい…。それで、これからどうするのですか?」
「あとはアタシ達が引き継ぐけど、解決したら犯人達は連れてってもらいたいからそれまで待機をお願い出来るかしら?あ、でも、流れ弾とか貰っても困るから魔術防壁の外でも大丈夫?認識阻害使えるかしら?」
「それは大丈夫ですが、こちらに来ているハンターは貴女様1人ではないのですか?」
「えぇ、今日は連れがいるのよ。って、アタシのコトを知ってるの?」
「貴女様は有名人ですからね。ははは。それでは自分も待機に移ります」
「うん、宜しくね」
「ってか、アタシってそんなに有名人だったっけ?サポーターにまで有名になるなんて悪い意味じゃなきゃいいけど」
しゅうんっ
「お話しは終わりまして?」
「さっすがルミネ、いいタイミングね!それよりも掴めた?」
現場に着くなり少女はルミネに周辺の状況の確認と、部屋の内部の確認をしてもらっていた。
それはサポーターの報告と照らし合わせる為であり、特に後者はルミネにしか出来ない芸当だったから少女はルミネに頼んでいた。
「ルミネ、この状況をどう打開する?」
「えぇ、そうですわね。この状況でしたら、平和的に解決するのが、一番でしょうからこんなのはどうでしょう?」
「ごにょごにょごにょ」
「流石はルミネね。いいわ、その作戦でいきましょう」
「それじゃあ準備をお願いね。アタシは念の為、狙撃出来るか確認しておくから」
「えぇ、分かりましたわ。準備が整いましたらご連絡致しますわね」
ルミネは作戦の内容を少女に耳打ちした。その作戦内容を知った少女は思わずニヤけてしまった。
闘争に重きを置く魔族が提唱する「平和的解決」ならば、それは本当に平和的な解決方法とは言えないだろう。だが、ルミネは魔族でありながら、この世界の事を知りハンターの仕事を知った。
そしてアリアの事を本心から助けたいと考えている。
だからこそ「魔族」の考える「平和的解決」ではなく、ハンターとしての「平和的解決」を考えたというのが妥当だろう。
まぁ、クレーム処理を「黙らせれば万事解決」と考えるのも魔族寄りな平和的解決と言えるだろうが、それは決して口にしてはいけない。
人質の2人は玄関脇のキッチンにいた。獣人達の配置はキッチンに2人。そして、奥の部屋に1人だ。
恐らくはキッチンの2人が人質の監視、奥の1人が指示を出しているのだろう。
サポーターが裏手にいた事から奥の部屋にいるのがリーダー格で、犯行声明を出したのだと推測出来た。
かちゃっ
「はぁぁ。やっぱり素人じゃないのね。ちゃんと狙撃の死角になる場所に陣取ってるもの。せっかく爺に用意してもらったのに、無駄になっちゃったわね」
「でもまったく、バカなコトをしてくれたものだわ。まぁ、狙撃されないようにしているなら、苦しむのはそっちなんだけどね。ふふふ」
アリアは母親が手刀を浴びて気を失った際に暴れた。
狼人族のリーダーは暴れているアリアの腹に仕方なく、殺さない程度の一撃を入れて、アリアも一緒に気を失うハメになったのだった。
母親が意識を取り戻すと、気を失い縛られている我が子の姿を目撃し、当然のように取り乱して錯乱した。
流石に煩わしくなった獣人達は人質は1人で充分だとも考えたが、念の為の使い道に思い至った結果、椅子に縛り付け騒がれないように猿ぐつわと目隠しをして母親から自由を奪っていたのだ。
少女はバイザーの機能と、熱源感知ライフルスコープを駆使して中の様子を窺っていた。しかし獣人達は狙撃される事を心配しているのか、常に死角を意識している様子だった。
少女は場所を変えて何ヶ所かでスコープを覗き込んだがやはり結果は同じだったのだ。
「準備が整いましてよ、アルレさま」
「そっか、了解!じゃあ、ルミネ2人の防御を宜しくね」
「かしこまりましたわ」
準備が整ったルミネは少女の元に報告に来た。
少女はルミネに不可視化の魔術を掛けてもらい、家に近付いていった。
ルミネは自身のオドを指先から細長く放出し、その細長く放出されたオドを家の隙間から中へと入れて、徐々に浸透させていった。そして、蜘蛛の巣状に部屋全体を覆っていく。
それはルミネが魔術の体現化で創り出した魔力糸であり、その糸はルミネの蒼銀のドレスにも使われていたりもする。
その糸はルミネの意思によって自在に操る事が出来る上に、太さも長さも自由自在に変更出来る。
一度創造が終わればルミネが破棄しない限りは完全に魔力が失われるまで具現化されたまま残る。
更にその強靭な糸は物理防御にも魔術防御にも有効なスグレモノなのだ。
ただし、固有能力である魔術の体現化で創られた魔術である為に、少女であっても使う事は出来ない。
ルミネのオドは先ず、人質の2人に対して魔力糸を使って陣形を描いていった。要するに陣形の完成が「準備」そのものだった。
拠って、ルミネが人質2人の防御を任された事になる。
少女はルミネに掛けてもらった「不可視化」に因って、獣人達の耳と鼻を誤魔化す事にした。
流石に壁を挟んだだけでは奇襲に感付かれると思ったからだ。
狼人族は総じて鼻や耳が良いので、奇襲の一撃で倒すには存在を悟られてはいけない。だから存在を隠匿してくれる不可視化は奇襲には非常に有効な一手になる。
闘いの勝者は「準備段階でほぼ決まる」とは、言い得て妙だがまさにその通りなのだ。
「さぁて、ルミネに防御は任せたから、アタシは思いっきりやれるわね」
「とは言っても家を破壊すると後々面倒だから、コレで手っ取り早くヤられてねッ!」
「幽星礫弾!」
びゅひゅひゅひゅひゅんッ
少女はバイザーで手前にいる2人の狼人族が直線上に並ぶ位置且つ、人質の2人がその直線上に入らない場所まで移動し、そこでアストラル体に干渉する無属性攻撃魔術を行使した。
アストラル体に干渉する攻撃魔術は各属性あるが、それだと家に対して少なからず損害を齎してしまう。だから無属性魔術を選んだワケだが、それに因って2人の狼人族は為す術もなくその場に卒倒していった。
ルミネは蜘蛛の巣状に張り巡らされた魔力糸に依って2人が倒されたコトに気付くと、描いた陣形を発動し防御魔術を展開していった。
「な、なぁんだ?!なぁにがおこた?」
「襲撃ぃか?ならば、こぉちの人質がどぅなてもいいんだなぁ?」
「ふぁへて!むふへには、へをははないへぇッ!」
「なぁに言てるか分かんんねよ!襲て来たヤツを恨うんだぁな」
きぃん
「っ?!」
「くそっ、クそっくソッ!」 / きぃんきぃんきぃん
悲痛な母親の叫びに対して狼人族のリーダーは口角を上げ嗤った。そして、アリアに向けその鋭い爪を刺そうと突き出していった。
……のだが、その爪は見えない壁に因って弾かれる事になり、その顔には驚愕の2文字が浮かんでいた。
アリアの母親は目隠しが上から掛けられていたが、目を閉じ顔を伏せ、アリアを庇うべく一心不乱に拘束を解こうと抵抗するが、拘束が解かれるコトはなかった。
そして、椅子ごとそのまま倒れてしまっていた。
一方で爪で切り裂こうとしながらも、見えない壁に弾かれ滑稽なダンスを踊っている狼人族は怒りを募らせた結果、アリアを殺す事を諦めた様子だった。
拠って拘束されたままで椅子ごと転んだ母親に矛先を変える事にした。
アリアはふと目を覚ました。それは何か物音がしたからだった。
それ以外にも何か聞こえた気がしたが、それはお腹の痛みで忘れてしまった。
何故お腹が痛いのかは寝ぼけていたせいもあって分からなかった。
しかし、それはそれとして置いておく事にして、あまりの煩さに起きてしまった結果、母親の窮地を目の当たりにした。
目覚めた途端に自分の大切な母親に対して、襲い掛かるモジャモジャを見てしまったのだ。
「お母さん!」
「誰かお母さんを助けて!」
「いいよ。助けてあげる☆」
「えっ?誰なの?あ、手が勝手に」
「それじゃ、いくよ!いいかな?」
「「水球烈弾ッ☆」」
「うそ、勝手に魔術が!わたし、どうして?」
アリアは願った。大好きな母親が死ぬと思ったからだった。そしてその願いに応えた存在がいた。
その存在はアリアの願いを聞き届け、アリアの掌は急速にマナを集めていく。
更に、アリアの手はその意思に反して勝手に動き、謎の声が導くまま2つの声は重なった。
その水球は威力こそあまり無かったものの、直撃した狼人族は吹き飛ばされアリアが願った通りに母親は窮地から救われたのだった。
「それじゃ、まったね~。ばいばーい☆」
「えっ?ちょっと待って!」
「あとはお姉さんに任せたよ~☆」
「お姉さん?」
「へぇ、アリア、精霊と契約したの?凄いじゃない!」
「へぁっ?あれれ?アルレおねぃちゃん?いつからそこに?」
「あっ!そう言えばさっき……」
謎の声が発した言葉に拠って、アリアはそこに少女がいた事を知った。
少女はアリアの魔術で吹き飛ばされた狼人族の首を掴み、雷撃の魔術を掴んだ掌から直接流し込んで感電させていた。
そもそも少女はいつから室内にいたかと言うと…。
少女は幽星礫弾で2人を撃破した後、転移魔術で誰もいないもう1つの部屋の中にお邪魔していたのだ。
最初にアリアに会ったあの日、「お勉強」の後に家に帰した際にアリアの家の中を確認していたのが功を奏していた。そして部屋の中で様子を伺っていたのだ。
これには理由が2つあった。
1つ目にルミネが張った防御魔術がちゃんと働いているかの確認だ。
ルミネの事だから手を抜くコトはないと考えられるが、一応、「試験官兼監督役」である以上、この母娘に何かしらが起こればそれは全て少女の責任になる。
だから確認しておく必要があった。
そして2つ目がアリアのコトだ。
少女は直ぐにアリア母娘を助けようとはしなかった。だから敢えて、不可視状態のまま様子を見ていた。
少女は、狼人族のターゲットが母親に移った際に、アリアの身体を揺さぶり無理矢理に起こしたのだ。
そして起こすだけ起こして様子を窺っていた。
何故ならば、その状況下に於いてアリアがどの様な行動に出るかを見たかったからだった。
「ハンターとしての心得」をアリアが内に秘めているのかどうかを、どうしても確認したかったのだ。
それは、ある種の「危険な賭け」ではあった。しかしアリアがハンターを目指すのであれば、それが例え母親をラクさせてあげたいからと言う理由であったとしても、ハンターであれば人を助けなければならない。
自分の危険を顧みず、手を差し伸ばすコトが出来なければそれはハンターではないのだ。だから自分の生命が可愛くて人を助けないのはハンターではない。
それらは少女が教えられてきたコトであり、少女が人を育てるのであれば、それだけが最低条件だった。
だからこそ少女は教え始めて数日で、魔術の行使に至った「アリアの可能性」に期待した事から、敢えて様子を見る事にしたのだ。
しかし一方で、アリアが意図せず精霊と契約を交わした事は想定外の誤算だった。そんなコトになるとは思ってもいなかったのだ。
だが、精霊との契約があったとしてもアリアが放った魔術は威力が弱かった。
それが意図するコトはあるのだろうが、これ以上アリアに任せるのは酷と言うモノだ。
以上の事から少女は、最後の狼人族を自分の手で感電させていたのだった。




