Flame Creator ν
テストの翌日「クリスのみ同行を許可する」という事になった龍人族達は、特に荒れなかった。
何故ならば炎龍討伐戦に付いて行きたい者達は、テストから1日経った今に於いても、ダフド以外の全員が気絶していたからだ。そのダフドも少女の強さを垣間見た結果、自分の非力さを知り付いていけない事に納得していた。
「目的の為に手段を選ばずにその好機を掴んだ自分の娘と、非力でありながら戦局を想定出来なかった自分とを比べて、これ以上の好機を求めるまい」と考えた結果だった。
ダフドは加護の付いたお守りや龍人族に伝わる武器などを「自分達の代わりに」と少女に渡そうとしたが、その少女からは断られた。そして少女から「アタシにくれるなら、それはクリスに装備させてあげて」と言われてしまった。
拠ってダフドは渋々とそれらの装備をクリスに渡した。少女とダフドのやり取りを知らないクリスはただただ単純に感動していたので、ダフドとしてはやるせない気持ちで一杯だった。
『さて、クリス。これから話す事を忘れずにね』
『うむ、心得た。肝に銘じておこう』
『炎龍ディオルギアの棲家はもう判明しているわ。炎龍はあそこの大きい山の中腹にある洞窟をねぐらにしているようね』
『なんとッ!貴殿はそれをどうやって調べたのだ?』
『それは企業秘密…って言いたいけど知っておいてもらわないと困るから教えておいてあげるッ!』
少女は炎龍討伐戦に臨む前にクリスに対して自身が描いた戦略を知ってもらう事にした。当然の事ながらそれは、生存確率を高める為だ。
2人が話しをしている場所はダフドとクリスの住居だ。族長の家とは思えない程に簡易的で質素な作りだが、状況を考えれば当然だろう。
少女とクリスの2人はそこで、丸太の椅子に腰掛け向き合って話しをしている。
ちなみにダフドはこの家の中にはいなかった。
『デバイスオン、使い魔・ガルム』
ガタッ
かちゃ
『クリス落ち着いて!このガルムは敵じゃないわ、むしろ味方よ。このガルム達は全部で5匹。全てアタシの使い魔なの』
『炎龍討伐戦ではアタシ達の戦闘のサポートをしてくれる。だから誤って攻撃をしない様にね』
『う、うむ。心得た。約束しよう』
『しかし貴殿は魔獣を使い魔に出来るのか?それは凄いなッ!では、この使い魔達が炎龍の棲家を調べたという事か?』
『えぇ、そうよ。凄いでしょッ!えへへ』
『ごほんっ。さてと、話しを戻していいかしら?』
『すまない。続けてくれ』
『炎龍ディオルギアは今もこの子達に見張らせているんだけど、炎龍の棲家を発見してから今日で2日になるわ。でもその2日の間に炎龍は棲家を出た気配がないの』
『炎龍ディオルギアが村を襲った時は昼間だったから夜行性という事はなさそうだが。出入り口は洞窟には1カ所だけなのか?』
『洞窟の出入り口は正面にあるだけみたい。でも、そこから炎龍ディオルギアが出るのは難しいでしょうね』
『ん?どういう事だ?此の身には理解出来ないんだが』
『出入り口から出られないのであればどうやって村を襲っていたのだ?』
『出入り口はそこそこの大きさがあるわ。でもそれは人間サイズなら…よ。炎龍ほどの大きさになればそこからは出入りがまず出来ないでしょうね』
『じゃあ、一体どこから?』
『炎龍ディオルギアが棲家にしている山は活火山みたいなの』
『そうか、火口かッ?!』
『ぴんぽーん、正解よ。恐らくそこが炎龍ディオルギア専用の出入り口ね』
『それならば貴殿の使い魔に気付かれない方法で出ているのではないか?』
クリスの言い分はもっともだった。だが少女はそれに対して正面からぶつかっていく。
『アタシの使い魔達に3方向から監視させているわ。あと念の為出入り口もねッ!だからもし、仮に上空から飛び出しても見付けられない事はないのよ』
『それならば炎龍は今も棲家の中にいると言う事かッ!』
『えぇ。おそらくね』
『ハンターは討伐対象の行動を正確に把握しないと依頼完結が困難になるから、それが大物の場合は尚更ッ!』
『だから討伐戦を始める前になるべく情報が欲しいってのが本当のところなの。だから棲家を出ずに居座っているのが気持ち悪いところっちゃ気持ち悪いわね』
『でも、これからも変わらずに棲家にいてくれるなら、それはそれでチャンスなのよッ!』
少女はこの依頼の期限について知らされていないが、期限付きでない要請なんて「あるハズがない」と思っていた。
なんで期限が知らされなかったのかマムの本心は分からなかったが、何かを慮ってくれたのは理解している。
従って期限が分からない事から、情報の収集にあまり時間を掛けられない事が現状であり討伐を急ぐか悩むところだった。
『恐らく、炎龍が棲家を離れるのは明日だろうな』
『親父殿!いつからそこに?!』
『オマエが嬢ちゃんの使い魔にビビってその丸太の椅子を倒したあたりからいたが?』 / かちゃ
『クリスリーデ、お座り!!』
『はうぅ』
『ダフドに覗き趣味があったなんて知らなかったけど、まぁいいわ』 / ぐさ
『ところで明日動くって何故分かるの?』
『オレたちゃ炎龍から襲われない様に必死だったからな。ヤツの行動パターンを確認するのは生きる為に必要だった』
『最初の内はそれが読めずに同朋達が大分犠牲になったが、最近では分かってきたからな。ここ最近は犠牲者がほとんどいねぇのさ』
『その話しが本当なら、状況はヤバいわね』
『おいおい、何がそんなにヤべぇんだ?』 / 『此の身にも解るように頼むッ!』
『よく考えてもみて?アナタ達だってご飯を食べるでしょう?でもそれが炎龍ディオルギアはここ暫く何も食べていない』
『そうなったら炎龍は相当お腹が空いてるハズよ?下手すれば凶暴化するかもだし、食べられるモノなら手当り次第に何でも食べようとするかもしれないわッ!』
『な、なるほどな』 / 『アレが更に凶暴化するのか…考えただけでも恐ろしい』
『餌になる物が近くに無いのなら、それこそ遠出をしてでも…。そうなると、ここから1番近い町は山梨国よッ!被害が出れば当然、山梨国も炎龍討伐に名乗りを上げる事になるッ!』
少女が危惧した事、それは即ち3つ国に拠る炎龍の取り合いだ。
現状に於いては静岡国に棲息している事になっている炎龍ディオルギアの討伐権利は、静岡国のみが保有している。その為に神奈川国は静岡国に対して、半ば無理矢理に法外な対価を条件に「要請」を出させていた。
然しながらここで山梨国に被害が出れば180度話しは変わって来る。町に被害が出れば再建する為には多額の費用が必要になる。
古龍種を討伐さえ出来れば、そこから取れる素材に拠って再建で使った費用を差し引いても国を潤す事になる。
決して自分の生命を賭ける事の無い「国の為政者」としては、乗らないハズが無いのは目に見えて明らかだ。
結果として龍人族はスグスグにはその方が助かるかもしれない。だが一方で周辺3国は泥沼化する恐れもある。
そうなれば助かった龍人族と言えども、3国の国境付近に居を構える以上は巻き込まれない保証はどこにもない。
少女は討伐戦を急ぐ事にした。ダフドの話しを聞く限りでは明日の早朝には炎龍は動く可能性が非常に高い。そうなれば被害の拡大は目に見えて明らかだ。
現時刻はもう既に昼を過ぎているが、今から急いで向かえば夕方には炎龍ディオルギアの棲家に着くだろう。しかしそれだと少女が今までに構築した戦略が完全に崩れる事になる。
更に夕方を過ぎれば魔獣が出現する危険性も出て来る。
少女は急ぐ事を決めた上で決断を迫られていた。
『仕方ないわね。ちょっとアタシは席を外すからクリスは準備を進めて。装備の確認と、セブンティーンから持って来て欲しい物があるんだけど。いいかしら?』
『承知した』
少女はクリスがセブンティーンに向かった後でデバイスを使ってどこかに通話していた。そして通話が終わると暫くして、クリスはLAMを3本持って帰って来た。
『これでいいのか?』
『えぇ、そうよ。クリスありがとッ』
『それにしてもあのセブンティーンはなかなか優秀だな。「らむ」と言ったらスグに出てきた。この村に来る前に走った時も色々な車とすれ違ったが、他の車もみんなあんな感じなのか?』
『それはどうかしら?』
『そもそもセブンティーンは「特別仕様車」だからねッ!』
少女はクリスの他愛もない質問に応えウインクを返していた。だが「特別仕様車」と言われてもクリスとしてはサッパリだったが、特には気にならなかった。
最終的に少女が下した決断は「これからスグに炎龍討伐戦に向かう」という事だ。それに拠って少女が前もって立てていた戦術は白紙に戻った。
一方でクリスには、まだ戦術と戦略の大事な部分は何1つ話していない事から向かった先で話す事にした。
少女は出掛ける間際にダフドに対して耳元で話しをしてその話しが終わるとクリスと共に早々に炎龍の元に向かっていった。
クリスは不思議そうに『親父殿と何の話しをしていたのだ?』と少女に尋ねたが、『打てる準備は色々としておかないとねッ』と返されるだけだった。
2人は空から炎龍の棲家へと向かっていく。せめてもの時間短縮の為だ。太陽はあと2時間もすれば陰り始めるだろう。
そうなれば魔獣と見えるリスクも背負わなければならない。
炎龍の棲家を監視しているガルム達からは特に現時点に至るまで連絡は無い。それならば炎龍ディオルギアは中にいてくれているのだろう。
炎龍がどこにも行かずその棲家で寝ている今が、絶好の好機かもしれない。
「今夜は長くなりそうだな」
少女のバイザーには1つだけ大きな光点がある。それは炎龍ディオルギアが在宅中という事を示している。
少女は洞窟から少し離れた場所に着陸した。クリスも少女と同様に降り立っていく。
ここからだと炎龍ディオルギアの棲家である洞窟の、出入り口がよく見えていた。
『じゃあ、説明するわね』
『お願いする』
『先ず、クリスには援護射撃を行ってもらおうと思ってる』
『さっきクリスに持ってきてもらったLAMを使ってねッ!』
『此の身にも使えるのだろうか?』
『大丈夫よ。タイミングとやり方さえ間違えなければ使えるわ!』
少女は先ず、クリスにLAMの使い方を教える事にした。少女の目論見ではクリスが炎龍ディオルギアに与えられる有効打は、現状の装備では「ない」を通り越して「あり得ない」からだ。
それは龍人族に伝わる長剣を装備しても変わらないだろうと推測出来る。
それ故にLAMの使い方を覚えて、炎龍ディオルギアにダメージを与えてくれた方が戦略の幅が広がると考えたのだった。
それにLAMが扱えれば炎龍ディオルギアの正面にわざわざ立つ必要がなくなる。それは少なくともクリスの生存確率を上げる事に繋がるだろう。
そんな少女の思惑通りに、クリスはLAMの使い方を必死に覚えていく。そしてクリスは少女から2本のLAMを渡され、「炎龍ディオルギアがあの出入り口から出て来たら1本目のLAMを撃つように」と言われたのだった。
『炎龍はあの出入り口は使えないのではなかったか?』
『そぉね。本来ならば使えないと思うわ』
『それなのにあの出入り口から出て来ると断言出来るのか?』
『えぇそぉよ!じゃあさ考えてもみて?』
『目の前に獲物がいてそれを追い掛けるのにワザワザ火口から外に出てたら逃しちゃうでしょ?』
『だから絶対に追い掛けてくるのよッ!』
『だが、その話しだと誰かがが獲物役をやる必要がある。貴殿がそれをやるつもりか?』
『えっ?何を言ってるの?そんなの当たり前でしょッ?!』
『ほ、本気なのか?』
『えぇ、モチのロンよ!それにアタシが行って炎龍を怒り狂わせるつもり』
『そうすれば身体のサイズ的に出られなくても無理に出ようとして絶対に出入り口で詰まるわ』
『相手が動けなくなったら、それって結構いいマトでしょ?』
『だからアタシに策アリ…よッ!!』
『……分かった。ところで、らむの2本目はいつ撃つのだ?』
『1本目は出て来た直後。それは牽制のつもりもあるから必ず。2本目は炎龍の動きが止まったら機会を見て撃って』
『もしも出入り口で詰まったらその時でもいいし、強引に外に出て来たら動きが止まった時でもいいわね』
『でもここからじゃ多少距離があるからもうちょっと近寄りましょうか!』
『う、うむ。分かった』
こうして2人は洞窟の更に近くまで歩を進めていく。理想は身を隠す事が出来て、更にLAM着弾までの時間が比較的短い場所だ。そんな距離感で身を隠せる場所を探していった。
推定で出入り口まで直線距離にして200m。前方に比較的大きめの岩があってしゃがみ込めば隠れる事も出来る。
そんな場所が想定外にも早く見付かったのだった。
LAMの有効射程は目標が動かない静止物であれば500m。だが今回は静止物ではなく動く事が想定される。それならば目標までは、なるべく近い方がいい。
しかし近過ぎると相手が相手だけに生存確率が一気に下がる。拠ってマトが大きいから、ある程度の距離があっても問題はないと判断した。
『クリスはここの岩場に隠れて、炎龍ディオルギアが出て来たらLAMを撃って。撃つ前にプローブを伸ばすのを忘れたら駄目よ』
『心得た。必ず完遂してみせようッ!』
『じゃあ、行ってくるわね』
少女は最後のLAMを担いで出入り口に向かっていった。少し遠いがクリスの隠れている位置からでも、少女の小さな背中がちゃんと見えていた。
少女のバイザーは暗視モードにしてある。その為に灯りがなくて真っ暗な洞窟の中を、難無く進む事が出来ていた。
洞窟の中腹辺りまで来ると1度だけ索敵モードに切り替え、炎龍の様子を窺う事にした。バイザーに映し出される光点の位置は先程までと変わっていない。
それは即ち棲家の中で炎龍ディオルギアは、寝ている可能性が高いという事になるだろう。少女は再び暗視モードに切り替えると洞窟の中を進んでいく事にした。
少女は洞窟内を探索しながら進む。ここに来るまで洞窟内で身を隠す事が出来る場所は幾つもあった。
討伐戦が開始したら優位性を取る為にも、戦闘領域の下調べは重要だ。そしてそれは自分の生存確率を上げる事にも繋がる。
物理的なトラップ類は急いだ為にセブンティーンの中でお留守番中だが、魔術的なトラップは仕掛けようによっては仕掛ける事が出来る。
少女は入念に調査をしながら進み、少女の視界の先にあるカーブを曲がったその奥に光が入り込んでいるのが見えた。ゴールは限りなく近い。それに伴って少女の心臓の鼓動は増していく。
少女は1回深呼吸をして息を整えると再び歩き出す事に決めた。そしてそれは炎龍ディオルギアとの対決の火蓋が切られる事と、同義だったのである。
「いたわね。やっぱり寝ている。それにしてもデカい!あそこまでの大きさだと、アタシが洞窟の中を逃げても追い掛けて来てくれないかもしれないわね」
「でもそれだと作戦が台無しになってクリスが慌てふためいちゃうから。めいっぱい怒らせて付いてこさせないとッ!」
かちゃ
「ッ!?ちッ。駄目ね。位置が悪過ぎる」
「頭に風穴開けるのが手っ取り早かったんだけどなんであんな寝方をしてるのよッ」
「まぁ仕方が無いか…。それなら、翼の付け根か、脊椎を狙うしか無いわね」
「じゃあ、いくわ…よッ!」
少女の本来の狙いは頭だった。マトとしては小さいが当たれば生物にとっての致命傷は避けられないからだ。
だからこそプローブを伸ばし息を潜めて照準器を覗き込んだが、残念ながら少女の位置からでは頭は狙えなかった。
狙えないのであればワザワザ起こしてまで狙う必要はない。死ぬワケにはいかないので、そんなハイリスクな戦術は取れない。従って次の目標は機動力の奪取になる。
脊椎を狙えば機動力は大幅に奪えるが、翼が無事なら飛ぶ可能性がある。拠って空を飛ぶ事の出来る龍種相手だと、飛ばれるのが一番厄介と言える事から、少女の選択肢は「飛行能力をもぎ取る」一択になっていた。
少女は狙いを頭から右の翼の付け根に切り替えると、躊躇う事無くトリガーを引いていく。
ぼしゅうッ
軽い破裂音と共に少女の後方にカウンターマスが排出される。排出されたカウンターマスは広範囲にキラキラと拡散していた。
だが、そんな事を悠長に眺めている場合でもないのは当然のコトだ。
一方で少女の正面では弾頭が照準器で指し示していた場所に目掛けて、放物線を描き飛翔していく。弾頭は内部のロケットモーターに点火し速度を上げると、今も就寝中の炎龍ディオルギアの右の翼の付け根に見事着弾したのだった。
どごぉッ
どおぉぉぉぉぉぉん
グッギャアァァァァァァァス
グルルルルォッス
炎龍は辺りを見回していく。突如として沸き起こった自分の身体の痛みに対して、現状の理解が及んでいない。それ故に自身に何が起きたのか調べようと周囲を見回していったのだ。
その様子を見た少女は自分に向けて注意が向けられていない今を、好機と詠唱を始めていく事にした。
「我が手に集え、光の力よ!我が敵を穿つ牙となりて、疾走れ!光閃剛槍!」
「我が手に集え、鋼の力よ!我が敵を穿け!鋼重剛槍!」
「我が手に集え、水の力よ!我が敵を刻め!氷柱鋭刃!」
どごごごごごごごごごご
鈍い音が洞窟内に響いていく。少女が放った3つの属性魔術はLAMでダメージを負った翼の付け根付近に追撃の一手を与えていったのだった。
炎龍は言わずとも火属性の属性龍である。本来であれば火龍と評されるのが正解だが、他の五大龍と比べてその力が強大である事から火龍から炎龍に格上げされた経緯がある。拠って中位でありながら上位に片足を突っ込んでいると言われている。
そんな炎龍だが属性的な弱点は存在する。基本属性は隣り合う属性に対しては相反する為に強い。
逆に隣り合わない属性に対しては弱い。(光属性と闇属性は除く)
拠って基本属性は木火土金水の5種である事から火属性の隣は木と土になる。従って少女は炎龍ディオルギアに対して弱点属性の金属性の鋼重剛槍と、水属性の氷柱鋭刃を使ったのだ。
ちなみに光属性の光閃剛槍も、火属性の弱点となり得るので補足しておく。
LAMに拠る攻撃と3つの属性魔術を浴びた炎龍ディオルギアは無傷ではないものの、討伐せしめる程のダメージでも無かった。そして周囲を見回していた炎龍ディオルギアは、魔術が飛んで来た先に少女の姿を見付けていた。
炎龍は痛みに我を忘れ、怒りに我を忘れ腹の減り具合などを気にする事無く怒り狂っていったのである。
ボッ……ボッ…ボッボボ
「嘘でしょッ!?」
「ここで、息吹を吐くつもり?」
「仕方ないわねッ!デバイスオン、ガンモード。続けてデバイスオープン、精霊石スカディ。ガンに宿れ」
「くそッ!間ーにー合ーえーーーッ!バーストッ!!凍盾征製ォォォお!」
炎龍は怒りのあまりに自身の最大の切り札である、息吹の前兆を取っていた。少女はそれを見るやいなや焦りながらも対抗策を急遽全力で撃つ事にしたのだ。
そうでもしなければ灰も残さずに消滅する運命になるから仕方がないと言えるだろう。
少女の精霊石魔術と炎龍の息吹は少女の方が一瞬だけ速かった。その一瞬で少女は救われたと言えるかもしれない。
水の上位精霊石の力を借りてデバイスのガンから放たれた力は、目の前のその空間を極低温の世界に創り変えていく。それに対して炎龍は、超高温の息吹を極低温の世界の中で吐いた。
一瞬の差は歴然だった。先に息吹を吐かれていたら最大火力の息吹を相手にしなければならなかった。
そうなってはいくら水属性が弱点属性とは言っても火力差は歴然だ。
だが逆に先に凍盾征製で極低温の世界を創った事で、息吹の威力は半減していた。何故ならば物を燃やすには3要素が必要だからだ。
可燃物-酸素-熱源のいずれか1つを消せば火は消える。炎龍の息吹は超高温の火炎放射器と同じであり、酸素がなければ継続して燃やし続ける事は出来ない。
拠って凍盾征製で創られた世界は酸素を液化させ、更には凝固させていった。更には炎龍ディオルギアから熱源をも奪っていく。
結果として極低温の世界に超高温の炎は存在出来なかった。然しながら吐き出された直後の息吹は超高温であり、凍った酸素を瞬時に溶かしていく。
拠って奪われた熱源は瞬く間に回復していく。
結論、その威力は半減する形で、強制的に成立させられた。
異質で強力な2つの力は、お互いが存在する矛盾を打ち消す様に異常燃焼に因る小規模な爆発を幾重にも巻き起こしていく。
その連続する小規模爆発の衝撃と振動は洞窟内を崩落させていったのである。
「がはッ」
「痛ったぁ!もうッ!痛いじゃない!痛てててて」
「やっぱり流石にノーダメージってワケにはいかなかったわね」
「でも、そうしたらここにいたら危険だわ。ここから急いで離れないと」
少女は間近で起こった爆発の衝撃に身体を持っていかれ、壁に勢い良く叩き付けられていた。身体中に鈍い痛みが奔っている。だがここにいれば崩落に巻き込まれるのは明白だった。
だからこそ痛みを押して急いで戦線から離脱する事にしたのだ。炎龍がこの程度で討伐出来るハズもないし、一時戦線離脱しても再びまみえる予感はあったからだ。
一方で炎龍は混乱している。攻撃を受けた事もそうだが、少女が放った凍盾征製は炎龍の熱源を奪った事で末端に行けば行く程に、炎龍ディオルギアの身体を容赦無く凍り付かせていた。その事が炎龍の行動を不自由にさせている。
更には自分の棲家が崩落を始めた事も追い打ちを掛けていた。
凍り付き不自由な身体は混乱していたから、手っ取り早く炎で焼いた。崩れゆく棲家から逃げる為に翼を広げ羽ばたいたが、混乱してる事とは関係なく飛ぶ事は出来なかった。
何故ならば翼の付け根がLAMの一撃に因って抉れており、飛ぶ力が奪われていたからだ。
クリスは迷っていた。少女が洞窟に入ってから既に20分近くが経過しようとしている。
クリスがいる位置からは太陽は見えないが、辺りは次第に薄暗くなってきていた。それは夕暮れ時で日没が迫っている事を示している。
途中で1度、外まで爆発音が聞こえ叫び声の様な音が響いて来ていた。それから幾ばくかの時間も経たない内に、今度は幾つかの爆発音が聞こえた。
それからはずっと大地が揺れている。少女はLAMを1本しか持って行っていない。だが起きた爆発は複数回。
それがクリスに違和感を齎していた。
然しながら少女の指示は「ここで炎龍ディオルギアが出て来るのを待つ事」であり、「出て来たらLAMを撃つ事」だ。なのでどうしようもない違和感を覚えながらも、心細くなりながらもクリスはひたすら待っている。
『ん?何かが近付いて来ている!?』
ウウゥゥゥ
ウオォォォォ
グルルルルゥ
クリスは何かの気配を感じ取っていた。それは速いスピードでクリスに向かって近付いて来ている。
クリスが振り返るとそこには、いつの間にか少女のガルム達が集まり唸り声を上げていた。
ガルム達はクリスの後ろを向き一様に唸っている。クリスは敵の気配を察知し担いでいたLAMを優しく地面に降ろすと、「すらっ」と長剣を抜くのだった。
空は紫色のマジックアワーとなって辺りには既に夜の帳が降り始めている。その闇に乗じて何かが集まって来ていたのである。
クリスは長剣を握り締めている。クリス達の周囲には既にマジックアワーの薄い光を浴びている何かが、目を赤く光らせながらクリス達を見詰めていた。




