Rumbling Executioner ν
少女は目が覚めた。それは「唐突に」だった。
「何かの夢を見ていた」なんて事もなく、「夢の中で起こされた」なんて事もない。何かの契機があって目が覚めたのではなく、「目を覚ます」事が自然の流れであるかのような、そんな自然な目覚めだった。
「あれ?ここは?」
その自然な流れからは一転するかのような少女の言葉だ。自然な流れで普通に眠りに堕ち、自然な流れで目が覚めたのであれば絶対に出て来ないであろうその「言葉」が、その異常さをちょっとだけ物語っていた。
「アタシは一体?ってか、ここはアタシの部屋じゃないッ!!えっ?えっ?何が起きてるの?」
「装備も着けていないし……。これってアタシの寝間着よね?」
「あれッ?そう言えばアタシ、死んだような気がしなくもないし、死んでなくても重症くらいには傷を負ってた気がするんだけど……」
「傷がどこにもないし痛くも痒くもないわね」
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。やっぱりアタシ、リビングデッドだったのかぁ……。はぁ」
「これからどうやって生きていこう。ハンターから狩られる側に回る事になるなんて想像もしてなかったわ」
「アタシの討伐依頼なんて出てないわよね?」
少女は狐につままれた様な感じだった。さっき起きた時に見た光景の直前にある記憶は炎龍討伐戦だ。そしてその記憶に残る最後の映像は、目の前に迫る炎龍ディオルギアの爪だった。
少女は自分の顔や腕、脚、お腹、胸にお尻などをまさぐっていた。手が届く範囲で触れる所は全てまさぐろうとさえしていた。
それは別段変な意味ではないが、誰からも見られていないから出来る芸当でもある。
拠って誰かに見られていたとしたら、恥ずかしくて死んでしまってるかもしれない。
もしも仮にそうなったら、「炎龍でも殺せなかったのに恥ずかしさで死んだ」と笑い草になるだろう。
そして少女は自分の胸を触ってから深いため息を1つだけ吐いていたが、その点について触れてはいけない。
気を取り直して身体中のあちこちを触っていったが、大きな傷どころかかすり傷や火傷の跡すらない凄くキレイな身体だったと自分で自画自賛してみたりもしていた。それはまぁあくまでも、独り言の範疇で……だが、多少なりとも心は痛かった。
当然の事だが少女は記憶の中の迫ってくる炎龍の爪を思い出すなり、自分は死んだハズだと思っていた。だからこそ冗談を口にしながらも、冗談ではない感じしかしない。
本気で思っていないが、フラグを突き立てようとしていた感じがしなくもない。
そこで少女は前向きに発想を転換する事にした。例えばあの時の闘いで傷を負った自分が、何年も寝ていてたった今目覚めたなら「傷がなくても当然だ」と思い込み、ベッドから立ち上がるなり廊下へと出ていった。
その仮説が正しくなくては本当に、リビングデッドだと認める事になるかもしれないからだ。
然しながら何年も寝たきりだったなら筋力が衰えている為に、産まれたばかりの子鹿みたいに歩けないハズなのだが……まぁ、そこまでは考えが回っていなかった。
拠って数年を経て目を覚ました少女の姿を、爺やサラやレミが見たらきっと驚くだろうと心を踊らせて廊下に出たワケである。
「ねぇ、誰かいる?」
「は〜い。ちょっと待って下さ~い。今いきます〜」
「えっ?!普通の反応過ぎるッ。なんという……。うっ」
「デバイスでやっぱり「アタシ討伐依頼」の発注がないか確認しないどだわッ。はぁ」
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「あ、あれは一体!?あれはお嬢様なのですか?い、一体お嬢様の身に何が?」
「ま、まさか、そんな……」
「いえ、そんなハズは……」
『無事だったか、執事殿!』
『おぉ、これはクリス様。ご無事で御座いましたか』
『ご心配をおかけ致しました。当方は無事で御座います。この通りピンピンしております。シソーラスが護ってくれましたので』
『ところで、アレは一体なんなのだ?』
爺を見付けたクリスは急いで駆け寄って来てくれた。炎龍ディオルギアの息吹の直撃を受けていた為に、安否が心配だったからだ。
結果としてクリスの心配は杞憂に終わっていたが、爺の横には既に原型を留めていないシソーラスがあった。
だが現状はそこまで和やかなモノとは言えなかった。それは2人の視線の先にあった。
炎龍ディオルギアのその直上の空中には、左右で白と黒に分かれた十字架のようなモノが浮かんでいたのである。
視界に映る十字架のクロスされている横の棒が、左右それぞれ上へと弧を描きながら昇っていく。そしてそれが1つになった時に強烈な光が闇夜を照らしていった。
2人は強烈な光に因って目を開けていられず、目を閉じずにはいられなかったのだった。
光が終息し何かが崩れる音が響くと、2人は漸く目を開ける事が出来た。するとその十字架のあった下には、中心から左右に真っ二つに泣き別れた炎龍ディオルギアの躯が横たわっていたのである。
2人からすれば空に浮かんでいた十字架が「何」なのかは分からなくても、「誰」がやった事なのかは朧気ながらに分かっていた。
なんでそうなったのかは皆目見当もついていなかったが。
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クリスは自分が放った2本目のLAMが当たらなかった事。更には炎龍の様子が可怪しい事に気付いた時から、早々に戦線を離脱していた。
その行動は、以前までのクリスなら考えられなかったが、それは少女と出会った事で良い意味で変わった結果だった。
その後のクリスは少女と炎龍ディオルギアの死闘とも呼べる闘いを遠目に見ていたが、その表情には悔しさが滲み出ていた。
『此の身にもっと力があれば、もっと強ければ、共に戦えるのに……』
だがしかし事態は急変し、少女が炎龍ディオルギアの爪の餌食になったのを見たクリスは、自分の生命を捨ててでも少女を助ける為に駆け出していた。
の・だ・が、駆け出した矢先にシソーラスからの砲撃が繰り広げられ、その脚にブレーキが掛かる事になる。
シソーラスの砲撃はクリスの目に衝撃を植付け、耳に耳鳴りを植え付けていた。そしてその結果、クリスの勘が「近寄ったら死ぬ」と告げていた。
それら一連の砲撃で崩れていく炎龍ディオルギアを見て、クリスは正直なところ「勝った」と思いその場で飛び跳ねて喜んでいた。少女の事などスッカリ忘れて。
勝利の舞で小躍りする程の喜びをクリスは感じていた。少女の事などサッパリ忘れて。
しかしそれは束の間の喜びに過ぎず、炎龍ディオルギアの異常な行動でシソーラスが燃えていくのをクリスは見てしまった。だからクリスはシソーラスの救出に動いたのである。
少女の事などシッカリ忘れて。
爺はシソーラスから逃げ出すのに必死だった。
クリスはシソーラスに向かって走っていた。
だからこそ2人は、炎龍ディオルギアの息吹を止めた少女の行動の一切を、見ていなかったのだった。
2人がそれに気付いたのは2人が合流する直前の事。クリスと爺は自分達の視界の端にそれぞれ光を見た事で漸く気付いたのだ。
そして各々が自分の目で空に浮かぶ禍々しい/神々しい十字架を見たのである。
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少女は意識の無いまま立ち上がると、目にも映らない速さで炎龍ディオルギアの直下まで来ていた。
少女はそのまま腕を頭の上で交差させると、左右それぞれの手から禍々しい「剣」と神々しい「剣」をそれぞれ顕現させていく。
そしてそのままの体勢で炎龍の下顎目掛けて「体当たり」という名の突撃を仕掛けていった。
下からの突撃という不意を突かれた炎龍ディオルギアは、息吹の暴発を引き起こされながら、その視線は空を仰いでいた。
少女は体当たりをした後で、更に炎龍ディオルギアより高く上昇すると、頭の上で交差させていた腕を水平に開いていく。
この姿こそが2人が見た十字架の正体だ。
少女は左右の手を弧を描くように自分の頭上へと引き寄せていく。その左右の手のそれぞれには禍々しい漆黒の黒い剣と、神々しい光を放つ白金色の剣が握られていた。
少女が両方の手を頭上で引き合わせると2本の剣は混じり合っていく。それは禍々しくも神々しくもある、なんとも形容し難い1本の、天まで届く強烈な光を放つ光の柱(の様なモノ)を形成した。
そしてそれを少女は、そのまま有無を言わさず振り下ろしたのである。
2人は目撃した。十字架から光が失われていくさまを。
2人は理解した。十字架の中心にいた少女が、光を失い落下していくさまを。
2人は駆け出した。そのまま落下している少女を助ける為に。
2人は手を差し伸べた。少女が為すがまま地面に叩きつけられる事がないように。
2人は泣き出した。少女が傷1つなく無事だった事に。
辺りからは炎龍ディオルギアが放った、炎の残滓の悉くが消えかかっていた。周辺に光源となる物は、燻ってる火種くらいしかない。
しかし空には幾つもの星が幾重にも重なり合って、ところ狭しと競うように煌めいていた。
時計の時刻は既に深夜2:00を回っている。こうして夕刻から始まった炎龍討伐戦はこれをもって閉幕と言えるだろう。
だがッ!話しはこれで終わらない。
その後の2人の行動は途轍もない苦労の連続だった。
先ず爺は炎龍ディオルギアが無事に討伐された事だけを公安に連絡し、詳細は日が昇ってから再度連絡する事を伝えた。
一方、意識を失っている少女を連れた上で、更には大破しているシソーラスを屋敷まで持って帰る術は無かったのだった。
かと言ってここまでサポーターは入ってこれない。拠って手詰まりだった。
クリスはクリスで色々と考えており、どうにかして村まで戻りたいと考えていたが、先の小竜種の件が脳裏に過ぎり邪魔をしていた。
拠って空を飛んで帰る事を念頭に考えたが、少女と爺の2人を抱きかかえて飛ぶ事は出来無かった。
だからと言って意識を失っている少女と爺のどちらかを置いて、村に帰る事は流石に気が引けた。
日の出まではまだ3時間近くある。その間にあの小竜種達の群れに襲われでもしたら、一溜まりもない。
他の魔獣がソロで来る程度なら問題はないかもしれないが、2人を庇いながらだとやっぱりキツいとしか言いようがない。
更に付け加えれば頼りになる使い魔達は、既に少女のデバイスに収まっている事から呼び出す事は出来無かった。
拠ってクリスもまた手詰まりだった。
然しながら助け舟は唐突に現れた。ダフドが魔獣に襲われる可能性を顧みず、少女達の救出に龍人族達を連れて出向いて来たのである。
だがその前に助け舟は唐突に現れたが、こんな夜中に現れる事が先ず可怪しい。帰りの遅い娘を心配して迎えに来たなら分からなくもないが、それでも山刈りのように大人数でゾロゾロとは来ない……だろう、多分。いや、来るかもしれない。まぁ、どのみちそれは分からない。
拠ってどうでもいいことだ。
然しながらやはり可怪しいと言えば可怪しい。なのでこれ以上つべこべ言わずに可怪しい事にする!
だ・か・ら、その「可怪しさ」を払拭する為には先ずそもそもの話し、何故ここに爺がいるのか?という事に話しから説明しなくてはならない。
拠って話しは遡る。嫌でも強制的に遡らせて頂く。
それは少女が村を出る前に通話していた内容と、村を出る間際にダフドに耳元で話した辺りまで戻る。
少女はあの時クリスにLAMを取りに行かせている間に、爺に応援を要請していたのだ。
それは急遽炎龍討伐戦に臨む事となり、少女は戦略の変更を余儀なくされた事を発端にしている。
だからこそ不測の事態を鑑みた少女は、爺に武器弾薬の補充も兼ねてシソーラスの派遣を要請したのであった。
少女はシソーラスの中に兼ねてより仕込んでおいた魔術砲弾がある事を覚えていた。更にシソーラスはその運用上に於いて、基本的にはマンパワーが必要だが装填準備さえ終わっていれば、後は指示を直接伝えるかデバイス経由で伝えれば指示通りに完遂してくれる。
シソーラスは魔術砲弾を3発。通常砲弾であれば5発までは前もって装填準備をしておける。よって計8発までは砲台として機能する事が出来る。
これもまた少女が炎龍討伐戦にシソーラスを欲した理由の1つだった。
付け加えれば魔獣達が湧く時間帯であったとしても、シソーラスであれば絶対防御の外装がある事から、防御面に於いても抜かりは無いと判断した故の要請だったのだ。
一方で爺がシソーラスに乗って来ているのは、少女に取って想定外であり嬉しい誤算だったのも事実である。
そしてシソーラスに乗っていたからこそ爺はダフドに、色々と依頼していた。
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ダフドは日が暮れた後に周辺の山道を走って来る車を上空から監視していた。その結果として村の結界付近まで近寄って来ていた1台の車を見るや、近寄り声を掛けていった。その車がシソーラスであり、中には爺が乗っていた。
爺は声を掛けてきた者が龍人族だと分かると、少女の応援に来た旨を伝えたのだった。
爺はシソーラスを巧みに操りダフドの誘導の元に、認識阻害の結界を抜けると、ダフドに聞いた戦場までの道程を進んでいった。
爺は途中で現状のままでは分け入る事が出来ない道程を、シソーラスの外装を「悪路走破用装甲・ヤタガラス」に変更し、決戦の地まで走破していったのだった。
だがその前に爺は結界内まで道案内をしてくれたダフドとの別れ際に、1つの「お願い」をしている。それは「深夜になっても帰って来なければ様子を見に来て欲しい」と言う「お願い」だった。
爺からの「お願い」にダフドは正直な所は悩んでいた。然しながら深夜になっても討伐完了の知らせがなければ、もしかしたら討伐は成功しなかった可能性が出て来るし、ハンターとの相討ちならいざ知らず炎龍ディオルギアが存命であればそれは村の一大事にもなり兼ねない。
冷たい言い方だが族長としては、村の為に討伐に赴いてくれているハンターの生命よりも、付いていった自分の娘の生命よりも、村に住まう同朋達の生命の方が天秤にかける重たさは重くて重要だった。
その事を思い直した結果、打算的にダフドは快諾した。
一方で流暢に自分達の言葉を話す、得体の知れない爺に対しては大変興味を持ったがそれは余談である。
シソーラスは戦場に向けて道無き道をひた疾走り、見晴らしのいい所で一旦停まった。
爺はその場所で周辺の様子や戦場の状態を窺う事にしたのである。
「こと戦闘に於いてハンターは「戦況の把握」を先ず第1に為さねばならない」
それが爺にとって、戦場で万全を期す為の座右の銘だ。爺は現在はご存知の通りハンターではないし、過去にハンターだった公式記録も無い。
だが何故かハンター格言をこれまでいくつも少女に教示して来ていた。
だがそれは死地に赴くのであれば、無闇な特攻は自分だけでなく仲間がいれば仲間をも死に追いやる事に繋がる。
拠ってハンターでなくてもどこかの指揮官クラスか、それ以上の存在であれば知っていて当然の教訓だと言えるだろう。
「あの状況は、いけませんね。大変に宜しくありません」
爺は自分のいる場所から遥か彼方で起きている戦闘の様子を、シソーラスのスコープで確認していた。爺がスコープで確認している辺りは煌々と空が赤く爛れていた。
何故ならばそこには炎龍ディオルギアが、その身に炎の鎧を纏っており周囲へと火炎弾を振りまいていたからだった。
「急いで援護をしなければなりませんね」
「少し遠いですが、的があれだけ大きいんですから、まぁ、当たるでしょう」
爺は急ぎシソーラスの荷台から一丁のスナイパーライフルを抱えると、狙撃のベストポジションを探した。そこでボルトハンドルを引き弾薬をチャンバー内に装填していく。
今回は相手が炎龍ディオルギアという事も考慮して、使用する弾薬は通常のマグナム弾ではなく、スカディの精霊石弾をチョイスし用意していた。
然しながら急遽の要請だった事もあって、用意出来たのは屋敷にストックしてあったマガジン3個分の弾薬。つまり計15発だけであった。
「カチャッ」という乾いた音が、小さいながらも逞しく鳴り響いていく。その流れでスコープを覗き込み照準を合わせ、トリガーに指を掛けるとゆっくりと弾いていった。
だッーん
爺はスナイパーライフルにサイレンサーを付けていない。拠って銃口からのマズルフラッシュが闇夜を一瞬だけ照らし、火薬に引火し炸裂した破裂音が闇夜の静寂に響き木霊していく。
夜の戦場で敵国家の兵士を相手に狙撃しているならば、それは居場所を教えているようなモノだから命取りになる。
だが今回の相手は炎龍ディオルギアであって、距離もある事から特段構わずに弾丸を放っていく事にした。
バイポッドで銃身を支え、肩口でストックを押さえ込みチークパッドに頬を押し当て、狙いに対して安定性を取る。
火薬が炸裂し銃身から放たれるその反動に対し、爺の安定姿勢が崩れる事は無く再びボルトアクションを起こしていった。
空薬莢が排出され新しい弾丸が装填され、再び銃口を向け引き金を弾く。それはまるで精密機械のような一連の流れる動作であって、爺は15発全てを炎龍ディオルギアに命中させたのである。
全弾撃ち尽くした爺はシソーラスに無言で乗り込み、炎龍ディオルギアに対して今まさに「型」を放たんとしている少女の元に向かって、シソーラスを走り出させていった。
少女はそこまで爺の話しを黙って聞いていた。
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少女が廊下に顔を出して誰かを呼ぶと、レミが声に反応して「てってって~」とやって来たのだった。そのレミは頭にバイザーを装着していた。
だから少女は普通にレミの言葉が理解出来たし、レミもまた少女の言葉が理解出来ていた。こうして少女は失意の内にレミと共に爺の元へとやって来たのである。
爺は広間にいた。広間で何やら物思いに耽っている様子だった。
「お爺、あるじさまがお話しがあるって言ってたから、連れて来たよッ」
「おや?レミですか。ん?お嬢様ッ!?」
「お爺?流石はレミね。ってか爺、どうしたの?」
「いえ、何でも御座いません」
「おはようございます、お嬢様」
「ねぇ、爺。アタシの討伐依頼って上がってないわよね?」
「は?何を仰っているのですか、お嬢様?」
「え?あ、うん、何でもない、何でもない。気にしないで忘れてッ!」
「お嬢様、それが当方にしたかった話しで御座いますか?」
爺は少女の顔を見るなり何やら一瞬だけ驚いた表情をしていたが、直ぐにいつもの表情に戻っていた。その後少女は自分のリビングデッド疑惑の確認をしたかったのだが、直ぐに変な事を言ってると気付き慌てて手を横に振っていた。
「爺、話しを聞かせてもらえるわよね?」
「そうで御座いますね。当方が知っている限りの一部始終をお嬢様にお伝え致します」
「レミ、お嬢様に紅茶のご用意をお願い出来ますか?」
「はーい、お爺分かった!やって来る~」
「それにしても「お爺」ねぇ。なんか懐かれてるのね。ふふふ」
こうして爺は少女に対して自分が見たモノを、そのままの言葉で紡いでいった。
然しながら途中まで話しを紡ぎ終えた爺は口を閉ざすと広間の天井を仰いでいき、間を置いてから再び徐ろに話しを紡いでいくのだった。
その後の爺の話しはダフド率いる龍人族達に拠って守られながら、3人が村に帰った後の話しだ。
炎龍ディオルギア討伐の翌朝になると、爺は方々に段取りを取っていった。
先ずは炎龍ディオルギアの躯について。流石にこのままでは躯が傷んでしまい、素材が取れなくなる為に早急に手を打つ必要があった。
拠ってダフドから長老達に話しを通してもらって、サポーター達の侵入経路を確保した。
サポーター達は討伐対象の躯の回収をする際には、その大きさに拘わらず持ち帰れる素材は全て持ち帰らなければならない。
然しながらセブンティーン同様に、虚理で編んだ空間を保有している特別仕様車を使って素材を運ぶので対象の大きさは問題にならない。
だからこそ問題になるのは侵入経路なのだ。
必ず車をそこまで到達させなけらばならない為に、「どうやって回収対象物まで行くか?」のルート選定が特に大変と言える。特に今回のような外界と隔絶された地域なら尚更の事だ。
拠って段取りに爺は奔らされた。そしてその件が片付いた時には既に太陽は傾き始めていた。
「先程、炎龍ディオルギアの躯を見させてもらったよ。まぁ、この素材はウチらが解体しても、その殆ど全部を静岡国に持ってかれちまうンだけどね」
「それにしてもまぁ、中位の古龍種を討伐するなんて流石としか言えないが具合はどうなんだい?」
「お嬢様はお身体に異常は御座いませんが今は意識はなく、お休みになられておいでです。ご心配をおかけ致します」
「意識が無いだけで無事ならそのうちひょっこりと目を覚ますだろうさね」
「ところで話しを戻すが、素材についてこっちの取り分は無いがハンターの取り分はある。こんだけバカでかいんだ、1割でも結構な量になる」
「意識が無いなら本人に確認のしようがないから代わりに聞くんだが、何が欲しいか分かるかい?分かるならドクに伝えておいてやるが」
「静岡国に送りつけなきゃならんから、あんまり猶予はないんだ。遅れただけで変な言い掛かりを付けられるとたまったモンじゃないしねッ」
「左様でございますか。お互いに難儀で御座いますね」
マムはこの神奈川国の国家元首である。拠って本来ならばマムには公安の関係者か所属するハンター以外から連絡を取る事は出来ない。
一般人が国家元首に対して連絡出来ないのは当然の措置と言える。
だが今回は例外措置として爺が報告をした。そもそも爺はマムの「知人」である事から連絡をする事に制限を受けているワケではないが、普段から別段意味もなく連絡はしない。
だから最初、爺からの連絡を受けたマムは訝しんだ。「何故本人からではなく爺からなのか?」と。
だがその解答の為に少女の意識が無い事を告げられると取り乱していた。
しかし結局のところ、無事に炎龍ディオルギア討伐が完結した事を聞くと、その声の表情からは安堵の色合いが漏れていった。
やはり国家元首と言う重責は国民あってのものだから、マムなりに苦悩していたのかもしれない。
その後、暫く時間が経って今度はマムから爺に対して通話が入った。マムからの通話の内容は素材についてだ。
それは爺から少女の意識がないと聞いた事や、静岡国に対しての段取りなどの件から仕方なく掛けた様子だった。
爺は「何を作る」のに「何の素材」が「どれ程必要」なのかは正確に把握していない。だからマムに「何の素材が欲しいか分かるか?」と聞かれても困ってしまっていた。
然しながらそれは当然の事だった。
「マム様、当方にはお嬢様の欲しい素材が分かりませんが、お嬢様が欲しがっているモノならばなんとなくですが分かります」
「そういった注文では難しいでしょうか?」
「素材じゃなくてモノかい?まぁ、それならそのモノが分かれば必要な素材が分かるから結局同じだ。構わない。教えておくれ」
「はい。それではお応え致します。お嬢様は一振りの剣を欲しておられるように御座います」
「剣……か。だがどんな剣だい?剣にも色々な種類がある。小剣に細剣といった片手剣や、両手剣だと刀や長剣、後は大剣なんてのもある」
「どれがいいかアンタに分かるかい?」
「お嬢様の性格を考えれば大剣が宜しいかもしれません。大剣でしたら防御力も御座いますし攻撃一辺倒で鉄砲玉のようなお嬢様には向いていると思われます」
「あーーっはっはっはっ!!流石だなッ。なかなかの言い草じゃないかッ。流石は保護者だッ。よく見ているな、アンタッ!」
「恐れ入ります」
「じゃあ、炎龍ディオルギアの素材で大剣を造れる分の素材で計算するとなると……うーん。それでも素材が余りそうだ。他には何かあるかい?」
「左様でございますか。それでしたら炎龍討伐戦でお嬢様のハーフメイルが壊れてしまったようですので、替わりになる防具を造って頂ければと存じます」
「えっ?!あのハーフメイルが壊れたってのかい?それはどんな風にだいッ!」
「壊れ方次第じゃ身体に異常しかないハズだよッ!」
「えぇ、恐らくはバストサイズを盛って造られていたのが幸いしたものと心得ております。お嬢様の悪知恵なのか、はたまた?」
「あ、あぁ、うん、それならば良かった良かった。うん、良かった」
「まぁそれならそれで素材の件はなんとかなりそうだ。武器と防具作成はドクにそのままオーダーしておくから数日もあれば出来るだろうさ」
「それでもまだ素材が余る様ならドクになんか造らせておくし、保管しておく事も出来る。だから一緒に受け取るといい」
こうして素材の件はなんとかカタがついていった。最終的にマムは捲し立てるように通話を切ったのだが、それはまぁ、バツが悪かったから……と言うのは察しが付くだろう。
実際のところ少女が身に着けていた魔銀鋼製のハーフメイルは、炎龍の爪撃から少女を護っていた。
マムは少女をからかう為にワザとバストサイズを盛っており、その結果としてからかうのは成功した。
だがこれが少女を救ったとも言える。
バストサイズが合っておらず、胸の部分にスキマが空いていた事が幸いしたのだ。
それに拠って炎龍ディオルギアの爪撃は少女を上下に両断する事がほんの少しだけ出来なかった。要はバストサイズを盛った事で、爪の長さが少しだけ足りなかったのである。
そもそも概念魔術を破れる程にまで強力になっていた爪による攻撃を喰らって、バラバラにされなかったのは奇跡としか言いようがない。
だから言い様に拠ってはバストサイズが合っていても合っていなくても変わらなかったかもしれない。拠って爺は少女の秘密を隠す為に、マムを煽ったとも言い換えられる。
とは言え結果として、爪撃に因って重症は負ったが少女の身体は上下に泣き別れなかった。
もしも上下に泣き別れていたらそのまま即死していたかもしれないし、不思議な力で復活出来なかったかもしれない。まぁでも、どっちみち死ななかったかもしれないがそれも含めて全てが憶測の範囲を超える事は無い。
爺はマムとの2回目の通話の後でシソーラスの回収に向かった。シソーラスが置いてある場所までは悪路であり、中々に困難な道程ではあったが、セブンティーンを無理やり走らせなんとかシソーラスの元に辿り着かす事が出来た。
拠ってシソーラスはセブンティーンのトランク内に収納されていった。
シソーラスをトランクに納めた後で、爺が村まで無事に戻った頃になると太陽は既に沈む直前のマジックアワーを魅せていた。
一仕事終えた爺が村に着くと龍人族達は炎龍ディオルギア討伐を祝して宴の準備をしていた。当然のように龍人族達は、少女が目覚めるまで村を出ていかないだろうと考えていたし、助勢に来た爺も残ると考えていたのだ。
更に言えば龍人族の言葉を話す爺についても色々と聞き出そうとすら考えていた。然しながら爺は「お申し出は大変有り難いのですが、お嬢様とお屋敷が心配なので辞退させて頂きます」とだけ一方的に言い残すと、早々に村を後にしていったのである。
ダフドを始めとしてクリス達龍人族一同は、村の救世主たる少女に対して、別れも感謝も伝える事が出来ない急な幕引きに、遣る瀬無い気持ちで一杯になっていった。
爺が意識の無い少女を連れて屋敷に戻って来た時には既に夜になっていた。更には爺が屋敷に到着すると、サラとレミは屋敷の玄関先で2人を出迎えてくれていた。
「2人はお嬢様のお着替えを頼みます。取り外した装備は当方の所に後で持って来て下さい。お嬢様のお着替えが終わりましたら、お嬢様をそのままベッドに寝かせてあげて下さいね」
「もしも2人掛かりで着替えさせたお嬢様をベッドまで運べなければ手伝いますので言って下さい。2人とも分かりましたか?」
「かしこまりました。執事長」 / 「分かったわ、お爺」
流石に玄関からサラとレミの2人で少女を部屋まで運ぶのは当然難しい。拠って部屋までは爺が少女を抱きかかえて連れていき、その途中で仕事の指示を出していた。
暫くすると2人は仕事の完了報告と共に、少女の装備を爺の元へと持って来た。こうして爺は2人から受け取った少女の装備の点検を始めていく。
一通りの点検を終え修理出来るところは修理した後で、爺は一振りの刀へと視線を移していった。
「おや?力を貸すのはディオルギアの時だけと言っていた気がしましたが……」
「エルディナンドのヤツめ。どういった腹積もりでしょうかね?まぁ、直接話してみる事にしましょうか」
「もしも良からぬ事を考えているようでしたら、お説教が必要ですからね」
「お嬢様が目覚めたのは、炎龍を討伐したあの日から3日後で御座います。龍人族の村で丸1日あまり。この屋敷に帰って来てからは丸々2日間眠っておいででした」
「ねぇアタシ、どうしちゃったのかな?今回の炎龍討伐戦で2回目なの。よく分かんない力で敵を倒しちゃうヤツ。爺は分かるかしら?」
「当方には分かり兼ねます。お応え出来れば良かったのですが、申し訳ありません。ところで、2回目とは?」
「前回は魔犬種の王の時なの。その時は全て終わった後に直ぐに意識は戻ったんだけど……」
「今回は話しを聞く限りだと3日も意識が無かったんでしょう?アタシ一体何者なの?何でこんな変な力があるの?本来ならアタシ、死んでるんだよ?」
「やっぱりリビングデッドなのかなぁ?聖水とかかけたら苦しみながら死んじゃうのかしら?」
「それはまたご冗談を」
「魔犬種の王の時も、今回の炎龍の時だって、アタシ、お腹に風穴開けられて、本当ならもうこの世にいないハズなのよ?それなのに、なんでアタシは生きていられるの?」
少女はどうしようもなく不安だった。
少女は心の中が爆発しそうだった。
少女は自分が自分ではなくなってしまいそうで、心がはち切れそうだった。
感情が溢れずにはいられなかった。だからこそ溢れ出た感情は少女の頬を濡らしていった。
既に少女の両親は既に他界しており、自分の身体に何か秘密があったとしても聞く事は絶対に出来無い。両親の墓こそ無いが、それこそ両親揃って少女の秘密を墓場まで持って行ってしまったのだから。
「もしも、お嬢様がお嬢様で無くなってしまうのでしたら、その時は当方もお嬢様に全力でお供致しましょう」
「爺……」
「お嬢様がお嬢様のままでいらっしゃるのでしたら、当方はどこにも行かずこのお屋敷でお帰りをお待ちしております」
「爺、アタシの事を口説いてるの?」
「でもごめんね、爺。アタシは爺のお嫁さんにはなれないの」
「お嬢様、ご冗談が言えるのでしたらもう大丈夫でございますね?」
「ご冗談が言えるくらい元気なのでしたら、お仕事が残って御座いますから片付けた方が宜しいかと」
感情が昂ぶり心が荒んでいく少女の頭を、爺は優しく撫でていった。少女は爺から紡がれた言の葉で疑問は解けなかったが、不安は少しばかり拭えていた。
ただし不安は残っていながらも、少しばかり気恥ずかしい気持ちにすり替わってしまった為に、はぐらかしたに過ぎない。
こうして少しばかり気が楽になった少女は、爺をからかった挙句に広間から退散していった。
「友よ、当方はいつになったら打ち明ければ良いのであろうな?」
『まだ、落ち込んでいるのか?』
『あぁ、おやじどのか、ほっといてくれ』
『放っといてくれと言われてもなぁ……』
クリスは少女が帰ってしまってからというもの、気が落ち込み食事も喉を通らなくなっていた。ダフドは日に日に窶れていく、そんな娘の姿が見ていられなかった。
拠ってダフドは事ある毎に、否、事が無くても話し掛けていたが、クリスは全てにおいてやる気を失くしており、ダフドは無下に扱われるだけだった。
クリスは住居の部屋に閉じ籠もり出てこようとしない。生憎と住居は簡易的なモノなので、ガラス窓もないし各部屋には扉もない。
更にはライフラインのインフラなんてあるハズもないので、住居内の灯りはロウソクの火か焚き火だ。
だから閉じ籠もっても閉じ籠もっている感じはしないが、食材の狩りや炊事洗濯などをするワケでもないので、引きニートである事に変わりはなかった。
『クリスの事で、族長は気に病んでいるのか?』
『あぁ。これじゃまるでダメな父親だ』
『アイツが生きててくれたらこんなにも悩まなかっただろうか?』
『死んだ嫁の事を考えても始まらんだろう?』
『今はクリスに何かしてやれる事を探さないと』
『あぁ、そうだな』
このままではクリスに続きダフドまで窶れていく気がしていた龍人族達は、事ある毎にダフドに話し掛けていた。だがそのダフドもクリスの事で、頭がいっぱいいっぱいな様子だった。
拠って族長としての仕事は手付かずになっていた。
『長老殿!このままでは族長父娘が可哀想です。見ていられません。何とかしてあげられませんか?』
2人を見ていられなくなった龍人族達は、長老の元へと次々に駆け込んでいった。そしてそれらの陳情は日に日に増えていった。
結果として長老達もうんざりしていた。
龍人族の若い衆は、「このままではいけない。どうにかして2人に元気になってもらいたい」と必死に考えていった。
だから先ず考えた。「クリスが元気になればダフドも元気になる」と。
次にこう考えた。「クリスは救世主様に何も言えなかったから元気を失った」と。
そして結論。「救世主様ををもう1度この村に呼べば良い」と纏まった。
だがここで1つの問題が持ち上がっていく。
『あの救世主様は、どこに住んでいるのだ?』
『そうだ、確かにそうだッ!』
『誰か救世主様の居場所を知っているか?』
『一体誰が救世主様の居場所を知っているんだ?』
『救世主様の家を知ってる者が1人だけいるぞ!』
『それは、誰だ?その者に救世主様を連れて来てもらおう!』
『そうだそうだ!』
『で、それは誰なんだ?』
『クリスだ』
『じゃあ、クリスにもう1度、救世主様を呼んで来て貰えばいいじゃないか?』
『そうだそうだ、それがいい!』
結果として目的の為に手段を確認する為の話し合いは、手段の為に手段の確認へとすり替わり、最終的に手段の為に目的を忘れる結論を出した。
それはもう堂々巡りであって、本末転倒としか言いようがなかった。
『クリス!もう1度、炎龍ディオルギアから村を護ってくれた救世主様を、ここに連れて来てくれ!』
『此の身が救世主様を、もう1度この村に?』
堂々巡りの本末転倒な結論をクリスに伝えた者がいた。クリスはその言葉にほんの一瞬だけ元気を取り戻し、明るい表情になっていた。
『馬鹿者ッ!お前は何を言っているのじゃ?我等が「掟」を分かっているのか?』
『もちろん存じております』
『では何故クリスがもう一度、救世主様を迎えに行くのじゃ?』
『な、何故それを?』
『何故も何もクリスが我等の元へと挨拶に来おったからじゃ』
『それで長老殿はなんと応えたのです?』
『「そんな許可は出しておらん」と言ってやったわ!』
『なんでそのような事を言ったのです!』
『ならば聞く。クリスに掟を破らせるつもりじゃったのか?』
長老が大声で叱責していた。それはもう怒るのが当然と言えるが、怒られている側は何故怒られているのか分かっていない。
堂々巡りで本末転倒な解答を正解だと思い込んでしまったのだから、仕方ないとは言えるがそれでも無知過ぎるとも言える。この場合、無知な事は罪であり、賛美されるような事ではないからだ。
龍人族には「掟」がある。それは「自分達の存在を隠している認識阻害の結界よりも外に出てはいけない」というモノである。
だがそんな掟にも例外があり、それが炎龍ディオルギアの襲来の時だった。炎龍襲来に因って困窮した龍人族の長老達は、族長の娘だからこそ例外として「救世主の捜索」に向かわせた経緯があった。
だが例外は飽くまでも例外であって、ホイホイ出せるモノでも出すモノでもない。種族存亡の危機に瀕する状況ならいざ知らず、内容が内容だけにそんな下らない例外を許可して前例を作るワケにもいかなかった。
それ故に「掟」を破る事を助長する発言をした若者が、叱責されているのは当然の事だ。
『ですがこのままでは、クリスだけでなくダフドまで死んでしまいます』
若者は怒鳴られ叱責されても諦めなかった。諦めようとはしなかった。だからこそ長老に対して食い下がっていった。
ちなみに、クリスはまだ死んでいない。そう言う風に聞こえなくもない表現だった。
『そこまで言うなら分かった。少しクリスと話しをしてみよう』
『お前は何時までそうしている気じゃ?』
『ちょうろお……どの?』
『このままじゃと、お前達父娘が死んでしまうと若い衆から詰め寄られてな、様子を見に来たワケじゃが……まぁ、なんと言うか酷い有様じゃな』
クリスの様子を見に来た長老は、その散らかりように絶句していた。質素な造りの家で散らかる様な物は何1つとして無い。だから部屋の中が散乱しているワケではない。
然しながらクリスに対しては「散らかっている」としか表現が出来なかったのである。
「心ここに非ず」と表現した時に、「心がここに無い」ならどこかに行ってることになる。村以外のどこかへと散らかっていったのだと。
それは自然と「散らかった」のか自分から「散らかした」のか、それとも誰かに「散らかされた」のかは分からないが、既にクリスの心はどこかへと「散らかって」いる様子だった。
そう表現する事しか出来ない有様だった。顔からは生気が薄れ表情は希薄で、体内の覇気は消え失せている。
クリスは「病的な被写体」としか表現出来ない程に死相を浮かべていた。
『クリス、お前はハンターとやらになる気は無いか?』
クリスを見ていられなくなった長老は徐ろに問い掛けていったのだった。




