Twinkle Container ν
輝龍から貰った、「玉」がつけられたネックレスが重力に惹かれるように「ソレ」に向かって落ちていく。
意図せずに少女からこぼれ落ちたネックレスは、「ソレ」の前まで来ると突然光を放ち始めていったのである。
だが、それはただ光っているだけだった。然しながらその「光」は、徐々にその光量を増していく。
そして最終的には、少女ですら目も開けられない程にまで、輝きを放つに至ったのである。
当然ながら少女は余りの眩しさに目を開けていられなかった。手で顔面を覆い隠したとしてもその光は、手が創り出す僅かな影すらをも飲み込んでいく。
闇など一片の欠片すら認めないとでも言わんばかりの強烈な閃光に、少女は目を閉じる以外の選択肢を得られなかった。
一方でその「光」は、「ソレ」に対しては違う効果を齎した様子だった。
「ぐおぉぉぉぉぉおおぉおおおぉぉぉぉ!なんだこれは?一体ワイに何をしたぁ!」
「あ、なんか「ソレ」が叫んでるけど、アタシも何をしたか分からないのよねぇ」
ぶんぶんぶんッ
「っ?!えっ、えぇぇぇぇぇぇッ!なになになにッ?なんで、なんで?なんでアタシを振り回すのよ?そりゃ、ネックレスはアタシのだけど、ただ光で見えなくなるくらいで、そんなに振り回さなくてもいいじゃないッ!」
「ちょっとちょっとちょっと、目が開けられない状態でそんなに振り回されたら……酔う。うっぷ」
「ぐあぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁ、ヤメロやめろぉ!」
ぶんぶんぶんッ
「うっ。アタシもヤメテぇ。漏れちゃう、口から色んなのが出ちゃう。うっぷうっぷ」
「ソレ」は突然現れた光に、その身を灼かれていた。拠って「ソレ」は、光に悶え苦しみのたうち回るように身体を振り回していく。
身体に纏わり付く光を、振り払う為に頭を振り腕を振り回し、身体をよじって身を灼く光から逃げようとしていたのである。
それは滑稽なダンスを踊っているようにも見えただろうが、その掌の中にいる少女は溜まったモンではない。
せめて目を開けるコトが出来れば多少は耐えられたかもしれないが、目を閉じてる状態で振り回されるのは、想定外を通り越して規格外に辛い。
拠っていくら乗り物酔いに強くても、酔わない方が可怪しいという程のモンだった。
だが一方でそんな状況下に置かれながらも少女は、「ソレ」の拘束の緩みを見逃したりはしなかった。
拠って少女は再度力を解放すると、火事場のバカ力を発揮し、強引にその掌に掴まれている脚を1本ずつ抜いていく。
それは骨が折れようとも関節が外れようともお構い無しだ。しかも振り回されているので、気持ち悪くて気分は最悪だがそんなコトも言ってられない。
それこそ生命が掛かっているし、貞操の危機ですらあるのだ。悠長なコトを言っていられる余裕など、どこにもなかった。
だから身体を掌の中から抜く事だけに必死になっていた。
その甲斐もあって無事に掌から抜け出すと目を閉じたまま宙を駆けて、少しでも「ソレ」から離れていった。
無論のコトだが真っ直ぐ駆けるコトは出来ずに、フラフラになりながらだったと言うのは言うに及ばないだろう。
あれだけ振り回されたのだ。目の焦点は合わず、脳は揺さぶられ正常に機能していない。
それはもう既に物理作用が~などと言える状況ですらなかった。だから地面に立っていれば間違いなく泥酔したヨッパライのように、千鳥足だったコトだろう。
少女の全ての身体の機能が回復するまで、幾ばくかの時間が掛かった。だが漸く回復すると、何が起きたのか理解する事ができた。
要は、「ソレ」が燃えているのを見たのだ。
だが不思議な事に「ソレ」は燃えていながらも、掌に捕まっていた時の少女は、熱を一切感じていなかった。故に、少女は目が開けられなかった為に、意味が分からないまま文字通り振り回されていただけだったのだ。
だが、理解出来れば何の事は無い。何の事が有るとしたら、一生に1度、有るか無いかの猛烈な乗り物酔いを体験させられただけという事だ。
一方で「ソレ」は掌の中から少女が抜け出した事が分かっていた。だが、絶賛その身を灼かれている今となっては、追い掛ける事も出来なかった。
拠って少女がいなくなった為に自由になった両手を使い、身体を一生懸命に振り払うが何の意味も無かった。
少女はここに、空前絶後の好機を得たのである。
「我が手に集え、紅き炎よ。我が手に集え、蒼き水よ。我が手に集え、翠緑の大樹よ。我が手に集え、鮮黄の大地よ。我が手に集え、金色なる果実よ。我が内なる全ての力よ、1つに混じりて我が敵を討たん」
「我が手に集いし大いなる力よ、空虚なる微睡みに揺蕩う力よ。全てを穿ち貫く一矢となれ!」
「これで終わりよ。心置きなく逝ってちょうだいッ!」
「極大五色!!」
少女の指先に虹色の輝きが集まっていく。虹色の輝きはその姿を一条の矢へと変化させていく。
——そして少女は、心の中でその引き金を引いた。
ひゅんッ
「ッ!?なんだ、コレは?ワイの身体が壊されていく……だと?」
「そのままじわじわと、自分の身体が崩壊していくのを恐怖しながら見ていなさいッ!」
空前絶後の好機に拠って極大魔術は、「ソレ」の身体に突き刺さった。
そして、突き刺さった場所から崩壊が始まっていった。
「ソレ」は光に灼かれていた為に、極大魔術に気付いてすらいなかった。故に身体に突き刺さり崩壊が始まるまで、気にすらしていなかった。
だが、それが命取りだったと言える。
極大魔術による崩壊は速度を増していく。「ソレ」の腹には大穴が空き、腹の風通しがたいそう良くなっていった。
そして、更に崩壊の侵食は進んでいく。
「このワイが恐怖?まさか、そんなバカなッ!ワイは恐怖の支配者だ。ワイは恐怖の捕食者だ。ワイは恐怖の体現者だ。それなのに、ワイが恐怖を?ぬえぇぇええぇぇぇい!このような光など痛くも痒くもない!気にもならぬッ!」
「今は……」
めりっめりめりっ
「えっ?!そんなッ!自分の身体を……引き裂いて……るの?」
「ソレ」は初めて恐怖を抱いた。いや、抱かされた。恐怖を与える側から、恐怖を抱く側に回った瞬間だった。
だがそれは即ち、自分のアイデンティティを失うのと同義であり、それを認めれば「ソレ」を「ソレ」足らしめている「概念」すら失う事になる。だからこそ、崩壊していく身体に自らの爪を立て、強引に切り裂き、切り離していった。
こうして、切り離された「ソレ」の胸から下は崩壊するよりも早く、黒い粒子となって余韻すら残さず消えていった。
「よくも、よくも、よくもやってくれたなッ!このままでは気が済まん。キサマは喰うだけでは飽き足らん。先ずはワイの中にある、この世全ての恐怖と絶望をその身に刻んでくれる!自ら進んで死を懇願するくらいの恐怖を味合わせてくれるッ!」
「へぇ、だいぶコンパクトになりながらもまだ動けるみたいね?でもってその威勢の良さは口先だけじゃ……無いわよね?でもま、そんな恐怖を味わうのはアンタだと思うけど?だからアタシがとっとと死にたくしてあげるッ!」
「でぇぇぇぇやあぁぁぁぁぁぁッ!」
「ふんッ!ふんふんふんふんッ!!」
ぶぉんぶぉぉぉぉぉんッ
「へぇ?もうアイツには消える力が残っていないみたいね?まぁそれ次第では戦術を見直さないといけないんだけど、このままゴリ押しでもなんとかなるかしら?」
「ふんッふんふんッ」
ぶぉんッぶぶぉんッ
「ってかなんて威力なのッ!ほぼ宇宙って言えるこの空間で、風を起こせるなんて」
「ふんふふんッ!」
「ソレ」が放っているのはただの拳打だった。「ソレ」は上半身だけになりながらも、少女に向かって近付くと拳打を連続で放っていた。ただしそれは、ただの拳打でありながら、少女はガードするコトを躊躇った。
それ程までに人智を超えた拳打であり、直撃すれば即死させられるのは目に見えていたからだ。
だから、即時回復ですら効果があるか分からない。
そんなバクチを打って負けてしまったら目も当てられない。一瞬でオケラになってしまう。
だから躱すだけで精一杯だった。
しかし、躱すだけであれば次第に、速さに対して慣れていく事は出来ていた。
「結構、躱すのもキッツいわね。でも、躱すだけならなんとかなりそう。このまま躱しながら間合いに入れさえすればッ!」
「ソレ」の拳は少女の身長よりも大きい。当然の事ながら、腕の長さも遥かに長い。
更に、凄まじいまでの拳圧を放つ拳打に拠って、突風と共に衝撃波が襲い掛かって来る。しかも連続でだ。
その拳打の連撃はまさしく「壁」のように、面で少女に襲い掛かって来ている。拠って回避だけでも一苦労だが、それでも少女は徐々に間合いを詰めつつあった。
「逝け!」
「えっ?ウソでしょ?アタシのターンわッ?」
しゅごごごごご
「こうなりゃヤケよッ!!豪炎の型ぁッ!うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃああぁぁぁぁぁぁぁッ!」
ここで「ソレ」が放ったのはマナ由来の力……そう、魔術だ。そして少女に向かって来ているのは無数の刃であり、冷静に分析をしていれば現刃破断だと気付けただろう。
しかし少女は「ソレ」が放った無数の刃に、正直なところパニくってしまっていた。
だから本来であれば物理作用の現刃破断は効かないハズだと分かっただろうが、そこに今は気付けなかった。
拠って出した対抗策は豪炎の型だった。
少女に迫っていた壁と刃に対して少女の「型」がぶつかり合い弾け、火花を散らし拮抗したかに見えた。
だが威力と物量は圧倒的に「ソレ」が勝っていた。少女は気合と根性で豪炎の型を放っているが、精神論で物量に勝てる程、甘くはない。
よって、拮抗したかに見えた均衡は一瞬で崩れ去っていった。「壁」だけに注意を払っていればなんとかなっただろうが、完全な誤算としか言えない結果だった。
しゅぱあぁぁぁぁぁぁぁん
「ぐっ……はぁッ」
「あれ……ここは……?どうやらアイツの精神汚染じゃないみたいね?だって、身体が自由に動かないもの」
「ってか、この力の封印が解けてからも、ここって来れるんだ?封印中限定だと思ってたわ。——って、余裕綽々とはしてられないみたいね。はぁ……」
「私の手を取りなさい」
「光のヒトガタ?アナタは何者なの?アナタの手を取れば、何が変わるというの?」
「その前にアタシの身体は……あれ?動くし!どうなってんの?」
「私は「惑星の意思」」
「私の手を取れば御子の力は貴女のモノになります」
「私の手を取りなさい」
「はぁ。御子の力ならもう、アタシは使えるわよ?それともなに?アタシが今使ってる力は実は「惑星の御子」の力なんかじゃありません。……とか言うつもり?」
「はぁ。まったく。多少強引ですが、仕方がありませんね」
「えっ?ちょっと、何なに?キャラ変わってない?」
少女は事もあろうに「惑星の意思」を拒絶した。少女からすれば「なんか怪しい感じがしたから」とでも言いそうだが、そんなコトで「惑星の意思」が食い下がるワケもなかった。
拠って、少女と対話をする事のみを諦めた「惑星の意思」は、多少強引な方法でも仕方ないと言わんばかりに、少女の中へと入りすり抜けていった。
「今の貴女が行使している力は……」
少女は唐突に「ハッ」と目を覚ました。目を覚ました少女の目の前には「ソレ」の顔があった。
「ソレ」は無抵抗になった少女を、今まさに喰らおうとしていた矢先に少女が目覚めたので、間一髪と言わんばかりの光景だった。
「ひゃうぅッ!ね、寝込みを襲うなんて、どういうつもり?お姫様のお目覚めには1番見たくない顔なのよ、アンタのきっしょい顔わッ!」
どげしッ
「ぐぬおぉ」
ばっくんばっくん
「あぁ、心臓に悪過ぎるわ。ホントに口から心臓が出るって、あぁゆぅのを言うのね」
「ソレ」からしたら「タイミング、仕事をするな!」だろうし、少女からすれば「タイミング、仕事が遅い!」かも知れない。だがこれは、余談でしかない。
まぁそんなこんなで、その衝撃のタイミングに拠って少女の中から、「惑星の意思」が最後に話してくれた内容は、すっかりどこかへ旅立っていったというのも事実だった……。
少女は驚きと怒りに拠って、思いっきり「ソレ」の下顎を蹴り上げていた。先程のように掌で潰されていたり、握り締められていなかったコトが幸いだった。
「ソレ」としては、摘むように持っていたのが災いだったと言えるだろう。
強烈な蹴りを喰らった「ソレ」は体勢を崩しており、そのスキに少女は「ソレ」と一気に距離を取る事にした。
少女は本当に驚きのあまり距離を取っても尚、心臓の鼓動は盛大に音を鳴らしていたが、少女としては周りに誰もいなくて良かったと思っていたというのは、言わなくても分かるだろう。
「でも、これでやっと分かったわ。そういう事だったのねッ!それが、本当の御子の力だったなんてね……。まぁでも、そーゆーワケだから、今度こそ全身全力全霊で終わりにしてあげるわッ!」
ここに来て少女は漸く理解出来たと言える。「惑星の御子」の力の本質を。目覚めの驚きで旅立ってしまった、「惑星の意思」の話しの内容を思い出したから……と言うワケではなく、そもそもが勘違いだった事に、漸く気付かされたとでも言い換えられるような内容である。
そう、全ては勘違いだったのだ。それは少女も然り、輝龍も然り……である。
「惑星の御子」の力は、意思のない創造主が内包した概念を使う事などでは無い。従って、「魔」や「神」の力などは御子の力では無い。
突如として目覚めた異質な力に対して、少女は勘違いをしてしまっただけだ。
いや、この場合は、させられたと言うのが正解かもしれない。
拠って「惑星の御子」の事を知っていた、輝龍アールジュナーガ・ウィステリアルが諸悪の根源とも言えるかもしれないだろう。
輝龍は、少女の中に眠る御子の力に反応していたが、少女の中にある「魔」と「神」の力を「惑星の御子」の力だと勘違いしていた。
要するに知ったかぶりだったの一言でバッサリ斬り捨てられるかもしれない。
一方で様々な勘違いやらすれ違いやらを孕んでいたこの闘いは、本来の「惑星の御子」の力の発現で急速に流れが変わっていった。
とは言え、「惑星の御子」の力を使わずに互角に闘えていた少女は、やはりかなりのハイスペックだったという証明にはなるだろう。
結論から言うと「惑星の御子」の力の発現に最後に寄与したのは、輝龍が渡した「玉」が放ったあの光だった。
輝龍は少女の「魔」と「神」の力を封印する際に、その力こそが「惑星の御子」の力だと信じてしまっていた。
それは輝龍自身が、その力の内容を知らなかった事が原因だ。しかし、少女の中に眠る力を「惑星の御子」の力だと信じた結果、「玉」の力を使ってまで封印し、発現しないように手助けした。
拠って封印の解ける時が「惑星の御子」の力が解放される時だと勝手に勘違いしたのだ。
だからこそ、少女が封印を解いた時に「惑星の御子」の力が解放されたと思い込んでいた。また一方で、輝龍は「玉」を渡さない選択肢もあったハズだ。
まぁ、「託されたモノ」で「授ける義務がある」と言っていたので、その選択肢は選ばれなかったと思うが、あの時渡していなければ、今頃少女は腹の中に収まっているのは間違いないだろう。
それこそデッドエンドと言うヤツだ。
結果として、様々な勘違いと気まぐれな偶然に拠って、少女は「惑星の御子」の力を使えるようになったワケだが、それを本人が素直に喜べるかは別として、結果オーライと言う一言で纏めておこう。
抑止力としての「惑星の御子」の力とは、意思のない創造主の「根源」そのものである。
それは即ち、宿主として成立する為の要素を取り入れるコトであり、言い換えればその惑星内に於ける全ての生命力の搾取と言える。
植物、動物を始め、惑星内には様々な生物が溢れ返っている。それらの生物、ウイルスやプランクトンから人間や魔獣に至るまでの、多種多様な生けとし生ける全てのモノ達の生命力を強制搾取するのが、「惑星の御子」の本質としての力であり、負の感情を大元のエネルギーとして搾取している「ソレ」とは対になる力だ。
だからこそ、「ソレ」が単体で臨んでも勝てる相手では決してなかった。故に「ソレ」は教訓からマナを取り込み、力を蓄えた。
それでやっと互角に闘えるようになった。
更には「惑星融合」という反則級の力である「魔法」の行使に拠って、御子を退けるという快挙を成し遂げる事すら過去に於いてはしてみせた。
——だが、今回は違う。
当初は前回以上の力を蓄え、瞬時に次元を渡る力すらも手に入れ、惑星の御子と互角かそれ以上に圧倒する力を有していた。
しかし蓄えた力も少女の身の内に、秘めた力のみで蓄えた力を削られる事になった。
更には分身体を破壊された後の戦略の見誤りや、少女に固執し過ぎた事から負のスパイラルに陥り、今や窮地に立たされていると言っても過言ではない——。
——少女は自身の中に溢れてくる力を感じていた。そして、その1つ1つが何の力なのかも感じ取る事が出来た。
マムの力、暖かく厳しい力。
ドクの力、偏屈だけど、頼もしい力。
爺の力、優しくて生命力と気力に溢れる力。
サラの力、レミの力、リュウカの力、ミトラの力、ウィルの力、そして、キリクの力……。
様々な生けとし生けるモノの生命力という名の「力」を、その身に吸い上げ、少女は渾身の一撃を「ソレ」に向かって放つべく構えていった。
「ありがどう、みんな。みんなの力、大切に使わせてもらうね。みんなの力でアタシは必ず「ソレ」を倒して、2度と虚無の禍殃で傷付く人がいない世界を創るッ!!」
「覚悟しなさいッ!名も無き神よッ!!」
「終焉蕃神!!!!」
一条の光が少女から「ソレ」に向かって一直線に疾走っていく。
放たれた光はその直線上にある全てを巻き込み消滅させていく。
「ソレ」は惑星に対して「根」すら下ろせず、次元を渡る事も出来ずに、ただただ消滅させられていく。
こうして「ソレ」は断末魔の叫びすら上げる事すら許されず、一条の光の箒となって、宇宙の果てに向かって流されていった。
後には流星の如く光が散っていくだけだった。そしてその余韻は長く長く続いていた。
「終わったぁ……。あぁ、でももうダメ。そろそろ限界ね。力を分けてもらったから、みんなにお礼言いたかったけど、アタシはそろそろ限界……みた……い」
「ごめんね、ちゃんと生きて帰れたら……ありがと……するから……。あぁ、死にたく……ない……なぁ」
ここが草原なら、柔らかな草に気持ち良く背中を預けられたかもしれない。
ここが雪山なら、雪の冷たさが生きている実感を分け与えてくれただろう。
でもここは、地球と宇宙の狭間で、微かに地球の重力に惹かれる空間だ。
普通の人間が生身で来られる場所ではないし、背中を預けられるのは僅かな大気のみであって、生の実感よりは死の実感しか与えてもらえない。
少女は少しずつ地球の引力に引き寄せられながらも脱力感に身を投じる事しか出来ず、疲れ切った身体にはそれが唯一の快楽だった。
「へぇ♪アレを倒して仕舞われるなんて。へぇへぇ♫凄いですねぇ……」
「まぁ♪それならそれで。まぁまぁ♬楽しい物語はまた紡げばいいでしょう……」
少女の耳には朧気ながら声が聞こえた気がした。
少女の瞳には朧気ながら怪しげな男の姿が映っていた。
だが、今の少女は地球の引力に身を任せていたので、何もする気が起きなかった。
そのまま魂は重力に、惹かれていくだけだ。
半神半魔を解放出来る残り時間は、あと保って数分。現状で取れる唯一の行動は、高度約100000mからの自由落下のみだ。
半神半魔の姿でなければ、大気との摩擦で燃え尽きてしまう事になるだろう。然しながら少女にはもう既に、気力も体力も残されていない。
だから少女は大地に到着するまで、力の維持が出来ないかもしれない可能性を残しながらも、その引力に引かれて墜ちて行くしか出来ない。
そもそも、行き着く先が大地ではなく、海かもしれないが気にするコトでは既にない。
拠って為すがままに地球に引っ張られていったのである。




