Storm Maker ν 挿絵付
世界の各地には、「龍」に纏わる様々な伝承がある。
それらを大別していくと幾つかの傾向がある事に気付く。
・「神」として崇められる「龍」が持つ、権能の事
・「龍」が崇め奉られ、自分に媚びへつらう人々に授ける知恵に拠る事
・人々に対する「敵性存在」として、倒される運命にある事
・人々に対する「絶対悪」としての凶暴性から、恐れられた上で奉じられる事
だがそれらは必ずしもハッピーエンドとは限らず、バッドエンドだったりデッドエンドだったりと、伝承の数だけ終着点は異なる。
「龍」は地球に於いては「空想上の生物」であるとされる。しかし時に「神」そのものであったり、「神使」といった神の御使いであるとされる。更に付け加えると、「伝説上の絶対悪」であったりもする。
だが、科学技術が発展していく中で存在証明はされていない。
一方で、テルースに於いては存在が確認されている。「龍」は「災害」であり「隣人」であり、そして「神」なのだ。拠って存在証明が為され生態系に組み込まれ、魔獣であれば龍種と呼ばれ、人であれば獣人種の龍人族と呼ばれる。
神であれば龍神族と呼ばれる。
ただし、それら2つの惑星が歩んだ伝承に於いて、最も謎とされたのが「龍の棲家」である。世界は次元を基に、それを境界として「人間界」「魔界」「神界」など、様々に分かたれているとされる。
その総数は「6」とも「8」とも言われ、それらの世界はテクスチャと言う形で、次元こそ違うが表面上は複雑に絡み合っている。そして偶然開いた「門」や「扉」「穴」などに因って、「魔界」や「神界」といった「人間界」以外の世界と、行き来した記録が過去から紡がれている。
テルースに於いては「龍」は良くも悪くも「隣人」であり、地球に於いては伝承しか残っておらず「龍」の存在そのものが確認されてはいない。しかし、2つの惑星に共通する事が1つある。
それは誰も「龍界」やそれに準ずる世界に行ったという記録が、何一つとして無いと言うコトだ。
拠って「龍の世界」や「龍の棲家」は存在証明がされておらず、それに纏わる伝承も無い。その結果、憶測の範囲でその存在を、朧気に知らせる事しか出来ていないのだ。
そんな朧気なお話しの1つに、「龍の巣」というお伽噺がある。
「龍は自分のねぐらに雲を纏い、人から確認されないように隠れて暮らしている……と。だがその龍が、大量の雲を纏った事に因って、大地は度重なる洪水で洗い流され、作物は育たず、人々は困り果てた……と。困った人々は神に願い祈りを捧げ、その願いを聞き届けた神に拠ってその龍は倒されたのである……と」
「あれはまるで、お伽噺の龍の巣そのものね。それになんて暴風。こんなんじゃ近付く事すら儘ならないわッ」
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「 屋敷の皆へ
黙って勝手に出て行く事を許してね。こうでもしないと、絶対に誰かが止める事は、分かっているから……。
キリクは絶対に生きてる。……絶対に。キリクはアタシと約束したもの。
「死にに行くつもりはない」って、「負けず嫌いだから負けないし必ず生き残る」——って。
だから、アタシはキリクが帰って来る事を信じてる。
でも、それを信じて、ただ黙って待っていられる程に強い女じゃないし、そんな悠長にいられる程、気が長い女でもないの。
それに、あの化け物がここに来たら、キリクの帰って来る家が失くなっちゃうかもしれないわ。
それだけは勘弁願いたいから、アタシは今からアイツを倒してくる事にしたの。
それじゃあ、行ってきます。
ちゃんと帰って来るから、心配しないで待っててね 」
その手紙を見付けたのはサラだった。サラが朝になってもなかなか降りて来ない少女の朝食を、部屋に持って行った時に、机の上に置いてある手紙を発見したのだ。そしてそれを持ち、血相を変えて爺の元に大急ぎで走ったのである。
爺はその手紙を読み終え、口元を歪め手紙を片手で握り潰すと、急いでどこかへ通話していった。
「えぇ、はい、分かりました。それでは本日の午後にお伺いいたします」
がちゃ
「お久しぶりで御座います。当方は……」
爺は暫くの間、鬼気迫る表情であちこちに通話をかけていたのである。
サラとレミは今までに見たことの無い爺の表情に、近寄る事が出来ず何をしていいか分からなくなり、オロオロとするばかりだった。
-・-・-・-・-・-・-
少女はマムと話した日の夜中に、ひっそりこっそりと、誰にも気付かれる事も無く屋敷を出ていく計画を立てていた。
先ずは屋敷の皆に手紙を書いた。そして盛大なエグゾーストを奏でるセブンティーンを使わず、最大限持てるだけの装備や魔道具を身に付けた上で、更にデバイスに詰め込んでいった。
次に音を立てないように自室の窓から飛び降り、着地までに空中でブーツに火を軽く点す。
そうやってそのまま浮かび上がって空へと舞い上がり、そのまま屋敷から徐々に離れていく。
最後に、屋敷から距離を取った場所でブーツを再点火させ、加速していったのだった。
こうして大きな音を立てる事なく、誰にも気付かれる事なく、少女は屋敷から出る事を成功させたのである。
昨今、夜中に家の明かりが灯っている家は少ない。少女はバイザーで方角を確認しながら、月明かりを頼りに暗闇の世界をたった1人で駆けていった。
今の季節は冬。夜中であれば身も凍る程の寒さだが、デバイスに新たにインストールしたASPのおかげで寒さ対策はバッチリだった。
こうして少女はそれから一昼夜を掛け、南南東に向かって空を駆け続けたのだ。
途中で太平洋上に浮かぶ無人島を発見し、そこでちゃっかり休息と短いながら睡眠時間は確保する事が出来ていた。
風龍イルヴェントゲートはカリフォルニア国沖の北太平洋上で発見された後で、進路を南西に取りゆっくりと南下していた。
その後、日付変更線を超えた辺りで速度を上げながら、北西寄りに進路を変更していった。
風龍イルヴェントゲートはその身に雲を纏い、中心気圧は850hPaを記録し最大瞬間風速は120m/sを超えていた。
そんな風龍が最も近付いた陸地はハワイ諸島だが、現在は無人島とされている事から公式の記録に拠ると、これまでの被害状況は実質ゼロとされていた。
勿論の事だが、風龍イルヴェントゲートの討伐に向かって、返り討ちに遭ったハンター達はその「ゼロ」の中に含まれていない。
「さてと、先ずはあの纏っている嵐から何とかしないとね……。あんな中に入ったら流石にリニューアルブーツでも制御出来なくなっちゃう——」
「——、闘う前に墜落してデッドエンドなんて、ハンターが一番やっちゃいけないコトだし、あり得ないもの」
少女は風龍の纏っている嵐のギリギリ外にいる。恐らくこれ以上は少しでも近付けば、その風速に巻き込まれて強化したブーツでも身体を持っていかれるのは明白だ。
そして、その鎧を風龍が纏っている以上は、どんな高性能な実弾兵器を用いても効果は限りなくゼロに近いだろう。
自動車ですらやすやすと吹き飛ばしてしまう程の風なのだ、それを突破する事は容易ではない。だから、そんな状況下で風龍イルヴェントゲートとまともに闘り合おうとするのは、愚の骨頂としか言えない。
だったらその鎧を剥ぎ取ってしまえばいい。
「我が手に集え、赤き炎よ。我が手に集え、蒼き水よ。我が手に集え、翠緑の大樹よ。我が手に集え、鮮黄の大地よ。我が手に集え、金色なる果実よ。我が内なる全ての力よ、1つに混じりて我が敵を討たん」
「我が手に集いし大いなる力よ、空虚なる微睡みに揺蕩う力よ。全てを穿ち貫く一矢となれ!」
少女はマナを編んでいく。風龍イルヴェントゲートの凶悪な風に怯えているマナに声を掛け、自身に宿していったのだ。
こうしてマナを編み上げた少女の右手の人差し指のその先に、虹色の力が凝縮していった。
「極大五色!!」
ひゅんッ
ぱんッ
少女の元を離れ飛翔していく魔術は、虹色の余韻を残しながら嵐のド真ん中へと突き進んでいく。そしてそれは凶悪な暴風をものともせず、ただひたすらに突き進む。
風龍イルヴェントゲートの目には纏っている嵐の鎧をいとも容易く突き破り、飛び込んで来るモノの姿が見えていた。
そして、それは自身の直下で弾けていく。
爆発音ではない空虚な破裂音が軽く響いていった。そしてそれに伴い、嵐の鎧の崩壊が急速に始まったのである。
「極大五色」と名付けられた魔術は「極大魔術」と称される。そしてこれは世界中見渡しても、現時点では少女にしか使う事が許されない、唯一無二の魔術と言える。
原理は至ってシンプルで、五大属性全ての威力を極大まで高め、それら全ての属性を1つに纏め上げるというものだ。
5つ全ての属性を扱えなければ為し得ない「究極の魔術」ともいえるシロモノで、魔法の領域に片足を突っ込み過ぎていると評価されている。
そしてそれの持つ効果は「崩壊」だ。放たれる矢は「一条の細い矢」でしかないのだが、その中に内包されているエネルギーは途轍もない。
世界を構成する全ての属性が、極大まで引き上げられた事により、その高密度のエネルギー体は万物全てに等しく均一に反作用を引き起こす。
要は相対性を分子間で失わせる。拠って、矢は自身の周囲にある物を巻き込んで分子間の結合を破壊、崩壊させていく事が出来るのだ。
そして、矢の通り道全ての反作用を終えた後で残ったエネルギーは臨界爆発という形を取る。
ちなみに、矢が反作用を起こす範囲や臨界爆発の規模は術者が任意に指定できる。規模が大きければ大きい程、編み上げるマナが多くなるのは当然の事だ。
風龍イルヴェントゲートは瞬時に危機を直感した。自身の元へとやって来た「ソレ」に触れられてはいけない。「ソレ」の傍らにいてはいけない……と。
その野生の本能とも言える直感を根拠に、風龍は自身が出せる最大の速度で、鎧の中から逃げ出していった。
自らが纏っていた嵐の鎧すらも振り切り、かなぐり捨てて直上の空に飛び出していったのである。
風龍イルヴェントゲートが鎧の中から逃げ出した事に拠って、風龍を核として集まっていた雲は蜘蛛の子を散らすように、吹き抜ける風と共に忽然と消え去る運命を辿らされる。
そして気圧はみるみるうちに回復していく。こうして嵐の鎧は綺麗サッパリ無くなっていったのだった。
荒れ狂うマナが終息した後、辺りは雲1つない快晴になっていった。先程までの荒れ模様は嘘のようで、吹き抜ける風も収まり今は穏やかな風が流れている程度だった。
厚い雲の塊はとっくに消え失せ、視界を遮る物は何一つとして残っていない。
然しながら少女の眼下に広がる海だけは、先程までの荒れ模様を惜しんでいるかのように高波が藻掻いていた。
「アレで仕留められれば最高だったけど、逃げられたならしょうがないわね。じゃあ、第2ラウンド目の開始といきましょうかッ!」
がしゃんッ
「だあぁぁぁぁ、りゃあッ!」
少女は背中に格納されている大剣ディオルギアを手に取り構えると、直上に逃げた風龍イルヴェントゲートに狙いを定め駆けていった。
少女は大剣を構え、ブーツを加速させて風龍目掛けて斬り込んでいく。
少女の初手は加速して逆袈裟からの渾身の一撃だった。だが、風龍はその一撃を難無く躱すと、再び間合いを取り少女を睨んでいた。
「あの図体で何ていう速さなの?流石に強化魔術かけなかったのマズったかしら?飾りだけじゃ流石に足りなかったかぁ……。ふぅ、でも今更やり直しってワケには……いかないわよ……ね?」
グルルルルルォ
風龍イルヴェントゲートは疾かった。体長は炎龍ディオルギアと変わらないか少し大きいくらいのハズなのに、その動きは炎龍と比べると非常に疾く感じられる。
風龍イルヴェントゲートはその身体の外観のどこにも目立つ翼を持っていない。形としては西洋の4足で歩く「ドラゴン」と言うよりは、東洋の蛇に似た「龍」と言った方が適切かもしれない。
よって物理法則的にどうやって飛ぶ為の揚力を得ているかは理解不能だ。
そして風龍イルヴェントゲートの外観に於ける最大の特徴は体表に鱗が無く、淡い水色にも黄色にも見える羽衣みたいな体毛が生えている事だった。
「細長い身体に風を纏って、空気抵抗を変えて揚力と推進力を得ているのかしら?でも、そんなコトって可能なの?水と違って空気は抵抗がほぼゼロなのに。空気を押し上げる力で自分を持ち上げられるくらい軽いのかしら?」
グルルルル
「しっかし、魔獣の生態なんて分からないコトだらけね。でも、このまま睨めっコしてるワケにもいかないし、また低気圧の塊にでもなられたら厄介だもの。手っ取り早くいきましょうか」
少女は腕に嵌めてあるデバイスとは違うもう1つの「ガントレット」に、自身のオドを流していく。
そしてそれを呼び水にガントレットは光を放っていった。
「追尾する光の槍兵・28柱」
「征聖光槍!!」
「いっけえぇぇぇぇッ!」
しゅしゅしゅしゅしゅッしゃしゃしゃしゃッ
少女は無詠唱で魔術を行使した。それは本来出来ない事だ。拠ってこれにはカラクリがある。
今回、少女が右手に嵌めている「ガントレット」を始め、右腕に着けている「リング」や、手指に嵌めている「指輪」等は全て魔道具である。
それぞれ使用回数制限はあるものの、無詠唱で属性・無属性を問わず単一属性の「最上位」魔術の行使が出来る、「スグレモノ」なのだが、使用回数を超えると消滅してしまう。所謂、使い捨て魔道具だ。
ちなみに上位属性を使う場合には「最上位」の魔術行使は出来ない。そして、自分のオドを呼び水にするから魔術特性を持っていないと使えない事になり、魔術特性がない種族には価値がない。
値段もそれ相応に張るが、少女は今回の風龍討伐に向けて出し惜しみをせず、身に着けられるだけ装着して来たのだ。その数、計13個。
無詠唱の魔術行使で41回分である。
これらは便利な魔道具ではあるが、概念魔術や極大魔術は言うまでもなく扱えないし、オドを消費して起動させる上に、デメリットとして疲労感が付き纏う事になる。
逆にキリクが使っている主武装の、連想式ハイパーバズーカと比べると非常に軽い。更に付け加えると、主武装に両手剣を使うコトを選んだ少女に取っては、立ち回りの有利が働くメリットがある。
拠ってコストが高く、付き纏う疲労感と言ったデメリットを押してでも、強敵相手には出し惜しみせずに使っていける魔道具と言えるだろう。
ちなみに炎龍討伐戦の時はLAMが貰えたコトと、そのコストを天秤に掛けた結果、持って行かなかったというのは余談である。
少女が放った槍兵達は、風龍に特攻していく。しかし機動力の違いからか、攻撃は当たらない様子だった。
最速である「光」の槍兵でも攻撃は届かないが、付加された追尾性能によって執拗に追い掛け回し、攻撃を仕掛けていくというスパイラルを繰り返していった。
「編まれたマナが尽きるまで攻撃を繰り返してくれるけど、これじゃキリがないわね。仕方無い。じゃあ、サクサクいっちゃいますかッ!」
「追尾矢放つ光の弓兵・18柱ッ!」
「征聖光矢!!」
「侵食力場・多重力界ッ!」
「存在証明・霹靂爆豪ッ!」
少女は立て続けに無詠唱魔術を発動させていく。光の弓兵は風龍イルヴェントゲートを追い掛ける光の槍兵と挟撃するように光の矢を放っていった。そこに、風龍を取り囲む形で重力場が形成されていったのである。
形成された重力場は質量があるモノに作用する為に風龍に対して全方位から中心に向けて重力に拠る拘束を行っていく。
風龍イルヴェントゲートは重力によって拘束されまいと抵抗したがその結果、トラップの様相で鼻先に仕掛けられた霹靂爆豪に触れる事になったのだ。
更に光である槍兵は質量を持たない事から重力場に囚われる事なく突っ込み、同様に光の矢も次々に刺さっていく。
どどどどどおぉぉぉぉん
「どぉだッ!でも、まだまだこれからよッ!大剣ディオルギアよ、炎を纏え!喰らえぇぇぇ!業炎斬撃!!」
しゅばんッ
「かーらーのー、豪炎の型あぁぁぁ!うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃあぁぁぁぁぁッ!」
ざしゅしゅしゅっ
少女の追撃は大剣による波状連撃だった。先ずは大剣ディオルギアの力を解放し纏わせた炎の斬撃。
更には自分が使える「型」による実の斬撃。
それら全ての斬撃は、先の爆発の煙が立ち込める中、その中心にいるハズの風龍イルヴェントゲートに向けて放たれていったのである。
「はぁ、はぁ、はぁ、これで、どうだッ!倒せるとは思わないけど、少しくらいぃッ!?」
ひゅッ
「やばばッ!」
しゅさっ
「な、何……今の」
しゅぱん
「えっ?おニューのハーフメイルが斬られた?!魔銀鋼と炎龍の素材で造った鎧を簡単に斬り落とすなんて……あれが風龍イルヴェントゲートの息吹なの?」
グルルォ
「ちッ。あんなのまともに喰らったら即死じゃない!なんてチート……ってワケでもないわね。古龍種なんて大体が規格外だもの」
少女は咄嗟に聞こえた音に反応し、緊急回避行動を取っていた。それが功を奏して少女は風龍から放たれた、螺旋状の鎌鼬を避ける事が出来たのだった。
だが、緊急回避に成功したと思っていた少女の右の肩当ての一部が、鋭利な刃物で切られたような鋭い切り口を残し、眼下の海に落ちていった。
それは少しでも回避が遅れていたら、少女の半身がそうなっていた事を示しており、少女は心臓の鼓動が速くなっていくのを感じていた。
「ってかあれだけの攻撃でダメージは通ってるわよ……ね?あれで無傷だったら、アタシ、自信失くすわよ?でもま、まだまだやったるわッ!」
「雷鎖剛縛!」
さらっ
バリバリバリッ
「まだまだぁッ!」
「雷鎖剛縛✕3!」
さらっ
バリバリバリバリバリバリッ
グルルゥオオォォォ
少女は爆煙によって未だ姿が完全に見えない風龍イルヴェントゲートに向かって、雷撃の鎖を放っていく。ちなみに、雷属性は複数属性を用いる為に「最上位」の拘束魔術にはなっていない。
そして少女が放った雷撃の鎖は、ある一点を目指して向かっていた。それはそう、キリクが刺した水龍の剣である。
水龍の剣は風龍の頭と首の付け根辺りから抜けてはおらず、未だに深々と刺さっているのを少女は確認していた。
そこで少女は、水龍の剣を避雷針代わりにする事にしたのだ。
ちなみにこれで既に少女が装備していた魔道具は「さらッ」と言う微かな音と共に2つ消滅している。
空を引き裂くような雷鳴と共に、雷撃を浴びた風龍は呻き声のような雄叫びを上げその声は辺りに木霊させていた。
手応えはあったが現状がどうなっているか分からない少女は、爆煙の方に恐る恐る近付くことにしたのである。
するとそこには雷撃の鎖に繋がれ、身動きが取れなくなっている風龍イルヴェントゲートの姿があった。
「今なら殺れるッ!これで決めてあげるわ、覚悟なさいッ!喰らえッ、炎撃破竜ッ!!」
ざッざしゅあッ
連続した魔術の行使によって、魔道具が引き起こしている疲労感は、少女の身体を非常に重くしていた。
だが、今が好機と判断した少女にとって、デバフに負けていられる事なんて出来るハズもなかった。
こうして少女は炎龍ディオルギアの力を再度大剣に宿すと、型を放っていった。
放たれた型は「破竜の型」に炎龍ディオルギアの属性を付与した「型」である。ただし出せた不可避の刃は2本が限界だった。
それは初めて属性を付加させて放ったからなのか、それともデバフの影響からなのかは分からない。
そんな不可避の刃を風龍イルヴェントゲートはその身に受け取っていった。不可避の刃に拠って風龍の身体が刻まれていく。
刻まれた傷口からは赤々とした血液が噴き出していた。
自身の最大の剣技を放った少女は、度重なるデバフの影響によって、今にも倒れそうな程に疲労困憊になっていった。いや、デバフの影響以外にも他に要因はありそうだが、そんな事を考えている余裕は既に失くなっている。
因ってこれが空中でなければ立っているのがやっとだったかもしれない。
だがここで、1つの「忘れていた事」をやる為に不用心にも風龍イルヴェントゲートに近付いていったのである。
極度の披露が冷静な思考を鈍らせたと言い換えられるだろう。
その時だった。一方的に蹂躙されて瀕死になっていると思っていた風龍の目が開き、その目は少女を凝視していったのである。
「あっ、これ絶対ヤバいヤツだ。まだそんな力が残ってたなんてッ!」
グルルァ
「あ、ムリ。回避が間に合わない」
少女は風龍の口がゆっくりと開かれていくのを見た。視界は走馬灯の灯りに照らされ、ゆっくりとしたスローモーション映像のような速さで、風龍イルヴェントゲートの口が開いていくのを捉えていた。
その開かれていく口の中には、大気の渦が幾重にも螺旋を描いているのが少女の瞳に映し出されている。
そして、もう息吹は吐き出される瞬間だった。拠って緊急回避も儘ならない程に状況は切迫しているが、蛇に睨まれた蛙のように少女の身体は動けないでいた。
少女は目前に迫っている絶対的な「死」に対して覚悟を決めてしまったのだ。だがその反面、その「死」の恐怖から逃避するべく瞳を閉じていった。
「あぁごめん、キリク。アタシじゃキリクの仇を討てないみたい。このまま、キリクの仇も討てないまま死んじゃうみたい。本当にごめんなさい」
「でもまだッ、死にたくないよぉ」




