Faraway Storyteller ν 挿絵付
これは人間界のとある場所での話し。
1人の男が怒鳴っていた。その男の怒りは王の行方知れずに拠るものだった。
「探しモノをする」と言ったまま出ていったきり、「王」はかれこれ数十年に渡り、玉座にいない。
いや、たまに帰っては来るのだが、スグどこかへと行ってしまう。
それは凄くタチが悪い。既に他界してしまっているのであれば、他の王を立てれば良い。だが「行方知れず」であればそうはいかない。
更にたまに帰ってくるのだから尚更だ。
王がいない間の代役を擁立したとしても、意見が食い違えばそれは争いの火種にしかならない。
権力とはそういったモノだ。
今まで王を探していなかったワケではない。ひょっこり帰って来た時に、居場所を追求しなかったワケでもない。だが見付からないし、見付けられない。
更に質問攻めにしようにも、それに関して王からの返答は何もない。茶を濁していつの間にかいなくなってしまうのだ。
だがそれでも、なんとかなっていた。
王がいなくても特に混乱も問題も無かったからだ。この国にとって、王の存在はあってもなくても変わらない。
いなくてもありとあらゆるモノが「回る」からだ。
国と言っても民から税を取るワケではないし、民に労役を課すワケでもない。ただ、「国」というものがあるだけであり、そこに象徴としての「王」がいるだけだ。
要は「国」が滅ぶような事態にならない限り、言い方は悪いが「王」の存在は無価値と言える。そしてそんな有事が起こった際には、「王」が全ての軍権を有しているので存在は有価値となるだけだ。
然しながら、この「国」に侵攻して来る他国は今までに現れたコトがない。
拠って、「王」の存在は、やはり今まで無価値だった。
だが、昨今この国に於ける事情は移り変わっていた。度重なる謀反や背信。
それらの出来事が「拠り所」としての「王」に対して、判断を迫らなければならないくらいに、切迫した状態を作り上げていた。
だから、怒鳴っている者は早急に王を探すように命じたのだが、誰一人として王の所在を突き止められる者はいなかった。
それ故の「怒り」であり、「叫び」であった。
「我等が王はどこに行ってしまわれたのだ。一体、どこに「お隠れ」になっておられるのやら。こんな大事な日にッ!」
「おや?このような場所にいたのでありますかな?」
「キサマッ!」
「本日は議会でございますれば、「王」不在の現状では、貴方サマの意見が議場を纏める最も有力な意見。このような場所で現を抜かしている場合ではございますまい?」
「そのようなコトは言われずとも分かっておるッ!それに、キサマからワザワザ言われるまでもないッ!」
「おやおや、手厳しい。では、皆が待っております故、お早めに、ワールウィンどの。ほっほーっほっほっ」
「くッ!ベストワース如きがッ!」
だんッ
今日はこの国で議会が催される事が決まっていた。その場に王がいなければ、その議会に於ける議事はワールウィンが取りしきる手はずとなっている。
然しながら、本日議会に挙げられる内容は知らされていない。
議会は王を含めて21名で発足されている。そして議会に参加しなければ、その者の票は無効となる。
議会に挙げられる内容が王の意図するモノかどうかは議会が始まらなければ分からないが、過半数は王派閥が獲得している事から王が不在でも、今まではなんとかなっていた。
だが議会の内容で過半数が取れなくても、王がいれば絶対権限で票は覆される事になるので問題は何も起きない。しかしそれは王がいればこそだ。
この場に王がいなければ、王の絶対権限ですらも無効となってしまう。
そして本日の議会は発足された。その議事に参加した者は総員17名。欠席者は王を含め4名だった。
その光景にワールウィンは額に汗を掻いて悲観していた。こうして議事は進行していく。
最初から中盤に至るまでの議事案は些細な事であり、王の採決を待つ必要も無いものばかりだった事から全会一致で決まった。
だが、最後の議事案だけは違っていた。
最後に採り上げられたのは「度重なる叛意に対する王の不信任と、それに因る新たな王の選出」だったのだ。
この議会に参加している者の内で過半数を占めているのはベストワースの派閥だ。王を含め欠席している者がいる為に、大幅に過半数割れしてしまっているのが、王派閥と言える。
拠って王の不信任を取り付け、新たなる王として君臨しようとしているのが、ベストワースだと言うのは言うまでもなかった。
「さて、議事案に対して異議のある者は挙手を」
さささッ
「ふむ、7名……か」
「では、異議のない者は手を挙げよ」
さささささッ
「くっ、10名……だな」
「ふふふっ、ふほっ。ほっほーっほっほっ。これで、これでッ!待ちに待った王権が、この手に!」
「何やら、余のいない所で面白い事をしておるな?」
「お、王?!」 / 「王がお戻り遊ばされた」 / 「おぉ、我等が王よ!」 / 「何故だ?何故ここに王がいる?」
「ふ、ふはははっふふふははほほっほっほーっ。今更戻って来られたのですか?「元」王よ……。だが遅いッ!先程、貴方サマの不信任は可決され申した。拠ってこの時ただいまより、このベストワースめが新たな王になったので御座います。一足遅かったようでございますなぁ」
「そんなに王権が欲しいのか?王の位など、別に惜しむモノではない」
「な、なん……だと!負け惜しみをッ!」
「が、貴様如きの器では過ぎたる器であろうよ?」
「お、お、王たるベストワースを愚弄するかッ!王命であるッ!即刻この不届き者を捕らえよ!!」
「静まれッ!ベストワース、先程、「可決された」と言ったがそれは、この場にいない者を含めてであろうな?」
「元「王」は何かご乱心でもされているようだな?古来より、欠席者は議会に於いては権利を放棄したものと見做されるのが鉄則。それならば、そちらの派閥は3名いない事になる。それ故に、我等の派閥が半数を超える事になった。それだけの事だ」
「語るに落ちたなベストワース!」
「なん……だと?」
「貴様の言っている「欠席」とは、操られ自我を失くして来れない者や、捕らえられ逃げ出せない者も含まれるという事か?」
「なッ!元「王」も負けた腹いせに言い掛かりを付けるようでは地に落ちましたなぁ?えぇい、何をしておる!早くこの痴れ者を捕まえよッ!」
「これに見覚えは無いか?ベストワース」
からんッ
「これは貴様の「力」に拠って造られた「金の楔」であろう?これが本来であれば、議場に来るハズだった者の逆鱗に刺さっておった」
「そ、それはッ!何故、それをキサマがッ!」
「その者は死んだぞ?これの意味も分かるな?そして、あと2人の欠席者の居場所は既に掴んでおる。これでも尚、言い逃れが出来るとでも?余を甘く見たのが命取りだったようだな」
「き、キサマを王と認めるワケにはいかないッ!このベストワースこそが王足るに相応しいのだッ!ここで死ねッ、元「王」よッ!でやぁぁぁぁぁッ!」
「ぬるいッ!縛鎖収斂!」
がしゃんッがしゃんッがしゃがしゃがしゃがしゃんッ
「お、王はこのベストワースだ。ぶくぶくぶくぶくぶく」
「さて、他に異議のある者はいるか?」
「では、ベストワースの沙汰は追って知らせる。それまで獄に繋いでおけ」
こうして王位簒奪は免れる事になった。ベストワース派閥は派閥の主を失った事で、結局何も出来ずにいた。
議会はベストワースの捕縛という形で閉幕となり、その場に集まった者達はぞろぞろと、皆自分達の棲家へと戻っていった。
そして議場に最後まで残ったのは2人の男だけだ。
「王よ、お帰りなさいませ」
「長い月日、世話を掛けたな。ワールウィン……いや、今は誰もいないのだからレーヴェと呼んだ方が良いかな?」
「勿体無き御言葉で御座います……。ところで王よ、王が無事にご帰還なされたのは、「探しモノ」が見付かったという事で御座いますか?」
「いや、それはまだだ。まだ見付かってはおらぬ」
「それではまた、ふらっと……いやいや、どこかへとお探しに行かれるので御座いますか?」
「はっはっはっ。暫く見ない内に毒を吐くようになったな」
「たたた、大変失礼致しました」
「いやいや、良い。レーヴェには迷惑を掛けているからな。些事だ。——此度の余の帰還は、軍を動かす為だ」
「軍……で御座いますか?王自らが軍を指揮されるのですか?」
「そうだ余自ら率いる」
「しかし、軍とは大事で御座いますな……。して、如何なる者達を如何なる地へ連れて行かれるので御座いますか?」
「それはな、人間達の暮らす街、神奈川国という国の首都。アニべ市に向かってだ。向かわせる軍は……」
王はワールウィンに対して帰ってきた本来の目的を告げた。そして連れていく兵の総数と種類も伝えていった。
その言葉を聞き届けたレーヴェは短く返事をすると、足早に議場を去っていく。
「これで機は熟そう。余はどうしても見付けねばならぬ。それは、その為であればどんな犠牲をも厭わぬ最優先事項だ……。だから舞台は整えてやる。だからその力と真価を余に見せてくれる事を祈っておるぞ」
「アンタ、一体、今どこにいるんだいッ!!」
「えっ?!マム殿?斯様に怒られてどうされたのだ?」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?アンタは風龍イルヴェントゲートを討伐しに行ったんじゃなかったのかい!?」
「あっ?!そうだ!それなのだ!その風龍イルヴェントなんとかが、どこにもいないのだ!そして此の身は迷子になってしまっているのだ!」
「なにが、「あっ?!」だい!とっくに風龍イルヴェントゲートの討伐は終わって、その躯は回収されたっていうのに、アンタはどこをほっつき歩いているんだいッ!」
「えっ?風龍は討伐し終わっているのか?」
「何で寝てもいないのに寝言を言っているんだいッ!風龍イルヴェントゲートは1人で勝手に行ったアイツが見事倒して、その躯と共に今さっき帰ってきたよ!」
「……」
「あたしゃてっきりアンタも一緒に行ってるとばっかり思ってたが、アイツが帰ってきて聞いてみたら、アンタは来てないって言うじゃないかッ!ちょっと、一体どうなっているんだいッ!」
「1人で?執事殿は一緒では無かったのか?そうだ、執事殿はどこに?大事な話しがあるんだ」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ?なんでハンターと一緒に執事が行くんだい?それに大事な話しがあるなら、アンタが自分で屋敷に行けばいいじゃないかッ!」
「い、いや、マム殿、そうではなくてだな……」
「じゃあ、なんだってんだいッ!いい加減におしッ!」
「いや、執事殿が仕えている屋敷の皆が写っている写真を持った男がここにいるんだ。見た所、かなりの重傷だ。早く病院へ連れて行かないと大変な状況かもしれない」
「なんだって?!アンタ、今、どこにいるんだい?」
「いや、その、あの、ここがどこだか此の身にも分からない。迷子なのだ」
がっしゃあぁぁぁぁん
「ん?どうなされたマム殿?何か凄い音が?」
「気にすんでないよ!で、そこはどこなんだい?」
「そ、それが此の身は無我夢中でアニベ市から東に飛んでいったのだが、途中で島を見付けてそこに降りたら、写真を持っている男が重傷で……」
「アニベ市から東ぃ?アニベ市から東には島なんて1っつも無いんだよッ!その前にアンタはハンターだろうがッ!デバイスを使えば位置情報は把握出来るだろうッ!」
「で、デバイスの使い方を、あまりよく知らないもので。申し訳ない」
がっしゃあぁぁぁぁん
「マム殿ッ?マム殿ッ?どうなされたマム殿?」
「そ、それでも、アンタはハンターかッ!まぁいい、それならこっちからアンタの居場所に対してサーチを掛ける。そこにはアンタとその男と、他に人はいるのかい?」
「う、うむ。男を助けてくれた島の住人が1人だけいる」
「分かった。救助の方法が決まったらまた連絡するから、決してそこから動くんじゃないよッ!」
がちゃッ つーつーつー
「はあぁぁぁぁぁ。全く、師匠が師匠なら、弟子も弟子だね。お互い揃いも揃ってバカな事をしてくれるッ。こっちは呆れて物が言えないよ、全く!」
ぴぴゅーぴゅーぴっぴぴー
「なんで口笛吹いて「あたしゃ知らないよ」みたいな顔してんだいッ!」
「ところで、マム大丈夫?2回くらいすっ転んでたけど?あんな派手に転ぶなんて、もう歳なんじゃない?」
「全く、揃いも揃って……だ・れ・の・せ・い・だ・と・?」
「あはははは。ほらほら、そんなに怒ると血圧上がるよ?どうどう。どうどう、はいよーシルバーなんちゃって。てへ」
「はあぁぁぁぁ。あたしゃ怒る気も失せたわ。そうやってかわい子振るのは、もっと年齢を弁えてやるモンだよ」
ぴきッ
「さて、冗談はおいといて……だ。神奈川国に帰って来て早々で申し訳無いが、今のクリスとの通話で大変な事が分かったよ」
「大変なコト?ド天然龍人族の相手以上に大変なコトってあるの?」
「それは師弟そろってどっこいどっこいなんだが、茶化すんでないよッ!ふしゅるるるぅ」
「いや、別に茶化してはないけど?」
「まぁいい!先に教えといてやる。キリクはまだ生きてる」
がしゃんッ
「えっ?今なんて?えっ?えっ?本当に?ねぇ、本当に?キリクが生きているの?」
「アンタら家族の写真を持ってる人間が、キリク以外の人間じゃなければ……の話しだがね」
少女は掠れるような声を上げマムに近寄ると、まるで小さな子供が縋り付くように、マムの膝下へと崩れ落ちて床を濡らしていた。
クリスは北太平洋上に浮かぶ島にいる事が、クリスのデバイスの場所をサーチした結果判明した。然しながら、そこにいく為には当然の事ながら空から行くしか手段はない。海路を使う事も出来るが、それだと時間が掛かり過ぎるからだ。
そして重傷者がいるとなれば、運ぶ為に空を飛ぶ事が出来る乗り物で行かなければならない。更にはその中に医師も同行させて、簡易的ながらも治療しながら帰ってくる事が検討されていった。
ハンターが使うローポーションでは重傷の患者は当然の事ながら癒せない。
仮に使ったとしても痛み止めくらいしか効果はない。
また、回復術士のジョブを持つハンターも、錬金術士のジョブを持つハンターも神奈川国には在籍していない。
拠って回復魔術には頼れないし、高位のポーションも手に入れようがなかった。
だから医師の同行は必要不可欠としか言えなかったのである。
神奈川国からキリクの救助に向かう為に、マムはあちこちに掛け合った。その結果、高性能な自立型人工知能を搭載している、タンデムローター式の長距離無人航行が可能なヘリコプター、通称「ワダツミ」の確保に成功した。
これは石油系燃料と魔術回路のハイブリッド方式で空を飛ぶ、大型輸送機だ。
だが、それでも一回の給油も無しに、往復で10000kmを超える距離の飛行は物理的に不可能と言えた。
因って、途中で神奈川国のエサヤ市から空中給油機を飛ばし空中で給油する作戦が立案されていった。
ワダツミの中には様々な機材の他、医療用キットを抱えた医師や看護師に加えて、マムから直接依頼を受けたサポーターが十数名と、少女もちゃっかり乗り込んだ。
こうして、20時間を超える連続飛行の末に、クリス達が待つ島にワダツミは到着する事が出来たのである。
少女は島の上空でワダツミから降りると、ブーツに火を点し先に着陸地点の探索を行った。
クリスの位置をバイザーに示し、その距離から最短で着陸出来る場所にワダツミを誘導すると、少女は真っ先にクリス達の待つ小屋に向かっていくのだった。
バラバラバラバラッ
たったったったったったったったっ
「クリス大変」
「おっ?リュウカ殿、そんなに慌ててどうしたのだ?」
「クリス大変、クリス大変だ。大きな空飛ぶ魔獣が攻めて来た」
「なっ?!魔獣?本当か?」
「本当。魚取ってたら大きな音を立てて、大きな魔獣来た」
「大丈夫だ、リュウカ殿。此の身はハンターだ。そんな魔獣、此の身が追い払ってやる!」
「大丈夫ない。相手大きい。クリス死んじゃう。リュウカ悲しい」
ぽんぽん
「大丈夫だ、リュウカ殿。此の身は負けない!ところで魔獣が来たのはどこら辺だ?」
「ここから北の浜辺」
「分かったそれじゃあ、魔獣退治に行ってくる。そうしたら今日はご馳走だ!」
「クリス、死んじゃダメ」
「大丈夫だ!いざ、参る!魔獣め、此の身が討伐してくれるッ!」
「へぇ?アタシが魔獣に見えるの?クリス、いい度胸ね?」
「えっ?あっ?アルレ殿?」
リュウカは大型ヘリコプターなど見た事もなかった。だから魔獣と勘違いしただけだった。そして、クリスはその存在に気付いていなかった。
拠って、タイミングよく名乗りを上げて小屋を飛び出そうとした矢先に、ブーツで先駆けて小屋の手前までやって来た少女と鉢合わせしたのである。
そして、その名乗りは少女に向かって言ったように見えるのは当然の事だ。
「貴女がキリクを助けてくれたのね?ありがとう。本当にありがとう」
「泣いてる?どこか痛い?」
「ううん、違うのよ。貴女に感謝をしてるから涙が出ただけよ」
「感謝をすると泣くの?じゃあ、クリスも感謝してる?」
「クリス?ああ、あれはただ痛くて泣いてるだけよ。気にしちゃダメよッ」
「分かった、気にしない」
「りゅ、リュウカ殿……おるるるるる」
「ところであの人、キリク名前?キリク大事な人?」
「えぇ、そうよ。もう2度と会えないと思ってたアタシの大事な人よ」
少女はリュウカの手を取って、涙ながらに感謝を伝えていた。リュウカは少し戸惑った様子だったが、少女の気持ちがなんとなくだが理解出来た気がしていた。
そしてクリスの事は放置される事になった。
少女はワダツミから医師達やサポーターがこの小屋に到着するまでに、リュウカと話しをしておきたかった。
それは、クリスがマムに言っていた内容が気になったからだ。
「島の住人が1人だけいる」
クリスはマムに確かにそう言っていた。だから少女は上空からこの島にいる住人をデバイスで調べたのだが、光点を確認出来たのは確かにこの小屋だけだった。
もしも、キリクとクリスを連れて神奈川国に帰れば、この島に取り残された目の前の女の子はどうなるのだろう。
だから少女はリュウカに提案しようと考えた上で先行したのである。
「えっと、名前はリュウカであってるかしら?」
「そう。リュウカはリュウカ」
「ありがと、リュウカ。ところで1つ提案があるんだけど、いいかしら?」
「ていあん?何のコト?」
「ねぇ、リュウカ、アタシ達と一緒に来ない?この島で1人で暮らすより、アタシ達と一緒にアタシの国においでよッ!キリクを助けてくれたせめてものお礼がしたいの!」
「リュウカも一緒?でもこの島、父さん眠ってる。1人寂しい。リュウカいなくなる、父さん寂しい」
「リュウカ……」
きゅっ
「どうした?急に抱きつく、リュウカ苦しい」
「アタシもね、リュウカと同じで、父様がもういないの。随分前に亡くなってしまったの。でもね、その時は凄く辛くて、凄く悲しくて、死にたいって考えた事もあったわ。ご飯が喉を通らなくて、全てに無気力になってたわ。もう何もかもどうでも良くなっちゃってたの」
「……」
「だけど……そんなアタシを助けてくれたのはキリクだった。キリクが支えてくれたから、アタシは今も生きていられるのよ」
「キリク大事な人?」
「えぇ、そうよ。アタシはキリクが凄く大事。アタシはキリクを失いたくない。そして、そんなキリクを助けてくれたリュウカも同じくらい大切なの」
「キリク帰る。リュウカ1人。リュウカ大切に思ってくれる、嬉しい……。でもリュウカ一緒に行く、凄く悩む」
「この島は今までのリュウカの人生そのものだから、ここを離れるのは、お父さんとの思い出を失うって考えているの?」
「それもある。でも、リュウカいなくなる、父さん1人寂しい。それ凄く心配」
「リュウカはお父さんが大好きなのね?」
「リュウカ家族父さん1人。父さん、リュウカ守ってくれた。だからリュウカ、父さん守る。思い出大事、父さん大事」
「そうね、リュウカにとってお父さんは忘れられないわよね。アタシも父様は何年経っても忘れられないもの……。だけどね、リュウカ。リュウカのお父さんはリュウカのコトを守る為にここで一生懸命生きて来たんでしょ?」
「うん」
「そんな素晴らしいお父さんが、リュウカが1人ぼっちになって喜ぶと思う?お父さんが寂しいからって、リュウカまで寂しくなるのを喜ぶと思う?」
「父さん、喜ばない?」
「リュウカがお父さんの事を忘れなければ、いつまで経ってもリュウカの中にお父さんはいるのよ。だからお父さんは寂しくなんかないわ。それにね、自分の子供が1人ぼっちで生きていく事をお父さんは望まないと思うの」
「リュウカ1人、父さん喜ばない?」
「子供の幸せを望まない親はいないわ。だから、アタシがリュウカにお礼をさせて」
「リュウカ一緒に行く、迷惑掛からない?」
「そんなコトないわ」
「ホント?」
「えぇ、ホントよ!」
「分かった、一緒に行く。父さん、リュウカの中で一緒。父さん喜ぶ一緒に行く」
「ありがとう、リュウカ……」
「抱きしめる強い、リュウカ苦しい」
リュウカは少女の腕の中にずっと抱きしめられたままだった。それはとても強い力でリュウカは少しだけ苦しいと感じながらも、そこには確かな温もりが感じられた。
それはリュウカが1人になってから、ずっと感じられなかった温もりだった。
そんなリュウカの頬に涙が一筋流れていった。ちなみにどうでもいい話しだが、クリスは1人しくしくと泣きながら床にずっと突っ伏していた。
キリクの輸送は非常に慎重に行われるコトになった。
医師達が小屋に到着すると、当然の事ながら小屋はギュウギュウ詰めになった。そこで医師、看護師ら数人を残して小屋から全員が追い出される事になるのは当然の成り行きだった。
医師は触診に続き、持って来た医療用キットでキリクの現状を確認していく。
そしてその結果、様々な事が判明した。
先ずキリクは両腕と左脚を複雑骨折していた。また、身体中至るところの骨にヒビや骨折が発見され、折れた骨が複数の臓器を損傷させていた。
拠って早急に手術が必要な状態だったのである。まさしく生きているのが不思議な状態と言えるだろう。
しかしキリクを運ぼうにも、ワダツミを着陸させた場所までは多少距離があった。だからそこまで運ぶのはリスクが大きい。
拠って、キリクの負担を最小限にするべくワダツミを小屋に対して出来るだけ近付け、少女とクリスが担架に乗せたキリクを、揺らさないように空中でワダツミに乗せる作戦になった。
慎重を期してキリクをワダツミに乗せた後で再びワダツミは着陸し、リュウカも含めた全員がそこから搭乗していく。
斯くして全員乗せ終えたワダツミは高度を取り、神奈川国へと向けて飛び立って行ったのである。
こうして、島は無人島になった。
空は青く澄んでいて、気持ちのいい風が吹いている。ワダツミはその風に逆行する形で飛んでいるが、機体は揺れる事なくとても安定していた。
これからまた、まるっと1日近く空の旅となる。帰る途中でエサヤ市から空中給油機が来なければ、神奈川国に無事に辿り着く事は出来ない。
そんな長い長い空の旅。
少女はキリクを無事に回収出来た事に安堵していた。そしてそれは風龍イルヴェントゲート討伐戦から、身体を満足に休めていなかった事も相俟って急速に睡魔となって襲って来ていった。
拠って離陸と共に少女は微睡みに堕ちていく。
ワダツミの中にいる医師、看護師を始めとしたサポーター達も一様に疲れを表情に出しており、交代で休憩を取っている様子だった。
クリスは少女が微睡む前に、ワダツミに乗り込んだ直後から既に高いびきを掻いて寝ていた。
リュウカは最後まで島を窓越しに見詰めていた。その表情には不安も戸惑いも見る事が出来ない。
そんなリュウカだったが、島のその姿が見えなくなるまで晴れやかな笑顔で見詰めており、最後の最後に別れを告げていた。
「マーハロヌイロア」




