Rudest Attacker ν
赤く光る目は全部で8つ頭数で考えれば4体。どうやら爆発音を聞き付け少数の群れで向かって来たようだ。
それに対する少女のガルム達は全部で4体。それとクリスを合わせて数だけで言えば4対5。
クリスは目を凝らし暗がりの向こうに朧気ながら「敵」の正体を見た。それは「小竜種」だった。
複数種いる「小竜種」の内の、どの種の「小竜種」かまでは分からなかった。
「地球」に於いて過去に絶滅した種である「恐竜種」は、テルースに於いては独自の進化を遂げ「魔獣」として生態系上に存在している。拠って生態系上の龍種とは全く異なる種族だ。
更に付け加えると「恐竜種」の名称は、生態系上に於いて大分類でも使われている事から広義の意味では「小竜種」も「恐竜種」となる。然しながら狭義の意味での「恐竜種」と言う名の魔獣は存在するのでややこしいと言えばややこしい。
これと同じ現象は「鬼種」でも同じ事が起きているのでままあると言えばままあるのだ。
小竜種は種族としては「小竜」になるが体高は2m以上あり全長は5mを超える。そして歩行形態は2足歩行だが腕の部分は短く、それほど発達はしていない。性質は狡猾で用心深く性格は残忍である。決して単体で行動せず少数から多数の群れで行動し獲物を狩る。
鋭い爪と牙を有し脚力は強靭で、その脚力を使った跳躍で相手に飛び付き、爪と牙で切り裂いて捕食するのだ。
それらの事から新米ハンターでは手に負えず、狩るハズが狩られる側に回る事も少なくない。中堅ハンターでも多数の群れでは為す術もなく撤退させられる事から、群れの頭数に拠っては脅威度は比較的高くなったりもする。
小竜種は進化の過程で少なくとも現在では9種類確認されており、どの種類かによって討伐難易度には振り幅がある厄介と言えば厄介な魔獣と言えるだろう。
現状では魔獣の個体に於ける討伐難易度は8種類ある。
拠ってD-C-B-A-S-SS-SSS-UKの順に難易度が変わる。
ちなみに討伐難易度の「振り幅」とは小竜種であれば、Cランク相当の種類やAランク相当の小竜種の種類がある事を示している。
これは個体の討伐難易度であって、難易度が低い種でも群れる事によって脅威度は格段に上がるので飽くまでも目安でしかない。
ちなみに魔犬種はBランク相当であり、炎龍ディオルギアはSランク相当になる。
ただしこれらの討伐難易度はハンターを有する「公安」と「ギルド」が定めたものなので、クリスは目の前の小竜種の討伐難易度なんぞ知る由もないがそれは当然である。
クリスは正直迷っていた。ここで小竜種を相手にすれば、その最中に炎龍が出てくるかもしれない。「その時に自分はどうするべきか……」「どうしているべきか……」
然しながら「小竜種であれば此の身に倒せない魔獣では無い」とも言い切れた。
倒せない相手ではないが多少の時間はイヤでも掛かる。要は「どの程度の時間までなら掛かる事が許されるのか?」が問われていたと言えるだろう。
クリスは迷っていたが、小竜種達は迷いなく近寄ってきている。だがその歩みは途中で止まり、一定の距離を保ってこちらの様子を窺っている様子だ。
そしてガルムもまた、直ぐには襲い掛かる事をせず睨み合いが続いていく。
様子を窺っていた小竜種達は前触れもなく、突如として攻勢に転じた。
拠って先制を仕掛けたのは小竜種の方だ。
(クリスを含めた)数では負けている小竜種達は、ガルム達を各個撃破しようと攻撃を同時に開始したのだ。
小竜種からの不意打ちにガルム達は、一瞬たじろいだ様子だったが、小竜種の攻撃を躱すと各個撃破で襲ってきた小竜種の脚に、それぞれが噛み付いていった。
魔犬種はペットとして飼われている大型犬を、2周りくらい大きくしたサイズの魔獣である。
仲間意識が強く集団戦術を採用し、自分達よりも大きい相手にも物怖じせずに立ち向かっていく事が出来る。拠って体格差がある小竜種に対しても、怖気づく事なく向かっていく事が出来ていた。
一方で魔犬種は本来の棲息域が、「冥界」と言われている事から魔術特性を有している。従ってマナを集める事で強力な魔力弾を放つ事も出来る。
ただし人間界は本来の棲息地と比べると、マナが薄い為に放つまでには時間が掛かる。拠って人間界で魔力弾を放つ場合は、1匹がマナを集めているその間は、他の仲間達が敵から身を挺して守るという戦術を採用する事もある。
強襲し各個撃破するハズが躱され、逆に噛み付かれる事になった小竜種達は錯乱状態に陥っていた。
小竜種達はガルムに噛まれた脚を振り回し、必死に振り払うと再度様子を窺ったのである。
噛まれた小竜種達の脚からは血が滴っている。それは従来からの脚力を失った可能性を意味する。脚に傷を負った小竜種達は、声で合図を送り合っている様子だ。
拠って周囲に「ギャーッギャーッ」と甲高い鳴き声が響いていた。
対するガルム達は1ヶ所に固まり、防御陣形を形成していた。結果として戦況は膠着していったのである。
そんな時に1匹のガルムがクリスを見た。
『此の身にこの膠着を破る契機を作れと言っているのか?』
グルっ
『うむッ!承知した!』
ガルムと意思疎通が取れたかは分からないが、そのように考えたクリスは翼をはためかせると上空へと舞い上がっていく。そしてある程度の高さまで飛び上がると、今度はそのまま小竜種達目掛けて急降下していったのだ。
『墜閃!』
『凪閃!』
どごぉッ
しゅしゅぱッ
クリスは自分の龍征波動を長剣の1点に集中させると、小竜種達目掛けて突撃し、技を放ちそのまま横に薙いだ。
結果として小竜種達のいた大地はその一撃で、鈍い爆発音と共に抉り取られていった。
小竜種達は予想外の強襲に、慌てて回避行動を取る事しか出来ないでいた。然しながら脚に傷を負っていた事が災いしていたようだ。
拠ってクリスの攻撃を避け切れず墜閃をまともに受けた1匹は、息も絶え絶えになったところに追撃を受けたのだ。
こうして生命を絶やしていった。
その光景を見ていたガルム達は一斉に動いていく。しかしガルム達は数を分散させず、4対1で確実に1匹ずつ仕留める事にした様子だった。
拠ってガルム達は得意の集団戦法で小竜種1匹を仕留めに向かっていった事になる。
逆にクリスの前には2匹の小竜種がいるが、やはり意思疎通は取れていなかった様子と言えるかもしれない。いや、「きっかけを作る」と言う意思疎通だけは取れていたが正解だろう。
『おいおいお前達』
『こっちの2匹を此の身に任せるという事か?』
『まぁいい。勝てない相手ではない』
『手短に相手をしよう!』
ギャーギャッ / ギャギャッ
小竜種は2匹がかりで鋭い爪を使った蹴撃と、牙に拠る噛み付きをクリスに向かって繰り出していく。だが鋭い牙に怖じ気る事無くクリスはそれらを紙一重で躱すと、すれ違いざまに一太刀。
『浅いかッ!』
『くっ。カウンターでは分が悪いな』
この場合小竜種は数による優位性を持っており、ガルム同様に集団戦法を好む為に時間差を使った攻撃を仕掛けていた。
拠って次の攻撃までのスパンは短く、カウンターを入れても非常に浅い。
クリスは有効打を与えられないまま、それを繰り返していくが効率は途轍もなく悪いと言える。
小さな子供の様に無限の体力を持っていればいずれ倒せるかもしれないが、そんなモノを持っていないクリスは徐々に疲労を積み重ねていったのだった。
『あッ、しまっ!』
ドしんっ
『痛たたたた』
『あっ。やばばばば』
クリスはあろう事か戦闘中に脚が縺れたのだ。更に運が悪い事に縺れた足は、地面の石に引っ掛かりクリスは盛大に尻餅を付いた。天性の運の悪さが見事に牙を向いた瞬間だった。
しかしその瞬間を小竜種達が見逃さなかったのは、当然のコトだ。
拠ってクリスが気付いた時には、小竜種の頭がクリスの眼前に迫っていた。
グアアァァァァ
小竜種の顎が大きく開かれ、クリスの眼前にある。そしてその口元からはよだれが滴っていた。
『くっ、ころ…さないでッ!痛くしないでッ!』
クリスは声に出す事なく固く瞳を閉じて心の中で何かに祈る事しか出来ないのだった。
「デバイスオン、使い魔・ガルム」
クリスが生きる事を諦めた瞬間に声が響いていた。それは少女から放たれた1匹のガルムを呼び出した声であり、呼び出されたガルムは大口を開けた小竜種に速攻を仕掛けたのだ。
その速攻は小竜種の腹部右側への体当たりという形で成功し、小竜種の体勢を大幅に変えさせる事に成功していた。
ガチンッ
「我が手に集え、光の力よ。我が敵を射る礫となりて、駆けろ!光閃礫弾」
ギャギャッギャース
『クリス、大丈夫?』
少女が放ったガルムの体当たりを受けた事によって小竜種の噛み砕きは、クリスの直上の虚空を噛み砕いただけで終わっていた。
更には少女が放った魔術は無数の光の散弾となって小竜種を貫いたのだ。
ギリギリのところで生命を救われたクリスが、頬を濡らしながら顔を上げると少女がそこにいた。その少女は身体中のあちらこちらから血が滴っている。
一見すれば「大丈夫?」と聞かれる側なのは少女の方だろう。
だがクリスは夜の帳の効果で、少女の様子を声からしか窺い知る術が無かったのだった。その結果クリスは少女に対して「大丈夫なのか?」と聞く事はなく、素直に「ありがとう」とだけ返していた。
『ちょ、クリス、生臭いわよ?それに、何か変な臭いもするし……』
『こ、これはあの魔獣の「よだれ」だ!顔に掛けられただけだッ!変な臭いなんて、此の身には、か、感じないぞッ。気のせいだ気のせい』
『そう?本当に大丈夫なの?でもあんまり時間がないの!』
『炎龍が出て来るわッ。LAMの準備を急いでお願いッ!』
クリスの頬を濡らしたのは死を覚悟したクリスの涙以外に、小竜種のよだれもあってそれが生臭い異臭を放っていた。まぁ、死を覚悟してしまったクリスは、多少お漏らししていたがそんなコトが言えるハズもないのは当然の事だ。
夜の帳効果でクリスの顔は少女から見えていないが、クリスは自分の顔をゴシゴシと擦っていた。クリスはそれに感謝しなければならないと言えるだろう。
少女は尻餅を付いているクリスに手を差し伸べ、起きあがったクリスはLAMの元へと走っていく。
その場に残されたもう1体の小竜種は、少女の気迫と突如として現れたガルムに拠って、残る仲間の元へと向かって逃げ出していた。
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崩落が始まった炎龍の棲家から少女は逃げていた。腕や脚や背中など身体中のあちこちに激痛が奔っていたが、必死に逃げていた。
そこは崩落の影響下にある場所ではなかったが、立ち止まってなどいられなかったのだ。
一方で炎龍ディオルギアは翼を羽ばたかせるが上手く飛べなかった。少しばかり上昇出来てもスグにバランスを崩し、壁に身体を激しく激突させ棲家の崩壊を助長させながら落下していった。
そんな事を幾度か繰り返す内に、炎龍ディオルギアは少女が逃げていった横穴を見付けたのである。
炎龍ディオルギアは足元が完全に崩落する前に、その穴に潜り込んでいく事に辛うじて成功していた。自身のサイズと比べると多少小さい横穴の壁に、身体を擦り付け壁を無理矢理に抉じ開けて分け入っていったのだ。
要するに狭い洞窟を破壊しながら追い掛けていった事になる。
少女は足取りが重かった。もう走る事が出来ないくらい全身が痛かった。気を抜けばそのまま意識が飛んでしまうかもしれない。拠ってアドレナリン様々とはこの事だ。
だが痛みは引くどころか時間を追うごとに増していく。だから先に進みたい気持ちを抑えて1度立ち止まる事にしたのである。
「デバイスオープン、ローポーション」
周囲に敵影が無い事を確認した上で、少女は回復薬を摂取する事にしたのだ。
ローポーションは錬金術で生み出される回復薬の1種である。効果は専門職である回復術士が使う、回復魔術の中で最も効果の低い「極小回癒」と同程度の体力の回復、及び鎮痛効果だ。追加効果としては持続性が中程度の体力値上昇があるので、「極小回癒」よりはちょっとだけお得と言える。
ただし体力回復効果のある痛み止めなので、キズが塞がったりケガが治ったりする事はないが、少女からしてみたら充分過ぎる程に気休めになる。
そして少女は一時的とはいえ痛みが和らいだので、再び洞窟の出入り口まで急ごうとした矢先に後方から洞窟の破壊音が響いていったのである。
「飛び立てずにやっぱりこっちに来たわねッ!じゃあ、第2ラウンド開始といきますかッ!」
「我が右手に集え、荒れ狂う業火よ。我が左手に集え、静謐なる鋼よ。我が手に宿りし2つの力よ、我が言の葉に従い1つと成れ!1つの力よ別れて分かち、分かちて纏まり、敵を弾く礎と成れ。存在証明・霹靂爆豪×7!」
「我が手に集え、金色なる果実よ。敵を穿く一条の聖よ。合わさり混じりて一条の鏃を生み出さん。我が手に集うは豪炎の弓張り。我が手に集うは常闇の弩」
少女は後方に向けて霹靂爆豪を設置し、そして更に詠唱を紡いでいく。
炎龍ディオルギアは身体を擦り付けながら追い掛けて来ているので、必ず霹靂爆豪に触れるのは当然の事だ。拠って設置済みの1つ目の霹靂爆豪に触れたようでそれは大爆発を巻き起こしたのである。
そう、少女は霹靂爆豪をダメージを負わすだけでなく、呼び鈴として使った事になる。
まぁ、そんな呼び鈴なぞ死んでも使いたくは無いが。
狭い洞窟内に熱量をもった突風が吹き抜け、それは炎龍の雄叫びを上乗せして木霊していく。
少女は岩陰に身を潜めていたが少女の肌は、夏の強烈な陽射しに焼かれるようにジリジリと焼かれていった。
「弓よ、鏃を番えよ。鏃よ、弦を引き絞れ。弦よ、敵を穿く必滅の光と成れ!」
炎龍ディオルギアは洞窟の壁に身体を擦り付けながら進んでいる。それに拠って設置された霹靂爆豪は確実に、不発に終わる事がない。
だから爆発が起きる度に炎龍ディオルギアは傷を負っていった。霹靂爆豪に因ってその身を護る鱗は剥がれ落ちていく。肘の部分から飛び出ている角は折れ、翼は大きく破れ頭に生えている角も幾つか欠損していた。
それらは本来ならばいい素材になるが、残念ながら回収は無理なコトは百も承知であり、そもそもこの話し自体が余談だ。
炎龍ディオルギアは前に進む事しか出来ない。後戻りする事は絶対に出来ない。だからこそ洞窟の外に向けて進んでいくしか選択肢はない。
そこにいくら罠が仕掛けられていようとも。
こうして炎龍ディオルギアは自分が向かっている方向のその正面に、さっき自分に対して攻撃を仕掛けてきたヒト種を発見したのだった。
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「いち」
「にさん」
「よんご」
「ろく」
「なな」
岩陰で身を潜めながら詠唱を無事に終える事が出来た少女は、番えた矢を引き絞ったまま姿を隠すのをやめた。更には炎龍ディオルギアが必ず通るであろうその道のど真ん中に、凛とした姿で仁王立ちしていた。
そして少女は矢を番え引き絞ったまま炎龍の姿が見えるのを待っていたのである。
7つ目の爆発音が聞こえ7度目の熱風が吹き抜けていく。少女は肺が焼かれないように呼吸を止めると、視界の先の一点を見詰めていった。
そして数秒の後、そこに炎龍が雄叫びと共に現れたのである。
炎龍ディオルギアは自身に恥辱を与え、傷を負わせたヒト種を焼きたくて焼きたくて仕方が無かった。だからこそ躊躇わず口角を上げた。そして躊躇せずに口を閉じ、深く息を吸っていった。
ボッ…ボッボボボッ
炎龍の口の中に超高温の炎が凝縮されていく。そして炎龍は今すぐにでも息吹を吐き出したかった。その為に前兆動作が煩わしくて煩わしくて仕方が無かった。
一刻も早く目の前のヒト種を炎で焼き尽くし蹂躙したかったのだ。
だがその一方で、急に業火で焼かれたウェルダンを食したくなってもいた。
「悪いけど、アンタのターンは待ってあげないからねッ!」
「ここで大人しくアタシに倒されなさいッ!!」
「魔槍展開・美女降臨!!」
それは準備が終わらない炎龍ディオルギアに対して、既に準備が終わっていた少女の概念魔術が放たれ炎龍目掛けて疾走っていった瞬間だった。
概念魔術「魔槍展開・美女降臨」は、規模が「対人級」で威力が「戦略級」の魔術だ。だが概念魔術ではあるが、オリジナルの神造兵器や星造兵器の中に同名の兵器は存在しない。
従ってこれは少女が考え出した想像上の神造兵器を、劣化コピーする形で創った概念魔術だ。
とは言っても原典がないワケではない。
概念魔術は飽くまでも神造兵器や星造兵器の「概念」を模するモノであり、その「概念」を模する為にはオリジナルに関する知識が問われる。
従って模する概念がなく、ただ殺傷能力に特化しているといった兵器としての「概念」のみを突き詰めるならば、オリジナルの知識は問われない。
だが少女はそこに原典の神造兵器や星造兵器のエッセンスとニュアンスを足す事で、更に威力の底上げに成功させていたのである。
こうして生まれた概念魔術が「魔槍展開・美女降臨」なのだ。
尚、こういった概念魔術を少女は、過去にいくつも生み出した上で試し撃ちをしまくっている。
その度にトレーニングルームの自称「主」は顔を真っ青にした後で、真っ赤にしているがこれは余談である。
だがそれは偏に少女が卓越した知識を持っていて、魔術に対して深い造詣があるから為せるワザとも言えるので、厨二的発想などと言っては絶対にいけない。
その際の生命の保障は出来兼ねる。
放たれた光の矢は「殺傷能力に特化した概念」を持ち合わせている為に、その「概念」は疾走り向かっていく最中に具現化されていった。光の矢はその身の内から、幾何学的な形に棘を展開し広がりをみせていく。そして更にはそのまま炎龍ディオルギアの首の付け根から、左前脚→腹→左後脚の順に棘でその付近をも切り裂きながら貫通していったのである。
一方で炎龍ディオルギアは矢で貫かれながらも叫び声を上げなかった。その口の中に溜めていた炎を諦めていなかった。
根性論で耐えた炎龍ディオルギアは、前兆動作を無事に終えるとその場に崩れ倒れ込みながらも、少女に向けて息吹を吐いたのである。
ゴガアァァァァァァァアッ
「えっ!?ウソでしょッ!!アタシの概念魔術に耐えたの?!」
超高温の炎が少女に向かって吐き出されていく。だが今の少女はこの炎を避ける術はない。身を隠す事が出来る岩は近くにあるが隠せるだけのそんなモノでは身を護るのは不可能だ。
スグに焼け焦げてしまうだろう。
少女の目論見では概念魔術で、息吹の前兆動作をキャンセルさせる予定だった。あわよくば討伐すら目論んでいた。
だから予想外であり想定外であり大誤算であり万事休すとしか言えない状況になっているのた。
「仕方無いわねッ。かなり勿体無い贅沢な使い方だけど……。背に腹は変えられない!!こんなところで死にたくないしねッ!!」
「デバイスオープン、精霊石ウンディーネ、フルオープン、フルバーストッ!続いて精霊石スカディ、バーストッ!!」
少女はデバイスに収納してあった下位の「水の精霊石」を全て放出しバーストさせていく。更にそこにスカディの精霊石をバーストさせる事で水の精霊石から噴き出した大量の水を瞬間的に凍らせ、自分の目の前に分厚い氷の壁を構築させていったのだった。
息吹は少女が張った分厚い氷の壁にぶつかり、少女は間一髪のところで事なきを得るコトに成功したのである。
炎龍ディオルギアと自分との間に分厚い氷の壁を張った少女は、氷の壁が息吹を防いで時間を稼いでくれているその間に、洞窟内から外に向かって必死に全力疾走していった。
少なくとも後ろからいずれ迫ってくる息吹の射程外まで逃げ切れると信じて。
少女が張った氷の壁は超高温の炎に晒され急速に溶かされていった。然しながら膨大な水量に拠って作られた氷の壁が溶けた事で、濃密な水蒸気がその場に発生する事になる。
更にその濃密な水蒸気は局地的に数m先も見えない程の濃霧を展開させていったのだ。結果として濃霧によって目標を見失った炎龍ディオルギアは、息吹を途中でやめたのである。
もし仮に息吹をやめなければ、ギリギリのところで少女は炎に巻かれていたかもしれない。
クリスは少女に言われた通りにLAMを準備している。プローブを伸長させ照準器を覗き込み、いつでも撃てる体勢を取っていた。
一方でガルム達は残り2匹まで数を減らした上に、そのどちらもが負傷している小竜種に対して非常に優勢な小競り合いをしていた。
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少女は洞窟を必死に駆け抜け、危機一髪のところだったクリスを助けた。流石に少女としては、クリスが食べられそうになっているなんて予想もしていなかった事からド肝を抜かれたのは事実だ。
それに、「魔獣が現れるかもしれない」というイヤな予感が当たった事に対して嫌気が指していたのもまた、事実だった。
クリスに対して指示を出した後で、少女は炎龍ディオルギアとの最終決戦に臨むべくクリスのいる場所からは離れた位置に陣取った。だが身体はあちこち酷く痛む。
爆発に因って壁に叩きつけられた際に負った裂傷と、もしかしたら何本か折れているかもしれない肋骨。
更には息吹や霹靂爆豪の熱風に因る火傷。
魔力に拠って傷の治癒を行えるのは特殊な専門職である回復術士だけだ。然しながらもしも仮に少女が回復術士を目指したとしてもそれは叶わない。
それくらい天性の才能が問われる専門職であり、現時点で回復術士として神奈川国に登録されているハンターはいない。
従って錬金術で作れるポーション類はハンターの頼みの綱なのだ。だが自前で用意出来るポーションはローポーションが関の山なのもまた事実であり、大怪我を負えば依頼が達成出来ない事もあり得る。
そしてローポーションより効果が高いモノであれば多少の治癒が期待出来る物もあるが、それは錬金術士と呼ばれる専門職でなければ作れず回復術士同様に神奈川国に登録されているハンターはいない。
よって、それくらい怪我に対してはシビアなのである。
「嫁入り前の乙女の身体になんてコトしてくれるのかしらッ!」
「まぁ、カレシなんていないけど。はぁ……」
直接的に炎龍ディオルギアが付けた傷は軽度の火傷くらいだから、炎龍からしたらとばっちりとしか言いようのない文句だ。そしてその後の自虐は身体以上に心に傷を負わせていた。
「でも、冗談を言ってる時間があるなら少しでも体力を回復しておかないとッ」
少女はローポーションをデバイスから取り出すと、既に切れていた鎮痛効果を上書きしていった。更に申し訳程度の体力値上昇だけでは心許ないのは当然なので、強化魔術を複数種掛けていく。
装備スロットに入っている飾りや、身に着けているお守りのバフだけでは直接戦闘になった際に火力不足は否めないからだ。
拠って洞窟内で討伐完了する事が理想的な戦略だったと言える。が、今回は時の運が味方しなかったようだった。
炎龍ディオルギアは洞窟の出入り口に向かって、洞窟を自力で拡大しながら向かっていた。逆に炎龍ディオルギアは洞窟を崩落させながら出入り口に向かっているから、後ろに戻る事は不可能とも言い換えられる。
身体の至る所が破壊され、引き摺るようなその動きには速度もキレもないが、それでも必死に藻掻き洞窟を抜けるべく進んでいく。
『同朋達の仇を討たせてもらうッ!!』
『炎龍覚悟ッ!!』
クリスの見詰める照準器の中に、炎龍ディオルギアの姿が薄っすらと映り込んできていた。クリスはそれを見ると1回だけ深呼吸をして、強く歯を噛み締めるとLAMのトリガーを引いたのだった。
「ぼしゅうッ」という破裂音を立てて暗闇の中を一瞬だけ光が照らしていく。
ドガアァァァァァァン
ズギャアァァァァァァァアス
『あ、当たった!!』
『やった!!これで同朋達の無念に一矢報いる事が出来たッ!!』
クリスがトリガーを引いた数秒後にLAMの弾頭は盛大な爆発音を奏で、それに追走するように盛大な雄叫びが上がっていく。然しながらLAMの威力を全く知らなかったクリスは、一矢報いられた感動と共にその威力に驚きその場にへたり込む形で放心していたのだった。
炎龍は自分に向かって来る何かが見えていた。然しながら破壊しなければ進めない程狭い洞窟内では、ほとんど身動きが取れなかったのである。
そんな中で頭だけは本能的に守ろうとした事から、頭だけはLAMの弾頭を躱す事に成功していた。
クリスが放ったLAMの弾頭は、炎龍ディオルギアの首の付け根の更に下の部分にある上腹部に突き刺さり爆発していた。
そこは硬い鱗の生えていない部分であって、翼膜の次に柔らかい腹に対して貫通する形で突き刺さり、体内で爆発したLAMは炎龍の腹に文字通り大穴を開けたのである。
度重なる攻撃に晒され深く傷を負いダメージは蓄積していた。更には腹に大穴まで開けられた炎龍は既に息も絶え絶えになっていた。
この状況で少女が目の前にいたら、迷わずに止めを刺して炎龍ディオルギアの討伐は成功し依頼は完結した事だろう。
だがそんな炎龍の前に現れたのは少女でもクリスでもない。フードを目深に被った得体の知れない男だった。
その男は何も言わず、瀕死の炎龍ディオルギアに対して1つの光玉を投げたのだ。
その光玉は炎龍に対しては奇跡を齎し、ハンター達には絶望的状況を齎していく事になる。
少女は遠目にクリスの放ったLAMが直撃したのを確認していた。そして断末魔の叫びにも似た炎龍の雄叫びが、炎龍ディオルギアに与えたダメージが大きい事を悟らせてくれた。
だが次の瞬間自分の目を疑う事になる。洞窟の入り口から空に向けて息吹が放たれたからだ。
グルルルルォォオオオッ
グガァァアアッス
先程の断末魔の叫びとは打って変わった炎龍の雄々しい雄叫びが、辺りに木霊していく。炎龍ディオルギアはその雄叫びと共に、洞窟を完全破壊しながら出て来ようとしていたのだ。
そして更に少女は目を疑う光景を見る事になる。何故ならば炎龍ディオルギアの身体には、少女達が必死になって負わせたハズの傷が一切無かったのだから。
剥がれた鱗も折れた角も破れた翼ですらも、「そんな事は始めから起きていなかった」と言わんばかりの完全体で炎龍ディオルギアは洞窟から外に出て来たのだ。
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クリスは2本目のLAMを手にして構えていた。クリスは自分が撃った1本目が直撃し、その威力の高さに放心していたがクリスの動物的な「勘」は2本目のLAMをスグに持つ事を告げたのだ。
クリスはその「勘」に従いプローブを伸長させ肩に担ぐと、照準器の中を見た。
『まだ生きているのかッ!』
『今度こそ、同朋達の仇討ちだッ!喰らええぇぇぇぇぇッ!!』
ぼしゅうッ
そこに映し出されていたのは、まだ息がある炎龍ディオルギアの姿だった。
だからクリスは洞窟から出て来ようとしている炎龍に対し、雄叫びを上げながらLAMのトリガーに再び指を掛けその弾頭を放ったのである。
合計で三度炎龍目掛けてLAMは飛翔した事になるが、2度ある事は3度目で起きるコトを選ばなかった。
言い換えるならば「3度目の正直」が近いが、討伐戦に参戦している少女とクリスからしたら「正直」ではなくて「嘘」であって欲しかったに違いない。
そんな「3度目に起こった嘘」とはLAMの命中ではなく、LAMの消滅だった。
炎龍は自身が何故生きているのか分からなかった。だが生きているのは事実だ。
身体を襲っていた激痛は感じられないばかりか、その原因たる傷すらも無くなっていた。然しながらその反面、自身が負った恥辱や傷付けられた誇りは無くなってなどいなかった。否、むしろ全てがどうでも良くなるくらい、憎くて憎くてどうしようもない程に憎悪の炎にその身を焦がしていたのだった。
炎龍ディオルギアは全てを焼き尽くす事にした。見境なく自分の炎を振り撒き燃やす事にした。
そこに丁度飛来してきたLAMの弾頭を見たのだ。それは先程見た敵の攻撃。自身を死の淵に追いやった憎っくき敵の攻撃に対して、何1つ躊躇せず溜める事なくノーモーションで息吹を吐いたのである。
憎い憎い敵の攻撃は「じゅっ」とだけ音を立てると何もする事なく消滅した。
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。
足りない足りない足りない足りない足りない足りない。
まだ燃やし足りない。全てが憎い、全てを燃やす、全てを憎み、全てを燃やし続けてやる。
こうして炎龍ディオルギアは復讐を遂げる為に暴れる事にしたのである。
息吹によりLAMの弾頭を融解させ、爆発させる事なく消滅させた炎龍ディオルギアは雄叫びを上げた。傷も無く完全に力を取り戻した炎龍は、そのまま狭い洞窟を破壊し無理矢理抉じ開け外に出たのだった。
「ちょっとちょっとッ!一体どういう事?なんで、あんなにピンピンしてるワケ?」
「ついさっきまで瀕死だったでしょう?古龍種が超回復以上の回復力を持ってるなんて聞いたコトがないわよッ!!」
「どんなカラクリ?どんなチートを使ったっていうの?!」
「チートダメ!絶対反対ッ!!」
少女は正直なところテンパっていた。あれだけ攻撃してあれだけダメージを与えて、瀕死にまで追いやった相手が元気に飛び出してきたらテンパるのも無理はない。そして出来る事なら炎龍に対して「ツッコミ」を入れずにはいられなかった。
無論のこと漫才をしているワケではないので、炎龍に対して「ツッコミ」なんぞ入れる事は出来ないのだが……。
「あぁもぅッ!良くわからないけど、こうなった以上ヤバ過ぎる。距離を取れば取るだけ危険性も跳ね上がる」
「またイチからやり直しだけど……って武器弾薬に精霊石を減らした状態からじゃイチからとは言えないわね」
「ゼロから、いえ、マイナスからでもやり切ってやるわッ!」
少女は投げやりになりながらもブーツに火を点すと、急いで空を駆けて炎龍の元に向かっていく。
それは限りなく絶望的で、限りなく無策に近い状態である。だが今の状況で策を考えるなんて、そんな余裕はとっくのとうに失くなっているのもまた事実だった。
炎龍は洞窟から外に出て辺りを見回していく。近くにはギャーギャー騒ぐ小虫がいる程度で、自身に攻撃をしていたヒト種の姿は見えなかった。だが今はギャーギャー騒ぐ小虫ですら憎い。全ての事象が現象が現状が実情が憎い。
拠って憎しみという激情に支配された炎龍ディオルギアは、本能のままに周囲の全てを焼き払う事にしたのである。
「デバイスオフ、使い魔・ガルムッ!!」
ボッボボ…ゴガガガァァァァアアァァァァッ
少女の命令にガルム達は一斉にカードに戻ると、デバイスの中に収納されていった。その直後に炎龍ディオルギアの息吹は、辺り一面を焼け野原にしていったのである。
まさに間一髪のところでガルム達は炎に巻かれずに済んだと言える。然しながらそこにいた小竜種達も小竜種達の躯も全て焼却されたのだった。
クリスは状況が著しく悪くなったと感じていた。そして自分に何が出来るのかを考えていく。
だが荒れ狂う炎龍ディオルギアに特攻したところで、一太刀すら浴びせられないのは明白だった。
少女は生命を大事にしろと言った。だからこそ無駄な特攻は選択肢から外されたのである。
炎龍ディオルギアは翼を広げ羽ばたいて空へと舞い上がっていく。更には大地や空や草木といった、ありとあらゆる場所や目に映る全てに対して憎しみを込めて息吹を吐き続けている。
辺りは夜の帳に逆らうように暗闇から一転していた。そして赤々とした炎が「空をも焼き尽くさん」と、燃え上がる高温の空間へと変貌を遂げていったのである。
少女はガルム達を急いで回収すると、これまた大急ぎで炎龍ディオルギアの遥か上空まで駆け上がっていた。
そしてその上空から、凄惨な別世界と成り果てた大地を見下ろしていたのだった。
炎龍が吐き出した息吹により、大地は生命を拒絶するかのように赤々と焼け爛れている。更にはその激しい炎により、竜巻のような乱気流を伴った火炎旋風が発生していた。
それはまさに地獄絵図だ。地獄の釜の蓋が開いたと言われても、信じられる光景でしかなかった。
このままでは攻撃をする事は疎か、近付く事すら儘ならないない。近付けば高温の大気に肺が焼かれるばかりか、自分自身がその熱量に負けて自然発火し兼ねない状況だった。更に悪い事は重なり、この状況を打開しようにも水系の精霊石は先程の洞窟内で全て消費し尽くしている。
とは言っても、この状況は消火する為に大量の水で消そうものなら、それはそれで水蒸気爆発を巻き起こす可能性が高いのも事実なので、無くて良かったのかもしれない。
「デバイスオープン、精霊石ノーム、ガンに宿れ」
「大地讃頌ォぉぉ!」
「いっけえぇぇぇぇ!!」
少女は水以外で消火する方法を思い付いたのだった。そして思い付いたらスグに実行した。何故ならば、これ以上好き勝手させるつもりなど毛頭無かったからだ。
拠って消火する為に必要なモノとして選んだのは土だった。
今と洞窟の中とでは環境は違うが、モノを燃やす為の3要素に変わりはない。だからこそ1つでも奪ってしまえば消火出来るという事もまた変わりはない。
先程と唯一の違う点は「火炎放射器」なのか「火事」なのかといったコトだけだ。だから「火事」であれば可燃物を内に抱えている「火炎放射器」よりも可燃物を奪いやすく、それだけ消火も早い。
炎龍ディオルギアの息吹は大地を燃やす程の超高温だが、結果として燃え広がった炎にそれ程の温度はない。だから少女は土の精霊石を使い大質量の土砂を地面に向けて解き放ったのである。
ちなみにこの「大地讃頌」の使い方は魔術として正解と言える使い方ではないと補足しておく。
然しながら火属性の炎龍ディオルギアに対して、土属性の魔術は相性が非常に悪い。
だからこそ少女は魔術を魔術としてではなく「物理」として使ったのだった。
汎用魔力銃から放たれた土の竜巻は、その莫大な体積で炎龍ディオルギアを地面に向けて墜落させた。
更には炎が滾っている大地を覆い尽くし、可燃物と酸素の2つの要素を失った炎は喰らい尽くされていった。
こうして辺りは再び暗闇に支配されていく。
ザバっ
「出番よ剛龍の剣!アナタの力を見せて頂戴ッ!!」
「破竜の型あぁぁぁぁッ!」
大質量の土砂を掻き分けるようにして炎龍ディオルギアの頭が覗いていた。少女は「鈍ら」とは言えない怪しい輝きを放つ刀を抜くと、上空から自由落下していくのだった。
自由落下に拠って重力任せで速度を加速させ、頭を出した炎龍に向けて少女は「型」を放つ。こうして少女の放った「型」からは不可避の刃が現れ、炎龍ディオルギア目掛けて牙を立てていく。
少女が剛龍の剣を使って放った不可避の刃は3つ。その全てが土砂から頭だけを出していた炎龍に喰い込んでいったのである。
ギャアアァァァァァス
「チっ駄目だ、完全に決まってない」
「今の一撃で頭を斬り落とすつもりだったのにぃッ!」
土砂に埋もれていた炎龍ディオルギアは、頭を斬られた事で非常に怒り暴れた。その暴虐な暴れ方によって炎龍を拘束していた、重りのような大量の土砂は見事に四方に弾け飛ばされていったのだった。
一方で予想以上に硬く「型」が想定通りに決まらなかった少女は、口惜しい様子だ。だがそんな事で諦めるワケもなく、地面に当たる寸前でブーツを再点火させると地面すれすれを滑空していく。
そして再び炎龍に斬り付けていったのである。
炎龍は素早く動く少女に対して目が追い付いていない。それは人間の周りを飛んでいるハエを、人間が叩いて落とせないのと同じ感じだった。
従って炎龍ディオルギアはその爪で、自分の周りを飛び回る少女を切り裂こうと振り回していたが少女はそれを上手く躱していく。拠ってその爪が少女に届く事はなかった。
幾度となく斬撃を放ち、炎龍の鱗は剥がれ落ち血が噴き出していく。頭を直接狙えるような機会には恵まれなくても、刻む事で確実にダメージは上乗せされていくだろう。
そうすればいつしか討伐する事が出来る。
しかし、そんな悠長に構えていては強化魔術が切れるのは明白だった。それに少女も少なからず傷を負っているのだから鎮痛効果が切れるのも同様に死活問題だ。
拠って少しでも蓄積するダメージを大きくしようと、少女は右手の刀で炎龍を斬り付けながら左手はデバイスの汎用魔力銃で魔力弾を斉射していた。今は雀の涙程のダメージでも多く与えて、一刻も早く討伐したかったのだ。
だから少女は非常に焦っていたとも言い換えられるだろう。
炎龍ディオルギアは更に憎しみを募らせていく。
炎龍ディオルギアは更に怒りを積み上げていく。
炎龍ディオルギアは小うるさいハエを落とそうと思案する。
炎龍ディオルギアは煩わしいハエを落とす方法を画策する。
ゴガアァァァァァアッ
「ッ?!何をッ!?」
炎龍は空を仰ぐとただの炎ではなく、質量を持った巨大な火球を自分の直上に放ったのだった。
拠って質量を持った火球は、重力に従って炎龍ディオルギアに向かってそのまま落下した。
「えっ?!」
少女は炎龍ディオルギアに対して一撃離脱を繰り返していたが、空から降ってきた炎の塊に一撃離脱は封印されてしまったのである。
拠って急遽、その空域を離れざるを得なくなったのだった。




