Benevolence Destroyer ν 挿絵付
「ちょっとちょっとなんなの、アレ?」
「もう、反則よ反則!チートじゃないけど、反則よッ!」
少女は驚きを隠せなかった。否、それ以上の恐怖すら感じていた。
炎龍ディオルギアは自らを炎で包み込んでいく。そもそも炎龍自体が「炎」を司る龍である事から、火に対する抵抗は高い。
それでも火に対する抵抗は高くても「無効化」では無いだろう。
そんなコトはありえない。拠って自分の身に纏えば必ずその身は「焼ける」のが当然だった。
炎龍ディオルギアは纏った炎にその身を焼かれる事になっても、少女からの攻撃を防ぐ事を選んだのだ。
更に炎龍ディオルギアは翼を再びはためかせると、炎の鎧を纏ったまま再び空へと舞い上がっていく。
少女はそんな想定を一切していなかった。古龍種は魔獣とは一線を画す存在とされるが、扱いは魔獣であり生物に変わりはない。
本能に縛られる生物である以上、自傷を伴った防衛など聞いたこともない。そんな事をして下手をすれば死ぬ事すらもあり得るのだ。
自殺をする魔獣の話しなぞ聞いたこともない。
「あるハズがない」拠ってその気持ちは変わらないし変わりようがない。
本能に支配された魔獣が、自己の本能を否定する事なんてあり得ないのだから。
だが身を護る為に目の前の古龍種は、自傷を伴う防御をしている。それは凄く異質だが、それに因って少女は攻撃をする手段を封じられたに等しいのである。
炎龍ディオルギアが身に纏っているのは、炎龍が放った質量を持った火球だ。火は当然の事ながら現象であって物質ではない。
だから質量を持っているのであれば、それは火球と言うよりはどちらかと言うと熔岩に近いのかもしれないが、どちらにせよ超高温の鎧である事に変わりはない。
恐らくは近寄るだけでヒト種である少女の皮膚は焼け爛れ、肺は機能しなくなるだろう。銃弾を放っても当たる前に融解するか、燃え尽きてしまうかもしれない。
せめて高火力の魔術が使えれば戦局は変わるだろうが、炎龍ディオルギアがそんな時間をくれるとは思えなかった。
炎龍ディオルギアは近寄るだけで少女に対して、熱に拠る攻撃が出来るようになったワケであり、付け加えれば翼で羽ばたく行為はそれだけで周囲に火炎弾を撒き散らす事にも繋がっていた。
更に少女が距離を取れば、息吹を容赦無く吐いてくるので、詠唱している時間も余裕も何1つとして無くなってしまったのだった。
「こうなったらデバイスで魔力弾を撃つくらいしか攻撃は出来ないわね。それに精霊石も有効そうなのがあるにはあるけど……」
「焼け石に水ならぬ、焼け石に金じゃあどうにか出来る気がさらさら起きないわ」
「少しの間だけでも動きを止めてもらえれば策はあるんだけど、この状況じゃ牽制しながら様子見が限界よね」
少女が現在持っている上位の精霊石は、火が3個に木が2個。土が1個と金が2個でそして水がゼロである。
この場合だが火に対する弱点属性は金しかない。だが物理的に超高温の鎧を纏っている事から、金属性では融解させられる気しか起きない。
弱点属性ではないが物理的に土属性を使って、超高温の鎧を剥ぎ取れれば使い道も出てくるかもしれないが、現状ではなんとも言えなかった。
先程は奇襲だったから使えた「竜巻」も飛び回られれば効果を全く期待出来ない。
結果として打つ手は全く無い、手詰まりとしか思えなかったのである。
このまま周囲を焼け野原にし続けて飛び回っていれば、いつか自分の炎に焼かれて炎龍ディオルギアは焼失するだろう。それを待つ以外に討伐は難しそうだった。
その前に鎮痛と強化魔術が切れて少女の方が討伐されるのは明白だが……。
少女の元に突如として「バシイッ」という音が耳に入って来ていた。それは何かが炎龍ディオルギアに直撃した音だった。
少女はその音を聞き付け炎龍を見ると、何かが直撃した場所の炎の鎧は崩れていたのだった。更には少し経ってから「タタァーン」という音が遥か彼方より響いて来ており、あとから響いてきたのはどうやら狙撃音のようだ。
本来着弾とほぼ同時に聞こえるハズの狙撃音が、炎龍ディオルギアに当たった後から、遅れて聞こえてきた様子である。
「狙撃?一体どこから?その前に音が後から響いてくるって、どういう事?」
パシイッ
パシイッ
パシイッ
グガガアァァァ
パシイッ
少女は混乱していたが、狙撃はその後も立て続けに炎龍ディオルギアに対して命中していく。
更には炎龍に対しての狙撃が命中した場所は、炎の鎧が剥がされ着弾付近から徐々に凍り付き始めていったのだった。それは通常弾ではあり得ない現象なので推測出来るのは1つだけだ。
恐らく弾頭にスカディの精霊石を用いた精霊石弾を用いて、何者かが狙撃しているのだろう。
合計で15発。これが炎龍ディオルギアに着弾した精霊石弾の数だった。
それに拠って炎龍ディオルギアが纏っていた炎の鎧は、上腹部から下腹部にかけてその殆どが剥がれ落ち、その身体は凍り付いていた。
付け加えると翼も一部分に着弾した様子で凍っているのが分かった。その為に飛ぶ事の安定性が取れなくなった様子でフラフラとしていた。
狙撃銃・AWM(Arctic Warfare Magnum)はボルトアクション式の狙撃銃で、最大射程は1500mにも及ぶ。
放たれる弾丸の初速は約900m/sであり、放たれた弾丸は音よりも速い超音速となって飛来する。
その事から着弾地点までの距離があれば、着弾後に銃声が聞こえるといった現象を引き起こすとされるのだった。
炎龍ディオルギアを狙撃した者は、通常弾ではなく精霊石弾と呼ばれる特殊な弾丸を使っていた。精霊石弾は通常弾を加工する事で作るコトが出来る、特殊な弾丸である。
製法は企業秘密とされている事が多い為に分からないが、弾頭部分に精霊石を混ぜ込んであるらしいという事だけは公表されている。
拠って着弾すると、その混ぜ込まれた精霊石の効果を対象に引き起こす事が出来るのだった。
「誰が狙撃してくれたのかは知らないけど、やるなら今ね」
「まぁでも、ありがとッ」
少女は剛龍の剣を片手持ちから両手に持ち替えると、構えてそのまま空を駆けていく。
そしてそのまま炎龍ディオルギアの炎の鎧が剥がれた腹を目掛けて突撃していったのだった。
「喰らえッ。破竜の型あぁぁぁぁ!」
グギギッ
「どぉだッ。更にこれならッ!」
「豪炎の型ッ!うららららららららッらーーーぁぁぁぁぁッ!」
グギィガアァァァァァァァ
剛龍の剣の切っ先が、凍っている炎龍ディオルギアの腹に当たったその瞬間に少女は型を放っていった。
斯くしてゼロ距離から放たれた不可避の刃は、瞬時に炎龍ディオルギアの身体を斬り刻み、引き裂いていく事になる。
炎龍ディオルギアはゼロ距離から放たれた「破竜の型」に拠って、強制的に開腹させられる事になったのだ。
執刀医はモチロン少女だが、当然のコトながら医師ではない。
話しを戻すと少女は更にその後の「豪炎の型」の連撃に拠って、開腹した穴を拡大しながら腹から背に向けて強引に突貫で貫通していく。
こうして通算3度目となる炎龍ディオルギアの絶叫が響き渡っていったのだった。
少女は一連の動きで腹に開けた大穴を、突き抜けて背中側に飛び出したが、背中側はまだ炎の鎧を纏っている為に、急ぎ速度と高度を上げて距離を取っていく事になった。
炎龍ディオルギアを貫通した少女の全身は、髪の毛の先からブーツの先端に至るまで返り血で真っ赤に染まっていたが、そんなコトを気にしている余裕は無かったのである。
「肺をちょっと焼かれたかしら?息が苦しい。でも、やるなら今がチャンスね!」
「デバイスオープン、精霊石ノーム、ガンに宿れ!」
「バーストッ!大地讃頌おぉぉぉぉぉ!」
どごごごおぉぉぉぉぉ
グルッググググググオオォ
「今度は墜ちないのね?それじゃ墜ちたくないなら、そこにいてもいいのよッ!!」
「デバイスオープン、精霊石アウラ、ガンに宿れ!」
「金鎖剛刃ッ!」
ガンから大質量を持った土の竜巻が、本来の使われ方とは違う使われ方で、再び炎龍ディオルギア目掛けて襲い掛かっていった。
上空から大質量の竜巻を浴びせられた炎龍ディオルギアの炎の鎧は、見事に消失させられていき、それと同時に周辺の火災は鎮火していった。
だが炎龍ディオルギアは学習したのか、今回は墜落せずに上空に留まっていたのである。
拠ってダメ押しの1発で少女は炎龍を拘束する事に決めた。
汎用魔力銃から放たれた「金鎖剛刃」は炎龍ディオルギアを剛刃で刻みながら、その身体を締め上げていったのである。
「ふぅ、終わったわね。じゃあとっととケリつけましょうかッ!」
「これで完全にトドメにしてあげるッ!」
「我が手に集え、紅き炎よ。我が手に集え、蒼き水よ。我が手に集え、翠緑の大樹よ。我が手に集え、鮮黄の大地よ。我が手に集え、金色なる果実よ。我が内なる全ての力よ、1つに混じりてッ!?」
少女は瀕死だった炎龍ディオルギアが完全回復して現れた事を忘れていなかった。だからこそ瀕死になるくらいまで削りその後に拘束してトドメ…の予定だった。
だが次の瞬間、炎龍ディオルギアの目が怪しく光っていた。
少女は決して慢心していたワケではない。しかしながら「終わった」と考えてちょっとは油断していた。
「やっと依頼完結出来る」と気が緩んでいたかもしれない。
炎龍ディオルギアは、少女がトドメの一撃の為に詠唱しているその一瞬のスキを見極めていた。そして自分の弱点属性であり、本来ならば簡単には解く事の出来ない金属性の拘束をいとも容易く打ち破ると、少女に対して爪撃を放っていったのである。
それはまるで煩いハエを叩き落とすかのように。
ヒュゥン
ザシュッ
「ガハッ」
「う……そ……でしょ?」
「チ……ト、はんた……い」
少女の口から鮮やかな色をした血が吹き出ていった。斯くして少女は炎龍ディオルギアの爪撃をその身に受け取り、その衝撃に因って吹き飛ばされていくのだった。
「お嬢様あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁあああぁぁぁぁぁッ!!!」
ドシャっ
「じぃ…?」
「そっか、さっきのも、じぃが?」
「ありが……と……きてくれたんだ……ね」
誰かの叫び声を少女は確かに聞いた。それは聞き覚えのある声だった。
炎龍ディオルギアの一撃を受けてしまった少女は、朦朧とする意識の中で聞き覚えのある声を聞いた気がしたのである。
そしてその声の持ち主が自分を案じてくれる家族のモノだと分かった時に、少しだけ微笑んだ後でその瞳は力無く閉じられていき、一筋だけ溢れたモノが大地を濡らしていた。
「シソーラス行きますよッ。一刻も早くお嬢様をお助けする為にも先ずはアレを止めなければなりませんッ!」
「外装変更、対魔獣戦闘用軍装・タケミカヅチ!」
「対魔獣戦闘用軍装・タケミカヅチ変更完了マデ、アト15秒」
「15」・・・・「10」・・・・「5」・・・「1」
「完了シマシタ」
「次っ!シソーラスッ、砲用意ッ!」
「砲ヲ展開シマス。展開完了マデ、アト5秒」
「展開完了シマシタ」
「装填、神刀展開・生殺天羽!」
「砲身ヲ魔術砲弾用に変更シマス。変更完了マデ、アト10秒」
「10」・・・・「5」・・・「1」
「完了シマシタ。続イテ神刀展開・生殺天羽装填完了シマシタ」
「照準セットノ指示ヲ下サイ」
「手動照準デアレバ発射ハイツデモ出来マス」
シソーラスは爺から受ける全ての命令を忠実に実行していく。
外装は悪路走破用から一転し戦闘用兵器としての装いに変わっていった。
シソーラスの兵器運用は至極単純だ。シソーラスは「軍装」を用いると先ず下廻り一式が履帯に切り変わる。
更にトランクから後は駐退復座機が構成されていく。駐退復座機があれば本来は車体が後退するのを防げるが、一般的な戦車と違ってシソーラスは重量が軽い為に、駐退復座機のみでは反動を抑えきれずに車体が後退してしまう。
その事から駐退復座機からはアンカーボルトが地面に向けて射出され、地面とシソーラス自体を縫い付ける事で車体の後退を防いでいる。
従って砲を展開すると移動不可能になる。ちなみにその事から少女はシソーラスの事を「砲台」という認識でいる。
その状態になってから初めて天井部分には、後方の駐退復座機から伸びた1門の砲が現れる。
砲身長が6280mmの71口径長もあるこの砲は、魔導工学に拠って造られており、砲身内径内であればどんな弾でも撃てる仕様となっている。要はピストルの弾丸でも撃てるという事だ。(今までにそれを実行した事は言わなくても分かると思うが……無いを通り越して有り得ない)
更には多種多様な通常砲弾の他に、様々な種類の「砲弾」を撃ち出す事も可能という、チート級兵器でもある。
だからこそ戦争屋なら1家に1台ならぬ1シソーラスだ。まぁ余談はさておき。
尚、通常砲弾以外の特殊砲弾を撃つ場合には、それに応じた専用変化を行い壊れないように設計されている。
先程爺が装填を指示した「神刀展開・生殺天羽」は概念魔術を使った魔術砲弾である。
「神刀展開・生殺天羽」は日本神話に登場する一振りの刀の名であって、現存は確認されていない。
そしてこれは先の「魔槍展開・美女降臨」のようなエセ神造兵器の「概念」の模倣ではなく、正当な神造兵器の概念を模倣した正統な概念魔術と言える。
拠って神刀展開・生殺天羽が正統であるならば魔槍展開・美女降臨は異端である。
シソーラスはその車内に魔術を砲弾として蓄えておく事の出来る宝玉を3つ抱えている。それは「魔術であれば蓄えておける」と仕様の表記があったのだが、極大魔術は実験の結果、宝玉内に蓄えておけなかった過去があるがこれは余談だ。
拠ってシソーラスの宝玉の最大火力は概念魔術になるだろう。まぁ、威力だけならそれを超える魔術がないワケではないが、それだと魔術である必要もない事から除外しておく。
少女はその過去に、「せっかくなら」と神造兵器の概念を完全に模倣する為に試行錯誤を繰り返した事があり、そうして出来上がった内の1つが神刀展開・生殺天羽である。
だからこそ、その威力は折り紙付きだ。
ちなみにシソーラスが魔術砲弾として撃てば、その宝玉内に蓄えられている魔術の術式は失われる。拠って宝玉に魔術を再度装填しなければ、その宝玉からは何も撃つ事が出来なくなる理屈になるが、それは当然と言える。
結果としてシソーラスを砲台として魔術砲弾運用するなら、戦略的な運用に於いては3発が限界という事になる。
何故ならば4発目からは魔術を再度宝玉に「装填」しなければならなくなる。拠って、それをするならば直接敵に対して撃ち込んだ方が早いので、これもまた当然の事と言えるだろう。
「いきますよ、シソーラス」
「照準、炎龍ディオルギア直上20m」
「照準セット、完了シマシタ」
「オート発射、スタンバイ完了」
「イツデモ発射可能デス。御指示ヲ」
「術式展開、神刀展開・生殺天羽。シソーラス、発射用意!」
「てーーーーッ!」
「対ショック性能最大」
「反動ニ御注意下サイ」
ドッッッッッゴオオォォォォォォォォン
シソーラスの砲から轟音と共に撃ち出された「神刀展開・生殺天羽」は、放物線を描いて狙いを付けた場所まで飛翔していく。
撃ち上げられた「神刀展開・生殺天羽」は炎龍ディオルギアの直上に到達すると、巨大な刀となって、そのまま炎龍ディオルギアの肩から下腹部に掛けて貫通しそのまま大地に突き刺さっていったのだった。
ごごごごごぉぉおおおぉぉぉぉん
グッグギャーーーッスグギギギグギギギャーッ
炎龍ディオルギアは4度目になる絶叫を奏でながら必死に刀の拘束を解こうと暴れていた。然しながら「蛇殺し」と「火の神殺し」という2つの概念を模倣している「神刀展開・生殺天羽」は、炎龍ディオルギアにとっては「天敵」とも言える概念である事から、それは容易ではなかった。
炎龍は古龍種であり、龍種は蛇ではないし、炎龍は火の「神」でもないが類似の特徴を持つ為に概念は適用される事になる。
簡単に言ってしまえば、「概念」とはエラく曖昧なものだったりするのだ。ドンピシャに対しては絶対的な力を誇る上に、類似する場合にも効果を適用する。
適用される効果は100%ではないにしろ、それは力を削ぐ事には変わりない。
だけれどもそれはデバフに限らず、概念を用いたバフも同様に効果を齎してくれる。
拠ってその概念の効果は、「刀」の拘束を解く為に暴れている炎龍ディオルギアの、刀に対して抵抗する力を無力化していったのである。
即ち炎龍ディオルギアは自身と大地を結び付けている、刀に対する能力無効化を受けた事から、拘束を解けずジタバタと暴れる事しか出来なくなったと言い換えられるだろう。
「シソーラス、次いきますよッ!」
「続いて装填。APFSDS」
「砲身ヲ通常砲弾用に変更シマス。変更完了マデ、アト10秒」
「10」・・・・「5」・・・「1」
「完了シマシタ。続イテ、APFSDS装填完了シマシタ」
「照準セットノ指示ヲ下サイ」
「手動照準デアレバ発射ハイツデモ出来マス」
爺が装填指示した徹甲弾はその名称をAPFSDS(Armor-Piercing Fin-Stabilized Discarding Sabot)と言う。
または装弾筒付翼安定徹甲弾とも呼称される戦車砲弾だ。
この砲弾は運動エネルギーに因る貫通と破壊を齎す徹甲弾であるとされている。初速は約1500m/sにもなり、そこから発生する現象に因って貫通力が非常に高いのである。
射出された砲弾は超音速で飛翔し「侵徹」という現象を引き起こす。「侵徹」の説明は省くが、それによって少しの穴からでも内部に侵入し被害を与える事が出来るのだ。
更には命中時にそこを起点として、大規模な衝撃波が発生し2次被害を齎していく事から、地球で起きた戦争時には「人道的ではない」と危険視された事もある。
本来は装甲の硬い戦車を撃ち抜く事を意図して開発されているが、対する炎龍ディオルギアはそれ以上に硬い。従って徹甲榴弾や並の徹甲弾では貫通力が心許ない事から選んだ砲弾だった。
そして砲弾が炎龍の装甲を突き破りさえすれば、身体内部から破壊出来るメリットもあるので、多少値段が張るがそれは仕方のない事だ。
然しながら、どの程度の硬さなのか実際のところは分からないのが事実だった。だから爺は先ず頭を狙わずに、正中線上を狙う事にしたのである。
「照準、炎龍ディオルギア鎖骨間中央」
「照準セット、完了シマシタ」
「オート発射、スタンバイ完了」
「イツデモ発射可能デス。御指示ヲ」
「シソーラスいきますよ。APFSDS、発射用意!」
「てーーーーッ!」
「対ショック性能最大」
「反動ニ御注意下サイ」
ドッッッッゴォォン
どごぉぉぉぉぉん
再びシソーラスの砲門が火を吹き轟音と共に砲弾が射出された。撃ち出されたAPFSDSは、「弾体」と呼ばれるダーツの矢のような部分のみを残して、残りの部分は切り離されて落下していく。
従ってその弾体のみが炎龍ディオルギア目掛けて飛翔していった。
約1500m/sの速度で射出された砲弾は、1秒も掛かる事なく炎龍の首の根本部分に突き刺さっていた。
単体は完全に貫通するような事はなく、突き刺さり内部で止まった砲弾は2次加害である大規模な衝撃波を引き起こし、炎龍ディオルギアの身体の中から爆発するという形で姿を現していったのである。
「えっとぉ……ここは、どこかしら?」
「前にもどっかで見た記憶がないワケではないんだけど、まったく分からないわね」
「前はどうやって、ここから抜け出したんだっけ?よく思い出せないなぁ。でもそう言えば、アタシは何でここにいるんだろう?」
少女は真っ黒い世界に漂いながら自問自答を繰り返していた。その真っ黒い世界は自分と世界との境界を忘れさせてくれる。だからこそ恐怖心はないし不安もない。
何故なら世界と1つになってる気がするからだ。
あるとすれば小さな子供の「なぜなぜ期」のように「何故?」という疑問だけが次々と湧き上がってくる事だけだった。
「あッ……思い出した!アタシは炎龍ディオルギアと闘ってたんだッ!」
「って……そうだ、爪に引き裂かれたんだったぁ。はぁ」
「流石に前回……そうだ、前回は魔犬種の王だったわね」
「でも前回に続き今回もこんな結果になっちゃって……」
「やっぱりアタシ、リビングデッドなのかなぁ?」
「これで目が覚めてまた身体が元通りだったら本当に……はぁ。ヤだなぁ……」
「アタシは人間でいたかったわよ。はぁ……」
少女は黒い世界にたった1人で自虐していた。
APFSDSの命中は炎龍ディオルギアの身体に大きな爪痕を残していった。その結果、炎龍ディオルギアは首の付け根辺りからは肉片が大きく抉り取られ、勢い良く血が吹き出していた。
今となっては刀の拘束を解こうと躍起になって、ジタバタ暴れていた事がまるで嘘のように大人しくぐったりとしている。
「痛い」 / 「憎い」
「痛い痛い」 / 「憎い憎い」
「痛い痛い痛い」 / 「憎い憎い憎い」
「痛い憎い痛い憎い痛い憎い痛い憎い痛い憎い痛い憎い痛い痛い憎い痛い痛い痛い憎い憎い憎い憎い憎い痛い痛い痛い痛い痛い憎い憎い憎いッ」
しかし突如として炎龍ディオルギアに異変が奔る。そして良く分からないうちに炎龍ディオルギアの身体は、突如として光を帯びていく。帯びた光に拠って抉れた傷口は急速に塞がり、欠損した肉片はその形を取り戻していった。
身体の中に残っていた砲弾の欠片は、筋肉に拠って押し出されるようにジワジワと次々に体外へと排出されていった。
更には自らを刺し穿いている「神刀展開・生殺天羽」を自らの爪で掻き毟り、その「概念」にすら爪を届かせていくのだった。
ぎりッ
「なん……だと。何ということですかッ!ディオルギアッ!」
「こうなっては急いで殺し尽くさないとお嬢様をお助け出来ないッ」
「シソーラス、急ぎなさい!APFSDS再装填」
「APFSDS再装填完了シマシタ」
「照準セットノ指示ヲ下サイ。ソレトモ先程ト同ジ場所ニ向ケテ発射シマスカ?」
「手動照準デアレバ発射ハイツデモ出来マス」
爺の口からは激しい歯ぎしり音が響いていた。そして口の端からは血が滴っている。
しかし焦る事なく爺はオートで照準を合わせずに、自分から照準器を覗き込んでいった。
すると信じられ無い事に炎龍ディオルギアを拘束している「神刀展開・生殺天羽」にヒビが入り、更にはそれが拡大していくのが目に映ったのである。
爺はその目に「ぱきいぃぃぃぃぃん」という乾いた音と共に「神刀展開・生殺天羽」が細かい光の粒子となり砕け散ったのを見た。それには流石の爺も驚愕を隠し切れなかった。
何故ならば信じられないモノを見た気がしていたからであり、それは信じたくなどない事実だったからだ。
「シソーラス!先程の場所に照準を再セットしなさい!」
「照準セット、完了シマシタ」
「オート発射、スタンバイ完了」
「イツデモ発射可能デス。御指示ヲ」
「撃ちなさいシソーラス!」
「了解致シマシタ」
「対ショック性能最大」
「反動ニ御注意下サイ」
ドッッッッゴォォン
シソーラスから響く3度目の轟音。だが2発目のAPFSDSは、着弾する事なく炎龍ディオルギアのブレスに因って掻き消されていった。
本来であればAPFSDSは射出されても1秒も掛からず、炎龍ディオルギアに到達する。だが炎龍ディオルギアはまるでオート迎撃でもするかのようにAPFSDSに向かって最大出力の息吹を吐いていったのだった。
因って砲弾は綺麗サッパリと消滅した。それは文字通りの消滅であり、完全に融解したことになる。更にその息吹はシソーラスにまで到達していく。
しかし軍装の仕様に因って地面に縫い付けられているシソーラスは、動くに動けないのだった。
従って炎龍ディオルギアの放った息吹の直撃を受け、その身に纏っている絶対防御の外装は融かされ剥がされていく。
「絶対防御」と謳っていても炎龍の息吹はキャパオーバーであり、防げない程の想定外だったと言えた。
「手も足も身体の何処も動かない。腕の感覚も、脚の感覚も無い」
「前回はよく分かんないまま助かったけど、今回は多分……ダメよね?」
「それこそ本当にリビングデッドでもない限り……ね」
「そんな事を言って、フラグを立てて……。目覚めたらベッドの上にちゃんといないかな?」
「あぁでもッ!リビングデッドはフラグなんかじゃないからねッ!!」
「あっ、でもなんだか凄く眠い」
「アタシ、やっぱり本当に……死んじゃうの……かな?」
「最後にもう一度だけ……会いたかったな。キ……ク」
爺は超高温の炎で融かされていくシソーラスに対して、何もする事が出来なかった。シソーラスもこの状況下では、搭乗者の緊急脱出を行う事の無意味さを理解していた。
拠って少しでも長く搭乗者の延命をする為の措置を施していたが、雀の涙程度の頑張りでしかなかった。
それはもうどうしようもない程にまで迫って来ていた絶対なる「死」の気配だ。そんな中で爺が「死」を覚悟したその時に、状況は一変していく。
シソーラスを融解させていた炎龍ディオルギアのブレスが止んだのだった。
-・-・-・-・-・-・-
炎龍ディオルギアは、何故再三に渡り死の淵から甦って来れたのかよく分からなかった。何故かは分からないが身体の中から不思議な力が湧き出して、死の淵から生還した事だけは理解していた。
一方で自身の自由を奪っている目障りな刀が憎かった。どうしようもない程に恨めしかった。
だから拘束している刀を引っ掻いてやった。
憎い刀を掻き毟るが、残念な事にその硬さに爪は負けて欠けていく。欠けて折れていった爪は平然と何事も無かった様子で、再び生えて元通りになった。だが、理由など分からないし、そんな事はどうでもよかった。
しかしながら元通りになった爪の強度は、先程より格段に増していた……。
その行為を炎龍ディオルギアは幾度となく繰り返していった。それ故に結果として爪は、刀の持つ「概念」にまで到達したのである。
炎龍ディオルギアの爪は、刀の「概念」をも打ち砕く程の強固さを手に入れたのだった。
炎龍ディオルギアは「概念」にヒビを入れ、一気に刀を打ち砕いていった。すると正面に憎い「敵」の姿が目に入ったのである。
だからその敵に向けて息吹を吐いたのだ。全ては憎しみに拠って為した事だった。
しかし炎龍ディオルギアの怒りは、恨みは、憎しみは、息吹を吐いたくらいじゃ収まらなかった。だから息吹を吐き続けるつもりだった。
この身を焦がす程の憎しみを炎に変えて、全てのモノ達にくれてやるつもりだった。
生物としての本能すら捨て去り、負の感情に支配された炎龍ディオルギアは息吹を吐く事のみが、自分の存在価値を示せるのだと考えていたのかもしれない。
ドんッ / ガチッ
ドォォォン
それは突然の事で、炎龍ディオルギアに対して衝撃は下からやって来た。自身の下顎に対して、下から突き上げる凄まじい衝撃が襲ったのだ。
その結果息吹を吐いていた口は、強制的に閉じる羽目になる。
結果として自身の口より勢い良く放出されていた息吹は、突如として行くアテを失い炎龍ディオルギアの口の中で弾ける事になっていった。
炎龍ディオルギアは当然の事ながらワケが分からなかった。何が起きたのかサッパリ分からなかった。
そして何も分からないまま見上げさせられた空に、「光」を見ていた。
炎龍ディオルギアが見たその光は、たちまちのうちに自分の頭上から大地へと疾走り抜け炎龍ディオルギアの身体を一刀両断にしたのだ。
頭のてっぺんから尻尾の先に至るまでを、一瞬にして真っ2つに切り離したそれは、炎龍ディオルギアの中に宿っていた「光玉」にも届いていた。
その結果、光玉は2つに割れ誰にも知られる事なく光の余韻を残して霧散していった。
グ……グルォ
ずりゅっ
炎龍ディオルギアは断末魔の叫びを盛大に上げる事も出来ずに、微かな咆哮のみを残してその身体は左右へと泣き別れていった。
どおぉぉぉンッ
炎龍ディオルギアが完全に大地に崩れ落ちると、辺りは急速に静寂に拠って支配されていったのである。
赤く爛れた大地も燃えている草木も、今はまだ赤々と空を照らしている。しかし炎龍という火種を失った事で闇は、その赤い光すらも取り込もうと様子を窺っていたのだった。




