Decisive Endanger ν
少女が空に浮かぶ「目」に向かって駆けていた頃、世界各国の元首達は突如現れた「目」に対してそれぞれ攻撃を仕掛けていた。
先ず、最初に放たれたのは超長距離弾道ミサイルだった。
流石にLAMなどの陸戦兵器では有効射程を遥かに超えている事から、限られた国が保有していた超長距離弾道ミサイルが先制する事になった。だが、本来であればそのミサイルですら使いたくはなかっただろう。
それは非常に高価なモノだからだ。
一方で、もしもそれが効けば虚無の禍殃を未然に防いだ英雄として讃えられるコトになる。
費用対効果ならぬ費用対名声という天秤が頭の中にあり、打算が働いた結果なのかもしれない。
要するに国家元首とは、実に打算的なイキモノなのだと表現出来る場面だと言えるだろう。
だがそんな幻想は儚くも、「目」に届く前に爆散したコトで潰える事になる。
もしかしたら国家元首生命ですら潰えるかもしれないが、それに関しては、さて置くとする。
「目」は地球の成層圏の更に上にある中間圏と熱圏の間に存在していた。だが成層圏と中間圏との間には見えない「壁」が張られており、その「壁」に当たった結果、実弾兵器は爆散したのだ。
拠って、「目」には何1つとして届いていなかった。
いかにお高い兵器であったもしても敵に対して届かなければ、それはお金をドブに捨てるのと同じ意味でしかない。
それらの国家元首の進退問題はさておき、実弾兵器では太刀打ち出来ないコトを知った次の行動は、ハンター達への緊急要請だった。
その結果、世界各国の何千、何万というハンター達は空にある「目」に対して次々に向かっていく事になる。
だがその「目」には実弾兵器同様に、誰一人として届く事が出来なかった。
これもまた当然と言えば当然のコトなのだが、酸素が無ければ如何なるハンターであろうとも生きてなどいられないし、寒ければそれだけで生命活動を停止せざるを得なくなるのだから……分かりきったコトだと言い換えられる。
ハンター達はブーツのチューンナップと、デバイスに対応するASPをインストールしていれば、成層圏まではなんとか到達出来る。
だが、その先の中間圏はなんとかギリギリ難しいと言うか、やっぱり難しいどころか不可能としか言えない。
惑星に住む生物である以上、酸素は必要不可欠である。中間圏まではギリギリ酸素はあるだろうが非常に薄く、そして気温もマイナス100℃と非常に低い。
要するに寒冷地戦闘用の専用装備を更に改良でもしない限り、装備が凍り付いて戦闘どころではないだろう。
だがそんな装備は存在しない。
まぁそれはその通りで、魔獣も多様性に富んでいるとは言え、生物である事に変わりはない。
拠って大気圏外や成層圏ギリギリの場所に好んで棲息している魔獣は、いないのだから当然と言えば当然のコト過ぎる。
拠って、そこら辺の依頼も存在しない。無論の事ながら依頼がなければ装備が造られるコトもない。
だが、絶対に棲息出来ないかと問われれば答えはNOなのだが、それは余談である。
拠って結論から言うと、各国が緊急要請で放出したハンター達も実弾兵器に続いて、何の役にも立たなかったのだった。
一方で少女は成層圏まで自力で到達すると、そこから先は「惑星の御子」の力を解放していった。
その姿は公安のトレーニングルームでの姿とは違う。言うなれば魔犬種の王や、炎龍ディオルギアを討伐した時の姿だ。
即ち禍々しい闇と神々しい光を同時に身体に纏わせ、|半神半魔とも呼べる姿に変化すると、そのまま成層圏を難無く突破していった。
ちなみに、周りには誰もいないのでその姿でも恥ずかしさは微塵もないし、気が張っているので知り合いがいたとしても恥ずかしさすら感じないだろうと言うのもまた、余談である。
少女はウィルから聞かなかった為に知る由もないのだが、少女が纏っている力は「魔」と「神」の力そのものである。拠って、少女の身体はマテリアル体からアストラル体へと切り替えられていた。
故に「暑さ」「寒さ」という概念は既に、少女に対してなんら影響を与えていなかった。そればかりか、「無酸素」であっても少女には影響を為し得なかったと言える。
然しながら結果オーライと言えばその通りなのだが、一般的な知識があれば尻込みしそうな状況でさえ、そうならずに突っ込んでいった少女は、クリスを超える天然かよっぽどの生命知らずと言わざるを得ないのかも知れない。
然しながらこうして少女は、地球に纏わり付いている「目」の全容を知る事になった。
「何なのコイツ?遠目には目に見えたけど……コレって一体何?」
「空に浮かんでる雲みたいなモノなのかしら?でもって、アレが「ソレ」みたいね?」
少女は言うまでもなく驚愕していた。
地球を見下ろしていた「目」は、「ソレ」から張り巡らされた緻密な粒子に拠る「膜」のようなモノだったからだ。
更には触れたところで感触はなく何一つ実体などなかった。
そしてその「膜」の上に「膜」と繋がる「ソレ」の姿があった。要するに「ソレ」から全ての「膜」が形成されていたと言える。
「ソレ」を起点として創り上げられている「膜」が、地球という惑星そのものを覆い尽くしていたのである。
「ソレ」は自身の前に出て来た少女を見ると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべるように、その額の「目」だけが不気味に嗤っていた。
「ソレ」の額には目が6つある。上顎から下の部分には髭のような、触手のようなモノが無数に生えておりうねっている。
その為、口は見る事が出来ない。
見た目は全然麗しくなんか無くて、どちらかと言えば不気味過ぎて、吐き気を催すか恐怖で発狂しそうな程だった。
だが、サイズは少女より一回り小さいくらいで、こじんまりとしているので、気色悪い小動物に見えなくもないがそれを言ってしまったら小動物全てに謝らなければならなくなるだろう。
背中には身体のサイズに似合わない二足翼竜種のような翼があり、掌には水掻きのようなモノも見える。
尻尾も生えている様子だが、少女の位置からだと細かい形状なんかは分からなかった。
「アナタ、名前はあるの?」
「……」
「そう。夢の中に出て来たアンタは饒舌だったけど、ここにいるアンタは話せないのかしら?それなら、名も無き者として後腐れなく消滅していって!」
少女は身体の左右にそれぞれに分かれている「魔」と「神」の力を、大剣ディオルゲートに纏わせていった。
装備の色は魔獣の素材で造られた場合、その魔獣の色が色濃く残る。それは素材としての色なので魔獣の体色そのままでは無いのだが、それでも黒や白といった単色よりは味わいがある。
炎龍ディオルギアの素材は燃えるような紅緋色であり、風龍イルヴェントケートの素材は春の芽吹いたばかりの草原を連想させるような山葵色だ。
大剣ディオルゲートに生まれ変わった少女の愛剣は、その2色が混じり合い柿色に近くなっていたが、所々にそれぞれの色合いを残している。
だがその愛剣は「魔」と「神」の力を纏った事で塗り替えられていくのだった。
少女はこの日の為に、「惑星の御子」の力について、独学で色々と試していた。
そして、幾つか分かった事がある。
・詠唱無しで魔術を使える事
・短詠唱で概念魔術が使える事
・極大魔術は完全詠唱が必要な事
・御子の力を解放していられる時間は最大で5時間が限界である事
・御子の力は出力調整をすれば更に時間を延長出来る事
・御子の力は出力調整次第だが全ての能力値に大幅な強化が得られる事
・御子の力を解放している時は自身に物理作用が効かない事
・御子の力を解放している時は自身の全ての物理攻撃が虚理攻撃に変わる事
まだ他にもあるが大体はこんな感じだった。
まぁ、これらの結果が分かった代償として、太平洋上に浮かぶ無人島が幾つも粉々になったというのは、言うまでも無い事実である。
「先ずは小手調べから行くわ……よッ!」
「流星闇弾!」
「霹靂爆豪!」
「現刃破断!」
しゅん / どがぁぁぁぁぁん / ざしゅんッ
「そっか。それが結果かぁ。でも、それだと相性がかなり悪いわね。はぁ……。だってアタシ今、物理攻撃出来ないんだからねッ!もうちょっとは、空気読みなさいよッ!!」
「でえぇぇぇぇやぁぁぁぁぁぁッ!」
ぎいぃぃぃぃぃぃぃぃぃん
少女は調査する事が出来なかった「ソレ」に対して、どんな攻撃が効くのか調べる為だけに魔術を放っていった。
流星闇弾は闇属性の純粋な、虚理による攻撃。
霹靂爆豪は爆発を巻き起こし熱や圧力といった、現象による攻撃。
現刃破断は実際に刃を具現化させて斬り付ける、物理による攻撃。
流星闇弾は「ソレ」に当たる前に、壁のようなモノに当たり掻き消された。
霹靂爆豪も「ソレ」に当たる前に爆発し、爆風は「ソレ」に届いたものの何の反応も無かった。
現刃破断は「ソレ」の何だか良く分からない、髭っポイ何かを切断していった。
そして更には力を宿した愛剣で斬り掛かったが、それは流星闇弾や霹靂爆豪同様に、見えない壁に阻まれ盛大な不協和音を奏でていた。
「くぉぉぉおのぉぉぉおおぉおおぉ!」
「ぐぅぅぅぅおおぉぉぉぉぉぉりゃあぁぁぁぁあぁぁぁあッ!」
がきいぃぃぃぃぃん
ざしゅんッ
「かなり無理矢理だったけど、手応えあったッ!!」
少女の剣は確かに「ソレ」に届いていた。魔術を阻んだ障壁は甲高い音と共に砕け、「ソレ」は身を守る盾を失った。
少女の斬撃はそのまま「ソレ」に到達し、唐竹を割るように弧を描いていったのである。
「えっ?!そんな……なんてことッ!」
確かに手応えはあった。少女の大剣を握る両手は、斬撃の衝撃を感じ取っていた。拠って大上段からの一撃が決まったのであれば、通常は致命傷となる一撃に変わりは無いだろう。
しかし「ソレ」は目が嗤ったまま、上半身が左右に泣き別れただけだった。拠って泣き別れながらも再びべったりとくっつくと、何事も無かったかのように復元されていく。
「ヤバッ!」
ひゅんッ
がっきぃぃぃぃぃぃぃぃん
「ぐっ!?なに今のッ?魔術の挙動はなかったわよね?そこら辺に浮かんでるデブリを投げただけっていうの?」
少女は本能で危険を察知し咄嗟に愛剣でガードをしていた。一方で何故だかアラームは鳴らなかった。
しかし「ソレ」から放たれたモノの威力は凄まじく、ガードをしたにも拘わらずそのまま吹き飛ばされてしまったのである。
ガードしたおかげでダメージは大したことはない。だが、身体が痺れるような感じはしていた。
今の少女には物理作用が効かないハズなのに、単純な物理攻撃ですらアストラル体にまで影響を及ぼす程に強力となると、骨が折れるのは間違いなかった。
まぁ、身体がマテリアル体であれば、先程のガードであっても骨の2、3本は折れていたかもしれない。
あ……意味が違うが気にしてはいけない。
「コイツ、本当に一体何なワケ?まったくもって勝てる気がしないし糸口も見付からないんだけど、どうしよ?ホントにホント、まったくヤんなっちゃうわね」
「でもま、前向きに考えるとして、さっきは確かに手応えはあったのよねぇ。しっかし斬った瞬間に元通りとか、ホントにどんな身体の構造してんのかしら?でも粉々にしたら元通りにはなれないかしらね?試してみる価値はありそうよ……ね」
「でもでも、そもそもの話し、コイツはホントに生物なの?殺しても死なないなんて、チートが過ぎるわッ!」
少女は頭の中で現状から分かっているコトを、でもでも考えながら纏めていき、倒し方を推察していった。まぁ、色々と試してみたいが、時間もあまり無いので焦ってはいる。
そして大事なコトは、一撃でももらえばそれは即死級の威力なので油断もしていられないのである。
「取り敢えず、じゃあ、決まりッ!単純に死ぬまで殺せばいいって方針でやってやるわッ!」
その頃、地上では異変が起き始めていた。地球圏を覆う「目」が怪しげな光を帯び始めたのだった。
「目」が一際怪しげな光を帯びた時、その「目」から熱線を帯びた光が大地に放たれていったのである。
その光は大地を縦横無尽に奔り、その傍若無人な光は、大地にある物全てを薙ぎ払っていく。
こうしてそこにあった物は例外無く、灼かれていくのだった。
突如として始まった生命の危険に対して人々は、恐怖し絶望していく。
逃げ惑うコトしか出来ず、でもどこに逃げたらいいか分からない状況に混乱し、いつ灼かれるか分からない死のカウントダウンは心を擦り減らしていく。
そうして、それらの負の感情は、「ソレ」に因って吸い上げられていく。
「ソレ」としてはそれが狙いであり、それは格好のエサであり、吸収し自分自身の養分していったのだった。
少女は「ソレ」に対して、剣撃と物理作用を持つ魔術を織り交ぜながら攻撃を重ねていく。破壊しても破壊しても障壁は復元され、斬っても斬っても「ソレ」の身体は元に戻っていった。
一方で「ソレ」は少しでも隙を見せるとデブリを投げてくる。だからそれは受けるコトをせずにひたすら躱し、投げられないように手数を増やしてこれでもかと言わんばかりに斬り刻んでいく。
それの繰り返しをかれこれずっとやっており、一向に終わりの見えない闘い……としか言えない状況だった。
「ソレ」は、少女からの攻撃を受けて刻まれれば刻まれる程に、大地を焼き払い養分を吸い上げていた。
それもじわじわとイヤラしく、存分に恐怖を味わえるように丁寧にだ。
灼く範囲を選定し、一度に灼かず逃げ惑う人々に対して掠めるように。
真綿で首を絞めるように一度で心を砕き切らず、徐々にすり減らすように。
逃げ惑う人々が自らの恐怖で、自らの首を絞めてしまわないように。
そこまでして丁寧に丁寧に、じわじわと負の感情を捕食していた。だから「ソレ」にとって時間は、いくらでもある。
自分の下には数十億ものエサがあり、自分の傷はエサが補ってくれているのだから。
拠って「ソレ」は、最高のエサを捕食する為だけに頑張って時間を掛けていた。
だが、ただ斬られるだけでは詰まらないから、そこら辺のゴミを投げたりもした。ちょっとは抵抗してみせる事でカムフラージュしたのである。要するに、最高のエサに気付かれては困るのは「ソレ」の方だからだ。
だがそうとは露知らず、そんな「ソレ」の思惑を知らず、ただがむしゃらにひたすらに攻撃を行ったのが少女の誤算だったと言えるだろう。
「全くどうなっているのよッ!もうッ!」
「……斬られてもあの不気味な笑顔でこっちを見てるだけなんて、どんだけドMなの?」
ぷるるる
「マム何の用?今アタシは凄っごく忙しいのッ!だから闘ってる最中に通話してこないで貰えるかしら?」
「戦闘中だって?!アンタ、一体どこで何と闘ってるんだいッ!?」
「だーかーらー今、アタシは「ソレ」と闘り合ってて大変なのッ!話してる余裕すら無いんだから、とっとと要件だけ言ってッ!!」
「じゃないと、アタシ死んじゃうわよ?」
「あたしゃアンタがどこで闘ってるか知らないが、こっちもそれどころじゃないんだよッ!地上は今、大変な事になっているんだッ。アンタが今、「ソレ」と闘り合ってるって言うんなら、そっちで地上を何とか出来ないのかい?」
「えっ?今何て?それって、どういうコト?」
「——あっ!?しまっ!ガードをっ!えっなにこれ、デブリじゃない……。フェ……イク?」
ぎゅん
「やああああああ、がががががががあぁぁぁあぁぁ」
「あ、マズったねぇ、こりゃ」
「ま、まぁ、そしたらそっちはそっちで頑張っておくれよ」
つーつーつー
「ソレ」はデブリだけで攻撃していれば、いずれ慣れると考えていた。
だから、デブリに紛れてデブリに似せた精神汚染も混ぜていた。それはアストラル体の天敵とも言えるモノだから、ガードされようとも触れてさえしまえば勝機しかない。
拠って少女は「ソレ」からの攻撃をまともに受けてしまったのである。結果、少女は声にならない声を上げ、その精神は捕食者に冒されていく。
「ここはどこかしら?アタシはまた死んだってワケじゃなさそうだけど……」
「だってだって、以前と状況が全然違うもの。身体は動くし……ッ!?そうかッ!?」
少女は暗闇の世界に閉じ込められていた。「ソレ」からの攻撃に因って、少女の精神は冒され捕食者が創った監獄に囚われていた。
そしてそれが、アストラル体になってしまった少女の弱点だった。
「いい線いってたと思ったんだけどな。結局、どうすれば倒せるのかしら?ってかその前に、どうやってここから抜け出せばいいんだろう?」
「ヒヒヒ。やっと、堕ちたな。これから先は俺がキサマを喰うターンだッ!ぐふふ」
「なっ?!くぅ、離せ!後ろからなんて卑怯よッ!」
しゅるしゅる
ぬちゃぬちゃ
ぐちょぐちょ
「えっ!?う、嘘でしょ?イヤ、やめて!アタシの内に入ってこないでッ!だ、だめッ、ダメっ。イヤッいやあぁぁぁぁぁぁッ」
ぐちゃぐちゃ
ねちょねちょ
くちゃくちゃ
「ぐふふははははッ、これは美味ッ!これは美味いッ!これ程の美味であったとわッ。ぐふふふ。ワイにかつて「敗北」を与えた、このワイを押し留めた力がこれ程までに美味だったとはな。にひひひひ」
「ぬふふふふ。どれどれ、他の部位はどうかな?一片も残さず喰ろうてやるから、ほらほら曝け出せ。ぐふふふふ」
「や、やめれぇ。アタシを犯さないれぇ。食べらいれぇ。頭があたまが、おかしくなるぅ。らめぇらめなのぉ」
少女は後ろから近付いてきた「ソレ」の気配を察知出来なかった。「ソレ」は少女を後ろから羽交い締めにすると、蛭のように顎の触手で少女に吸い付いていく。
そしてその触手は、少女に吸い付くばかりか身体の穴という穴から体内へと侵入っていった。触手は耳に鼻に口に、股にお尻にと吸い付き犯していく。
少女は抵抗も出来ず、為すが儘に「ソレ」から嬲られ凌辱され蹂躙されていった。そして「ソレ」は絶世の美味とも言える、少女の全てに酔いしれていたのだった。
「ぬふふふふ。美味い美味い美味い!美味美味美味!ほら、もっと喰わせろ!もっとだもっとだ!腕も脚も胸も頭も脳髄も全て喰ろうてやる。ほら、もっと喘げ嫌がれ、もっと恐怖しろ。ワイにもっと美味を寄越せぇぇぇぇぇッ!」
「ホントにゲスね。見てて吐き気がするわ……。アタシはアタシの初めてをアンタにあげる気なんて、さらさら無いのよ」
ずっぷぷぷ……ぷしゅ……ばッ
「ぬあんだとッ……何故?何故?何故?ワイのエサがそこにいる?ワイは今まで何を食していたのだ?」
「残念ね。それはアタシを象ったマナの塊よ。ちょっとだけアタシのエッセンスを足しておいてあげたけどねッ。じゃあ、あとはそのまま死んでもらえるかしら?」
少女を貪り喰う「ソレ」の背後にいたのは少女だった。そして少女は冷ややかな目をしたまま、「ソレ」に対して大剣を突き刺していく。
ゆっくりとゆっくりと時間を掛けて貫いていく。魂すらも凍らせそうな程に、冷たい視線を向けたまま穿いていく。
自分を美味しそうに食べている「ソレ」が、少しでも長く苦しめるように……。
「はッ!な、なんとか、帰って来られた……わね。イチかバチかだったけど、あれで正真正銘ダメージは与えられたハズよ」
「そ、それにしても、写し身ってばあんなに乱れるなんて思ってなかったから、ソワソワしちゃったじゃない!金輪際あんな姿見るのはご免だわッ!アタシはあんなにはしたなくなんかないんだからッ!!ふんすっ」
「とは言っても、さっきのマムからの通話でだいぶカラクリが見えてきたからこれ以上時間は掛けられないわね」
少女はマムが「地上が大変なコトになっている」と言っていた事が、解答を見付けるきっかけになっていた。
それの問いはモチロンのコト、「いくら斬っても即時回復するのは何故なのか?」だ。
拠ってちまちまと時間をかけて、様子見していた自分に対して腹を立てながら次の一手の準備をしていった。
「回復する暇も作らせてやらない。だからッ!この一撃で完全に塵も残さずに消滅させてあげるッ!」
一方で「ソレ」は苦しんでいた。少女から穿かれた身体が本体だったからだ。
拠って惑星の直上に存在している「ソレ」は、分身体と言える。
地上にある膨大なエサから、エネルギーを吸い上げる為だけの装置として存在する分身体。吸い上げたエネルギーを自分の元へ運ぶだけの分身体。
拠って分身体が使える機能は少ない。
自らを守る機構とそこら辺のモノを投げるか、本体にエサを渡す為の精神汚染回路を繋げるかだけだ。
だから自分の思考も合わせてプログラムしてある。
何かが起こったら必ずそうなるようにだ。拠って全ては分身体任せなので本体はちゃんと隠してある。
誰にも見付からない場所に。
だが、どうにもおかしい。エサからは今も尚、エネルギーを分身体が吸い上げているハズなのに、刺し貫かれた傷が癒えないからだ。
「ぐぬぬ。一体、ワイの分身体に何が起きている?ぬぬぬぬ、これならば視覚共有もプログラムしておくべきだったか」
少女の力は臨界に達しようとしていた。少女は「ソレ」からの攻撃を躱しながら、内にある力を集めていた。
集められた力は、愛剣の中に全て注ぎ込まれていく。
「魔」と「神」の2つの相反する力は1つに混ざり合い、愛剣の造形すらをも変えていった。
愛剣は禍々しくも神々しい、それはそれは美しい白金色に輝く大剣として、変化を遂げる事になる。
少女は完成した大剣を自分の眼前に構えると、そのまま不敵に笑い続けている「ソレ」に向かって突撃していった。
「こおぉぉぉぉぉのおおぉぉぉぉぉッ!」
「くぅぅぅぅらぁぁぁぁぁえぇぇぇぇぇぇぇッ!」
ぎぃぃッぱぁんッ
ざんッ
「燼滅破竜ッ!」
じゅばばばばばばばばばばばばばッ
会心の一撃とも言える渾身の一撃は障壁をいとも容易く撃ち破り、「ソレ」の身体を真っ二つに斬り裂いていった。
そして更に半神半魔の力を吸い上げた「破竜の型」は、26本もの不可避の刃を放つに至る。
拠って縦横無尽に不可避の刃は斬り刻んでいく。
結果としてニタニタ笑っている「ソレ」の身体は、認識するのが困難になる程に粉微塵になっていった。
「獄焔魔境ッ!」
じゅッ
「ふぅ。これで終わったわね……。「ソレ」も完全に燃え尽きたし、復活もしてないわッ!虚無の禍殃と言ってもアタシの手に掛かればこんなモンよッ!!どうだッ、ぶいッV」
斬り刻まれ粉微塵になった「ソレ」の身体は、少女の魔術に因って完全に焼滅させられていった。
そして晴れて無事に終焉を迎えたと感じた少女は、ピースサインを眼下にある地球に向けていた。
だがこの時の少女は、未だ眼下の地球を覆い尽くしている「膜」が消えていない事に気が付いてはいなかった。




