Planet Eroder ν
「「宇宙」とは意思のない創造主であり、無生物である」
「「惑星」とは意思のない創造主であり、生物である」
そして、「惑星」は自分自身を生物とし宿主足り得る為に、その内に寄生する存在として多種多様な生物群を創り上げ内包していった。
将来の多種多様な生物群が、進化の過程で行ったコトとは逆のコトを、前もって惑星は行ったとも言える。
逆に言えば、生物は宿主が望んだコトを真似したと言い換えられるかもしれない。
しかし惑星が創り上げた生物群は「進化」という過程の中で、「感情」という概念を身に付ける事になる。
それはどちらかというと「本能」と対になるモノで「理性」に近しいモノとされる。
ただしそれが、「個体そのものの存続理由になり得る「死」を、忌避的に回避する為に身に付けられたものである」とするならば、本能に近しいモノと呼べるかもしれない。
感情を得た多種多様な生物群は進化の過程で様々なモノを発明していった。それは呼吸方式の変化ですら発明であり、体色や体毛ですら発明と言える。
そう言った原始的な世界から生み出された発明は、次々に新たな進化に繋がっていく。
そういった進化を「意思のない創造主」が望んだかどうかは定かでは無い。しかし自分が生物である為の道具に過ぎなかった寄生生物群が、「意志のない創造主」の範疇を超えて進化を始めるかは「意志のない創造主」にとってはどうでも良かったのかもしれない。
だが一方で、「意思のない創造主」は自身の中には要らない、必要ないと判断したモノを強制的に排除する「機構」を創り出していった。
それが、惑星の抑止力たる「惑星の御子」だ。それが発動しない限りは、望まれていない進化では無いという事にあたる。
ただし、発動条件は解明されていないので、「意志のない創造主」の気まぐれの可能性は否めない。
だが、この「機構」は原始的な世界では上手く機能しない。拠って表舞台に上がるのは、まだまだだいぶ先の話しだ。
それからも進化はひたすらに続き、幾億もの時は徒らに流れていった。こうして新たに進化していった種の1つが人類の祖である。
人類の祖は自由になった手を使い、様々な発明をしていく。そして、その発明は本能すらをも超える発明を齎す。
こうして理性が発明された。理性は進化を飛躍的に進歩させ文明が興ると、その飛躍は加速度的に速くなる。
人類の祖はこうして「神」の存在を発明した。
ここにきて漸く抑止力としての機構は機能し始めるが、未だに望まれない進化は無く、まだ表舞台に現れる事はない。
それの事の興りは権力者が、自身の持つ「権力」を正当化する為に始まった事だった。その流れはたちまちの内に横方向に伝播していく。
「横方向」即ち、主軸の設定を変えずに、それに付随する体系の確立と言える。
横方向に伝播する事は、「自分も正当な権力者であり、主軸の考えに沿った者である」と暗に主張していると言えるだろう。
拠って自身の権力の及ぶ範囲を、他の侵略から逃れる為の口実に使った。
だが、その権力者も無限の寿命を持っているワケでは無い。その為に、その権力を継いだ者は「自身も正統な権力者である」と主張せずにはいられなかった。
当然と言えば当然の結果と言えるだろう。
こうして、横方向に伝播したモノは跡を継いだ者によって今度は縦方向に繋がりを見せていく事になる。
発明された「神」という概念は横方向と縦方向に広がりを見せた事で体系化し、大系化された「神話」という名の1つのストーリーを展開していく事になったのである。
だが、ここでもう1つの発明が為される。
それは「自分が正しい」と正統を主張する者が複数現れた時に、正統性を認められなかった者達は当然の事ながらつまはじきにされると言う事だ。
要は主軸を共にする神話大系は同類と見做すのに対し、主軸を異にする神話大系ないし主軸から袂を分かれるコトになった神話大系は、異類と見做され「悪」とされた。
これが「魔」の発明となる。
これらの発明は「意思のない創造主」からは敵視されず、全て内包されていった。そして、内包された事に拠り、「神」と「魔」という存在もまた実際に創り出される事になる。
想像上の存在であり、権力者達の象徴であり、権力者達の謀略であったそれらの発明は「意思のない創造主」の元に実体化させられていった。更には嘯かれた「概念の付随」というオマケも付いて。
こうして、神や魔と人は共存する事になった。
だが、それらの存在は「惑星」という「意思のない創造主」の範疇では収まり切らないモノに育っていく。
拠って、「惑星」は上位互換である「宇宙」という名の「意思のない創造主」の力も借り、多次元的にその「概念たる世界」を構成していく事になった。
こうして新たに世界は創られた。そして、そこに住まうモノ達は種族として存在意義を認められ、それが存在証明になった。
ここから先は、種族が発明されればされるだけどこかの世界に当て嵌められる事になるが、どこの世界にも当て嵌められない種族が発明された場合にのみ、新たな世界が創られるコトになっていった。
こうして進化と発明は上手く独り歩きを始め、多様性はますます多様性を極めていく。
ちなみに「宇宙」という「意思のない創造主」は生物である「意思のない創造主」を同次元/別次元を問わず幅広く幾つも展開している。
それは生物である為に宿主となった「惑星」と、動機が同じである。
「宇宙」は無生物であろうとする為に、無生物としての「惑星」をその内に内包しただけに過ぎない。だが、たまたま環境が整ってしまった「惑星」のみが生物である事を許されたと解釈する事が出来る。
だからその全ては1つの「宇宙」の中に内包されている事になる。然しながらこうして幅広く展開されている世界こそが、パラレルワールドと呼ばれる「並行世界」の概念になっている。
要するに地球やテルースと似た環境があれば、そこには生物としての「惑星」があり、その「惑星」が内包した進化の過程で創られた発明はその「惑星」の中に存在している。
それらがたまたま繋がった時に、自分達が住まう「惑星」との並行世界として認識されるが、そもそもの話しその世界は並行しているワケでもなんでもない。
と言うコトになる。
地球でマナが発明されなかったからマナは存在していないだけで、テルースではマナが発明されたから存在しているだけだ。「地球でもしもあの時マナが発明されていれば、テルースと同じような「惑星」になったかもしれない。だから、マナが溢れる世界に自分と同じ存在がいるハズだ」と言うのが並行世界の理論だが、発明されるモノは多様性の中でランダムに決まった枝葉と同じ。
枝葉が同じ位置だからといって、同じように枝葉が伸びる道理はないのだ。要するに並行世界は同じ「惑星」同士の「もしも」ではなく、交わる事なく同じような進化をした別の「惑星」と言うだけである。
よって、同じ時を過ごしただけの別物と言う意味であれば、「並行」ではなく「平行」が正しいのかもしれない。
さて、話しを戻す事にする。
多様な進化と発明を内包した「惑星」だったのだが、「ソレ」だけは違った。
多くの人々に拠って編纂されていった神話大系からは逸脱した「興り」を根本に持ち、ただ1人の人間が頭の中に抱いた「ソレ」は当初、「妄想」だった。
「こうであったら面白い」「こうであればいいのに」といった類のモノである。
だが、「ソレ」はそれを興りとして人々の欲求と承認を得てしまった。
更に願望は募り、欲望は肥大化して「意思のない創造主」の思惑の、埒外で発生するコトになった。
最初の興りは「神」や「魔」と言った者達と同じであった「ソレ」は、人々の願いや救済を主軸として発展していった「神」とは違い、何の救いも無い状況で、それらから逃げる為だけの「娯楽」や「愉悦」といった事を主軸としてしまった。
だが、ここまでならただの「埒外」であり、内包されるかは気まぐれ次第だっただろう。
しかし、話しはここから大きく喰い違ってくる。
絶望は希望よりもそこら中に溢れている。怨嗟は歓喜よりも発生し易い。
快楽として人を貶め、苦悶の表情を浮かべている人に愉悦を感じ嗜虐心を満たしていく。
そういった人間達が増殖していた……。
そしてそんな時代を背景に持った事で、「人類全ての悪行」を「ソレ」は進んで背負っていった。
拠って秘密裏に「恐怖の執行」を行う、「恐怖の体現者」となっていったのである。
だが、地球の至る場所で戦争が蔓延っていた混乱期に於いては、その事に気付く者はいなかった。
隣人が生きているのか死んでいるのかを気にするコトなく、昨日までいた隣人が、突如としていなくなってもそんなコトに気付く余裕すらなかったのだ。
そして、それだけでは飽き足らず「ソレ」は、過去から現在に至るまで人類が起こした全ての悪行を詰め込んだ歴史と言う名の、「パンドラの箱」にすら手を出してしまった。
拠って様々な悪行でさえ「ソレ」の中に蓄積され、「ソレ」はそれを糧に成長していく。そして様々な「悪行」は人類だけでなく、それを為した「神」の概念すらもその身に取り込んでいった。
人々の悪行は善行より多く、その情報は多岐に渡り複雑怪奇な様相で回帰する。悪行を取り込んだ「ソレ」の進化は完全に「埒外」となり、容認出来るモノですらなくなっていったのである。
ここで漸くにして「意思のない創造主」は、「ソレ」に対して「抑止力」の行使を選んだのだ。
最初地球で発生した抑止力は、抑止力としての力を行使し、誰にも知られる事無く肥大化した「ソレ」を押し留めるに至る。だがそれは飽くまでも「押し留められた」だけで、「ソレ」は消滅する事などなかった。
拠って地球の奥深くで休眠する事にした。
しかし、その休眠は数年で幕を閉じる。再び目覚めた時の地球は世界的な規模での戦禍の最中であり、「ソレ」が急速に力を付けていくにはもってこいの状況だったからだ。
一方で「ソレ」は、先の敗北を決して忘れていなかった。拠って「抑止力」に対抗する力を手に入れるべく、新たな概念を手に入れた「ソレ」は地球を離れるコトを選択し模索していったのである。
その結果、テルースを発見した「ソレ」はその内に取り込んだ様々な「神」の概念を用いて並行世界を渡るコトに成功したのであった。
「さて、いくわよッ!」
「いつでもどうぞー」
しゅうぅぅぅぅぅぅぅッ
「あわわわわわわわ、ナニコレ?こんなの常識じゃない!考えられない!今まで異常だと思ってたけど、いつから人間を辞めちゃったのさ?」
「アタシは異常者でも人間辞めたワケでもないわッ!全くッ!後で覚えておきなさいよッ!ふんすっ」
「……じゃあ気を取り直して、これから出力を上げるわッ!」
「あっ!えっ?いや待って、これから先があるの?」
「えっ?何言ってるの?これはまだ初期段階よ?アタシが今まで試してみた感じだと、ここから3段階くらい出力上がるわよ?」
「えぇぇッ!?すとーっぷすとーっぷ、ムリ無理むりッ!ただでさえ今ですらいっぱいいっぱいなのに、それ以上バケモノ化したら測定機器が壊れちゃうよ!」
「ば、バケモノですってぇ?こんな可愛らしい乙女に向かって、それはないんじゃないッ!!本ッッッッッとにあとで、ぎったんぎったんのけちょんけちょんにしてやるんだからッ!」
「まぁ、そのボディラインだけは可愛らしいし、ちんちくりんのぺったん子で、色気もへったくれも無い辺りは生娘っポイけどねぇ。あっ、「ちんちくりんのぺったん子」って、なんかイメージぴったりで面白い!でも、本人の前で言ったら殺されるよね、多分。あはははっ」
「ねぇ、ウィルくん?そう言った悪口はマイクを切ってからする方がい・い・わ・よ・?」
「えッ?マイク?!あっ!」
きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃん
「急に大声を出さないでよッ。うっさいでしょ!!でもまぁ、ウィルの気持ちは、よおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッく分かったから、生命を捨てる覚悟をしておきなさいよねッ!ふんすッ!」
-・-・-・-・-・-・-
少女は爺から話しを聞いた後、悩みに悩みまくった挙句に全てをマムに報告する事にした。緊急要請の報告書に敢えて書かなかったコトも全てだ。
ただし、爺の正体だけは伏せる事にした。
少女からの報告を改めて聞いたマムは驚いた表情をしていたが、それに対しては特に何も言わなかった。少女はそれならそれで、報告が終わったので部屋を出ようと思ったのだが、マムから帰る前に「B1FとB2Fに行くように」とだけ言われた。
先に寄ったのはモチロンの事ながらドクのラボだった。
「ドクいる?マムから行けって言われたんだけど?」
「あぁん?あぁ、嬢ちゃんか。あれの解析が終わったからマムに言っといたんだ。こっちに寄るように言ってくれってな」
「解析?何か頼んでおいたっけ?」
「はあぁぁ。まったく嬢ちゃんは自分の興味がないコトにはトコトンだな」
「えへへ、ドクにそう言われると照れるなぁ。てへっ」
「どこをどう理解したら、そんな返事になるんだ?1回、頭ん中でも調べてやろうか?」
「えぁ?!いやいやいや、ドクなら本当にやりそうだし、乱暴に扱われそうだから、遠慮しとくっ!で、何か解析するようなモノを預けてたっけ?」
「これだよ」
「うわ、ナニコレすっごい綺麗!!このネックレスをアタシにくれるの?」
「だーかーらー、本当に頭ん中を見てもらいたいようだな?」
「あはは、冗談よ冗談。光龍のお守りもどきどうだった?何か分かった?あ、でも、ネックレスにしてくれたのは凄っごい助かる!ありがと、ドク。流石ね、いよッ、天才発明家!!」
「照れるやろがい!よせやいッ!」
「もう、ドクったら照れちゃって可愛いんだからッ」
「はっ!って、違わい!やめろぃ!……と、ところでだ、嬢ちゃんが貰ってきたこの石っころだけどな、解析結果を言うがいいか?」
「うん、それはそれで気になるから、早く教えてッ!」
「こりゃあな、この石はな……」
「うんうん、なになに?どんな凄い力があったの?」
「——ただの石だ」
ずこっ
「えっ?ええぇぇぇぇぇぇぇッ!ただの石ィ?」
「まぁまぁ落ち着け。話しは最後まで聞くモンだッ。ただの石って言ったが、正確には何も解析出来なかったから、ただの石って表現しか出来ねぇってだけなんだわ」
「何も解析出来ない?それってどういうコト?」
「材料、材質、成分量に魔力量、加護やら属性それら一切合切分からねぇ。それにこんな素材を見たコトも無ぇ。よって解析不能だ。でも測定器は何かしらの結果を出したがるから、出した答えが……ただの石っころだったってだけだ」
「な、何よ……それ」
「でもま、何かしらの恩恵があるならデバイスの中にしまっておくより、身に着けておいた方がいいだろ?だから、ネックレスにしてやった。ありがたく受けとんなっ」
こんな感じのドクとの会話が、なんやかんやあった後に少女はB2Fへと降りていった。
そこにはいつものようにウィルがいて、目を輝かせて少女を見詰めていたのである。
「それで、何か分かったワケ?」
「うん、分かったよ」
「へぇ、どんな?」
「それはモチロン。人間を辞めた事が分かったのさ!」
ばこんッ
「殴るわよッ!!」
「痛ったたたた。痛いじゃないかッ!殴ってから言うなよぉ」
ばこんッ
「ちゃんと殴るわよって言ったから殴ったわよ。これで満足?」
「もうッ!分かったコトを教えてあげないぞッ!」
「はぁぁ。どうせ、くっだらないコトでしょ?聞いたアタシがバカだったわよ」
少女はウィルならば、何かしらの力の根源的なモノを掴めるかもと思っていた。だからこそ目を輝かせていたウィルに対して期待していたのだ。
だが、少女は情報が何も得られなかったコトにむしゃくしゃしながら最上階へと向かっていった。
「ちぇっ。本当に人間辞めたってのが分かったのに、何もあんなに怒らなくたっていいじゃないかッ」
「それにしても興味深いなぁ。なんで、アストラル体だけで成立してるんだろ?」
「で、どうだったんだい?何か分かったのかい?」
「全く駄目ね。ドクはこの石が解析不可能って言ってたし、ウィルの方もてんでダメ。骨折り損のくたびれ儲けよ……。それよりも、何か動きは掴めた?あと、情報も!」
「アンタが下に行ってから、ここに帰ってくるまでの時間で調べられたコトはなぁんもだ。だが、これ以上調べても、あんまりアテには出来ないかもしれないよ?」
少女は「ソレ」について調べてもらう事にして依頼しておいたのだが、やはり何も見付かっていないようだった。
マムは統合演算装置ミュステリオンにアクセスし、「ソレ」の探索をミュステリオンに依頼したり、アクセス権限内で情報を探したが満足出来る内容は1つもなかったのである。
「ミュステリオンが超高性能の演算装置であったとしても、飽くまでも3次元の産物だ。流石に多重構造の多次元までは、調査は無理って事なのかねぇ?それに、さっきの話しを聞いた限りじゃ、この次元に潜んでいるのかも怪しいモンだしねぇ」
「うん、それもそうなのよねぇ」
「あと、そもそも「ソレ」ってのに対抗するのに、物理兵器は有効なのかい?それにミュステリオンでも情報を持ってないなら、どんな兵器を集めようとも全部バクチになっちまう気がするねぇ」
マムは平気で凄い事を口走っていた。然しながら少女もその内容が理解出来なくは無いが、それに対して返す言葉を持ち合わせていなかった。
何故なら門前の小僧が何を言っても説得力はないし、何かを閃く契機になるとも思わなかったからだ。
しかし言うなれば、マムは少女からの依頼を頼まれるつもりはなかった。それは国家元首としての仕事がたんまりあるからだ。
拠って短時間であっても、時間は惜しいのだ。
だが一方でマムが国家元首であるという事は、「ソレ」が本当に現れるならば、国だけでなく世界の存亡にも関わる事案だと認識せざるを得なかった。
だから裏付けとして、少女は闇を纏った光にもなってみせた。流石にマムの前でその姿になれば何を言われるかある程度予想はついていたし、乙女心的には恥ずかしかったのだが仕方なかった。
拠ってそれが功を奏して、余計な一言と共にマムは渋々ながら依頼を受けてくれたのだった。
然しながら結局のところ、有用な情報を少女は得られなかった。少女の力の根源的な情報をウィルだけは得られていたが、それは喰い違いというか勘違いというか、すれ違いのような日頃の行いの悪さが原因となって少女には渡らなかった。
しかしそんなこんなで、「ソレ」に対する準備は出来なくても、「ソレ」に対するコト以外の準備は着々と進められていった。
「猶予が無い」と言う言葉は信じられ、虚無の禍殃が起きた時の避難経路や、国民に対する食糧などの支援物資などは集められていったのだ。
そして、更に日々は流れていく。だがしかし運命の日は唐突にやって来た。
それはノックもせずに突然開け放たれた扉のように唐突で、その開け放たれた扉の先には死神がいる様子だった。
後に命名され後世にまで語り継がれていく事になる、「3.15の禍殃」はこうして始まったのである。
その日の神奈川国は、前日の夜から雨が降りしきっていた。そのしとしとと降る雨は、春の陽気から一転させ、大気を凍える程にまで冷え込ませていた。
そんな雨が降り止んだのは昼前になった頃だった。
太陽を完全に隠し切る程の厚い雲がどこかへと消えて、雨は止んだ。陽の光が見えた事で、凍えていた大気は熱を取り戻し始めていく。
人々は暖かな陽射しによって憂鬱な気分が、少しずつ晴れていくような気持ちになっていた。
そんな何でもない1日のハズだった。そんな何でもないような、普段と変わらない日常になるハズだった雨の昼下がりのコトだ。
人々は目を疑った。いや、それを見た人々は自分の目を疑わざるを得なかった。
何故ならば空に浮かぶ大きな「目」が自分を見ていたのだから。
その「目」はこの惑星のどこにいても見える「目」だった。空が明るくても、暗くても見える「目」だった。
朝でも昼でも夜でも構わず、晴れていようが曇っていようが、雨や雪が降っていようが、認識出来た。
そんな摩訶不思議で奇妙で奇抜で気持ちの悪い目だったのである。
その「目」に対する人々の認知は、夜になっていた地域や、雨が降っている地域では当然の事ながら遅くなった。拠って太陽が現れていた地域の方で発見が早かったのは当然のコトだ。
そして「目」が一度認知されれば、瞬く間に情報は伝播していった。拠って各国は緊急対応を迫られ、それがどんな時間帯であろうとも即時対応を余儀無くされたのである。
それはまだ、記憶に残っている人も一定数いる「惑星融合」に対する「記憶の残滓」に囚われていたというのも、モチロンの事ながらデカかった。
世界中に張り巡らされた「目」は探し者をしていた。それは自分を倒し得る存在のコトだ。
過去に散々苦しめられたコトから、早い段階で邪魔しないように始末しておきたかったと言える。
そして、「目」は嗤った。
「おや♪やっとお目覚めですか?おやおや♬随分と惰眠を貪ってたみたいですが、それでもまだ足りないんですねぇ?まぁ♪それでも細工は流流。まぁまぁ♬後は仕上げを御覧じるとしますかねぇ。えぇ、モチロン高見からですがね。ふふふふふ、ふははははッ」
「ナニアレ?目?目なの?凄っごくきっしょいんだけど!!」
「——ッ!あれ?なんかアタシのコト見てる?いやいやいやいや、そんなワケッ!?笑った……わね。あの目、アタシを見て笑ったわよね?」
「あ、そういう事かッ!アレが「ソレ」なのね……。セブンティーン!アタシここで降りるわッ。セブンティーンは屋敷に自力で戻ってもらえるかしら?」
「カシコマリマシタ、マスター」
少女はキリクのお見舞いの為に病院に向かってる途中だった。拠って、フル装備を身に着けていない。
セブンティーンに積んであるのは大剣とハーフメイルだけだ。そして、自分が身に付けているのはデバイスとブーツのみという軽装と言える。その他の装飾品や銃火器は持っていない。
だが、相手から見付かった以上、装備を屋敷に取りに帰る時間は無いかもしれない。それに相手の規模を考えれば、様々な装備品に意味があるのかも不明だった。
拠ってセブンティーンから降りると、大剣とハーフメイルだけを受け取りそのまま空を駆けていった。
こうしてこれが、全世界を巻き込んだ人類の存亡をかけた虚無の禍殃の始まりとなる。
「やってやろうじゃんかッ!この世界はアタシが護る。アンタなんかに壊させはしないッ!それに……キリクに会いに行く為に、ちゃんとおめかししてリュウカが喜ぶ手土産も買ったのに、台無しにしてくれちゃったその分も合わせて、きっちりオトシマエつけてもらうわよッ!」




