第五十四話 元勇者が悩むところは、自身のキャラな件について(仮)
「ここからは俺の独壇場だ。いや、正確には俺たちの独壇場だな」
俺はユージンを見た。
彼は、俺に対してなんとも複雑そうな気持ちを抱えている顔をしていた。
まったく、俺はそういう顔がなんというか、苦手だ。
「今からお前がやることは一つだ。死ね」
「……わかったよ」
「馬鹿。お前が思っているような意味じゃねえよ」
俺の言葉に、ユージンは不思議そうに首をかしげた。
俺はすぐに死ねるというやつが嫌いだ。
――まあ覚悟は決めてたんだろな。
「私は革命軍として、君たちを騙して、しかも殺そうとしていたんだ。いや、殺したといっても言い。しかも、敵の間者だった者を使ってだ。なんとも滑稽で間抜けなやつじゃないか。ナルの言う通りだよ。私は浅はかな人間だった」
「今、お前のネガティブ発言を聞いている余裕は残念ながらない。というか、革命を起こしたかったら、自分が死ぬことを認めるんじゃねえよ。そんなのはただの死にたがりのお子ちゃまだ。お前に掛けて仲間になったやつらを裏切る行為だぞ?」
柄にもなく、熱が篭っているのが、自分にもわかる。
――ああ、よくないやつだ!
「……だけど……。それに私は一人殺してしまった」
「ああ、あの一人の教師か」
「見ていたのか?」
――なんとも馬鹿な教師だったな。確か名前は……ラクラクフォンみたいな名前だったっけ?
まあ、それはどうでもいいか。
「見ていたし、そういう意味なら、お前は一線はまだ越えてない」
「確かに、直接手は下してはいないけど、殺せと命令したも同然だ」
「革命をしようとしていたやつが、なんとも弱弱しい発言ばっかりだな」
――先の未来を見て、なんとも緊張の糸が切れたって感じかな。
わからないでもないが、それでは意味がない。
「だから、そういう意味でも、大丈夫だって言ってるんだ」
「あのときの教師は生きているよ」
シャルが笑みを携えて言った。
「俺たちのときと同じだよ。あのとき燃えて消えたのはドロ人形だ。つまり、ラクラクドンは生きている」
「誰だいそれは?」
――あれ? 違ったのか。
「まあ、とりあえず。大丈夫だってことだ。それに、お前の意気込みはかなり俺は買ってるんだ。貴族でありながら、違う思考を持っているのは珍しい。まあ、やり方は嫌いだけどな」
「…………」
「そこでだ。そこで、お前には死んでもらうわけなんだよ」
最後、俺の口元は自然と綻んでしまう。
――言ったろ? 独壇場だって。
□
俺がやって来た場所は、革命軍が集まる学園の第一訓練場だ。そこには、数百人の人間が姿を集めている。
ここに集まっている者たちは、それぞれ地位は違えど、同じ道に向かって進むために集まった同志達であり、おそらく、普通に暮らしていては繋がることのなかった人物たちである。
観客席から見ると、なんとも荘厳な雰囲気であり、とても緊張感が伝わってきた。
――流石に、これだけの人数に一挙に過去まで遡って記憶を改竄するのは骨が折れそうだな。
こりゃ、リミットを外す必要性が出てくるかもしれない。
だが、秘策がある。
それが、今右手に握られている。
俺がいくら、未来に死ぬはずだった革命軍たちを救ったところで、革命軍が起こした行動が残ってしまっては意味がないし、ここに居る彼らがここで行動することをやめてくれない限りは、彼らの命を救ったということは言えないだろう。
時刻を見ると、今から先行部隊の連中が出るか、という時刻であった。そちらには、シャルたちを向かわせているから、とりあえず大丈夫だろう。
――やり過ぎていなきゃいいけどな。
ネルだか、ナルだかが、突然心配になった。
さてと。
「ええ、てすてすてす。皆さん、お集まりいただきありがとうございます」
俺は、ユージンが立つはずだった壇上に、ひょいと乗り上げて、マイクに向かって言う。
そんな俺の姿を、その場の全員の目が捉えた。
――おお、殺気だってるねえー。
「俺が今から言うことを良く聞いて下さいね。今回の革命軍の革命的行動は、ちょっと中止にします」
おちゃらけて言ってみる。
だけど、誰一人として、俺を相手にしようとう人物は居なかった。
「お前は、ヒカルじゃないか!」
壇上の下から見知った声である。
「やあ、マリンダさん」
「貴様も革命軍に入ったのか?」
「まさかあー。そんなことしませんよ。俺が欲しいのはスーパースローライフなわけですからね。だから、あなたたちが今ここで行動を起こされるのは、俺としては非常に嫌なわけです。意味わかりますかあ?」
――まあ、わからんだろうな。俺もわからん。
「貴様、どういうつもり……――」
そこで、漸く、マリンダが俺の右手に持つ存在に気が付いてくれたようだ。
俺は、それと同時に、右手のそれを掲げる。
「だから、中止だって言ってるんです。これ、わかりますよね?
ユージン・サラエボの――首ですよ。
とりあえず、革命軍を止めるには、彼に死んでもらうしかないと思いましてね。つまり、彼を倒して俺がリーダーになろうと思ったわけです。だから、俺がリーダーだから、俺の言うこと聞くよね?」
右手に掲げられた首からは、なんとも生々しい赤色が垂れている。目は閉じて、生気など感じられるわけがない。
誰かが叫んだ。
女性の声だ。おそらく、革命軍の中には血生臭いことを知らない人間も居るのだろう。
訓練場の中にあった緊張感が、とてつもなく密度を増し、すべての殺気が一瞬で俺を捕らえる。
マリンダが、俺に対して踏みこもうとした瞬間。
「精霊たちよ。彼らから、魔力をすべて吸い取りたまえ」
俺は言って、指をパチンと鳴らす。すると、すべての人間がその場に倒れこんだ。
おそらく、誰もが身体がとてつもない疲労によって動かないと錯覚しているはずである。
理由は簡単。
俺に対して殺気だったことにより、俺の催眠が入りやすい状況ができた。それに、俺の言葉により、魔力がなくなるという幻想に取り付かれて、意識を飛ばされかけるという衝撃が身体を襲った。そのすべてが重なることにより、彼らは自らの身体から魔力が本当に吸いだされたと思い込むわけである。
――まあ、ただの手品だよ。
こうなれば、後は、本当に記憶改竄の魔法を掛けるだけである。
ここまで弱っている相手ならば、特になんの危険性もなく、掛けることができる。
俺が掛ける改竄の内容は以下だ。
一 革命軍は予行演習として学園を占拠してみた。
弐 つまり、まだ本格的に革命的行動を起こすわけではない。
参 俺のここでの行動を忘れる。
四 ユージン・サラエボは死んだ。
五 新たな革命軍リーダーに、ライム・ライトが付く。
六 革命軍を裏切ると、死ぬのろいが掛けられている。
以上の六つである。
その他にも、様々な調整はもちろんするわけだが、それは、ほとんど魔法が勝手にやってくれる。というか、こういうときのための千里眼だ。すべての人間の脳を覗き込み、良い感じに改竄することができるのは、この魔眼のおかげである。
――流石に、数が多いけどな。
まあ、楽勝だ。
「新たな魂の目覚めのために、過去を捨て去る勇気を!」
というわけで、俺はその場に倒れこむ人間たちに、両手を広げて、なんとも悪役が使いそうな魔法を掛けてやる。
しばらく、彼らの身体から、いろいろな記憶情報が出来て聞いた。
それが終わったタイミングで俺は、身体にローブを纏った。
改竄が早速行われたことを証明するように、各々が自分たちが倒れている理由を、記憶で辿りながら、立ち上がった。
そして、俺を見上げる。
「さて、諸君! 私が革命軍を親友ユージン・サラエボから受けついだ。ライム・ライトだ。ぜひライトと呼んでくれ」
俺の声で、静まり返る訓練場。
――よし、とりあえず失敗例はなさそうだ。
「どうだったかな? 予行演習は? すばらしかっただろう?」
ここで問題があるわけだ。
――革命軍のボスのキャラってどんな感じですればいいんだろうか?




