第五十三話 元勇者は妖精たちにお礼を言われる件について(仮)
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「もしかして、その子、ヒカルの子!?」
とりあえず戻るかということになり、カナをつれて平原まで戻ってきた俺に向けて最初にユリスが言った言葉がそれだった。
問答無用で殴りつけてやりたくなるが、まあ、心は静めた。
「違う。その、昔の知人の娘だ」
カナに視線を向けて、話しを合わせてもらうように合図を送った。
「なんというか、たまたま会ってな。なんでも魔女の見習いとして、来てたらしい。だからまあ仲良くしてやってくれ」
「へえ……」
ユリスは薄目で、まだ少し疑っているようだが、とりあえずの納得はしてくれた。
というか、俺の娘が突然森の中から現れるわけがないだろうに、どうしてこうも頭がお花畑で出来ているのかというほうが、俺からすれば疑問だ。
「何か、発見はありましたか?」
ミアが聞いて来る。
「まあ、一応深層部には行って見たが、特にこれと云って発見はなかったな。ここらと変わらないよ。ただ、瘴気に周りが包まれていることくらいだ」
「中に入ったのですか?」
「まあな。浄化の力を使って入った。後でミアも一緒に来るか?」
「ぜひ、お願いします」
「ちょっと、それなら、私も連れて行きなさいよ!」
ユリスが突っかかってくる。
「別にいいけど、お前と一緒となると、時間が掛かるな」
「どういうことよ!?」
「そのまんまの意味だよ」
という言葉を最後に、ユリスからの言葉は無視した。
平原に横になる。
空はなんとも間抜けに綺麗な青空を形成している。空に意識があるとすれば、今はあくびをしている姿なのかもしれない、とか適当に思った。
隣にシャルが座る。
「スーパースローライフを過ごすためとはいえ、なんとも勤勉な元勇者様ですね」
「うるせえー」
シャルは時たまにまともなことを言うから、なんとも調子が狂わされる。
「スーパースローライフを果たすために、これは必要なことなんだ。それに今回は、ユージンたちがやろうとしている革命とやらが成功しないことは目に見えているだろ? 無駄な血を流されると作物がまずくなる」
「ふーん」
「なんだよ」
まったくむかつく顔でにやにやしやがって。
「私は、この世界がヒカルと同じ世界の二回目だけど、一体今までのヒカルがどれだけの世界で、同じような行動をしたのかなって思ってね」
「はあ、意味わからないこと言うな。元魔王のくせに。いや、サルのくせに」
「で、これからどうするの? とりあえず、魔女はこちら側になったけど?」
カナを見ると、カナは、ミアとユリスから幼女ということで、可愛がられている様子だった。実年齢にすると、あの二人の倍ほどの年齢だろうに、と思うが、別にカナ自身が嫌がっている様子がないので、放っておくことにする。
「とりあえず、調査が必要だな。おそらく決行日は、まだ少し先だろう。多分、俺たちがここでの調査を終わるまではやらないと見ていい。俺の見立てじゃまだ王都の瘴気率が充分じゃないからな」
王都に瘴気がうっすらと充満し始めていることは、ユリスの奇怪な行動により、わかった。俺とシャルは濃度の薄い瘴気くらいなら、平気な身体をしている。つまり、かなり薄く弱められた瘴気には、逆に気が付くことができなかったとうわけだ。
――まあ、ユリスがおかしくなったわけじゃなくて安心した。
もしも、この先もあのテンションのユリスが出てくることになれば、とても大変なこととなりそうな予感が起きてしまう。
いや、見方を変えると、あの状態が最悪出てくるとも考えられるのか、となると、対応策が必要になるな。下手すると死人が出る。
「だから、とりあえずは、後2日間、調査だな。この村じゃなく王都の調査だ。革命軍だけじゃなくて、黒魔術師の素性とかも知る必要があるだろう」
「オッケー。勇者への道は着々と進んでいるわけね」
「おい、やめろ」
一瞬、まさか、ここまでのことがシャルの思い通りだったりしないよな? と疑う。しかし、今回の出来事に関して言えば、シャルに誘導された瞬間はなかったはずだ。
良くも悪くも、俺の主導で動いているわけである。
――なんとも勤勉なことで。
怠惰こそがすばらしいはずなのに……。
それからは、適当に平原で過ごしたり、少し平原から森に入りミアや、一応ユリスの修行なんかも行ったりした。
気が付けば、日も落ちてきて、平原に灯るのは、薪をしている火だけとなる。
今宵は新月。
「ミア」
「はい。なんでしょうか?」
「ちょっと見といてみ」
俺は立ち上がり、平原の真ん中付近まで行く。
森の深層部には精霊――妖精が居なかった。それはつまり、その一体から逃げ出したということだ。まだ森が死滅していないとうところを見ると、妖精自体がこの森を見捨てていない証拠だともいえる。
それに、あの巨大なイノシシ。
あれが居るということは、黒魔術師の魔の手はこの辺りには及んでいないわけだ。
だとするならば、答えは一つだろう。
俺は両手を広げた。
そして、加護の力をうっすらと発動させる。
周りには、俺を取り囲むようにして精霊たちが集まってくる。これは、特別な精霊であり、通常存在するはずのない神の精霊。
俺はその精霊たちを、平原にうっすらと広げた。
すると、その精霊たちに誘発されるがごとく、平原全体が緑色の発光に包まれる。
「これは……」
「綺麗です」
そして、最後に拍手を一つ。
パチン。
すると、発光が強くなり、一度瞬きをして開いた瞬間。そこには……。
「これって……まさか!?」
ユリスが驚きのあまり立ち上がるのが見える。そして、その隣に居るミアも、口を開けて目を丸くしていた。
「彼らが、その存在の有無を疑われている。件の妖精だ」
平原に広がるのは、無数の妖精たち。
とても小さく、しかし気高く見える彼らは、背中に小さな羽根をつけていて、よく見ると様々な個性がにじみ出ている。
彼らはここに隠れていたわけだ。
逃げてきていたと言ってもいいだろう。
一匹の妖精が、俺の肩に乗ってきた。
「あなたは、あの黒魔術師を倒してくれますですか?」
「君は、この妖精たちの代表かい?」
「そうですます! あいつのせいで、僕たちの聖地が困ったことになているですます。仲間も何人もやられたですます!」
「それは大変だったな」
「あなたからは、悪意は感じないですます」
「まあ、俺はあの黒魔術師と、その裏の人間をとりあえず倒すつもりにしている。なあ、もし俺が黒魔術師を倒したら、一つお願いを聞いてくれないか?」
「なんですます?」
「俺は農業をしているんだけど、ここの土地はとても最適な場所だと思うんだよ。だから、君たちに俺の農業を手伝ってほしいんだ。もちろん環境に配慮した形でいい」
妖精が肩から飛び立ち、俺の顔の前で制止した。器用なものだなと思う。
「そんなのはお安い御用なのですます!!」
「そうか、ありがとう」
「ヒカルさん」
ミアが、俺に近づいてきた。
「こんなにも妖精さんたちが居るんですね」
「みたいだな。この妖精が、ここの代表らしいぞ」
ミアは、よっぽど妖精から気に入られているのか、彼女の周りには妖精がたくさん集まっていたし、肩には三匹ほど乗っている。
――妖精に気に入られるのは清い心だけだもんな。
一方のユリスは妖精にからかわれていた。
自然と笑みが出る。
シャルとカナは、静かに会話をしている。
「妖精さん、実は私、お礼を言いたいのです」
「お礼ですます?」
「はい。昔にある妖精に救われたことがありました。そのお礼を、あのときは、ありがとうございました」
ミアが深深と頭を下げた。
「それは、どこの森ですます?」
「南にある、小さな森です」
「なんと! もしかすると、そこに居た妖精は、私の娘だったかもしれないですます!」
「そうなのですか?」
「そうですます! 今はこちらの森に移ったですます!」
「え? ということはここに?」
ミアの問いに、妖精は顔を暗くして、首を横に振った。
「それが……、今は居ないのですます。連れ去られてしまったですます……」
「連れ去られた?」
「黒魔術師に、生贄の材料として連れ去られてしまったですます! 神聖な貴方様よ。我らが同胞も助けてはくれませぬかですます!!」
妖精が振りかえり、俺に言ってきた。
「多分、まだ生贄にはされてないはずだ」
ミアが俺を見ている。
――彼女に関わることなら、本気を出さないわけにはいかないな!
「わかった。助けてやるよ」
「ありがとうなのですます!!」
『ありがとうなのですます!!』
と、他の妖精たちも、頭を下げて言ってきた。




