第五十二話 元勇者は、元仲間からの罵声を水に流す件について(仮)
俺はゆっくりと土の中に突然もぐることになってしまった幼女に近づいていく。幼女が故に出てきている顔はとても小さい。間違って踏んでしまいそうだ。
とりあえず、一発シャルに殴りつけられたことにより、気絶をしてしまっているカナを起こした。
ビックリ仰天、カナは目を見開く。
「あ、あんたたちは一体……」
「こんなこと言うと、びっくりだろうけど、俺がカナの知っている勇者で、あいつがカナの知っている魔王だよ」
「う、うそだ……。あんたが勇者なはずない!」
――普通は、勇者と魔王が一緒に居るところに驚くはずじゃないのだろうか。
本当にカナは勇者のことが大好きらしい。だからこそ、俺みたいな冴えないやつは認められないみたいだ。
――ってなんだよそれ。
「俺が纏っている加護の力を見ればわかるだろ? これを使えるのは、俺だけだ。奪って手に入れることができる力じゃない」
「だとしても! あんたが勇者だって証拠じゃ、それは弱いよ!」
――仕方ないか……。
最終手段だ。というか、別にそこまで息巻くほどのことでもなく、正直言ってこれをしたからと言って状況的には何も変わらないとは思うが、やるだけやるしかなさそうだ。
「じゃあ、これならどうだ?」
俺の身体は発光した。
そして、先ほどとは違う服を身に纏うことになる。それは、俺が勇者時代に来ていたかつての勇者服だ。今考えるとなんとも恥ずかしいほどにセンスのない服だ。
ノースリーブの服の下に、白いTシャツと、ズボンはただの綿パンで、黒。靴はサンダルに近い靴だ。
そしてよくわらかないバンダナを頭にしている。
「この姿の俺を見ても、俺が勇者だって信じてくれないのか?」
これでもかと、自信満々の笑みを演じてみる。
――あれ? 反応がないな。
まあ、確かに、そもそも容姿自体が変わっているのだ。格好だけを真似たところでどうなることでもないことはわかっていた。もしかすると、お前みたいなやつがあの人と同じ格好をするなんて! とまた怒りに油を注ぐ結果となるかもしれない。という危惧もしていたのだが、その反応も来ない。
――どういうことだ?
「……すばらしい」
「は?」
魔女であり、幼女であるカナの目は、先ほどまでの暗くどすぐらい目ではなく、現在は明るく輝かしいすべてを浄化しそうな目となっていた。
「あんたが、勇者だったんだね」
「え、ああ、そうだ」
――案外チョロかったな。
というか、この反応だと、俺じゃなくてもこの服装すれば勇者だって思うんじゃないか?
「すばらしいよ。すまないね。信じなくて。これからは信じるよ。あんたが勇者で、隣のその小娘が魔王…………って魔王!?!?」
――ああ、俺に気を取られて気が付いてなかったのね。
「どうして、魔王がここに!?」
「それについてはいろいろと説明をする必要があるんだよ」
俺はそれから、カナに対して、今までの俺たちのことを話した。といっても俺が百もの世界を転生してきたという話しはしていない。それをすると、またややこしくなりそうだったからである。
とりあえず、俺とシャルは激闘の末に死亡。
しかし、神が俺には慈悲として転生を、シャルには贖罪をするためとして転生を施し、今の現状としては、一応味方同士という立ち居地になっている。ということを話した。
「なるほどねえ……。わかったわ。それで、一つお願いがあるんだけど」
「なんだ?」
「できれば、ここから出してくれない? もう襲ったりしないから」
「え、ああ、そうだったな」
俺はずっと、土に埋まっていたカナに対して話しをしていたわけだ。なんというか、取り出すのが面倒だったとかではない。
――といっても、どう取り出せばいいわけだ?
だって、首しか出てないし。
まあ、とりあえず、首を引っこ抜くしかないか。
「痛みは一瞬だからな」
「え?」
「よっこいしょ!」
これは大根というより、要領としてはキャベツとかその辺りだな。気分としては。
――でもまあ、キャベツとかなら、根元から切っちゃうけど。
俺はカナの顔を掴み、一気に引き上げる。
カナの首がめしめしとよくわからない音を出しながら、また「痛い痛い痛い痛い痛い」と叫んでいたが、あまり気にしないことにした。神経質すぎるとよくないからな。
とりあえず、カナのことを人ではなく物として扱ったこともあり、カナの身体が土から徐徐に出てくる。その度にカナの顔面が蒼白となっていたが、これもあまりに気にしない。大体、健康的な顔というものがどういうものか、という議論が必要になってくるだろう。定義が必要だ。青白い顔をしていても、元気な人は居るわけで、そういえば、魔女はそういうイメージがあるじゃないか。
――万事オーケーやろ。
「せいや!!」
先ほどのシャルと、同様に、勢いで、カナを空に飛ばす。シャルに比べてカナのほうが軽いので、先ほどよりも倍近く飛んだ。
そのまま、カナも回転をしながら、身体についた土などを払い落として、地面に見事に着地をした。
その後、倒れた。
◇
「大丈夫か?」
「ああ、あんたの熱烈なキスでおきたよ」
「いや、俺はお前にキスしてない。人工呼吸したのは、シャルだ。あ、元魔王な。今はそいつはシャル。俺はヒカルって名乗っている」
「え? あのスター――」
「で! お前はここで何をしていたんだ?」
――軽々しく、俺の過去の汚点を口にしようとするんじゃねえよ!!
場所は、先ほどカナが勢い余って吹き飛ばしてしまった家屋の土台部分だ。そこにカナは横になって、その傍に俺とシャルが居る。
カナはゆっくりと起き上がった。唇がはれているのは、シャルの熱烈なる人工呼吸の賜物である。
「あたいは、ここで研究をね。デュラハンがやられたから、新しい悪魔を創造しようかと思って。そうか、あのときデュラハンが突然膝を付いたのは、あんたが魔王だったからなんだね」
カナはシャルを見た。それにシャルは笑みを返す。
「お前のところに、黒魔術師が来ただろ?」
「え? ああ、来たよ」
「どんな用件だった?」
――やっと本題だ。
「確か、いくつかのポーションを作って欲しいってやつだったと思う。瘴気発生を抑える魔術式の開発もお願いされたね。後は、この一体の森林の使用許可だったかな」
「なるほど、そういうことか」
「なにか、問題があるんだね」
「お前は気が付いているかわからないけど、この一体の妖精、つまり精霊はいなくなってるぞ。つまり、全部黒魔術師が持っていったってわけだ」
「なんだって!? そんなことをすれば、この森は……」
「死ぬな。だけど、別に森なんてあいつらからすればどうでもいいんだろうよ。必要なのは力だってわけだ」
――それにしても、どうしてそこまで力を欲する必要があるのか。
もしかすれば、戦争に向けて準備をしているのかもしれないな。
それにしても、魔女にも気が付かないように精霊を連れ去ったということは、かなり用意周到だな。
いや、もしかすると……。
「もちろん、その依頼を受けたんだろう?」
「まあね。一週間くらい前に渡したよ」
「そうか。よし、カナ。俺たちに協力してくれ」
「お安い御用さ。あんたの頼みなら、なんでも受けるよ。愛人としてね」
「あ、ああ、うん。頼む」
「それにしても、あんた、雰囲気が変わったね。勇者時代はもっとこう、弱弱しい雰囲気もあったのに、いや、別に弱かったわけじゃなくて、強かったけどね」
言いながら、カナはなぜか頬を赤く火照らしていた。
まあ、勇者時代は猫を被っていたからな。勇者としての俺を演じていたわけだ。
「でも、今のあんたのことも、もちろん素敵だと思うよ」
「そうか」
――初対面のときの冴えない男発言とか、その他もろもろの発言や態度に関しては、まあ、水に流しておくとしよう。大事なのは今だ!




